事業報告(2021年4月1日から2022年3月31日まで)

JALグループ(企業集団)の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当期は、新型コロナウイルス感染拡大の長期化により、航空業界は引き続き厳しい状況におかれました。JALグループは、「安全・安心」の確保を最優先としながら、国際線・国内線ネットワークを維持してまいりました。

旅客需要の回復に時間を要する中、徹底的なコスト削減のため、機動的な供給調整による変動費の抑制に加え、委託業務の内製化、役員報酬の減額・社員の賞与減など、あらゆる固定費の削減に努めました。また、人財を有効活用すべく、グループ外企業や自治体等への1日あたり1,600人規模の出向・派遣とともに、教育訓練の充実を図りました。増収に向けては、旺盛な貨物需要の獲得、マイレージ・ライフスタイル事業など非航空分野での展開、さらには社員の発案による機内食の通信販売や周遊フライトの運航、JALふるさとアンバサダー考案のツアー販売などに努めました。加えて、公租公課の減免など航空業界を対象とした支援策をはじめ公的な制度によるご支援も活用しつつ、早期回復に全力で取り組みました。

以上の結果、当期のJALグループの連結決算は、以下のとおりとなりました。

なお、経営目標のうち、「航空事故・重大インシデント 0件」については未達となりました。引き続き、2025年度に向けて「安全・安心」「財務」「サステナビリティ」に関する経営目標の達成に取り組んでまいります。

財務面では、必要な手元流動性の確保、財務体質の強化と投資資金の前広な確保のため、3,500億円のハイブリッド・ファイナンスを含む総額4,419億円の負債での資金調達を実施しました。また、3,000億円の未使用のコミットメントラインも確保しております。

当期は旅客需要の回復が遅れ、2期連続の大幅な損失を計上することとなりました。加えて、地政学リスクの顕在化や原油市況の高騰といった直近の経営環境をふまえ、手元流動性の確保と財務体質の強化を最優先することが最善であると判断し、当期の配当は見送らせていただくことといたしました。株主の皆さまには、誠に申し訳なく存じますが、何卒ご理解をお願い申し上げます。

各部門の状況

フルサービスキャリア国際旅客

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ご参考

有効座席キロ:旅客輸送力の規模を表す単位。座席数X飛行距離(キロ)
有償旅客キロ:有償旅客輸送量を表す単位。有償旅客数(人)X飛行距離(キロ)
有償座席利用率(L/F):有償旅客キロ÷有効座席キロ(Load Factor)

国際旅客は、各国での入国制限緩和により、日本を経由するアジア・北米間の需要などが徐々に回復に向かいました。日本発着需要は、厳格な入国規制の継続により、帰国者や海外拠点への赴任者に限られていましたが、3月以降は制限の緩和により、緩やかな回復基調に転じました。

事業運営面では、国際線機材数を、大型機を中心に前々期(2019年度)に比べ約2割削減し、固定費削減を進めました。一方、移動ニーズにお応えすべく、貨物需要と合わせて採算が確保できる路線を段階的に再開し、運航規模の回復に努めました。3月にはロシア・ウクライナ情勢の影響を受けた欧州便について、一部路線の航路を変更して運航を継続し、日本=欧州間のネットワークを維持しました。

商品サービス面では、感染防止の取り組みのほか、顔認証による搭乗手続きの本格運用や検疫書類を事前登録できるアプリ「VeriFLY」の導入など、スムーズかつ安全・安心なサービスに努めました。SKYTRAX社「ワールド・エアライン・アワード2021」において、世界で最も優れたエコノミークラスサービスとして「ワールド・ベスト・エコノミークラス」 を2期連続で受賞、また「ベスト・エコノミークラス・エアラインシート」を4期連続(5回目)で受賞しました。

フルサービスキャリア国内旅客

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国内旅客は、期初から緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置の適用で需要が低迷しましたが、緊急事態宣言などが全国的に解除されて以降、ワクチン接種の進展もあり、第3四半期にはコロナ禍前の前々期比で約6割まで需要が回復しました。第4四半期にはオミクロン株の感染が急拡大し、まん延防止等重点措置が適用され、需要が大きく落ち込みましたが、3月には再び回復局面となりました。

事業運営面では、社会インフラとして不可欠な路線の運航を維持しつつ、需要に応じた機動的な供給調整で、変動費を抑制しました。3月の福島県沖を震源とする地震の際は、翌日から東北各空港との臨時便の運航や機材の大型化により、地上交通の代替手段を提供しました。

また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会期間中は、選手団の国内移動を担うとともに、金色の鶴丸の特別塗装機を就航させ明るい未来への希望の想いを日本中に届けました。

商品サービス面では、環境にやさしい最新鋭機エアバスA350-900型機を当期末で15機まで導入を進め、快適性向上やCO2削減への対応を加速しました。また、北海道エアシステムではATR42-600型機への更新を完了しました。さらに、スピーディかつ非接触でお手続き可能な「JAL SMART AIRPORT」の主要5空港への展開を完了したほか、ご希望便に空席があれば所定のマイルでご予約いただける「いつでも特典航空券」を導入し、利便性向上を図りました。

貨物郵便

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ご参考

棒グラフ: (左側)国際貨物郵便収入、(右側)国内貨物郵便収入
有償貨物および郵便 トン・キロ:
有償貨物および郵便の輸送量を表す単位。
有償貨物 郵便重量(トン)X飛行距離(キロ)

貨物郵便は、輸送品質の高度化・高速化が求められる中、社会生活に密着したeコマース・宅配、ヘルスケア、食品などを戦略品目と位置付け、需要の取り込みを強化しました。特に、新型コロナウイルスのワクチン輸送においては、JALグループの定期便が就航していない空港への輸送も担い、社会の要請に応えました。

国際貨物では、海上輸送の混乱により、主要品目である半導体や自動車関連の需要だけでなく、食品の緊急出荷などの強い需要が継続しました。自社旅客機での貨物専用便を年間14,116便(前期12,625便)運航するとともに、外国航空会社の貨物専用機を用いて定期的に運航することなどで機動的に対応し、収入の極大化を図りました。以上の結果、輸送量の増加とともに、需給の逼迫により単価も上昇し、収入は前期を大幅に上回りました。

国内貨物では、旅客便の供給調整を行う中、輸送量を補うべく、羽田と新千歳・福岡・那覇を結ぶ路線を中心に、自社旅客機での貨物専用便を年間1,564便(前期2,674便)運航したことに加え、需要の強い時間帯では大型機を運航することで需要の取り込みに努めました。以上の結果、前期並みの収入を確保しました。

さらに、持続的な物流ネットワークの構築に向けて、ヤマトホールディングス株式会社と首都圏から北海道・九州・沖縄地域への長距離輸送のため貨物専用機を運航することで合意し、2024年4月からの開始に向けて準備を進めました。

LCC

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ご参考

LCC:Low Cost Carrier(ローコストキャリア)
上記は、ZIPAIR Tokyo(以下、ZIPAIR)の年度実績と、スプリング・ジャパンの7月以降の実績を含み、ジェットスター・ジャパンの実績を含みません。

LCCは、成田を拠点としたLCC戦略の本格始動の年として、ポストコロナを見据えて各社の事業基盤を強化しました。また、需要に応じた機動的な供給調整により変動費を抑制し、収支の改善に努めました。

ZIPAIRは、機材(ボーイング787型機)を2機から4機に拡充し、9月に成田=シンガポール線、12月にはLCCとして世界初の太平洋横断路線である成田=ロサンゼルス線を開設し、日本初の中長距離国際線LCCとして着実にネットワークを拡大しました。また、好調な需要に対応した貨物臨時便を展開するなど臨機応変な対応で、収支の最大化に努めました。

スプリング・ジャパン(旧春秋航空日本株式会社)は、以前より当社が包括的に整備を受託するなど安全・品質向上へのサポートを行ってきましたが、6月末に連結子会社とし、11月に現在の社名に変更しブランドロゴを刷新しました。また、JALグループの強みを活かした、効率化や品質の向上を進めました。

ジェットスター・ジャパン(※)は、機数・路線を見直すとともに、回復基調の需要の獲得に努め、年末年始期間は国内線を運航する主要な航空会社の中で最高の搭乗率(87.4%)を記録しました。

(※)持分法適用関連会社

マイル・ライフ・インフラ等

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マイル・ライフ・インフラ等は、コロナ禍による「航空需要の構造変化」「消費者行動の変化」といったマーケット変化をふまえ、今後のリスクに耐えうる持続可能な事業構造への改革として、成長する分野への展開に取り組みました。

マイレージ・ライフスタイル事業

顧客基盤を活用した事業領域の拡大と、日常・ライフステージでの新たな価値提供に取り組みました。

  • JALマイレージバンク会員向けに、7月に「JAL住宅ローン」を開始、2月に電力販売サービス「JALでんき」を発表(2022年4月開始)。
  • 非航空領域の中核会社となる株式会社JALUXの連結子会社化(3月)。

次世代エアモビリティ事業

航空安全技術と運航管理の知見を活かしつつ、地域課題を解決しシームレスな輸送を実現すべく、事業開発に取り組みました。

  • ドローン:運航管理体制や、医薬品などの輸送サービスの確立を目指し、兵庫県洲本市や東京都にて実証実験を実施。
  • 空飛ぶクルマ:空港を起点とした移動や観光、災害時の活用を想定し、2025年の大阪・関西万博での実装に向け、自治体との実証実験や調査を実施。

地域事業

日本の地域経済の持続的な発展に取り組む「JALふるさとプロジェクト」にて、販路・流通支援に取り組みました。

  • 中国最大のSNS「WeChat」内に越境ECミニプログラムを開設。全国の名産品販売とあわせ、地域の魅力・観光情報を発信する越境ECを実現。

受託事業(空港/整備/貨物)

コロナ禍での国際的な人の往来において重要な役割を担う空港での検疫について、業務受託を通じて広範な協力を行いました。ポストコロナのインバウンド需要の回復を見据え、応需体制の整備を進めました。

対処すべき課題

昨年5月の「JAL Vision 2030」及び「2021-2025年度 JALグループ 中期経営計画」の発表後も、新型コロナウイルス影響の長期化に加えて、欧州を中心に世界情勢は混迷を深め、経営環境の不透明さが増す状況となりました。

こうしたなか、JALグループはレジリエンスを高めて足許の困難な状況を乗り越え、サステナブルな成長・発展へと着実に進んでいくために、「中期経営計画ローリングプラン2022」を策定しました。

ESG戦略を経営戦略の軸に据え、事業活動を通じた社会課題の解決と事業構造改革を加速し、財務体質の再構築を進めることで、経営目標の達成を目指します。

JALグループが対処すべき課題については、このローリングプラン2022の中で、目標達成の時間軸に従い以下のとおり課題を整理し、取り組みを推進していくこととしています。

(1)長期レンジの課題

①ESG戦略の推進による企業価値の向上(〜2030年)

ESG戦略を2030年に向けた成長戦略と位置付け、JAL Vision 2030の実現に向けて、事業を通じて社会課題を解決することでサステナブルな人流・商流・物流を創出し、JALグループの社会的価値・経済的価値を高め、企業価値の向上を実現します

②「CO2排出量実質ゼロ」に向けた取り組みの推進(〜2050年)

ESG戦略の中で中核となる2050年のCO2排出量実質ゼロについては、省燃費機材への更新、運航の工夫、SAFの活用の3点を柱として、着実に取り組みを推進します。2030年には、全燃料搭載量の10%をSAFに置き換える計画とし、SAF供給元の多様化により、安定的かつ適正な価格での調達を実現します。

(2)中期レンジの課題(〜2025年)

①事業構造改革の加速

JALグループは、事業構造改革を加速し、環境変化に対して高いレジリエンスを備えた事業構造を構築します。

フルサービスキャリア事業領域の収益性改善、ZIPAIR、スプリング・ジャパン、ジェットスター・ジャパンによるLCC事業領域の規模倍増、フレイター事業も加えた貨物・郵便事業領域の拡大、顧客基盤やヒューマンスキルを活かした非航空領域(マイル・ライフ・インフラ)での新たな事業展開を推進します。このため、グループ経営を推進し、事業領域を越えた組織横断的な連携をこれまで以上に強化することにより、グループ全体の収益性の最大化を図ります。

②財務基盤の再構築

「リスク耐性強化」と「資本効率」の両立を目指し、経営資源を戦略的に配分し、財務基盤の再構築を着実に進めます。そして、2022年度末までに復配、2025年度末までを目途に純有利子負債ゼロを目指します。投資戦略については、ESG戦略を確実に推進・加速するため、全ての投資をESGに基づいたものと位置付けるとともに、資金調達手段としてESGファイナンスを積極的に活用します。

以上の取り組みを通じて「JAL Vision 2030」を実現し、多くの人々やさまざまな物が自由に行き交う、心はずむ社会・未来において「世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループ」を目指します。

連結計算書類