事業報告(自 2020年1月1日 至 2020年12月31日)

1. 企業集団の現況に関する事項

企業集団の事業の経過及びその成果

全般的概況

売上収益

売上収益は、海外たばこ事業での単価差・商品構成影響による好調なモメンタムがネガティブな為替影響を相殺したものの、国内たばこ事業・加工食品事業・医薬事業での減収により前年度比3.8%減の2兆926億円となりました。なお、2020年度に発現した新型コロナウイルス感染拡大による影響は全社売上収益の3%程度の△610億円程度と見立てております。

調整後営業利益、営業利益及び当期利益(親会社所有者帰属)

当社グループの経営指標である為替一定ベースの調整後営業利益は、国内たばこ事業及び加工食品事業での減少はあるものの、医薬事業における増加に加え、海外たばこ事業における事業成長に牽引され、前年度比5.5%増となりました。また、調整後営業利益は、海外たばこ事業におけるネガティブな為替影響に加え、国内たばこ事業及び加工食品事業の減益により、前年度比5.6%減の4,870億円となりました。

営業利益は、旧JTビルの売却を主因とした不動産売却益の増加に加え、2019年に計上した海外たばこ事業における事業運営体制の変革に係る施策関連費用の剥落はあるものの、2019年度に発生した医薬事業での⼀時金収入の剥落等により、前年度比6.6%減の4,691億円となりました。

親会社の所有者に帰属する当期利益は、営業利益の減少及び金融損益の悪化等により、前年度比10.9%減の3,103億円となりました。

なお、当社グループは、超インフレ経済下にある子会社の財務諸表について、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」(以下、IAS第29号)に定められる要件に従い、会計上の調整を加えております。ただし、為替一定ベースの各指標につきましては、IAS第29号の影響は含めておりません。

当社グループの経営指標

全社業績

(注)

1.調整後営業利益(為替一定)は、海外たばこ事業における当期の調整後営業利益を前年同期の為替レートを用いて換算・算出することにより、為替影響を除いた指標です。

2.調整後営業利益は、営業利益(損失)から買収に伴い生じた無形資産に係る償却費、調整項目(収益及び費用)を除いて算出した指標です。なお、調整項目(収益及び費用)はのれんの減損損失、リストラクチャリング収益及び費用等です。

事業別の概況

国内たばこ事業

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当年度におきましては、趨勢減に加え、新型コロナウイルス感染拡大に伴う影響、定価改定影響、規制影響及びRRP(注1)市場の拡大による紙巻総需要(注2)の減少に加えて、紙巻シェアの減少により、紙巻販売数量(注3)は前年度比9.0%減の687億本となりました。また、当社のRRP販売数量(注4)は、紙巻たばこ換算ベースで、前年度比7億本増加の39億本となりました。

自社たばこ製品売上収益(注5)につきましては、紙巻単価上昇効果があったものの、紙巻販売数量の減少影響、RRP関連売上収益の減少及び国内免税・中国事業の販売減少等により、前年度比9.3%減の5,157億円となりました。このうち、RRP関連売上収益は、RRP販売数量の増加はあるものの、デバイス売上の減少、2019年10月の定価改定時の価格据え置きによるリフィルの単価差影響を背景に、前年度比50億円減の559億円となりました。なお、売上収益における新型コロナウイルス感染拡大による影響は△300億円程度と見立てており、うち国内免税・中国事業における影響が半分強を占めております。

調整後営業利益につきましては、紙巻単価上昇効果、前年度に計上した低温加熱式たばこ用カプセル製造機械の減損損失の剥落、新型コロナウイルス感染拡大影響の長期化に伴う間接コストの大幅な減少及び優先順位に基づく効率的な経費執行があったものの、紙巻販売数量の減少影響、RRP関連売上収益の減少、国内免税・中国事業の販売減少及びRRP・デジタルマーケティングを中心とした投資強化により、前年度比10.2%減の1,681億円となりました。

(注)

1.RRPは、E-Vapor製品及び加熱式たばこ等、喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品(Reduced-Risk Products, RRP)を指しております。E-Vapor製品は、たばこ葉を使用せず、装置内もしくは専用カートリッジ内のリキッド(液体)を電気加熱させ、発生するベイパー(蒸気)を愉しむ製品です。一方、加熱式たばこは、たばこ葉を使用し、たばこ葉を燃焼させずに、加熱等によって発生するたばこベイパー(たばこ葉由来の成分を含む蒸気)を愉しむ製品です。

2.紙巻総需要は、日本市場全体における紙巻たばこの販売数量を指しております。なお、当該数値にはリトルシガーを含み、RRP等の販売数量は含まれておりません。

3.紙巻販売数量は、当社の日本市場における紙巻たばこ及びリトルシガーの販売数量を指しておりますが、RRP等の販売数量は含まれておりません。また、当該数値の他に、国内免税市場及び当社の中国事業部管轄の中国・香港・マカオ市場の当年度における販売数量18億本(前年度の当該数量は40億本)があります。

4.RRP販売数量は、1パック当たり紙巻たばこ20本として換算しております。当該数値には国内免税市場における販売数量は含まれておりません。なお、RRP関連売上収益には国内免税市場における売上収益及びデバイス・関連アクセサリー等に係る売上収益が含まれております。

5.国内たばこ事業における自社たばこ製品売上収益は、国内免税市場及び当社の中国事業部管轄の中国・香港・マカオ市場における売上収益並びにRRP・リトルシガー等に係る売上収益が含まれていますが、輸入たばこ配送手数料等に係る売上収益は含まれておりません。

海外たばこ事業

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当年度におきましては、新型コロナウイルス感染拡大の影響が長期化する中、渡航者数の減少による免税販売への影響及びロシア等複数市場における総需要減少により、総販売数量(注1)は、前年度比2.3%減の4,357億本となりました。また、GFB(注2)販売数量は「ウィンストン」及び「LD」が牽引し、前年度比1.8%増の2,820億本となりました。

円ベースの自社たばこ製品売上収益(注3)につきましては、ポジティブな単価差・商品構成影響及び数量差影響がネガティブな為替影響を相殺し、前年度比同水準の1兆2,508億円となりました。また、円ベースの調整後営業利益につきましても、前年度比同水準の3,409億円となりました。なお、新型コロナウイルス感染拡大による自社たばこ製品売上収益への影響は、△200億円程度と見立てております。

ドルベースの自社たばこ製品売上収益につきましては、単価差・商品構成影響及び市場構成が改善したことで発現した数量差影響により、前年度比2.0%増の11,724百万ドルとなりました(為替一定ベースでは前年度比7.0%増)。また、ドルベースの調整後営業利益につきましては、単価差・商品構成影響及び数量差影響により、前年度比で1.8%増の3,181百万ドルとなりました(為替一定ベースでは前年度比16.8%増)。

(注)

1.製造受託、水たばこ製品及びE-Vapor製品を除き、Fine cut、シガー、パイプ、スヌース、クレテック及び加熱式たばこを含めております。

2.当社グループのブランドポートフォリオの中核を担う「ウィンストン」「キャメル」「メビウス」「LD」の4ブランドをGFB(グローバル・フラッグシップ・ブランド)としております。

3.海外たばこ事業における自社たばこ製品売上収益は、水たばこ製品及びRRPに係る売上収益が含まれていますが、物流事業及び製造受託等に係る売上収益は含まれておりません。

(注)

IAS第29号に従い、超インフレ経済下にある子会社の財務諸表を米国ドルへ換算する際に、2020年12月末時点のレートを適用しております。また、米国ドルから日本円へ換算する際も、同様のレートを適用しております(米国ドル/イランリアル:258,747、米国ドル/円:103.50)。なお、その他のレートについては、期中平均レートを適用しています。

(注)

1.2019年の市場シェアにつきましても、2020年12月末時点のデータに基づき、更新しております。

2.スペイン市場の2020年シェアにつきましては、2019年12月から2020年11月までの12ヵ⽉移動平均を採⽤しております。

医薬事業

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医薬事業につきましては、次世代戦略品の研究開発推進と各製品の価値最大化を通じ、当社グループへの利益貢献を目指しております。

開発状況としましては、現在当社において7品目が臨床開発段階にあります。また、国内における製造販売承認を取得したアトピー性皮膚炎治療薬「コレクチム®軟膏0.5%」について2020年6月に、腎性貧血治療薬「エナロイ®錠2 mg、4 mg」について2020年12月に、グループ会社である鳥居薬品株式会社が販売を開始しました。

「tapinarof(アリル炭化水素受容体(AhR)モジュレーター)」について、2020年1月にDermavant Sciences GmbHと日本国内における皮膚疾患領域での独占的開発・商業化権に関するライセンス契約を締結し、それに伴い、鳥居薬品株式会社と日本国内における共同開発及び販売に関する契約を締結しました。

当年度における売上収益につきましては、海外ロイヤリティ収入の減少及び導出品に係る一時金収入の減少により、前年度比10.8%減の790億円となりました。

また、調整後営業利益につきましては、海外ロイヤリティ収入の減少はあるものの、製造販売承認申請を行った開発品の試験終了等による研究開発費の減少及び当社子会社である鳥居薬品の増益により、前年度比7.6%増の172億円となりました。

なお、新型コロナウイルス感染拡大によるトップラインへの影響は軽微です。

医薬総合研究所(大阪府高槻市)

臨床開発品目一覧(2021年2月9日現在)

加工食品事業

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加工食品事業につきましては、冷凍・常温食品、調味料及びベーカリーに注力するとともに、コスト競争力の強化に努め、収益力の向上に取り組んでおります。

当年度の冷食・常温事業におきましては、注力している冷凍麺、パックごはん、お好み焼は引き続き国内市場のシェア上位に位置づけるとともに、簡便ニーズに応えた「お皿がいらないシリーズ」等の新製品を23品、リニューアル品を41品発売しております。

また、コロナ禍において全メディアの視聴時間が増加傾向にあることを受け、YouTubeやSNS等のWebを基軸とした販促を積極的に展開・強化し、お客様へ向けて製品の更なる認知度向上に努めてまいりました。

当年度における売上収益につきましては、新型コロナウイルス感染拡大による影響が継続する中、冷食・常温事業における家庭用製品の需要増による販売伸長はあるものの、冷食・常温及び調味料事業の外食向け製品及びベーカリー事業における大幅な需要減に伴う販売減少により、前年度比5.8%減の1,493億円となりました。

また、調整後営業利益につきましては、製品構成の改善はあるものの、売上収益の減少に加え、冷食・常温事業における物流費の悪化及びベーカリー事業における工場・店舗等の減損損失の計上により、前年度比62億円減となりました。

なお、新型コロナウイルス感染拡大によるトップラインへの影響は△110億円程度と見立てております。

2. 企業集団が対処すべき課題

(1)経営の基本方針

当社グループの経営理念は、「4Sモデル」の追求です。これは「お客様を中心として、株主、従業員、社会の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」という考え方です。

当社グループは、「4Sモデル」をベースに、「JTならではの多様な価値を提供するグローバル成長企業であり続けること」を目指す企業像(ビジョン)として定めており、また、「自然・社会・人間の多様性に価値を認め、お客様に信頼される『JTならではのブランド』を生み出し、育て、高め続けていくこと」が、当社グループの使命であると考えております。

加えて、当社グループ社員の一人ひとりが徹底すべき行動規範・価値観として「JTグループWAY」を掲げており、「お客様を第一に考え、誠実に行動すること」「あらゆる品質にこだわり、進化し続けること」「JTグループの多様な力を結集すること」という3つのステートメントによって、表現しております。

当社グループは、「4Sモデル」を追求することを通じ、これまで持続的な利益成長を実現してきており、今後もその実現を目指してまいります。持続的な利益成長のためには、お客様に新たな価値・満足を提供し続けることが前提となることから、中長期的な視点に基づき、将来の利益成長に向けた事業投資を着実に実施していくことが肝要と考えております。

この「4Sモデル」を追求していくことが、中長期に亘る企業価値の継続的な向上につながると考えており、株主を含む4者のステークホルダーにとって共通利益となる、ベストなアプローチであると確信しております。

(2)中長期的な会社の経営戦略及び課題

当社グループは、長期的に目指す企業像である「JTグループならではの多様な価値を提供するグローバル成長企業」の実現に向け、これまで推進してきた戦略を継承し、さらに発展させるためには、変化への対応という受け身の姿勢ではなく、自ら変化を起こし、変革をリードする組織への進化を加速させることが、中長期に亘る持続的な利益成長の実現を可能とすると考えます。

こうした考えのもと、予測不可能な変化へスピード感を持って適切に対応すべく、期間を3年間とした経営計画を1年毎にローリングを行う方式で策定しております。

今回策定した「経営計画2021」においても、「4Sモデル」に基づき、中長期に亘る持続的な利益成長(注1)につながる事業投資を最優先しつつ、事業投資による利益成長と株主還元のバランスを重視するという経営資源配分方針に変更はありません。

「経営計画2021」においても、引き続き為替一定ベースの調整後営業利益の成長率(注2)における、中長期に亘る年平均mid to high single digit(注3)成長を目指してまいります。

なお、株主還元につきましては、経営資源配分方針で掲げる「事業投資最優先」や「利益成長と株主還元のバランス」といった観点から、「経営計画2021」ではその方針を変更いたしました。具体的には、強固な財務基盤(注4)を維持しつつ、中長期の利益成長を実現することにより株主還元の向上を引き続き目指す中で、これまで「1株当たり配当金の安定的・継続的な成長(注5)を目指す」としていたものを、「資本市場における競争力のある水準(注6)として配当性向75%を目安(注7)とする」ことといたしました。

また、自己株式の取得につきましては、当該年度における財務状況及び中期的な資金需要等を踏まえて実施の是非を検討することといたします。

各事業の中長期の目標は以下のとおりです。

全社中長期利益目標の達成に向け、各事業においてはそれぞれの目標に沿って邁進し、特に、質の高いトップライン成長を最重要視してまいります。また、コスト競争力のさらなる強化を実現すること、及びこれらを支える基盤強化を推進していくことで、持続的な利益成長を実現してまいります。

なお、当社グループは、2021年2月9日公表のとおり、国内外のたばこ事業の事業運営体制の一本化、国内の支社体制の改編等による競争力強化、事業環境に適応した製造・原料拠点の統廃合及び当社における要員適正化を内容とした「たばこ事業運営体制強化」に取り組むこととしております。

当社グループを取り巻く経営環境は、国際的な政治情勢の変化や新興国通貨における減価傾向等の為替変動リスク等、不確実性が高い状況にあり、特にコロナ禍におけるロックダウンや渡航制限等により世界的に経済状況が悪化し、消費者行動や企業活動にも大きな変化が生じていることで、今後の見通しが一層不透明な状況にあると認識しております。

当社グループとしては、こうした厳しい経営環境に加え、デジタル・テクノロジーの進展、生活者の意識・行動の変化及びサステナビリティに対する意識の高まり等、世の中の大きくかつ急速な流れを踏まえ、変化への対応という受け身の姿勢ではなく、自ら変化を起こしていくことを志向し、「4Sモデル」に基づいた経営資源配分を実行し、中長期に亘る持続的な利益成長の実現を目指すとともに、株主還元を着実に実現してまいります。

(注)

1.質の高いトップライン成長を通じた為替一定調整後営業利益の成長

2.調整後営業利益は、営業利益(損失)から買収に伴い生じた無形資産に係る償却費、調整項目(収益及び費用)を除いて算出した数値です。なお、調整項目(収益及び費用)はのれんの減損損失、リストラクチャリング収益及び費用等です。また、為替一定ベースの調整後営業利益の成長率とは、海外たばこ事業における当期の調整後営業利益を前年同期の為替レートを用いて換算・算出することにより、為替影響を除いた指標です。

3.mid to high single digit:一桁台半ばから後半のパーセンテージ

4.経済危機等に備えた堅牢性及び機動的な事業投資等への柔軟性を担保

5.中長期の為替一定調整後営業利益の成長率の見通しを基本としつつ、今後の当期利益の水準も勘案

6.ステークホルダーモデルを掲げ、高い事業成長を実現しているグローバルFMCG(Fast Moving Consumer Goods)企業群の還元動向をモニタリング

7.±5%程度の範囲内で判断

【ご参考】経営計画2021における経営資源配分方針について

経営資源配分方針

当社グループの経営理念である「4Sモデル」に基づき、経営資源の配分を実行

・中長期に亘る持続的な利益成長(注1)につながる事業投資を最優先

・事業投資による利益成長と株主還元のバランスを重視

事業投資

- お客様へ新たな価値・満足を継続的に提供することで、質の高いトップライン成長を目指す

- たばこ事業の成長投資を最重要視

株主還元

- 強固な財務基盤(注2)を維持しつつ、中⻑期の利益成⻑を実現することにより株主還元の向上を⽬指す

- 資本市場における競争力のある水準(注3)として「配当性向75%」を目安(注4)とする

- 自己株式取得は当該年度における財務状況及び中期的な資金需要等を踏まえて実施の是非を検討

(注)

1.質の高いトップライン成長を通じた為替一定調整後営業利益の成長

2.経済危機等に備えた堅牢性及び機動的な事業投資等への柔軟性を担保

3.ステークホルダーモデルを掲げ、高い事業成長を実現しているグローバルFMCG(Fast Moving Consumer Goods)企業群の還元動向をモニタリング

4.±5%程度の範囲内で判断

連結計算書類