事業報告(2022年4月1日~2023年3月31日)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過及び成果

当連結会計年度は、2022年4月に保険償還価格の改定が行われたことにより、販売単価は多くの品目で前期に比べ下落しました。特にリズムディバイスやEP/アブレーションの一部品目における保険償還価格の引き下げ幅が大きく、売上高及び売上総利益に対してマイナスの影響がありました。

また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療現場では感染者数の増加への対応に加え、医療従事者の院内感染も広がるなど、医療提供体制はひっ迫した状況が継続しました。特に感染拡大期(第7波:2022年7月~8月、第8波:2022年11月~2023年1月)には、当社の取扱製品に関する症例数が抑制され、当社の業績に影響を与えました。

医療現場では、医師の長時間労働の常態化等が問題となっており、国は「医師の働き方改革」を推進しています。法規制は2024年4月より適用されますが、一部の施設では法令の施行前に段階的に労働環境の改善を進めており、時間外や土曜日の手術の制限を行っています。これを受け、当連結会計年度において、当社の取扱製品に関する症例数に一定の影響がありました。

これらの事業環境の中、当社の業績に特に影響度が大きい心房細動(AF)のアブレーション治療の症例数は、当連結会計年度は前期比で6%程度の増加であったと推計しており、期初計画の想定と概ね同程度で推移しました。この結果、EP/アブレーションは、販売が堅調に推移したことから保険償還価格の下落の影響を吸収し、前期比で4.8%増収となりました。

外国為替相場の状況は、日本円は対米ドルで乱高下しましたが、損益に対しては大きな影響はありませんでした。これは当社の商品仕入の約70%が円建てであることや、売上原価の計算に移動平均法を用いていることから、一部の仕入商品や部材において一時的な調達コストの上昇が生じても、その影響は長期間にわたって平準化されること等が主な理由です。

当連結会計年度の業績は以下のとおりです。

  • ① 売上高
    前期に比べ、281百万円増収の51,750百万円となりました。詳細は「品目別売上高」に記載しております。
  • ② 売上総利益
    前期に比べ、1,060百万円増加の29,895百万円となりました。売上総利益率は、前期に比べ1.8pt上昇し57.8%となりました。製品・商品在庫や原材料等の棚卸資産の廃棄損及び評価損が前期に比べ1,413百万円減少したことや自社製品比率が前期に比べ2.5pt上昇し、54.9%となったことが主な理由であり、保険償還価格の改定に伴う売上総利益率の悪化や一部品目の販売数量の減少等によるマイナスの影響を吸収しました。
  • ③ 営業利益
    前期に比べ、863百万円増加の10,837百万円となりました。営業利益率は、前期に比べ1.5pt上昇し、20.9%となりました。販売費及び一般管理費は前期に比べ微増となりましたが、上記のとおり、売上総利益率が上昇したことにより、その影響を吸収しました。販売費及び一般管理費の増減の内訳としては、研究開発費の増加や、新製品の導入に伴う旅費交通費や広告宣伝費等の増加がありましたが、前期に一時的な費用として治験関連費用が290百万円発生したこと等もあり、総額では前期に比べ微増にとどまりました。
  • ④ 経常利益
    前期に比べ、900百万円増加の10,905百万円となりました。営業外収益は、受取利息や受取配当金等で293百万円を計上しております。営業外費用は、取引先への長期貸付金等に関する貸倒引当金繰入や自己株式の取得に伴う金融手数料等で224百万円を計上しております。
  • ⑤ 親会社株主に帰属する当期純利益
    前期に比べ、592百万円減少の6,891百万円となりました。第3四半期連結会計期間に、政策保有目的で株式を保有している商品仕入先における事業計画の見直しを伴う増資により、当社の持分が希薄化したため、投資有価証券評価損1,190百万円を特別損失として計上しました。また、第4四半期連結会計期間に、子会社の譲渡及び清算に係る子会社整理益96百万円を特別利益として計上しました。

(品目別売上高)

事業区分別の概況

リズムディバイス

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ペースメーカ関連は、他社との競争激化により、販売は厳しい状況で推移しました。ペースメーカリードの留置を補助するSSPC(サイト・セレクティブ・ペーシング・カテーテル)を新規に導入した効果により、販売数量は前期並みとなりましたが、売上高は保険償還価格の大幅な下落により、前期に比べ大幅な減収となりました。

ICD関連は、T-ICDにおいて、電池の交換時期の到来に伴う交換症例を獲得したことや、CRT-Dの販売が堅調であったことを背景に、前期に比べ増収となりました。オンリーワン商品であるS-ICDは、保険償還価格の引き下げがなく、販売も堅調に推移したため、前期に比べ増収となりました。

以上により、リズムディバイスの売上高は、12,403百万円(前期比4.4%減)となりました。

EP/アブレーション

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EPカテーテルは、AF症例数が増加したことに加え他社製品の供給問題が生じたこともあり、販売は好調に推移しました。心腔内除細動カテーテル「BeeAT(ビート)」、EPカテーテル「EP Star(イーピースター)」、食道温モニタリングカテーテル「Esophastar(エソファスター)」等のアブレーション手術関連の自社製品の販売数量は、前期に比べ10%程度の伸長となりました。一方、売上高は、保険償還価格の下落により、前期に比べ7%程度の増収となりました。

アブレーションカテーテルは、内視鏡レーザーアブレーションカテーテル「HeartLight X3(ハートライト・エックススリー)」の販売が低調に推移したことにより、前期に比べ減収となりました。同商品は、2022年7月以降、世界的な原材料不足を背景に仕入先からの商品供給が断続的に滞ったため、販売に影響を与えました。

その他については、高周波心房中隔穿刺針「RF Needle(アールエフニードル)」が、競合製品の影響を受け、減収となりました。なお、同商品は仕入先であるBaylis Medical社がBoston Scientific社に買収されたことを受け、当社による独占販売は2023年3月末で終了しました。2023年4月以降は、ボストン・サイエンティフィック ジャパン社に販売が移管され、当社は同社との販売パートナーシップ契約のもと、販売支援を行ってまいります。スティーラブルシースの自社製品「Leftee(レフティー)」は、高い操作性が医療現場で評価され、販売拡大が続いており、前期に比べ大幅な増収となりました。

以上により、EP/アブレーションの売上高は、26,292百万円(前期比4.8%増)となりました。

外科関連

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人工血管関連は、症例数の横ばい傾向が続く中、緩やかなシェアの拡大により、販売は好調に推移しました。自社製品では、人工血管が堅調に推移したほか、オンリーワン製品のオープンステントグラフト「FROZENIX(フローゼニクス)」も、緊急症例の増加を背景に、前期に比べ増収となりました。仕入商品では、腹部用ステントグラフトの「AFX2(エーエフエックスツー)」が、国内の大学病院で実施された臨床研究の結果が好感されたことや、前期に発売した新商品の「Alto(アルト)」との相乗効果が発揮されたことを背景に、前期に比べ大幅な増収となりました。

その他については、新規参入した脳血管領域向けの塞栓用コイル「Avenir(アベニア)」の販売が好調に推移し、計画を大幅に上回りました。「Avenir」の供給元であるWallaby Medical社とは、脳血管内治療デバイス11品目を対象とする10年間の独占販売契約を締結しており、2024年3月期以降、新商品を順次発売する予定です。脳血管領域の市場は、今後も年4~5%程度の成長が見込めることから、重要な領域として注力してまいります。

以上により、外科関連の売上高は、10,643百万円(前期比10.2%増)となりました。

消化器/PI

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消化器関連は、大腸用ステント、胃・十二指腸用ステント、肝癌治療用ラジオ波焼灼電極針等の既存製品の販売が好調に推移したことで大幅な増収となりました。

また、当社は消化器領域の中でも胆膵領域(胆道・膵臓)を成長が見込める分野として位置付け、当連結会計年度より自社製品で本格的に新規参入しました。しかしながら、胆道鏡等の一部の製品では、初期臨床で改善を要する点が明らかになっており、課題解決に取り組んでいます。一方、胆管チューブステントは、臨床評価が高く、販売は好調に推移しており、今後さらなる拡販に取り組んでまいります。

PI(経皮的インターベンション)関連は、競争環境の激化等を背景にコロナリー・インターベンション事業の縮小と消化器領域への販売リソースの転換を進めた結果、大幅な減収となりました。主要な仕入商品であった薬剤溶出型冠動脈ステント「Orsiro(オシロ)」は、独占販売契約を早期に終了しました。

以上により、消化器/PIの売上高は、2,411百万円(前期比35.4%減)となりました。

企業集団の財産及び損益の状況の推移

(注) 1株当たり当期純利益は期中平均株式数により算出しております。

対処すべき課題

  • ①中期経営計画への取り組み
    当社は「最新最適な医療機器を通じて健康社会の実現に貢献する」ことを経営理念に掲げております。商社として海外メーカーの新規性の高い医療機器を国内に導入するとともに、メーカーとして医療現場のニーズを反映した医療機器を開発・製造するというユニークなビジネスモデルを活かし、経営理念の実現に向けて取り組んでおります。
    2020年11月に公表した中期経営計画は、事業ポートフォリオの大幅な見直し等のビジネスの変革により実績と計画の乖離が大きくなっていたことから、これを取り下げ、2023年5月に2024年3月期から2028年3月期まで5ヵ年の新中期経営計画を策定しました。新中期経営計画では、以下の5つの数値目標を設定しております。

(数値目標)

* 脳血管領域と消化器領域

これらの数値目標を達成するために、次の3点を重点課題として取り組んでまいります。

  • 1.新領域の拡大
    当社はこれまで心臓血管領域に特化して事業活動を行ってきましたが、市場環境の変化等に対応して中長期の成長を実現するために、新たに脳血管及び消化器領域に参入いたしました。これらの領域は今後の市場成長が期待でき、また、当社が心臓血管領域で得た知見や培ってきた技術を活かすことができます。成長ドライバーとして位置付けているこれらの新領域の事業計画を着実に達成していくことが中期の数値目標達成のために重要です。
    脳血管領域においては、2022年8月にWallaby Medical社と脳血管内治療デバイス11品目の日本国内における独占販売契約を締結しており、この中には新規性が高いデバイスも含まれています。これらを上市することで国内トップクラスの商品ラインナップとなりますので、着実に市場へ導入することで脳血管領域におけるプレゼンスを確立してまいります。
    消化器領域では、2017年に自社製品である大腸用ステントの発売以降、心臓血管領域で培ってきた高機能シャフト、ステント及び高周波焼灼等の技術を基に複数の製品を上市しており、当事業年度は新たに胆膵分野の製品の販売を開始しました。消化器領域では引き続き自社技術を活かした製品開発を行い、当社ブランドの浸透を図ってまいります。
  • 2.競争力のある製品の継続的導入
    当社を取り巻く事業環境は、2年ごとに実施される保険償還価格改定に伴う製品単価の継続的な下落や競合他社との競争の激化、特に当社のオンリーワン製品の競合品の発売により、より厳しい状況になることが見込まれます。このような状況に対し、当社が併せ持つ商社機能とメーカー機能のそれぞれの強みを活かすことで、競争力のある製品を導入するとともにプロダクト・ポートフォリオの強化に取り組んでまいります。
    商社としては、これまでに心臓血管領域において多くの最新の医療機器を国内に導入してきた実績があります。新規性の高い医療機器は、治療の低侵襲化や新たな治療方法の提供にも繋がり、患者様にとっても大きなベネフィットがありますので、引き続き新商品の探索に取り組み、国内の医療現場に迅速に導入してまいります。
    メーカーとしては、医療現場のニーズを的確に捉えた開発を行うことで、心腔内除細動カテーテルやオープンステントグラフトのようなオンリーワン製品を市場に導入してまいりました。また、後発品であってもスティーラブルシースのように、医療現場の声を反映し操作性を向上させたことで高い評価を得ている製品もあります。自社製品は仕入商品に比べて利益面の貢献度が高いことから、当社が優位性を持つ技術を活かして新製品の開発を行ってまいります。
  • 3.資本効率を意識した経営の強化
    当社は、商品の販売権確保や仕入先との関係強化のために取引先に対する投融資を行うとともに、自社製品の研究開発や生産能力強化のために工場や設備等に積極的に投資を行ってきました。これまで以上に投資対効果を重視しながら、今後も商品パイプラインの確保や自社製品の開発・製造等、将来的な成長に必要となる投資を積極的に行ってまいります。
    事業環境の変化への対応や業務プロセスの効率化を目的として基幹システムの刷新を進めるほか、デジタルマーケティングに取り組む等、事業基盤の強化・効率化にも努めております。
    このような成長投資を行ったうえで余剰となる資金については、過剰に内部留保を積み上げることなく、配当及び自己株式の取得を実施することで、中期経営計画の期間中において、総額250億円程度を株主の皆さまに還元できると見込んでおります。

②サステナビリティへの取り組み

  • 1.サステナビリティに関する戦略
    当社の経営理念には、医療機器を取り扱う企業として、患者様、医療従事者に優れた医療機器を提供するという経済的な価値だけでなく、健康社会の実現という社会的な価値も同時に追求していくことを通じて、企業価値の向上を目指すという思いが込められております。
    上記のとおり経済的価値と同時に社会的価値を追求するために、サステナビリティへの取り組みを重要な経営戦略上の課題として位置付け、代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会において「当社にとっての重要性」と「ステークホルダーにとっての重要性」の2つの視点で様々な社会課題を評価、優先順位付けし、7つのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。マテリアリティごとに分科会を設置し、患者様、医療関係者、従業員、取引先、地域社会、株主・投資家など、様々なステークホルダーの皆さまの期待に応えられるように具体的な取り組みを行っております。
  • 2.サステナビリティに関する指標や目標
    当社はマテリアリティを「事業を通じて解決する課題」と「事業基盤の強化として取り組む課題」の2つに分類して整理し、2030年に目指すありたい姿を明確にしました。そのありたい姿を実現するために中期目標(2025年3月期)を定めるとともに、より具体的な取り組みの進捗状況を管理するためにKPI(Key Performance Indicator)を設定しています。マテリアリティとKPIは下記のとおりです。

(マテリアリティとKPI一覧)

毎年のマテリアリティに関するKPIの進捗状況は当社ウェブサイトにて開示しておりますのでご確認ください。
https://www.jll.co.jp/sustainability/sustainability_management.html

連結計算書類