事業報告等

事業の経過および成果

当期の経過および成果

当期の景況感は、新型コロナウイルス感染症拡大によりグローバルで経済活動が停滞し、企業収益や雇用情勢の悪化などによる消費マインドの低下など、厳しい状況が続きました。国内化粧品市場は、断続的な緊急事態宣言による小売店の時短営業や外出自粛などによる来店客数減少に加え、訪日外国人旅行者の減少に伴い、インバウンド需要も影響を受けました。海外化粧品市場は、全体として新型コロナウイルス感染症拡大の影響が継続しているものの、ワクチン接種の普及が進み、欧米を中心に回復基調となりました。

当社は、急激に変化する外部環境やこれまでの中長期戦略を踏まえ、プレミアムスキンビューティー領域をコア事業とする抜本的な経営改革を実行し、2030年までにこの領域における世界No.1の企業になることを目指す中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」を遂行しています。2021年~2023年の3年間は、これまでの売上拡大による成長重視から、収益性とキャッシュ・フロー重視の戦略へと転換し、“スキンビューティーカンパニー”としての盤石な基盤を構築します。

初年度である当期は、「変革と次への準備」の期間と位置づけ、Withコロナへの対応と準備をしながら、事業ポートフォリオの再構築を中心とした構造改革および財務基盤の強化に取り組みました。具体的には、パーソナルケア事業やプレステージメイクアップ3ブランド(「bareMinerals」、「BUXOM」、「Laura Mercier」)の譲渡、Dolce&Gabbana S.r.l.とのグローバルライセンス契約の解消などを実行しました。また、DXの推進については、アクセンチュア株式会社との合弁会社資生堂インタラクティブビューティー株式会社を設立し、グローバルではデジタルマーケティング戦略強化のため、中国テクノロジー大手Tencent(テンセント)グループとの戦略的パートナーシップを締結しました。加えて、生産・物流体制を強化する大阪茨木工場および西日本物流センターも本格稼働しています。

当期は、すべての地域で新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けましたが、日本を除く各地域では売上高を大きく回復させることができました。特に注力しているスキンビューティーブランドおよびEコマースの拡大が全社の成長に大きく貢献しています。

その結果として、売上高は前期比12.4%増の1兆352億円、現地通貨ベースでは前期比7.8%増、事業譲渡などの影響を除く実質ベースでは前期比11.9%増となりました。

営業利益は、売上増に伴う差益増、プロダクトミックスの改善に加え、市場の変化に合わせた適切なコストマネジメントを実施したことなどにより、前期比177.9%増の416億円となりました。

親会社株主に帰属する当期純利益は、「DOLCE&GABBANA」に係る商標権の減損損失およびプレステージメイクアップ3ブランドの譲渡に伴うのれんの減損損失を計上した一方、営業増益およびパーソナルケア事業譲渡による特別利益計上などにより、前期に対し541億円増益の424億円となりました。

営業利益率は4.0%、連結ROE(自己資本当期純利益率)は8.2%、連結ROIC(投下資本利益率)は3.3%となりました。

なお、EBITDAベースでは、16.7%のマージンとなり、キャッシュ創出についても大きく改善しました。

連結業績

(注)
当期における連結計算書類項目(収益および費用)の主な為替換算レートは、1ドル=110.0円、1ユーロ=129.9円、1中国元=17.0円です。

報告セグメント別売上高

報告セグメント別営業利益または損失

(注)
  • 当期より、当社グループ内の業績管理区分の一部見直しに伴い、従来「米州事業」に計上していたデジタル戦略に係るグローバルサービス機能の業績を「その他」に計上しています。また、「その他」に計上していたサプライネットワーク機能の業績を「日本事業」へ計上しています。なお、前期のセグメント情報については、変更後の区分方法により作成したものを記載しています。
  • 従来「日本事業」、「中国事業」および「アジアパシフィック事業」に計上していた各地域販売子会社のパーソナルケア事業に係る売上高は、パーソナルケア事業の譲渡および商流変更に伴い、2021年7月1日以降、一部を除き発生していません。一方で、当社および当社製造子会社による株式会社ファイントゥデイ資生堂およびその関係会社への売上は同日以降「その他」に計上しています。
  • 「その他」は、本社機能部門、株式会社イプサ、資生堂美容室株式会社、生産事業および飲食業などを含んでいます。
  • 調整額は、主にセグメント間の取引消去の金額です。

事業別の取り組み

売上高 億円
前期比 %減
実質ベース 1.4 %減
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市場回復が遅れる中、
プレステージ中心に回復基調
売上構成比 %

(単位:

日本事業では、コロナ禍で変化したお客さまニーズを捉え、スキンビューティー領域への戦略的投資を強化し、ベースメイクやサンケアなどのカテゴリーにおいてシェアを拡大しました。また、ライブコマースやWebカウンセリングを強化するなど、得意先と協働して店頭とオンラインの融合に取り組み、多くのお客さまとの接点を創出しました。これらにより、Eコマース売上は2桁成長しました。前期に引き続き、お客さまのニーズに対応したマスクにつかない商品の迅速な開発・導入に取り組んだほか、「Second Skin」技術を搭載した画期的な新製品の発売など、お客さまへの提供価値の最大化を追求しました。また、全国の医療従事者の方々に敬意と感謝の意を伝えることを目的とした「資生堂 Hand in Hand Project」を展開し、感染拡大防止と寄付や商品の提供により医療現場の方々をサポートしました。

一方、緊急事態宣言による小売店の時短営業や外出自粛などに伴い来店客数が減少したことに加え、訪日外国人旅行者の減少によりインバウンド需要も低調でした。

以上のことから、売上高は前期比8.9%減の2,762億円となりました。パーソナルケア事業の譲渡影響を除く実質ベースでは、前期比1.4%減となりました。営業利益は、上期の海外向け輸出事業の売上増に伴う差益増に加え、市場の変化に合わせコスト効率化を進めたものの、売上減による差益減があり、前期比0.9%減の96億円となりました。

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 19.1 %増
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“ダブルイレブン”で市場を大きく上回る伸長
売上構成比 %

(単位:

中国事業では、第3四半期の記録的豪雨や、主要都市を中心とした新型コロナウイルス変異株の拡大に伴い、店舗の一部閉鎖や来店客数減少などの影響を受けましたが、戦略的に投資を強化しているEコマースは好調に推移しました。中国最大のEコマースイベントである“ダブルイレブン”で市場を大きく上回る売上成長を達成したことなどにより、Eコマース売上比率は40%台後半に達しました。プレステージブランドへの戦略的投資を継続することで、「クレ・ド・ポー ボーテ」や「NARS」など、高価格帯領域においてシェアを拡大しました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比7.0%増、円換算後では前期比16.5%増の2,747億円となりました。パーソナルケア事業の譲渡影響などを除く実質ベースでは、前期比19.1%増となりました。営業利益は、注力ブランドへのマーケティング投資を強化したほか、一部、原価悪化に加え、パーソナルケア事業譲渡影響などにより前期比93.6%減の12億円となりました。

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 5.8 %増
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Eコマースが成長をけん引
売上構成比 %

(単位:

アジアパシフィック事業では、一部の国・地域で新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンの影響が続きましたが、当社は各地域の主要Eコマースプラットフォーマーへの展開を強化したほか、「SHISEIDO」や「NARS」などのプレステージブランドが飛躍的に成長したことにより、アジア全体のEコマースでシェアを拡大しました。また、「Drunk Elephant」の展開拡大に加え、各国・地域で母の日キャンペーンを行うなど積極的なプロモーションを行いました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比3.8%増、円換算後では前期比9.9%増の650億円となりました。パーソナルケア事業譲渡影響などを除く実質ベースでは、前期比5.8%増となりました。営業利益は、売上増に伴う差益増などにより、前期比15.1%増の37億円となりました。

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 29.9 %増
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化粧品市場が回復、力強く成長
売上構成比 %

(単位:

米州事業では、新型コロナウイルス感染拡大の影響が続いていましたが、ワクチン接種の普及に伴い、回復が遅れていたメイクアップを含め化粧品市場のモメンタムが改善しました。その中で、米国発のスキンケアブランド「Drunk Elephant」は店舗数を拡大したほか、「NARS」はバーチャル新店舗をオープンさせるなどデジタルマーケティングを強化しシェアを拡大しました。また、プロモーションを強化した「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー ボーテ」に加え、フレグランスブランドも好調に推移しました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比28.4%増、円換算後では前期比32.8%増の1,214億円、プレステージメイクアップ3ブランドの譲渡影響などを除く実質ベースでは、前期比29.9%増となり、2019年を上回る水準に回復しました。営業損失は、売上増に伴う差益増に加え、販売事業での固定費削減による収益性改善が寄与したことなどにより、前期に対し95億円改善の132億円となりました。

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 16.5 %増
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力強く回復、全カテゴリーでシェアを拡大
売上構成比 %

(単位:

欧州事業では、新型コロナウイルス感染拡大の影響が続いていましたが、ワクチン接種の普及に伴い、スキンケアやフレグランスを中心に市場は回復基調となりました。その中で、「クレ・ド・ポー ボーテ」や「Drunk Elephant」の展開拡大に加え、オンラインカウンセリングやデジタルプロモーションの強化によりEコマース売上も伸長するなど、需要回復を捉え、全カテゴリーでシェアを拡大しました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比16.4%増、円換算後では前期比24.1%増の1,170億円、プレステージメイクアップ3ブランドの譲渡影響などを除く実質ベースでは、前期比16.5%増となりました。営業利益は、売上増に伴う差益増に加え、販売事業での収益性改善が寄与したほか、デジタルメディア投資強化に伴う費用効率化や固定費削減などにより、前期に対し157億円改善の25億円となり、黒字に転換しました。

売上高 億円
前期比 %増
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旅行者減の影響を受ける中、
中国海南島を中心にアジアで成長
売上構成比 %

(単位:

トラベルリテール事業(空港・市中免税店などでの化粧品・フレグランスの販売)は、引き続き国際線の大幅減便に伴うグローバルでの旅行者減少などの影響を受けました。中国海南島においても、新型コロナウイルス変異株拡大に伴うフライトの減便など、移動制限の影響を受けましたが、Eコマース売上を中心に大きく成長しました。また、「Drunk Elephant」の展開強化に加え、主要ブランドの海南島での店頭カウンター数の拡大などにより、アジアを中心に力強い成長を実現しました。

以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比18.4%増、円換算後では前期比22.3%増の1,205億円となりました。営業利益は、売上増に伴う差益増などにより、前期比49.9%増の220億円となりました。

売上高 億円
前期比 %増
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日本・中国で成長拡大
売上構成比 %

(単位:

プロフェッショナル事業は、ヘアサロン向けのヘアケア、スタイリング剤、ヘアカラー剤やパーマ剤などの技術商材を日本、中国、アジアパシフィックで販売しています。当期は、一部の国・地域では新型コロナウイルスの感染拡大の影響が続きましたが、ヘアサロンへの来店客数の回復やEコマースでのプロモーション強化、新プレミアムヘアカラーブランド「ULTIST」、サステナブルな取り組みのもとに作られたサロン向け新ヘアケアブランド「HAIR KITCHEN」の貢献などにより、売上高は現地通貨ベースで前期比19.6%増、円換算後では前期比24.4%増の159億円となりました。営業利益は、売上増に伴う差益増などにより、前期に対し8億円改善の8億円となり、黒字に転換しました。

資本政策

資本政策の基本方針(2021年12月31日現在)

当社は持続的成長に向けて、必要と判断されるタイミングで迅速・果断に投資を行うため株主資本の水準保持に努めます。そのうえで、フリーキャッシュフローや在庫回転日数を中心とした運転資本の効率化を重視して、キャッシュ・フローとバランスシートのマネジメントの強化により、資本効率を意識した経営を実践します。

資金調達に関しては、有利な条件で調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、ネット・デット・エクイティ・レシオ0.2、ネットEBITDA有利子負債倍率0.5倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮したうえで、上記指標は株主還元方針と併せて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。

株主のみなさまへの利益還元については、直接的な利益還元と中長期的な株価上昇による“株式トータルリターンの実現”を目指しています。この考え方に基づき、持続的な成長のための戦略投資を最優先とし、企業価値の最大化を目指す一方で、資本コストを意識しながら投下資本効率を高め、中長期的に配当の増加と株価上昇につなげていくことを基本方針としています。

配当金の決定にあたっては、連結業績、フリーキャッシュフローの状況を重視し、資本政策を反映する指標の一つとして自己資本配当率(DOE)2.5%以上を目安とした長期安定的かつ継続的な還元拡充を実現します。なお、自己株式取得については、市場環境を踏まえ、機動的に行う方針としています。

利益還元の状況の推移

(注)
  • 第122期(当期)の各項目の数値は、2022年3月25日開催予定の定時株主総会の第1号議案(剰余金の配当の件)が原案どおり可決されることを前提としたものです。
  • 第121期の連結配当性向は、親会社株主に帰属する当期純損益がマイナスのため表示していません。

連結計算書類