事業報告

事業の経過および成果

当期の経過および成果

当期の景況感は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりグローバルで経済活動が停滞し、企業収益や雇用情勢の悪化等による消費マインドの低下など、厳しい状況が続きました。国内化粧品市場は、緊急事態宣言による小売店の臨時休業、同解除後も続く時短営業や外出自粛等による来店客数減に加え、日本政府による約150の国や地域を対象とした査証の無効化などの入国制限、国際航空便減便の継続等により、インバウンド需要も大きく影響を受けました。海外化粧品市場は、アジア地域は2月から、欧米では3月から急激に減速しました。同感染症の新規感染者数は、夏場に一時落ち着きが見られましたが、欧米を中心に9月以降再び増加に転じ、経済活動を制限する施策が再度強化される中、厳しい環境が継続しました。一方、中国では、3月下旬以降、感染者数増加に歯止めがかかり、外出制限が緩和されたことなどから4月以降、市況が回復に転じました。

資生堂グループは2015年に、100年先も輝き続ける企業となるため中長期戦略VISION 2020をスタートさせました。日本発のグローバルビューティーカンパニーとして競争に勝ち抜くため、すべての活動を生活者起点とし、グローバルでブランド価値向上に取り組んでいます。

当期は、VISION 2020の最終年度ですが、上記のとおり大変厳しい経営環境となりました。そうした環境下にあっても、事業・ブランドの選択と集中を進め、持続的成長に向けて注力ブランドへの投資は継続し、年間の費用をゼロベースで見直しながら、業績回復に向けた対応策の策定および実行に取り組みました。

当期の売上高は、すべての地域で新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、現地通貨ベースで前期比17.8%減、事業買収影響等を除く実質ベースでは前期比18.8%減となりました。円換算後では、前期比18.6%減の9,209億円となりました。

営業利益は、売上減に伴う差益減に加え、事業基盤強化に向けた構造改革に係る一時費用の発生や、中国やEコマースなど成長領域へのマーケティング投資を継続強化した一方、売上の変動に合わせた機動的なコストコントロールに加え、全社で経費等を中心に徹底した費用効率化を進めたことなどから、黒字を確保し、前期比86.9%減の150億円となりました。

親会社株主に帰属する当期純利益は、営業減益に加え、休業中の従業員給与、店舗・工場維持費等、新型コロナウイルス感染症に係る特別損失を計上したことなどから、117億円の損失となりました。

当期の連結売上高営業利益率は1.6%、連結ROE(自己資本当期純利益率)は△2.4%、連結ROIC(投下資本利益率)は1.3%となりました。当期における財務諸表項目(収益および費用)の主な為替換算レートは、1ドル=106.8円、1ユーロ=121.8円、1中国元=15.5円です。

連結業績

報告セグメント別売上高

報告セグメント別営業利益または損失

(注)

1. 当期より、当社グループ内の業績管理区分の一部見直しに伴い、従来「日本事業」に計上していた株式会社ザ・ギンザにおける日本国内の空港免税事業等の業績は「トラベルリテール事業」へ計上し、同子会社のブランド「THE GINZA」のブランドホルダー機能に係る業績は「その他」に計上しています。また、従来「米州事業」に計上していた日本国内で事業運営するベアエッセンシャル株式会社の業績と資生堂テクノロジーアクセラレーションハブの業績は「その他」へ計上しています。また、資生堂ジャパン株式会社から株式会社資生堂への「エリクシール」および「アネッサ」ブランドのブランドホルダー機能の移管に伴い、従来「日本事業」に計上していた両ブランドのブランドホルダー機能に係る業績は「その他」へ計上しています。なお、前期のセグメント情報については、変更後の区分方法により作成したものを記載しています。

2. 「その他」は、本社機能部門、株式会社イプサ、資生堂美容室株式会社、生産事業、フロンティアサイエンス事業および飲食業などを含んでいます。

3. 営業利益または損失における売上比は、セグメント間の内部売上高または振替高を含めた売上高に対する比率です。

4. 営業利益または損失の調整額は、主にセグメント間の取引消去の金額です。

事業別の取り組み

売上高 億円
前期比 %減
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厳しい市場環境の中、
お客さま起点の活動を徹底
売上構成比 %

(単位:

日本事業では、生活者の価値観や購買行動の変化を確実に捉えられるようお客さま起点の活動を徹底し、コロナ禍で変化したお客さまのニーズに対応したマスクにつきにくいBBクリーム(日中用色つき美容液)や、需要が増えているハンドクリームなどの新製品の発売や美容情報の発信等を強化するとともに、在庫適正化など事業基盤の再構築を確実に進めました。また、デジタルを活用したマーケティングの強化を通じてオムニチャネル化などに取り組み、Eコマース売上は二桁成長しました。一方、新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言による小売店の臨時休業、同解除後も続く時短営業や消費者の外出自粛等による来店客数減の影響も受け、プレステージブランドやプレミアムブランドを中心に減収となりました。加えて、訪日外国人旅行者の大幅な減少により、インバウンド需要も激減しました。

以上のことから、売上高は前期比29.7%減の3,030億円となりました。営業利益は、徹底したコスト削減に取り組んだものの、売上減に伴う差益減やプロダクトミックスの悪化に加え、在庫適正化に向けた管理強化に伴う在庫評価額の見直しなどにより、前期比86.3%減の105億円となりました。

売上高 億円
前期比 %増
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プレステージブランドが成長をけん引
売上構成比 %

(単位:

中国事業は、新型コロナウイルスの感染拡大により、1月後半から大きな影響を受けましたが、3月下旬以降は感染者数が減少し、中国本土を中心に回復基調が続きました。「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「イプサ」、「NARS」などのプレステージブランドは、実店舗での展開拡大に加え、Eコマースへの投資強化などにより、大きく成長し、シェアを拡大しました。中国最大のEコマースイベントである“ダブルイレブン”で前年に対して2倍超の売上を達成したことなどにより、中国事業におけるEコマース売上比率は40%を超えました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比11.0%増、円換算後では前期比9.0%増の2,358億円となりました。営業利益は、マーケティング投資の強化などにより、前期比37.1%減の184億円となりました。

売上高 億円
前期比 %減
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日本発ブランドの展開拡大、Eコマース強化
売上構成比 %

(単位:

アジアパシフィック事業では、東南アジア地域において日本発ブランドの展開や店舗の拡大を進めました。また、各地域の主要Eコマースプラットフォーマーとの連携強化により、Eコマースは「SHISEIDO」や「SENKA」などがけん引し大きく成長しました。しかし、全体としては、韓国やタイ等を中心に新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けました。ベトナムは同影響が比較的小さく、回復基調が続いたことから前年を上回りました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比14.7%減、円換算後では前期比15.3%減の592億円となりました。営業利益は、売上減に伴う差益減などにより、前期比56.3%減の32億円となりました。

売上高 億円
前期比 %減
実質成長 33.7 %減
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メイクアップが最も苦戦、
Eコマースは大きく成長
売上構成比 %

(単位:

米州事業では、「bareMinerals」において不採算直営店舗の閉鎖など構造改革を進めたことに加え、前期に買収したプレステージ・スキンケアブランド「Drunk Elephant」のマーケティングを強化し、収益基盤の強化に取り組みました。しかし、3月以降の新型コロナウイルスの感染拡大による都市封鎖や外出制限、小売事業者のチャプター11(米連邦破産法第11条)の申請増加等により、特に実店舗が大きな影響を受けました。また、カテゴリーではメイクアップがより厳しい環境となりました。一方、Eコマースは、「Drunk Elephant」がけん引し大きく成長しました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比23.8%減、円換算後では前期比25.7%減の914億円となりました。「Drunk Elephant」買収影響等を除く実質ベースでは、前期比33.7%減となりました。営業損失は、売上減に伴う差益減に加え、買収に伴うのれん償却費の費用増などにより、前期に対し147億円増の223億円となりました。

売上高 億円
前期比 %減
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Eコマース伸長、
厳しい環境においてスキンケア堅調
売上構成比 %

(単位:

欧州では、新型コロナウイルスの新規感染者数は、夏場に一時落ち着きが見られたものの、9月以降再び増加に転じ、都市封鎖や夜間外出禁止等、経済活動を制限する施策が再度強化されました。そのような中、化粧品市場は、Eコマースが大きく伸長しており、当社のEコマースは、さらに市場を上回って伸長、特に「SHISEIDO」のスキンケアが好調に推移しました。また、「クレ・ド・ポー ボーテ」はイタリアやスペインへ、「Drunk Elephant」はドイツへ展開を拡大し、伸長しました。しかし、全体としては、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を大きく受けました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比20.2%減、円換算後では前期比20.4%減の943億円となりました。営業損失は、売上減に伴う差益減などにより、前期に対し110億円増の132億円となりました。

売上高 億円
前期比 %減
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旅行者減の影響を受ける中、
中国海南島を中心にアジアで成長
売上構成比 %

(単位:

トラベルリテール事業(空港・市中免税店等での化粧品・フレグランスの販売)は、当期より日本の空港免税店等におけるビジネスも統合し、全世界のトラベルリテール事業が連携できる体制となりました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、国際線の大幅減便に伴うグローバルでの旅行者の減少等の影響を受けました。一方、中国海南島への国内旅行者の数や、韓国市中免税店やEコマース売上が高水準で推移したことに加え、「イプサ」や「エリクシール」などの店頭カウンターの展開強化に取り組んだことなどにより、アジアでは前年を上回る成長となりました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比18.2%減、円換算後では前期比19.8%減の985億円となりました。営業利益は、売上減に伴う差益減や在庫償却関連費用の増加などにより、前期比53.2%減の146億円となりました。

売上高 億円
前期比 %減
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中国で成長拡大
売上構成比 %

(単位:

プロフェッショナル事業は、ヘアサロン向けのヘアケア、スタイリング剤、ヘアカラー剤やパーマ剤などの技術商材を日本、中国、アジアパシフィックで販売しています。当期は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛や、ヘアサロンの休業等の影響を受けました。その中、中国では、Eコマース強化などにより好調に推移しました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比12.2%減、円換算後では前期比13.1%減の128億円となりました。営業損失は、売上減に伴う差益減などにより、0.3億円となりました。

資本政策

資本政策の基本方針(2020年12月31日現在)

当社は持続的成長に向けて、必要と判断されるタイミングで迅速・果断に投資を行うため株主資本の水準保持に努めます。そのうえで、フリーキャッシュフローやキャッシュコンバージョンサイクルを重視して、キャッシュ・フローとバランスシートのマネジメントの強化により、資本効率を意識した経営を実践します。

資金調達に関しては、有利な条件で調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、デット・エクイティ・レシオ0.3、EBITDA有利子負債倍率1.0倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮したうえで、上記指標は株主還元方針と併せて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。

株主のみなさまへの利益還元については、直接的な利益還元と中長期的な株価上昇による“株式トータルリターンの実現”を目指しています。この考え方に基づき、持続的な成長のための戦略投資を最優先とし、企業価値の最大化を目指す一方で、資本コストを意識しながら投下資本効率を高め、中長期的に配当の増加と株価上昇につなげていくことを基本方針としています。

配当金の決定にあたっては、連結業績、フリーキャッシュフローの状況を重視し、資本政策を反映する指標の一つとして自己資本配当率(DOE)2.5%以上を目安とした長期安定的かつ継続的な還元拡充を実現します。なお、自己株式取得については、市場環境を踏まえ、機動的に行う方針としています。

利益還元の状況の推移

(注)
  • 第121期(当期)の各項目の数値は、本議案が原案どおり承認可決されることを前提としたものです。
  • 第121期(当期)の連結配当性向は、親会社株主に帰属する当期純損益がマイナスのため表示していません。

連結計算書類