事業報告(2022年4月1日~2023年3月31日)

JALグループ(企業集団)の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

JALグループはコロナ禍においても、社員の雇用を維持し安全運航のための知識・技量の向上に努め、国内線の主力航空機を省燃費性能の高い最新鋭のエアバスA350型機へ更新を進めるなど、反転攻勢に向けた体制の整備を進めてきました。

当期は、新型コロナウイルス感染拡大防止と社会経済活動の両立に向けた動きが浸透し、国内外における航空旅客需要が着実に回復に向かいました。

国際旅客事業は、入国規制の緩和が進む中、日本経由の通過需要を取り込むべく乗り継ぎ利便性の高いダイヤを設定したことや、各国の水際規制の変化に応じた機動的な供給調整などを柔軟に実施し、第4四半期の旅客数はコロナ禍前の2019年度比で約6割まで回復しました。国内旅客事業は、観光を中心に着実に需要が回復する中、臨時便の設定や航空機材の大型化を行うなど万全な供給体制を整え、高需要期の旅客数は2019年度比で約9割まで回復しました。貨物事業は、自社旅客機を利用した貨物便や他社貨物専用機を積極的に活用し、売上最大化に努めました。

費用については、燃油市況が高騰し、為替が変動する中、部門別採算制度を活用した規律あるコストマネジメントを通じて実質固定費の抑制を図るなど、収支改善に向けて全社員が全力を尽くしました。

以上の結果、当期のJALグループの連結決算は、次のとおりとなりました。

ESGの推進にあたっては、航空会社として本邦初となる資金使途特定型トランジション・リンク・ローンにより、省燃費機材への更新資金を調達したほか、SAF(持続可能な航空燃料)の調達先を拡大するなどCO2削減をはじめ、様々な取り組みを実施しました。さらに、ESGに関する情報開示やパフォーマンスが評価され、12月にはESG投資の代表的指数「DJSI Asia Pacific Index」の構成銘柄に初めて選定されるなど、外部から高い評価をいただきました。

(注) 以降、当期(2022年度)の事象の年月表記については、年を省略し月のみの記載とします。

各部門の状況

フルサービスキャリア(国際)

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回復するインバウンドに加え、通過需要を取り込み

国際旅客需要は、日本への入国制限数の上限が撤廃されたことに加え、観光目的の短期滞在ビザ取得免除などの大幅な規制緩和が進み、下期から訪日観光客が増加したことにより、通期の需要は2019年度比で6割まで回復しました。

事業運営では、需要回復スピードの早い日本経由のアジア=北米間の通過需要を取り込むべく成田空港での乗り継ぎ利便性の高い運航ダイヤを設定したことや、各国の水際規制の変化に応じた機動的な供給調整など、環境の変化へ柔軟に対応しました。

商品サービスでは、回復局面に対応するため、3月に羽田空港サクララウンジを拡張しました。また、SKYTRAX(*1)「5スター」の6年連続認定、本邦唯一のAPEX(*2)「WORLD CLASS」の2年連続受賞など世界最高の品質として高い評価を受けました。

  • (*1)英国を拠点とする航空会社の格付け会社
  • (*2)APEX:
    お客さまの搭乗体験向上のために航空会社や航空関連メーカー、旅行関連企業などで構成する米国を拠点とする非営利団体

フルサービスキャリア(国内)

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万全な供給体制で、回復する観光需要を取り込み

国内旅客需要は、政府の需要喚起策「全国旅行支援」が実施されたことなどもあり、観光を中心に着実に回復しました。当社は、臨時便の設定や航空機材の大型化を行うなど万全な供給体制を整え、ゴールデンウイークや年末年始、春休みには2019年度比で旅客数が約9割まで回復し、通期の需要は84%まで回復しました。

事業運営では、JALグループ各社のリソースを活用して離島や生活路線を含めた路線ネットワークを維持し、年間を通してほぼコロナ禍前の運航規模となりました。10月からは地域活性化を目指し、九州の地域航空会社3社(日本エアコミューター[JAC]、天草エアライン、オリエンタルエアブリッジ)と大手2社で設立したEAS LLP(*)の枠組みで九州の一部の離島路線について大手系列を超えたコードシェアを開始しました。

(*)地域航空サービスアライアンス有限責任事業組合

貨物郵便

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積極的な供給による需要の獲得、新たなビジネスへの準備加速

国際貨物

海上輸送の混乱の落ち着きにより航空貨物総需要が減少に転じる中、自社旅客機での貨物専用便や外国航空会社の貨物専用機を積極的に活用し、物量確保と収入最大化に努め、収入は好調であった前年を上回る結果となりました。また、成田空港に医薬専用定温庫「JAL MEDI PORT」を設置し、高品質なハンドリングと保管サービスの提供を開始しました。さらに、成田空港近辺にて地域市場と空輸の連携による生鮮貨物の高速・高鮮度輸送を開始しました。

国内貨物

旅客便の復便に伴い供給量が回復する中、柔軟な単価施策により需要を取り込み、収入の最大化に努めました。また、2024年以降に懸念される陸上の輸送力確保の課題解決に向け、ヤマトホールディングス株式会社との2024年4月からの貨物専用機の運航について、路線や便数を決定するなど、準備を進めました。

LCC

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成田空港をハブとしたネットワーク構築を推進

ZIPAIR

海外においてもお客さまの認知度が高まり利用率が向上したことなどにより、黒字化を達成し、中長距離国際線LCCビジネスモデルを確立しました。また、ボーイング787型機を5機に拡充し、12月に成田=サンノゼ線を新規に開設するなど、着実にネットワークを拡大しました。

スプリング・ジャパン

厳しい入国規制により中国の需要回復が遅れ、一時的に日本国内線の運航便数を増やすなど収支改善に努めました。

ジェットスター・ジャパン(持分法適用関連会社)

回復する国内線需要の取り込みにより旅客数を着実に伸ばすほか、国際線では成田=マニラ線、成田=台北線、名古屋=マニラ線を順次再開し、インバウンド需要の取り込みに努めました。

マイル・ライフ・インフラ

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新たな人流・商流・物流の創造

日常の生活シーンでのマイル関連サービスの創造

「マイルとともに、毎日の暮らしと人生をもっと豊かに」をスローガンとする「JALマイルライフ構想」の下、楽天ポイントとの相互交換、新たな決済サービス「JAL Pay」など、さまざまな生活シーンでのサービスを開始しました。

非航空領域の中核会社JALUXとのシナジーによる商品開発

2021年度末に連結子会社化したJALUXの商品企画ノウハウ、JALブランドのシナジーを発揮し、クラスJ座席の皮革を再利用したグッズの販売や、空輸により全国の旬の食材を新鮮なままお届けする取り組みなど、新商品を開発しました。

ソリューション営業体制の構築

10月に株式会社ジャルセールスの吸収合併を決定しました。JALグループのアセットを活用し、地域活性化など自治体・企業などのお客さまの課題解決を図るソリューション営業体制への転換を進めました。

対処すべき課題

「2021-2025年度JALグループ中期経営計画」の2年目となる2022年度は、通期の黒字化を実現した一方で、不安定な世界情勢、物価上昇、業界横断的な人財不足等、社会全体に共通する新たな課題に直面しています。

こうした経営環境の変化を踏まえて、「回復・安定」から「成長」に転換すべく、「中期経営計画ローリングプラン2023(以下、ローリングプラン)」を策定いたしました。

「人やモノの移動」から生まれる「社会的なつながり」は、誰もが豊かさと希望を感じられるWell-beingな社会に欠かすことができないものです。経営戦略の軸であるESG戦略により、サステナブルな人流・商流・物流を創出し、「移動」と「つながり」のチカラで社会課題を解決し、中長期的な成長を実現いたします。また、事業戦略・財務戦略により、売上・利益・財務をコロナ禍前の水準に早期に回復いたします。

JALグループが対処すべき課題については、ローリングプランの中で以下の戦略により取り組みを推進していくこととしています。

(1) ESG戦略(長期事業戦略):価値創造・成長を実現する最上位の戦略

環境にやさしい「移動・つながり」による地域活性化や幸福度向上といった社会的価値の創出に加え、サステナブルな人流・商流・物流と関係人口拡大により「関係性・つながり」を創造することで、お客さま、社員、自社における経済的価値を創出し、企業価値向上を実現します。

(2)事業戦略:ESG戦略を推進するための戦略

【事業構造改革】

ESG戦略の推進により事業ポートフォリオを再構築し、利益を拡大します。

フルサービスキャリアは、省燃費機材を導入し環境負荷を抑えながら、ネットワークを維持・拡大し、関係人口を創出します。

貨物郵便においては、航空の利点を生かして物流業界の課題を解決し、持続的な物流ネットワークを実現します。

LCCにおいては、マーケットに応じた機動的な事業展開により、新たな人流を創出します。

マイル・ライフ・インフラでは、多様な商品・サービスの展開により、人や地域を繋ぐビジネスを創造します。

【DX戦略】

JALグループ全事業におけるデジタル活用を加速し、お客さまに安全・安心な移動と新たな体験を提供します。「一人一人にあったサービスを」「いつでもどこでもストレスフリー」「新たなモビリティでつながる」「より安全・安心な旅を」の4つの取り組みを進めます。

【人財戦略(人的資本経営)】

人的資本経営を推進し、多様な価値観を尊重し、新たな価値創造に挑戦し変革を起こす人財を育成・採用します。

【GX戦略】

2050年までのカーボンニュートラル実現に向けて対応を加速します。CORSIA(*)ベースラインの見直しに伴い、自社排出量の削減に加えて排出権取引も活用します。また、GX推進投資判断におけるICP(Internal Carbon Pricing)導入や合成燃料、CO2回収等の新技術を有するパートナーとの連携を促進するなど、多様な手法で対応を加速します。

(*)CORSIA = 国際線において、2019年のCO2排出量実績に対する超過分に対し、排出権の購入などを義務付ける制度。

(3)財務戦略:ESG戦略を支える戦略

「リスク耐性強化」と「成長」の両立を目指し、経営資源の戦略的配分で持続的な成長を加速します。

2025年度末の「自己資本比率50%程度(格付評価上)」、「信用格付Aフラット取得」を目指して、財務基盤を再構築し、資金調達能力の維持・向上を図ります。また、資本コストを意識し、2025年度における「ROIC9%」、「ROE10%以上」の達成を目指して、資本効率の向上に努めます。

経営資源配分では、人財投資を含めたESG投資を積極的に進めるとともに、業績の回復に伴い株主還元を徐々に拡大します。

【経営資源配分のイメージ】

以上の取り組みを通じて「JAL Vision 2030」を実現し、多くの人々やさまざまな物が自由に行き交う、心はずむ社会・未来を実現すべく、全社員一丸となって進んでまいります。

連結計算書類