事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過及びその成果

当連結会計年度の日本株式市場は、堅調な米雇用統計などを背景に上昇して始まりました。しかし、国内では新型コロナウイルスに対する水際対策の緩和、海外では中国上海市の都市封鎖の解除に伴う部品供給や物流の改善期待などから上昇する場面もあったものの、米国の消費者物価指数の予想以上の上昇により継続的なFRB(米国連邦準備制度理事会)の金融引き締めが続くとの見方から、世界的な金融引き締めによる景気減速の懸念が高まり、株式市場は一進一退の上値の重い相場展開となりました。12月の金融政策決定会合で日本銀行が長期金利の許容変動幅を修正したことなどを受け、金融政策の転換懸念や米国景気悪化懸念の高まりから下落の後、低調なまま年末を迎えました。さらに、⽶シリコンバレー銀⾏の破綻に端を発した欧⽶⾦融不安の急拡⼤を受け、リスク回避姿勢が強まったことから⼤幅な下落に転じました。しかし年度末にかけて、⽶国の金融当局による預⾦保護やスイスのクレディ・スイス・グループの信用不安に対する金融大手UBSによる買収やスイスの金融規制当局の救済策によって、⾦融システムへの不安が和らぎ日経平均株価は前期末に比べ0.8%上昇し28,041.48円で取引を終えました。

このような市場環境のもと、当社グループの当連結会計年度末運用資産残高は、1兆5,012億円(注1)と前期末に比して3.6%減少しました。

事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す指標である基礎収益(注2)は、経常的経費の増加等により、前期比2.5%減の60億5百万円(前期は61億57百万円)となりましたが、前期の過去最高値は超えられていないものの、収益体質は良好な水準が維持されております。

日本株式を投資対象とする運用戦略及びアジア株式を投資対象とするOneAsia運用戦略は、当連結会計年度を通じて株式市場が不安定となりその影響を受け前連結会計年度末に比べ両運用戦略の運用資産残高は減少しました。不安定な環境のなか、パフォーマンスの良好なファンドを解約する動きもあり、年度の後半に資金純流出の状況となりましたが、日本株式中小型投資戦略は資金流入を伴い運用資産残高を増加させており、良好なパフォーマンスを維持しております。また、東京・香港・韓国のファンドマネジャーがアジア企業への調査などを共同で行うなど、投資アイディアを共有することを続けており、韓国子会社ではパフォーマンスが向上し、韓国国内機関投資家からの資金流入という結果につながり始めております。私どもの投資哲学や運用スタイルへの関心も引き続き高いことから、「日本株ならスパークス」、「アジア株もスパークス」とのSPARXブランドを幅広く認知いただくよう努めております。

再生可能エネルギー発電事業のインフラ資産や不動産を投資対象とする実物資産の運用戦略は、全国の発電施設への投資を実行しており、再生可能エネルギー投資戦略の運用資産残高は2,645億円の規模となっております。太陽光のみならず、風力・バイオマス発電所も安定稼動させており、これら発電所への投資による長期的に安定したキャッシュ・フローを源泉としたファンドも運用しております。ここ数年、これまで大企業等が主に自社のバランスシートで行ってきた再生可能エネルギー発電所への投資を見直し、再生可能エネルギー発電所を売却し流動化する動きが続いております。当社グループの運用するファンドではこの機をとらえて外部から発電設備を取得しており、投資家として適正な価格・リターンを評価しながら引き続き積極的に投資してまいります。今後も引き続き再生可能エネルギーファンドのパイオニアとして皆様のご期待にお応えするべく、魅力的な投資商品の提供を行ってまいります。

プライベートエクイティ投資戦略は、次世代の企業の成長に資する投資を長期的な視点から実践し、投資会社として未来を創造する新たな領域を開拓するため設立した未来創生ファンドが、1号ファンドに続き2号ファンドも順調に投資が進み、当連結会計年度に3号ファンドの募集が終了し、投資を進めております。当該運用戦略の運用資産残高は1,933億円まで成長しており、規模・質ともに日本で最大級のベンチャー投資の運用機関なることができたと考えております。IPO等のイグジット案件も出ており、これまでの投資の成果が、具体的に投資家の皆様へのリターンとして実現してきております。これらのファンドについても質の高い投資を着実に実行し、投資実績を積み上げ、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成することで未来社会に貢献することを目指してまいります。

上記の結果、未来創生3号ファンドの追加設定等もあり、当連結会計年度における残高報酬(注3)は前期比1.3%増の127億35百万円となりました。しかしながら、成功報酬(注4)は、前期比69.8%減の3億64百万円となり、営業収益は前期比4.9%減の133億60百万円となりました。

営業費用及び一般管理費は、前期比1.0%増の76億56百万円となりました。これは主にボーナス及びESOP関連費用が減少した一方で、専門家報酬及び旅費交通費が増加したことにより、結果として前期と同水準となりました。

これらの結果、営業利益は前期比11.8%減の57億4百万円、経常利益は投資事業組合運用益の計上等により、前期比0.8%増の62億89百万円となりました。また、当社が保有する投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却益が前期に比べて減少したことに加え、投資有価証券評価損についても前期に比べ減少したこと及び税金等を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比11.1%増の45億21百万円となりました。

(注1)当連結会計年度末(2023年3月末)運用資産残高は速報値であります。

(注2)基礎収益とは、経常的に発生する残高報酬(手数料控除後)の金額から経常的経費を差し引いた金額であり、当社グループの最も重要な経営指標のひとつであります。

(注3)残高報酬には、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所等の管理報酬を含んでおります。

(注4)成功報酬には、株式運用実績から発生する報酬の他に、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所スキームの組成の対価等として受ける一時的な報酬(アクイジションフィー)を含んでおります。

対処すべき課題

当年度のグループ運用資産残高(AUM)は前年度末比3.6%減少して、1兆5,012億円(注1)となりましたが、残高報酬料率の高い投資戦略のAUMが増加したことで残高報酬は前年度比1億57百万円増加し、127億35百万円となりました。残高報酬の増加により、スパークスを支える土台は着実に強くなっております。成功報酬が減少したため営業利益は減少しておりますが、適切にコストコントロールを続けた結果、安定的に稼ぐ力である基礎収益(注2)は過去最高の水準を引き続き維持しております。また、新しい投資戦略等へのシード投資の役割を終えた投資有価証券を精査し、一部解約・償還したことが最終利益の増益に貢献しております。

来年度についても、当社グループの厚い人財力、投資力によって運用パフォーマンスの質を維持・向上させ、増収増益を目指すとともに、当社グループのパーパスである「(投資を通じて)世界を豊かに、健やかに、そして幸せにする」を実現するため、持続可能な企業価値向上を実現すべく、主として以下の課題に取り組んでまいります。

課題の第一として、2026年3月期までに運用資産残高(AUM)3兆円を達成するため、成長実現のための4本柱(「日本株式」「OneAsia」「実物資産」「プライベートエクイティ」)をバランスよく強化・拡大していくことで高い収益性を維持し、短期的市場変動の影響を受けにくい安定性、成長性に優れた事業ポートフォリオの構築を目指します。
→当社グループマテリアリティ「広範な責任投資の実践」に関連(注3)

4本柱についての、当面の主な課題は以下の通りです。

日本株式投資戦略については、この4月にも、代表的な外部評価機関であるR&I社から、国内株式コア部門において10年のトラックレコードで優秀賞を、また国内中小型株式部門でも優秀賞をいただくなど、長期にわたる安定して高いパフォーマンスを実現しています。優れた投資力を背景に、ロング・ショート投資戦略など収益性の高いオルタナティブ投資戦略、中でも日本株式価値創造投資戦略のAUM拡大への取組みを強化しております。東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」をきっかけに、PBR1倍割れ企業に対して注目が集まっておりますが、同様の考え方は、創業以来運用調査活動において意識してきたことであり、投資先企業に対して具体的な対話を実行し、運用実績を積み重ねる投資は、本投資戦略の投資方針そのものであって、非常に時宜を得たものであると考えております。今後もただ闇雲に規模を追うのではなく、質の高い運用を継続しつつAUMを拡大・成長させてまいります。

OneAsia投資戦略については、引き続き当社グループが注力しなければならない最も重要な戦略の一つと考えております。日本・韓国・香港の3拠点が一丸となった運用力強化が成果に結びつつありますが、当社グループの新たな成長のため、まずはより一層高品質な運用体制の構築に全力で取り組んでまいります。

実物資産投資戦略については、安定稼働した太陽光発電所の取得を積極的に行い、当年度は約134億円AUMが増加しました。太陽光から、バイオマスや地熱など引き続き高い投資リターンが見込まれる発電所へ開発の重点を移すとともに、グリーン水素(注4)、蓄電池やコーポレートPPA(注5)など、固定価格買取制度後を見据えた投資戦略の開発を、引き続き積極的に進めてまいります。

プライベートエクイティ投資戦略については、未来創生3号ファンドの募集を完了し、1号、2号ファンドや同戦略の他のファンドを含め2023年3月末AUMは1,933億円となりました。今後、本投資戦略のファンドが投資した企業が、株式市場に上場すること等に伴う売却益の一部が、当社グループの成功報酬として計上されることから、この成功報酬を最大化するためにも引き続き売却活動に注力してまいります。日本で最大級のベンチャー投資会社として、今後も当社グループらしい新しい投資機会を発掘することで本投資戦略の拡大を進めてまいるとともに、質の高い投資を通じて、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成し、未来社会に貢献することを目指してまいります。

上記の4本柱に加えて、デジタル・AIのプラットフォームが前提となった新しい時代の成長領域であるエネルギー、医療・介護、金融、量子コンピュータなどの新領域へ、保守的・堅実な財務運営方針のもと、自己資金やグループ内リソースを割り当ててまいりました。今後は、再生可能エネルギーに対する知見を活かし、特にエネルギーの領域でグリーン水素の製造など具体的なビジネスを創造してまいります。これまで築いてきた投資力をベースに新しいビジネスを作りこむことで事業ポートフォリオを拡大し、ROEの向上に貢献する当社グループらしい投資をさらに進めてまいります。またこのような成長領域への投資を通じて、新しいビジネスをゼロから生み出す企業文化と起業家精神を活性化し、これまでのファンドビジネスをさらに強化するとともに、企業文化や変わらない投資哲学を次世代に継承しながら、新しい取り組みに挑戦し続けることのできる強い組織を創造してまいります。

課題の第二として、組織のフラット化によって次世代のマネジメントを育成、登用することで、マネジメント層の世代交代を進めてまいります。
→当社グループマテリアリティ「独立系の強みを生かしたガバナンス」に関連(注3)

更なる事業拡大と企業価値向上を実現するべく、組織のフラット化による業務執行のさらなる迅速化を通じて、当社グループを率いる後継者となる人材を選抜、育成し、新しい経営体制を確立してまいります。このため今般、第34回株主総会において、社内取締役を減員し、代表取締役は社長1名とすることで、マネジメント層の世代交代に着手致しました。中でも次世代のCEO選任は、当社グループにとって引き続き非常に大きな経営課題であることから、取締役会は十分な時間と資源をかけて、この課題に取り組んでまいります。

次世代を担うマネジメントに必要な素養・資質としては、単に高い専門性や豊富な経験を備えるだけではなく、人格・人間力にも優れていること、より具体的には当社グループの行動規範(バリュー)である「ARTSの精神(注6)」を体現できていることが極めて重要と考えております。これらの要件を充たした人材に対して、フラット化した組織で、より近くで直接CEOから学ぶ機会を作り、衆目が認める結果を残した人材を、次世代のCEOとして登用してまいります。

また、創業時から創業者が大切にしている価値観である、当社グループのパーパス、ビジョン、ミッション、バリューといった企業理念(注7)を、次世代のCEOが中心となって運営する組織にもしっかりと浸透、引き継いでいくための諸施策を合わせて講じてまいります。

課題の第三として、当社の競争力の源泉を強化し、中長期的な企業価値向上に資する人的資本を高度化するために必要な諸施策を実行してまいります。
→当社グループマテリアリティ「持続可能で高い収益性とそれらを支える人財」に関連(注3)

日本企業の企業価値に占める無形資産の割合は、一般的に欧米企業に比べて格段に低いとされています。裏を返せば、無形資産の価値を高めることで、企業価値を飛躍的に高める余地が残っているともいえます。無形資産の中で、最も典型的な資産は人的資本であり、特に当社グループのように、有形資産をほとんど有しない企業にとっては、企業価値向上のため人的資本の重要性は非常に高いと考えます。よって、当社グループらしさを更に追求しつつ、外部環境の変化にも適応することで、従来にも増して「人的資本」の活用を高度化させてまいります。

具体的には、当社グループのパーパス、ビジョン(=思想)に共感し、集う優秀な人財が、様々な多様性を互いに尊重し、最高のプロフェッショナルとなるべく能力・技術の向上に主体的に取り組むだけでなく、思想・技を実現するための行動規範(=所作)を大切にすることで優れた人格の形成にも取り組み、互いに切磋琢磨する成長の機会を与えられ、全員が一丸となって「もっと良い投資(=技)」を実践・提供することで組織の成長に貢献するという働きがいを感じることのできる場を提供してまいります。

また、当社グループの競争力の源泉は、「①イノベーション力」×「②コミュニケーション力」、つまり「個々の高い専門性を掛け合わせて組織で戦う」ことにあると考えています。よって、①アカウンタブルで再現性の高い投資力やユニークな投資アイデア創出力を強化するため、②社内に望ましい行動様式を明確化・浸透させるとともに、全社一丸となって投資アイデアを具体的にパッケージング化する力を強化するため、また③それらのベースとなる働きやすい環境を整えるため、それぞれ必要と考える諸施策を講じてまいります。

(注1)当年度末(2023年3月末)運用資産残高は速報値です。

(注2)「基礎収益」とは事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す経営指標であり、その算定方法は以下のとおりです。

基礎収益=残高報酬(手数料控除後)-経常的経費

(注3)当社グループのマテリアリティ(重要課題)については、下記ウェブサイトをご参照ください。
https://www.sparx.jp/sustainability/materiality.html

(注4)グリーン水素とは、水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産される水素のことです。この水素を利用し、酸素を大気中に放出することで、環境へ悪影響を与えずに水素を利用することができます。電気分解するためには電気が必要ですが、グリーン水素を作るためのプロセスは、再生可能エネルギーを利用することで二酸化炭素を排出させることなく、水素を製造することができます。

(注5)コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement)とは、企業や自治体などの法人(電力需要家)が発電事業者から再生可能エネルギーの電力を、直接、長期(通常10~25年)間、購入する契約のことを指します。一般的には、固定価格買取制度(FIT)やフィード・イン・プレミアム(FIP)のような国による再エネ買取制度との対比で用いられ、公的な再生可能エネルギー支援制度を使わず、民間企業と独自に再生可能エネルギー電力の長期買取契約を結ぶスキームを意味します。

(注6)ARTSの精神
当社グループの行動規範であり、Arigato、Responsiveness、Thoroughness、Sympathyのそれぞれ頭文字をとったものです。

  • A:共に働く仲間、関係するすべての人に敬愛と感謝の気持ちを持って行動します。
  • R:変化への最大の対応として俊敏さを大切にし、常にスピーディな対応を徹底します。
  • T:緻密で丁寧な活動が、革新的な知見を生み出すことを信じ、常に極め続けます。
  • S:調和と貢献の姿勢でお客様と仲間に接します。謙虚さ、誠実さが、お互いの成長につながると信じ、品格をもって行動します。また、柔軟に多様性を受け入れる広い心を持ち、自由な議論の場を創出します。

(注7)当社グループの企業理念については、下記ウェブサイトをご参照ください。
https://www.sparx.jp/philosophy/

連結計算書類