トップインタビュー 代表取締役会長兼社長 曽禰 寛純

持続可能な社会、SDGsにも「直列」に繋がる経営で、
社会課題の解決と持続的な成長の両立を目指します。

Q1
2019年度は中期経営計画の最終年度でした。どのように評価されていますか?

事業構造・業務構造の変革により事業収益力が強化されたことに加え、事業基盤と経営体制の整備が進みました。

azbilグループは、2006年にグループ理念「人を中心としたオートメーション」を制定し、2012年には、3つの基本方針を定め、事業面、グローバル展開、人材育成等の基盤づくりを進めてきました。この基本方針のもと、景気サイクルの異なる3つの事業、すなわちビルディングオートメーション(BA)事業、アドバンスオートメーション(AA)事業、ライフオートメーション(LA)事業において事業の選択と集中、組織改革、収益力強化等、各種施策を展開し、事業環境の変化に対応して、安定した成長を実現してきました。2017年度から2019年度にかけての中期経営計画においては、さらに持続的成長に向けた3つの事業領域を設定し、持続可能性と成長性に向けての施策を展開してきました。こうした取組みを通して、当社グループの事業は顧客・社会とのライフサイクル型事業として進化し、顧客提供価値を高めるとともに、事業収益力の強化が大きく進みました。

併せて、グローバルな事業展開を支えるための基盤整備が進展してきました。20ヵ国を超える国々に現地法人やサービス拠点を設置し、技術開発体制、生産体制についても日本、アジア、欧米にまたがる3極体制を構築しました。こうした技術開発と生産体制を基にAIやクラウドといった技術を組み入れた商品が開発・生産され、お客様のもとに届けられています。さらに、「学習する企業体」にふさわしい人事制度、事業環境の変化に対応した人材の最適配置も進みました。BCP(Business Continuity Plan-事業継続計画)に関する整備や、財務体質の強化も進み、持続的な成長に向けた経営基盤が構築されてきました。

経営体制、コーポレート・ガバナンスの強化も着実に進捗しました。次の長期的な施策展開に向けて執行体制を新たなものとし、取締役会についてもガバナンス強化の観点から独立社外取締役構成比率を高めてきており、現在では11名中5名が独立社外取締役という構成になっています。

azbilグループ、3つの基本方針と3つの事業領域の拡大
Q2
2019年度の業績結果はどうでしたか?

事業収益力強化がさらに進み、営業利益は3期連続で過去最高益を更新しました。

先に述べたように、中期経営計画(2017~2019年度)においては、収益力強化において大きな進展が見られました。中期経営計画最終年度にあたる2019年度の業績については、AA事業が製造装置市場の低迷により減収したことを主因に、売上高は前連結会計年度比で若干の減少(△26億円、△1.0%)となりましたが、営業利益は中期経営計画策定時(2017年5月公表)の当初目標(250億円)を上回り、2019年度期初計画値(2019年5月公表)も上回る272億円を達成し、3期連続で過去最高益を更新することができました。なお、新型コロナウイルス感染拡大により、第4四半期以降の景況感は悪化しましたが、azbilグループの業績への影響は一部にとどまりました。

Q3
新型コロナウイルス感染拡大の事業への影響と対応について教えてください。

事業面、財務面での基盤強化を基に、危機管理を徹底、変化に素早く対応します。

新型コロナウイルス感染拡大による世界的な消費の落ち込み、経済活動・生産活動の停滞が設備投資の減少や工事の遅延・停止を引き起こしており、今後の事業環境につきましては不透明感が大きく懸念されます。

しかしながら、azbilグループは、これまでの事業構造・業務構造変革の取組みを通して、3事業における事業ポートフォリオの見直し、収益力の強化等を進め、着実に事業体質の強化を達成してきております。また、危機管理対応としてのBCPに関する整備を進め、これに加えて、資金調達力の強化・多様化を含めた強固な財務基盤を構築してきています。これらにより当社グループの有事に対する対応力は強化されています。

さらに、新型コロナウイルス感染症の発生・拡大後は、速やかに対策本部を立ち上げ、代表取締役社長を本部長として、国内外の当社グループ各社と連携し、お客様及び社員の安全確保を最優先として事業継続に向けた取組みを進めました。具体的には、グループ各社の事業所の活動形態を見直し、在宅勤務等を推し進める一方で、お客様の重要設備・インフラの維持に不可欠で、社会的要請の高いエンジニアリング、サービスを提供し、生産については安全に十分配慮をしたうえで継続し、企業としての社会的責任を果たしてきています。今後も、危機管理を徹底し、新型コロナウイルス感染拡大に起因する変化に素早く対応していきます。

Q4
事業環境が不透明な中、配当は維持されました。

従来からの基本方針を堅持し、短期的な事業環境・業績の悪化にとらわれることなく、安定的な配当を維持することにしました。

azbilグループは、株主の皆様への利益還元を経営の重要課題の一つと位置付けており、連結業績、純資産配当率(DOE)・自己資本当期純利益率(ROE)等の水準及び将来の事業展開と健全な財務基盤の確保のための内部留保等を総合的に勘案して、配当水準の向上に努めつつ、安定した配当を維持していきたいと考えています。過去大きく事業環境が変化した際にもこの方針を堅持し、実践してきました。

2019年度の期末配当金については、業績結果と株主還元の基本方針に基づき1株当たり25円とさせていただき、2019年度の年間配当としては公表通り50円とさせていただく予定です。なお、2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響を現時点では合理的に見通すことが困難な状況にありますが、これまでの事業構造改革、収益力強化策による内部留保等を勘案し、持続的成長のための投資に必要な資金を確保したうえで、当社の利益配分に関する基本方針に則り、安定した配当水準を実現するために、1株当たり年間50円の配当を維持させていただく予定です。一方、自己株式の取得につきましては、現状、新型コロナウイルス感染拡大による業績への影響が見通せないことから計画していません。

なお、商品・サービスの拡充、先進的なグローバル生産・開発の構造改革等、持続的成長のために必要な投資については、事業継続を第一義としながら、適宜判断、実施していきます。

株主還元の推移 ~ 安定した配当の実践
基本方針に基づき、常に安定した配当の維持(DOEの水準を参照)とその水準の向上を実践
Q5
環境の激変を越えて持続的な成長は可能ですか?長期的な経営方針についてお聞かせください。

社会構造や価値観の変化がオートメーションの新たな需要を創出しており、持続可能な成長を確信しています。

足元では、新型コロナウイルス感染拡大により世界的に経済活動が停滞し、事業環境が悪化することが予想されますが、中長期的にはオートメーションの新たな需要の増加が見込まれるため、持続的な成長が十分可能と考えています。

IoTやAI、クラウド等の先進技術の発展が、オートメーションに新たな課題解決能力を与えています。少子高齢化、グローバル化、働き方改革等による価値観の変化により生まれる新たなニーズへの対応、持続可能な社会を目指すうえで喫緊の課題である気候変動や各種インフラ老朽化への対応、そして、今回の新型コロナウイルス感染拡大がもたらすと考えられる行動変容、すなわちオンライン化、テレワーク、遠隔作業への対応等、オートメーションがその課題解決に果たせる役割はますます増加すると考えられます。新たな社会的課題の解決に向けてオートメーションが貢献できる領域は日々拡大しており、これらを機会とする新たな事業展開・成長が見込まれます。

azbilグループは、新たなオートメーションへのニーズを捉え、次世代に向け、長期的展望に立った事業展開を図り、新たな経営体制のもと、経営基本方針や事業基盤の継続的な強化、収益体質の改善等に今後ともさらに挑戦していきます。

Q6
新たな需要に応えることができる技術、商品について教えてください。

IoT、AI、クラウドといった先進技術を活用した製品と、現場で蓄積したエンジニアリング、サービスのノウハウの融合で、azbilグループならではの商品と価値を提供します。

azbilグループの強みは、先進的な技術を取り入れた製品・アプリケーションを保有するとともに、お客様の現場でエンジニアリング、サービスを提供する体制と、そこで長年蓄積し培ったビッグデータ並びにノウハウです。IoT、AI、クラウドといった最新の先進技術を活用した製品と現場で蓄積したエンジニアリング、サービスのノウハウの融合で、当社グループならではのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、お客様に新たな価値を提供します。

例えば、製品面では、MEMSとセンサパッケージング技術により作られた各種デバイス、フィールド機器や、知能化したアクチュエータ、センサを内蔵したロボットがオートメーションによるソリューションの範囲を拡大し、これまでに計測・制御できなかった新たな需要にお応えします。また、各関節にトルクセンサを内蔵し、精密な作業力の検知と制御を可能にした次世代スマートロボットを開発しています。

azbilグループの商品力強化~自動化・自律化・省人化を加速し、人との協調を実現

また、お客様のプラントにおいて、熟練オペレータに代わって高度な運用を実現し、リモートでのメンテナンスを可能にする新たな知識集約型のサービスとしては、AI、クラウド技術を活用し、豊富なビッグデータに基づいた「スマート保安ソリューション」が挙げられます。

ビッグデータやAIを活用した高度化サービス「スマート保安ソリューション」

ポストコロナを見据えたソリューションとしては、平時に一般病室として使用している部屋を有事に「陰圧」にし、換気量を増加させることで感染症病室に切り替えることができる風量制御システムがあります。これは、平時における病床稼働率の低下を回避し、お客様にとってのコスト増を回避することを可能にするとともに、医療スタッフの安全環境確保を可能にします。

BCP対応としての安全と建物の柔軟な活用を可能にする「病院における圧力制御」

当社グループのBA(ビルディングオートメーション)システムやセンサは、オフィスの快適性、新たな働き方にマッチした制御はもとより、こうした病院やクラウドセンターに要求される先端的な制御を行っています。このほか、個々の建物のエネルギー使用の最適化だけではなく、都市全体のエネルギー需要の抑制、再生可能エネルギー融合へのソリューションに貢献するのが「仮想発電所:バーチャルパワープラント(VPP)」の技術です。これは、近未来のスマートシティの実現に不可欠な技術であり、当社グループのBA事業における納入実績、ノウハウを活かすことができる新しいオートメーションの事業領域です。

※MEMS(Micro Electro Mechanical Systems):センサ、アクチュエータ、電子回路を一つの基盤の上に微細加工技術によって集積した機器。

Q7
環境負荷低減やSDGsへの対応等、企業に新たに求められている社会的課題への対応にはどのように対処されていますか?

持続可能な社会に「直列」に繋がる事業活動を通して課題解決に貢献するとともに、自らの持続的成長を可能にしていきます。

azbilグループは、「人を中心としたオートメーションで、人々の安心、快適、達成感を実現するとともに、地球環境に貢献する」ことをグループ理念に掲げ、グローバルに事業を展開しています。環境負荷低減やSDGs(Sustainable Development Goals-持続可能な開発目標)への対応は、この企業理念の実践に他なりません。

これまで培ってきたお客様との信頼関係や経験・知見をベースに、新たなオートメーションでの商品開発を推し進めるとともに、環境・エネルギー、ライフサイクル型事業の推進による持続可能な社会へ「直列」に繋がる事業を展開することで、SDGs等の社会的課題の解決に貢献し、併せて着実な事業成長を実現したいと考えています。

azbilグループのCSR経営

持続可能な社会への「直列」に繋がる貢献のためには、当社グループが持続的に成長する仕組みも不可欠だと考えています。このため、企業理念に基づき、azbilグループ企業行動指針、行動基準を2019年度に大きく見直しました。新たに設定した行動指針を大切に、当社グループにおける継続的な成長の仕組みを強化し、企業価値を向上していきたいと思います。

これに加えて、2030年に目標達成を目指すSDGsを、持続可能な社会へ「直列」に繋がる経営や事業活動の道標とするため、当社グループのSDGs目標(基本目標とターゲット)を定めました。

短期的な事業環境は不透明であり、厳しい状況が予想されますが、中長期的には当社グループが事業領域とするオートメーションの世界では持続的な成長が見込まれます。新型コロナウイルス感染拡大の影響を、これまでに強化した企業体質・事業基盤と徹底した危機管理による迅速な対応で乗り切り、社会構造・価値観の変化により生まれる新たな課題には、社員一同、企業理念から社員行動、経営戦略の実行までの直列化した体制で果敢に取り組むことで、社会課題の解決と自らの持続的成長の両立を実現していきます。

株主の皆様をはじめとするステークホルダーの皆様におかれましては、当社グループの経営・事業についてご理解いただき、引き続き長期的なご支援を賜りますようお願い申し上げます。