事業報告(2022年5月1日から2023年4月30日まで)

当事業報告において、使用する名称の正式名称及びその説明は下記のとおりです。

企業集団の現況

当連結会計年度の事業の状況

事業の経過及び成果

当社グループは、「Being The NET Frontier!(Internetをひろげ、社会に貢献する)」という企業理念を掲げ、インターネットに関わるコアテクノロジーの開発、大規模システムの運用といった技術力の蓄積を強みとして、主に法人向け、個人向けにインターネット関連サービスを提供しています。

当連結会計年度における報告セグメントは以下のとおりです。

当社グループを取り巻く経営環境におきましては、新型コロナウイルス感染症による社会経済活動の制限緩和を背景に、緩やかに持ち直しの動きはみられるものの、世界情勢に対する様々な懸念等から資源エネルギーの高騰や物価の上昇、また金利や為替の変動に伴う影響が継続しており、先行き不透明な状況が続いています。

そのような環境の中、当社グループが事業を行う情報通信市場では、テレワークの常態化やクラウド利用の拡大、自宅でのネット動画・ゲームをはじめとしたリッチコンテンツ、SNSの利用増加等によるインターネットサービスへのニーズの高まりに加え、モバイル回線網を介したインターネットサービスの利用者も増加し、通信トラフィックの上昇を主要因とした通信の品質や速度の向上、サイバーセキュリティへの対応が課題となっています。

一方、集合住宅向けインターネットサービス市場においては、新築物件へのインターネット設備の標準化が進んでおり、また、既存物件においても入居者の多様化するニーズやライフスタイルに合わせて、高速で安定したインターネット回線への切替え需要が高まっていることから、今後も堅調に推移すると見込まれています。

インターネットマーケティング市場においては、新型コロナウイルス感染症の拡大を起因としたサービス需要の停滞から回復基調にはあるものの、個人情報保護を意識したサービス提供環境への変化や新たなサービス分野の出現、事業参入者の増加に伴う競争の激化など厳しい状況が続いています。そのため、今後も持続的な成長を遂げていくには当社グループの強みを活かした独自のサービスを展開する必要があり、ひいては将来の成長を見据えた先行投資が不可欠であると認識しています。このような背景のもと、同市場において事業を行う株式会社フルスピード(以下、フルスピード)について、2022年11月1日付で当社の完全子会社化を実行し、その後のPMI(完全子会社化後の統合プロセス)につきましては、現在、グループ全体のより一層の事業のDX化・データ連携の強化を促進しつつ、フルスピードのビジネスモデルの再設計、人材リソースの最適化、バックオフィス機能の効率的集約化等を図っています。

また、2023年3月31日に「アルプスアルパイン株式会社との資本業務提携、第三者割当による自己株式の処分及び主要株主の異動に関するお知らせ」で公表しましたアルプスアルパイン株式会社(以下、アルプスアルパイン)との資本業務提携につきましては、アルプスアルパインを5G/web3/AI技術に対応するためのパートナーとして、より一層の協業体制の構築を推し進めていきます。そして、当社グループが展開している5G/web3時代の新たな住まいや暮らし方を提案するコミュニティタウン「LIVING TOWN みなとみらい」において、アルプスアルパインの提供するパブリック/ローカル5G向け「5G通信デバイス評価キット」等を活用した垂直統合型の共同実証実験を開始するなど、既に5G Homestyle分野での技術連携を開始しています。

事業区分別の概況

報告セグメント別の業績は、次のとおりです。

売上高
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売上高構成比 %

(単位:

固定回線網においては、働き方や生活スタイルの変化に伴い、自宅でのオンライン動画の視聴やゲームをはじめとしたリッチコンテンツ及びSNSの利用等の増加、テレワークや在宅学習の普及などに伴うオンライン形式の会議や授業の一般化により、インターネットを介した多くのサービスの利用増加が継続しており、ネットワーク原価につきましては高止まり基調が続いています。

モバイル回線網においては、大手モバイル通信キャリアによる格安プランの提供やサブブランドでの展開が独自型MVNOサービス事業者の成長に影響を与える傾向が続いていますが、モバイル市場全体としての成長は継続しており、今後も拡大していく見込みです。

このような状況のもと、当社グループにおいては、MVNEとしてのMVNO向け支援事業の規模拡大に加え、ISP向け支援事業の原価抑制等が奏功し堅調に推移しました。

その結果、当セグメントにおける売上高は9,489,228千円(前連結会計年度比5.1%増)、セグメント利益は1,378,392千円(前連結会計年度比21.6%増)となりました。

売上高
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売上高構成比 %

(単位:

「5Gインフラ支援事業」で説明したとおり、固定回線網サービス市場においては、ネットワーク原価は上昇しているものの、当社グループの主要サービスの一つである5G Homestyle(集合住宅向けインターネットサービス)につきましては、建物の資産価値及び入居率の向上を目的とした高速ブロードバンド環境の導入が進んでおり、また、テレワークやオンライン授業、動画コンテンツ視聴等の利用がスタンダードなものとして認識されたことから、その市場規模は今後も着実に拡大していくものと考えられます。そして、「スマートタウン(都市インフラ等の利便性をデジタル技術の活用により高めていく街)」の実現に向けた取り組みの一環として、先進テクノロジーを活用した5G/web3時代の新たな住まいや暮らし方を提案するコミュニティタウン「LIVING TOWN みなとみらい」を2023年4月29日にプレオープンしました。

5G Lifestyle(個人向けのモバイル通信サービスやインターネット関連サービス)では、当社グループが提供する独自のテクノロジーを活用したスマートフォンサービス「トーンモバイル」において、5G/web3/メタバース時代の到来を見据えたスマートフォン端末の提供を行っています。そして、そのスマートフォンによる独自サービスとして、AIで家族を見守る「TONEあんしんAI」を搭載した家族向け見守りサービス「TONEファミリー」を展開するなど、様々な社会問題の解決にも取り組んでおり、世界的に危惧されているネット依存という社会問題の解決を視野に入れた次世代オンライン健康相談サービス「TONE Care」においては、“スマホ使いすぎ”に関する専門相談を開始しました。また、株式会社NTTドコモの店舗網での契約数増加につなげるべく、成果報酬型広告を中心にマーケティング戦略を実行するとともに各店舗の販促強化を目的としたフィールドマーケティングにリソースを投じるなどの施策を講じました。

また、スマートフォン上で動作するEthereum互換レイヤ1ブロックチェーン「TONE Chain」上の当社グループ独自のポイントサービスである「TONE Coin」について、2022年6月よりユーザー協力型実証実験プロジェクトとして定常的な運用を行ってきました。そして、2023年6月6日時点でメインネットにおいてノード数3,566を記録し、僅か運用開始後約1年で世界第4位(2023年6月8日現在、インターネット上において公表されているブロックチェーンのノード発表数における当社調べ)の規模に到達しました。

その結果、当セグメントにおける売上高は23,261,191千円(前連結会計年度比7.0%増)、セグメント利益は2,039,485千円(前連結会計年度比41.1%増)となりました。

売上高
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売上高構成比 %

(単位:

フルスピードが展開するインターネットマーケティング、アドテクノロジーサービスにおいては、新型コロナウイルス感染症の影響による広告需要の停滞から緩やかな復調にはあるものの、コロナ禍以前の市況には戻っていない状況にあります。そのような環境の中、これまで培ってきたインターネットマーケティングのノウハウを活かし、インターネットマーケティング関連のDX推進に努めました。

また、中期的な成長のための新規事業への取り組みも進めており、クリエイターが大手プラットフォーマーを介さず自ら情報発信し、その価値を最大化するクリエイター向けプラットフォ―ム「StandAlone」によるクリエイターエコノミー(クリエイターが自らのスキルによって収益化をおこなう経済圏)の拡大支援やクリエイターのためのNFT発行支援サービスの提供を強化しました。

その結果、当セグメントにおける売上高は16,849,059千円(前連結会計年度比9.5%増)、セグメント利益は604,414千円(前連結会計年度比0.1%増)となりました。

以上により、当連結会計年度の実績は、5Gインフラ支援事業、5G生活様式支援事業、企業・クリエイター5G DX支援事業の全ての報告セグメントが前連結会計年度を上回る結果となりました。

売上高については、各報告セグメントにおける環境の変化に対応しつつ、事業展開を図ったことで、総じて需要の取り込みが堅調に推移した結果、前連結会計年度比8.6%増の46,771,516千円となりました。

営業利益については、今後当社グループが「5G/web3時代のPlatform Maker」としてのポジションを確立すべく、モバイル革命領域、生活革命領域、生産革命領域への戦略投資を実行しつつも、原価抑制や効率的なマーケティング戦略の実施、経営リソースの再配分等の施策が奏功したことで順調に推移した結果、前連結会計年度比26.6%増の4,007,556千円と、過去最高の実績となりました。

経常利益については、事業収益の増加により前連結会計年度比28.8%増の3,707,329千円となりました。

親会社株主に帰属する当期純利益についても、事業収益の増加により前連結会計年度比116.5%増の1,792,049千円となりました。

対処すべき課題

新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が徐々に緩和され、経済活動、社会活動の回復・改善が期待される一方で、世界的なインフレの進行や急激な円安、国際的な対立や紛争の影響によるエネルギーの供給不足や原材料の高騰など、未だに不透明な状況が継続しております。そのような中、インターネットはあらゆる産業及び局面において、改めて重要なインフラであることが再認識されており、第5世代移動通信システム(5G)のサービスの普及やweb3(分散型の次世代インターネット)、AIといった技術の普及など、大きな構造の変化も進んでおります。MVNE・MVNOサービスについても個人・法人向けの一般的なデータ通信サービスに限らず多様な利用方法が増えてきました。これらの事業環境は通信事業者の収益獲得のための活動をさらに活発にさせると同時に通信事業者の競争の激化を促進しております。

こうした状況下において、当社は最新技術へのキャッチアップとそれらを利用したビジネスモデルのセットアップを行うことを目標とした中期経営計画「SiLK VISION 2024」を遂行しており、事業の拡大を目指し、持続可能な社会の実現に貢献しつつ、成長領域に経営資源を集中的に投下することを推進しております。

以上の取り組みにおいては、それぞれ次のような課題があると認識し、対応方針を策定しております。

① インターネット接続サービス市場環境の変化について

スマートフォンやタブレット端末などの高機能モバイル通信機器の普及によるモバイル通信環境における著しい利便性の向上により、インターネットへの接続がこれまでの固定回線によるものからモバイルデータ通信へと加速度的にシフトしております。ブロードバンドの固定回線は一定の普及により増加率は鈍化している一方で、モバイル通信事業者によるサービスの多様化や、事業者間の競争は激化しております。また、5G StandAlone(LTEとの併用ではない5G単独の通信規格)方式の普及がはじまっており、これまでの「超高速・大容量」に加えて「超低遅延」「多数同時接続」といった特徴を備えることにより、仮想的にネットワークを分割する「ネットワークスライシング」が実現し、多種類のネットワークの安定的な運用により、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)をはじめとした様々な技術分野において急速な発展を促すことが見込まれております。しかしながら、5G StandAloneの提供のためには、ネットワーク設備側の更新の他、端末の対応も必要となっており、MNOキャリアとの技術的な調整や端末製造における投資が課題となっております。

当社グループでは、このような環境の変化を機敏に捉え、ユーザーのニーズを見据えた新たなサービスを開発し、いち早く提供を行うなど、必要と考えられる施策を推進しておりますが、今後も5G、6Gといったモバイル通信網の技術革新により、インターネット接続サービスの市場環境は影響を受ける可能性があるため、これらの変化を見据えた事業開発を行うとともに、市場環境の変化にスピーディに対応するためにこれまでの実績や経験に裏付けされた安定したサービスの開発及び適切な戦略投資が重要であると認識しております。

② 回線・帯域調達コストについて

インターネット上では帯域を多く利用するリッチコンテンツや、IoTのための通信が急激に増加しており、流通データ量が急激に増えております。また、在宅勤務・テレビ会議等の利用が多くなったことで、職場だけではなく家庭での通信に対する需要が増えたことにより、インターネット業界全体で、通信回線設備の需給バランスの不安定化や、帯域の不足の可能性が指摘されております。当社では回線・帯域調達の効率化やデータの最適化を含めた高効率のネットワーク運用を行うなどの努力を行い、また、長年培ってきた技術力を最大限に活かし、これらの環境に対応すべく努めており、このような取り組みは継続的に行っていく必要があると認識しております。

③ 最新技術への対応について

5G/web3/AIなどの最新技術は、これまでの既存の産業構造の形を変えてしまう可能性を持っており、当社グループもこれらの技術へ深くかかわるとともに、既存事業の着実な成長と利益創出を行うことで安定的な事業の運用をし、同時にこれら最新技術の既存事業へのネガティブな影響も考慮しながら、これら最新技術を利用した今後のビジネスモデルの構築を推進しております。

当社グループでは、長年のインターネット接続サービスの提供で培ってきたネットワーク技術やノウハウを活用することで、web3領域においてレイヤ1ブロックチェーンにおいて世界でも有数のノード数を運用するなど、一定の成果をあげております。また、近年急激な発達を見せているAI技術は、通信と連携することにより日々新たなビジネス手法を生み出す源泉となっております。

当社グループの特徴的なサービス提供形態として、これまで通信事業者向けにビルディングブロック(顧客のニーズにあわせ、サービスを選択・組み合わせて提供できるビジネスモデル)を提供してきましたが、今後は最新技術のソリューションを加えた上で、さらに一定の設計思考(エンタープライズアーキテクト思考)のもとにこれらを組み上げることで、通信事業者以外の事業者に対してもソリューションサービスの提供や共同ビジネスの提案を行っております。

また、当社グループでは、これらの新たな技術・市場において重要な役割を担うべく、グループ内で保有する技術やデータを有機的に管理するように推進し、国内外を問わず多くのパートナー企業との連携を充実させるように努めております。今後、積極的に当社グループの技術・サービスを多くの顧客に提供すべく、新技術に関する営業力の強化、継続的な技術開発による最先端のサービスの提供及び当社グループの技術を保護するための知財関連の強化等も肝要であると認識しております。

④ 関係会社管理の徹底及び社内管理体制と従業員教育の強化

当社グループでは、当社のみならず各子会社を通じて、インターネットに関わる多岐にわたる事業を展開しており、各社にて新規人員の採用や教育を行っております。人員の交流も積極的に行っておりますが、事業の拡大に伴い、さらにグループ全体の管理の徹底及び従業員教育の向上が必要であると認識しております。

そのため、子会社の計数管理の徹底、統一的な監査の実施を通じて適切な管理を行い、グループ内の内部通報制度の周知等を通じてコンプライアンス意識の向上に努めるとともに、企業理念や経営方針、統一的な教育プログラムをグループ各社で共有し浸透させることで、当社グループ社員の連帯意識の強化を図り、グループ会社間の枠にとらわれない発展を促します。

また、内部統制の観点でも、金融商品取引法等に基づく財務報告の信頼性を確保するために必要な内部統制の整備や構築等を行ってまいりましたが、さらにグループを通じて、内部統制強化のための連携・改善等を継続的に行っていく必要があると認識しております。

そのため、各グループ会社の監査役、内部監査室の連携を促進し、また継続的な従業員教育を通して、コーポレートガバナンスの充実及び法令遵守の徹底にグループ全社をあげて取り組んでおります。

なお、子会社であるフルスピードを完全子会社とし、その効果を最大化するため、同社との人員交流を更に強化してすすめております。

⑤ 就業環境の整備について

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、当社グループでは、デジタルアセットを最大限に活用した働き方を従業員一丸となって試行してきました。これにより、実行施策のノウハウとメリット・デメリットの分析がすすんできたため、厳しい規制が緩和された後でも、社内会議やイベントのオンライン活用、テレワーク(在宅勤務)の推進、AIやセンサーを駆使した従業員の健康管理等を継続して行っております。

これらの施策の実行は、当社グループで働くことの魅力を向上させるとともに、通信事業者として社会経済活動の支えとなるようなサービスの提供が可能であることを示しております。今後もネットワークを活用した新たな事業形態の創出や、安定的なサービス提供を行う健全な企業体力の維持、従業員及び関係者の健康と安全を守るための新しい働き方の推進等について継続的に取り組むことで、持続可能な開発目標を掲げる社会への貢献を積極的に進めていくことが必要であると考えております。

連結計算書類