事業報告(2020年4月1日から2021年3月31日まで)

JALグループ(企業集団)の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当期は、新型コロナウイルス感染拡大により、世界および日本経済が大きな打撃を受けるとともに、航空業界も各国の厳しい出入国制限や検疫体制の強化、移動自粛の動きなどにより極めて厳しい状況に置かれました。

JALグループは、感染拡大の影響が長期化する中、清潔性・非接触性の強化による「安全・安心」の確保に努めつつ、日本国内および海外を結ぶ航空輸送ネットワークの維持に努めました。

収入の著しい減少に対し、貨物専用便を積極的に運航するなど収入確保に努めました。また、費用面においては、需要の減少に対し機動的に供給調整を行うことで運航費用など変動費を抑制するとともに、委託業務の内製化やITに関わる経費の抑制、役員報酬・社員賞与の減額による人件費の削減を含め、当初想定対比で約1,350億円の固定費の削減を実施し、業績への影響を緩和することに努めました。

一方で、運航に直接携わる業務量が減少する中、社員教育の充実のほか、グループ外の企業や自治体などへ1日あたり1千人規模での出向・派遣を行うなど、人財の活用にも積極的に取り組みました。なお、2021年度および2022年度入社の新卒採用については、一部の職種を除き、中止しました。

さらに、着陸料や航空機燃料税などの公租公課の支払い猶予といった航空業界への支援策や、雇用調整助成金制度の特例措置拡充など、日本政府による公的なご支援も活用しつつ、この未曽有の危機への対応に全力を尽くしました。

これらの取り組みの結果、当期のJALグループの連結決算は、以下のとおりとなりました。

財務面においては、これまで培ってきた強固な財務体質を活かした資金調達を実施し、当期において2,623億円の借入れを実施すると同時に、既存契約を含め3,000億円の未使用のコミットメントライン契約を締結し、十分な手元流動性の確保に努めました。加えて、新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けた財務体質をいち早く改善し、事態収束後において速やかに成長戦略を遂行すべく、11月に公募増資を実施し、1,829億円の資本増強を行いました。その結果、当期末においても、自己資本比率は45.0%、D/Eレシオは0.5倍と、航空業界においては世界最高レベルの強固な財務基盤を維持しました。

しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大が顕在化して以降1年が経ち今もなお先を見通すことが難しい状況下においては、手元流動性の確保を最優先とすることが最善であると判断し、当期の配当については見送らせていただくことといたしました。株主の皆さまには、誠に申し訳なく存じますが、JALグループが現在置かれている状況に鑑み、何卒ご理解をお願い申し上げます。

部門別の状況

国際線旅客

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ご参考

上記は国際線フルサービスキャリアの輸送実績です。
有効座席キロ:旅客輸送力の規模を表す単位。座席数×飛行距離(キロ)
有償旅客キロ:有償旅客輸送量を表す単位。有償旅客数(人)×飛行距離(キロ)
有償座席利用率(L/F):有償旅客キロ÷有効座席キロ(Load Factor)

国際旅客需要については、感染再拡大および変異株の感染が報告されて以降、日本を含む各国において出入国制限や検疫体制が強化された結果、年度を通じて国境をまたぐ移動需要がほぼ消失しました。

路線運営面では、需要の急激な減少に対し、大幅な運休・減便を実施して運航費用など変動費の抑制に努めました。一方で、堅調な航空貨物需要と合わせて採算が確保できる都市への定期便を再開するとともに、帰国者や海外拠点への赴任者、アジア発北米行きの通過需要などの移動ニーズにお応えすべく、国際航空ネットワークを維持しました。また、事態収束後を見据え、7 月にはマレーシア航空との共同事業を開始しました。

商品サービス面では、機内消毒の実施や機内食の提供方法の変更など、徹底した感染防止策を講じるとともに、海外渡航先で新型コロナウイルス感染症の陽性判定を受けた際に補償やサポートを受けられる「JALコロナカバー」を開始するなど、安心して海外に渡航いただけるよう取り組みました。また、JALマイレージバンクの会員ステータスを維持延長するとともに、有効期限を迎えるマイルをeJALポイントに変換し有効期間の延長を行うなど、ご旅行をとりやめざるをえなかったお客さまの声にお応えしました。

新たな需要の創出に向けては、ZIPAIRが、旅客便として10月の成田=ソウル線の開設を皮切りに、成田=バンコク、成田=ホノルル線の運航を開始しました。ZIPAIRでは、「ZIP Full-Flat」と「Standard」の2種類の座席を設定したほか、機内食や手荷物お預けなどのアンシラリーサービス※により、お客さまの多様なニーズにお応えしました。また、無料Wi-Fiサービスや、ローコストキャリア(LCC)初となる非接触で機内食や機内販売をご利用いただける機内セルフオーダーシステムの導入など、ストレスフリーな渡航の実現に努めました。

※座席の選択や機内食、手荷物の預け入れなどの付帯有料サービス

国内線旅客

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ご参考

有効座席キロ:旅客輸送力の規模を表す単位。座席数×飛行距離(キロ)
有償旅客キロ:有償旅客輸送量を表す単位。有償旅客数(人)×飛行距離(キロ)
有償座席利用率(L/F):有償旅客キロ÷有効座席キロ(Load Factor)

国内旅客需要については、4月の緊急事態宣言の発出により、第1四半期には需要が大幅に落ち込みましたが、同宣言の解除およびGo To トラベル事業の開始により、第3四半期には一時的に観光需要が急回復しました。しかしながら、新型コロナウイルスの感染再拡大により、12月にGo To トラベル事業が中止され、1月に再度緊急事態宣言が発出されると、第4四半期には再び需要が低迷するなど、不安定な状況が続きました。

路線運営面では、需要の急激な減少に対し、機動的に供給を調整して運航費用など変動費の抑制に努めるとともに、需要の回復局面においては、機材の大型化や臨時便の運航などにより需要の着実な取り込みを図りました。また、離島路線など社会インフラとして必要不可欠な航空路線の運航を継続することで、国内航空ネットワークの維持にも努めました。2月の福島県沖地震の際には、東北地区の各空港を発着する臨時便を運航し、遮断された地上交通機関の代替として、ヒト・モノの移動を支えました。

商品サービス面では、駐機中の機内消毒を実施するとともに、空港・機内の抗ウイルス・抗菌コーティングを実施し、衛生的で清潔な環境の維持向上に取り組みました。空港での手続きにおいては、デジタル技術を活用した非接触・自動化を推進する「JAL SMART AIRPORT」の導入を進めました。さらに、特別価格でPCR検査が受けられる「JAL国内線 PCR検査サービス」を提供するなど、お客さまに安心して旅行や出張をしていただけるよう取り組みました。また、機材については、環境負荷が低く省燃費機材であるエアバスA350-900型機への更新を進めました。

需要喚起に向けては、ソーシャルディスタンスに配慮したツアー、周遊チャーターの運航、ワーケーションを活用したツアーを販売するなどの取り組みを行いました。

貨物

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ご参考

有償貨物トン・キロ:
有償貨物輸送量を表す単位。有償貨物(トン)×飛行距離(キロ)

貨物については、マスクを含む医療関連品、eコマース関連商品、半導体、電子機器などへの輸送需要が高まりました。また、夏以降は自動車関連需要が本格的に回復し、海上輸送から航空輸送へ需要が転移するなど、旅客便が減便する中、需給が逼迫する状況が続きました。

国際線貨物においては、旅客機を利用し、年間12,625便の貨物専用便を運航することで、医療関連品のみならず生活必需品などの輸送を継続し、お客さまのニーズに応えました。特に、期初においては、緊急度の高い医療用物資を少しでも多く輸送するため、マスクや防護服を客室へ搭載し、輸送量を最大化しました。

また、自社の旅客機を最大限に活用することに加えて、外国航空会社の貨物機を利用することにより、日本を経由しない三国間の大口の需要も含め、最大限の需要の取り込みに努めました。

さらに、今後本格化することが想定される新型コロナウイルスのワクチンの円滑な輸送を実現すべく、必要な体制の構築にも取り組みました。

以上の結果、年間の輸送量は減少したものの、需給環境の逼迫により、単価が上昇し、貨物収入は前期を大幅に上回りました。

国内線貨物においても、羽田=新千歳、羽田=福岡、羽田=沖縄線を中心に旅客機を利用し、年間2,674便の貨物専用便を運航したことに加え、機材の大型化を実施することで輸送量の減少を最小限に抑えました。このように安定的な貨物スペースの提供に努めた結果、貨物収入は前期を上回りました。

また、4月に運送状のペーパーレス化を日本で初めて実現するとともに、予約ポータルサイトを開設し、予約・運送面でお客さまの利便性向上に努めました。

その他事業

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航空旅客の急激な減少を受け、旅行領域においては収入が前期比で大幅に減少するとともに、エアライン周辺領域(整備・空港・貨物などの受託)においても、海外航空会社の運休・減便に伴い、収入が前期比で減少となりました。一方で、マイレージに関する領域においては、旅行と直接紐づかないマイル収入が堅調で収入が前期比で増加しました。以上の結果、その他の事業の収入は1,504 億円(前期比1,279 億円減)となりました。

このような中で、リスク耐性の高い事業構造を構築すべく、事業領域の拡大に向けて、新しい商品・サービスやビジネスを創造する取り組みを推進しました。

地域に関する領域においては、11月に地域事業本部を新設し、地域発の新規事業の創造への取り組みを強化しました。また、「JALオンライントリップ」WEBサイトを新設し、「JALデジタルフライト」と現地オンライントリップを組み合わせた商品を販売するほか、旅行先で仕事をする「ワーケーション」という新たな働き方を提案・サポートするなど、ニューノーマルに対応した新しい旅のカタチの提案に取り組みました。

マイレージに関する領域においては、健康志向の高まりとテレワーク拡大などによる運動不足が懸念されるなか、JALグループが持つ顧客基盤や路線ネットワークと、提携先が有するノウハウを組み合わせて、日常の健康と旅行前・旅行中のウェルネス活動をサポートする新たなマイレージサービス「JAL Wellness & Travel」を開始するなど、新たなサービスの創出に努めました。

エアモビリティ※に関する領域においては、今後ドローンなどの無人航空機の活用場面の増加が想定される中で、オペレーター人財の育成のため、JALグループのパイロット訓練ノウハウに基づく座学プログラムの提供を開始しました。また、事業化に向けさまざまな地域や企業と連携し、小型固定翼ドローンによる山間部への物資輸送実験や無人ヘリによる離島空港間での貨物輸送飛行実験などを実施しました。

※新たな移動・物資輸送サービス

主要な子会社の概況

子会社のうち、航空会社以外の上位2社の概況は以下のとおりです。

株式会社ジャルパックは、Go Toトラベル事業の活用などにより、国内旅行需要の拡大に努めましたが、海外旅行需要・訪日需要の減少を補完するには至らず、営業収益(連結消去前)は555億円(前期比1,145億円減)となりました。

株式会社ジャルカードも、新規入会者数が減少し、会員数は前期比3.8%減の358万人となりました。旅行に伴う消費が落ち込む中、キャンペーンなどを通じてご利用の促進に努め、営業収益(連結消去前)は186億円(前期比9億円減)となりました。

対処すべき課題

新型コロナウイルス感染症は、航空を含む多くの業界に甚大な影響を与え、社会・経済の前提を覆す未曾有の変化をもたらしました。一方で、SDGsをはじめ社会全体で持続可能性(サステナビリティ)を追求し、真の豊かさ、幸福を実現しようとする機運が高まっています。

JALグループは、足許のコロナ禍を乗り越えるとともに、今後のあるべき姿の方向性を示すJAL Vision 2030」の実現に向けて、新たに「2021-2025年度 中期経営計画」を策定し、2021年5月7日に発表いたしました。

(1)JAL Vision 2030: 2030年に向けたJALグループのあるべき姿

大きく時代が動き価値観が変わるなか、「安全・安心」と「サステナビリティ」を未来への成長のエンジンとして、以下を実現します。

(2)経営戦略の骨子

本中期期間においては、喫緊の課題である財務基盤の再構築を前提に、事業構造改革を進めるとともに、事業活動を通じて持続可能な社会の実現に向けた取組みを加速し、早期に利益水準を回復のうえ再び成長を実現します。

事業戦略

今後のリスクに耐えうる持続可能な事業構造を構築します。

財務戦略

リスク耐性強化と資本効率を両立し、経営資源を戦略的に配分します。

ESG戦略

事業活動を通じて持続可能な社会の実現を目指します。

(3)中期経営計画の経営目標

JAL Vision 2030に向けて、FY2025までに以下の経営目標を達成するべく、たゆまぬ努力を重ねて参ります。

連結計算書類