第154期事業報告(2019年4月1日から2020年3月31日まで)

帝人グループ(企業集団)の現況に関する事項

(1)事業の経過及び成果

1)事業活動の経過及び成果
① 当期の経営成績

当期の世界経済は、米中貿易摩擦長期化の影響を受けた中国の景気後退や、中国や欧州での自動車需要の低下等、製造業を中心に景況感が悪化しました。また、中国において2019年12月以降に発生が報告された新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が、期末にかけて世界的に生産や消費活動に影響を及ぼしつつあります。

帝人グループは、持続可能な社会の実現に貢献し、「未来の社会を支える会社」になるという長期ビジョンのもと、2017年度からの3か年の中期経営計画に取り組みました。その最終年度である当連結会計年度においては、マテリアル事業領域では、自動車向け複合成形材料事業への重点投資により収益基盤の拡大に取り組むとともに、アラミドや炭素繊維の大型設備投資を決定・実行しました。またポートフォリオ変革の一貫として、フィルム事業子会社を東洋紡株式会社に譲渡しました。ヘルスケア事業領域では、新規事業での持分やライセンス取得による事業拡大を進める一方で、医薬・在宅医療事業の組織変革による基盤強化を進めました。

このような中、帝人グループの当年度の連結決算は、アラミドや国内ヘルスケア及びITの収益は概ね堅調に推移しましたが、ポリカーボネート樹脂の市況低迷や欧米での主力医薬品の後発品発売の影響があり、売上高は前期対比3.9%減の8,537億円、営業利益も同6.3%減の562億円となりました。経常利益は為替影響による営業外収益の減少等もあり前期対比9.8%減の543億円となり、親会社株主に帰属する当期純利益はフィルム事業子会社譲渡に係る一時費用や繊維・製品事業の子会社に係る減損損失の計上等により、同44.0%減の253億円となりました。その結果、収益性を示すROEは中期計画目標(10%以上)を下回る6.3%となりました。キャッシュ創出力を示すEBITDAは1,072億円となり、中期計画最終年度の目標(1,200億円超)は未達となりましたが、中期期間において着実に成長しました。営業利益ROICについては、目標(8%以上)を超過する8.7%となりました。

② 財政状態

総資産は、現預金の増加や炭素繊維の新たな生産拠点の建設及び複合成形材料事業の生産能力増強を目的とした設備投資の実施等による有形固定資産の増加、IFRS第16号「リース」の適用による有形固定資産の増加がありましたが、フィルム事業子会社の株式を譲渡し、連結子会社から除外した影響もあり、前期末対比164億円減少の10,042億円となりました。

負債は、IFRS第16号「リース」の適用による有利子負債の増加がありましたが、仕入債務が減少し、前期末対比6億円減少の5,928億円となりました。

純資産は、保有株式の時価評価に関わる評価差額金の減少、為替換算調整勘定の減少が影響し、前期末対比158億円減少の4,114億円となりました。

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事業別業績概況

当期における事業別の概況は次のとおりです。

売上高
前期比 %減
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EBITDA構成比

(単位:

売上高は6,338億円と前期対比377億円の減収(5.6%減)、営業利益は213億円と前期対比22億円の減益(9.3%減)となり、EBITDAは前期対比9億円増の573億円となりました。

マテリアル事業

アラミド分野では、主力のパラアラミド繊維「トワロン」において、自動車需要減少の影響を受け、摩擦材、ゴム補強材等の自動車関連用途の販売数量がやや減少したものの、売値・販売構成の改善が収益に貢献しました。

炭素繊維分野では、炭素繊維「テナックス」が、航空機用途においてサプライチェーンでの在庫調整等を反映して弱含みで推移したほか、自動車や電気電子向けのコンパウンド用途では前期終盤から続く需要減により販売量が減少しました。

樹脂分野では、主力のポリカーボネート樹脂が米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染拡大の影響等で需要は低下したものの販売量は前期並みを維持しました。一方で、汎用品部分での販売価格低下の影響を受けました。

ポートフォリオ変革の一環として、フィルム事業子会社を東洋紡株式会社に2019年10月1日付で譲渡しました。

繊維・製品事業

衣料繊維分野では、米中貿易摩擦や天候不順などによる国内外の市況低迷により、スポーツ用テキスタイルの国内生産や紳士重衣料が苦戦しました。産業資材分野では、自動車関連部材が欧州や中国の自動車販売低迷の影響を受けましたが、インフラ補強材、水処理フィルターや人工皮革用のポリエステル短繊維の販売は好調を維持しました。

複合成形材料事業ほか

複合成形材料分野では、北米のピックアップトラックやSUV等の需要増を背景に、米国コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチック社の自動車向け量産部品の販売が概ね堅調に推移しましたが、3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大により生産・販売が影響を受けました。

米国・フォード社の新型車種に採用されたGF-SMC

* GF-SMC:Glass Fiber-Sheet Molding Compoundの略。熱硬化性樹脂をガラスに含浸させ、シート状にした成形材料。

売上高
前期比 %減
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EBITDA構成比

(単位:

売上高は1,539億円と前期対比36億円の減収(2.3%減)、営業利益は326億円と前期対比29億円の減益(8.2%減)となり、EBITDAは前期対比27億円減の446億円となりました。

医薬品分野では、国内市場において、高尿酸血症・痛風治療剤「フェブリク」や先端巨大症・下垂体性巨人症/神経内分泌腫瘍治療剤「ソマチュリン」が順調に販売を拡大しましたが、「フェブリク」の海外販売は、後発品の参入が始まった欧米において売上が減少しました。

* ソマチュリン®/Somatuline®は、Ipsen Pharma(仏)の登録商標です。

在宅医療分野では、在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)市場において睡眠時無呼吸症候群診療ネットワークの構築に注力し、契約施設数の増加により機器のレンタル台数が順調に伸長しました。また、在宅酸素療法(HOT)市場において、携帯型酸素濃縮器や据え置き型酸素濃縮器(ハイサンソi)の展開等により、高い水準のレンタル台数を維持しました。

新規ヘルスケア分野では、埋め込み型医療機器事業の業績が堅調に推移しました。

「ハイサンソi」

売上高
前期比 %増
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EBITDA構成比

(単位:

売上高は660億円と前期対比64億円の増収(10.8%増)、営業利益は80億円と前期対比8億円の増益(11.6%増)となり、EBITDAは前期対比13億円増の113億円となりました。

IT事業では、電子コミック配信サービス及び病院・企業向けITサービスが好調に推移しました。

2)事業活動以外の活動の経過及び成果

当期における事業活動以外の活動の経過及び成果については、以下のとおりです。

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」など、グローバルな社会課題の解決に対する、企業への期待と責任は非常に大きなものとなっています。これらの社会課題を踏まえ、帝人グループは、自社にとってのリスクと機会を整理して、経営課題として取り組む5つのマテリアリティ(重要課題)とKPIを定めました。これらマテリアリティに対しては、事業を通じてソリューションを提供するとともに、環境負荷の低減やダイバーシティ&インクルージョンなどの基盤強化に取り組んでいます。

環境負荷低減においては、CO2、水及び有害化学物質などの排出量削減について、中長期の環境目標を定めました。自社排出のCO2については、2030年までに総量で20%削減し、2050年までに実質ゼロにすることを目標に、エネルギー転換や生産性向上などの取り組みを継続強化していくことでこれらの達成を目指しています。世界的に深刻化している水不足や水質汚染の問題に対しても、2030年までに自社の淡水取水量売上高原単位の30%改善を目標に掲げ、水使用量の少ない製品の拡大と事業に伴う水の効率的利用を促進するとともに、水リスクが高い地域にある拠点では、水リスク軽減に向けた対策を推進しています。

「ダイバーシティ&インクルージョン」に関しては、組織の活性化とイノベーション創出の加速のため、価値観や経験の異なる多様な人財が一層能力を発揮できる企業風土醸成を目指し、人財の多様化、女性活躍、多様な働き方の実現に取り組んでいます。女性活躍に関しては、2000年にいち早く専任組織を設けて継続的に女性社員のキャリアアップやキャリア継続支援を行い、経済産業省と東京証券取引所が共同で女性の活躍推進に優れた企業を選定する「なでしこ銘柄」に3年連続で選定されました。また、社員の働き方改革と生産性向上にも積極的に取り組み、時代に即応した多様なワークスタイルを可能にする制度構築を推進しています。業務効率化や作業負担削減に向けては、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の運用により、これまで人が対応していた定型業務の自動化を進め、2019年度末までに63業務のRPA化を実現しました。また、2019年4月から、介護・育児等の事由を問わず誰でも利用できるテレワーク制度を導入し、サテライトオフィスを会社として準備するなど、働く場所のフレキシビリティを高めています。

また、帝人グループは、グループ共通の方針に基づき、各事業グループや地域の特色を活かした社会貢献活動にも積極的に取り組んでいます。中でも次世代の育成を重要と考え、若き科学技術者の育成を目的に創設した公益財団法人帝人奨学会による帝人久村奨学金制度を通じ、60年以上にわたり約1,600人の理工系学生を支援しています。2010年より中国でも奨学金制度を運用しており、2019年度は36人に奨学金を給付しています。更に、「全国高校サッカー選手権大会」への協賛や、公益財団法人日本ユニセフ協会「子どもの権利とスポーツ原則」への賛同等、青少年のスポーツ支援に取り組んでいます。

その他、東日本大震災の被災地に対する継続的な復興支援や、社員のボランティア活動を支援する様々な仕組みを継続的に運用しています。

こうした取り組みが評価され、帝人は、FTSE4Good、MSCI ESG Index、DJSI Asia Pacific等複数の国際的な社会的責任投資インデックスに採用されています。

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(2)財産及び損益の状況の推移

(3)設備投資の状況

当期の設備投資は、炭素繊維の新たな生産拠点の建設や複合成形材料事業の生産能力増強を目的とした設備投資を中心に686億円実施しました。

(4)資金調達の状況

金融機関からの借入金、普通社債の発行により資金調達を実施しました。借入金の増加やIFRS第16号「リース」の適用によるリース債務の増加等により、有利子負債は前期末比127億円増加し、3,819億円となりました。

(5)経営方針及び対処すべき課題

1)帝人グループが目指す姿

帝人グループは、企業理念に基づき、持続可能な社会の実現に向けて、「環境価値」「安心・安全・防災」「少子高齢化・健康志向」の3つのソリューションを中心とした価値を社会に提供し、「未来の社会を支える会社」になることを目指しています。

2)中期経営計画における重点施策

2020年2月に、2020年度からの3年間における実行計画として、中期経営計画2020-2022『ALWAYS EVOLVING』を策定、公表しました。

帝人グループは、当中期経営計画の期間を長期ビジョン実現に向けた「成長基盤確立期」と位置付け、以下を重点施策として取り組みを強化していきます。

a)機会創出

■資源投入規模

成長基盤確立に向け、3,500億円(3年累計)「設備投資+M&A枠」の設定をします。

■ソリューション領域への重点投入

「3つのソリューション」領域に全体の85%を投入し、社会課題への取り組みを加速し、2030年度までに当該領域の売上高比率を全体の75%まで拡大することを目指します。

■各事業のステージ(Strategic Focus, Profitable Growth)別

各事業のステージに応じ、事業分野を「将来の収益源育成:Strategic Focus」と「利益ある成長:Profitable Growth」に大別し、中・長期的視点でポートフォリオ変革、キャッシュ創出力の拡大に向けて投入資源を配分します。分野別には、「将来の収益源育成:Strategic Focus」分野に60%(循環投資は除く)を投入し、2030年度までに当該分野のEBITDAをグループ全体の1/3以上とすることを目指します。

b)リスク低減(環境負荷低減)

帝人グループは、持続可能な社会の実現に向けて、人を中心に考え、「Quality of Life」の向上に資する革新的なソリューションを提供するとともに、事業活動に伴う環境、社会への負の影響を最小限とすることを目指しています。当中期経営計画の策定に合わせ、環境負荷低減に関する長期目標を定め、その達成に向けた事業展開や削減活動を進めていきます。

* 当社製品使用による、サプライチェーン川下でのCO2削減効果を貢献量として算出。CO2削減貢献量を、グループ全体及びサプライチェーン川上におけるCO2総排出量以上にすることを目指す。

c)経営基盤強化

継続的かつ的確なソリューション提供、市場開拓を加速する仕組みとして、以下のイノベーションの創出基盤を強化し、事業機会の創出を加速していきます。

「人財」については、柔軟な働き方を提供し、女性のみならず、多様化する人財が能力を発揮し、活躍できる仕組みを整えることが、イノベーションを創出する企業文化の醸成につながると考えており、国内のみならず、海外においても地域特性に応じた目標を設定し、グループ全体でダイバーシティ&インクルージョンを推進していきます。

d)中期経営計画における主要事業戦略

■マテリアル事業

高機能素材とマルチマテリアル化により、高付加価値用途への展開を加速します。

■ヘルスケア事業

既存事業で培った強みを活かし、リハビリ/介護や予防/健康増進領域を含む地域密着型総合ヘルスケアサービス事業を展開します。

■繊維・製品/IT

e)中期経営計画の計数目標

「投資効率」「稼ぐ力」の両面に力点を置き、収益性指標として「ROE」(全社)と「営業利益ROIC」(全社・事業別)、成長性指標として「EBITDA」(全社・事業別)を最重要指標として設定します。それぞれの最終年度(2022年度)における目標は次のとおりです。

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連結計算書類