事業報告(2024年10月1日から2025年9月30日まで)

企業集団の現況に関する事項

当連結会計年度の事業の状況

事業の経過及びその成果

当連結会計年度(2024年10月1日~2025年9月30日)は「中期経営計画2026」(「中計2026」)の2年目にあたり、中計2026期間全体の折り返し地点となります。「中計2026」では、当社グループの経営理念のもと、財務、非財務、社会の3価値の拡大とともに、DX事業の成長による規模拡大と基幹事業の質の改革による収益性向上、次世代事業の育成・拡大による事業ポートフォリオ転換の加速などを目指しております。

具体的には、公共向けとして行政DXの推進、民間向けにDXコンサルティングとクラウド移行を組み合わせた支援やビッグデータ分析を採り入れたデジタルマーケティング、金融向けに事業領域や顧客層拡大などを積極的に展開しています。

当連結会計年度においては、「中計2026」初年度(前連結会計年度)に明らかになった課題を踏まえ、シンクタンク・コンサルティングサービスセグメント(TTC)における人材増強と生産性向上、新事業等の選択と集中を進めていることに加え、ITサービスセグメント(ITS)では、主力事業の強化・利益率の改善を図りつつ、戦略的な人材活用を強化してきました。

当連結会計年度第2四半期(中間期)決算においては、TTCの受注遅れやITSにおける不採算案件に伴う費用増により減益となりましたが、第3四半期以降、TTC及びITSいずれも好調な受注を背景に売上が伸長しました。TTCでは高い稼働を維持するとともに、人員の再配置や経費抑制等の効果が発現し、ITSにおいては、不採算案件の収束や退職給付に係る一過性のプラス影響もあり、利益率が改善しました。

このような結果、当社グループの当連結会計年度における業績は、売上高は121,458百万円(前年度比5.3%増)、営業利益は8,010百万円(同13.5%増)、経常利益は9,734百万円(同19.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は6,386百万円(同27.6%増)となりました。

セグメント別の業績

セグメント別の業績は次のとおりであります。

シンクタンク・コンサルティングサービス

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主要な事業内容

政策や一般事業に関する調査研究及びコンサルティング

当連結会計年度は、前期の複数の大型案件終了の影響があったものの、官公庁のICT関連(サイバーセキュリティ、ヘルスケア分野のDX等)や、エネルギー・運輸・IT関連の民間企業向けのシステム、事業戦略支援関連業務等が貢献し、売上高(外部売上高)は47,090百万円(前年度比3.7%増)、経常利益は、増収影響に加え、持分法による投資利益(営業外収益)が寄与し、5,715百万円(同34.9%増)となりました。

ITサービス

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主要な事業内容

ソフトウェア開発・運用・保守、情報処理・アウトソーシングサービス

当連結会計年度は、公共向けシステム案件や金融・カード分野の決済領域案件の伸長等により、売上高(外部売上高)は74,367百万円(前年度比6.3%増)となりました。コスト増加要因として上期に発生した不採算案件影響や三菱総研DCS株式会社の本社移転関連費用の計上がありましたが、増収影響に加え、退職給付債務の算定に用いる割引率の見直し等による数理計算上の差異が増益に寄与した結果、経常利益は4,037百万円(同3.3%増)となりました。

対処すべき課題

(1) 事業戦略の再構築

「中計2026」の事業及び目標の一部見直し(*)を踏まえ、事業戦略の再構築を急ぎます。まず、2026年9月期中はTTCにおける調査・コンサルティング事業の再強化、ITSにおける金融分野を中心とした事業を推進しつつ、2027年9月期に開始する「次期中計」を策定し、中長期的な成長戦略を練り上げてまいります。

また、将来を担う事業を育成し、事業ポートフォリオの転換を急ぐことも重要な課題と捉えています。具体的には人的リソースを過度に制約としないサービス提供型の事業規模の拡大・収益化を含め、多様なパートナーとの連携(出資等を含む)や、PROSRVやmiraicompassなどの既存有力サービスに続く新サービスの開発、海外事業の展開など様々な手段により事業拡大に取り組んでまいります。

(*)
詳細は後記の「中期経営計画」をご参照ください。
(2) 人的資本経営の強化

人材は、当社グループの競争力や成長の源泉となる重要な資産です。成長シナリオを実現するため、当社グループ全体の事業戦略の視点から必要な人材を確保し、最適な人材ポートフォリオの実現を目指します。人材ギャップ解消のための採用・育成戦略を立案するとともに、処遇改善や成長領域に対応した人材の重点的な強化を行います。

人材育成に当たっては、社員個々の志向に応じた育成・成長を支援する当社独自の「FLAPサイクル(*)」を導入しています。

2026年9月期初から、TTCでは、社会課題解決を志向する社員が中長期的なキャリア形成を実現できる制度設計とした人事制度改定を実施しています。その中では、年功的要素を撤廃し、役割やポストをこれまで以上に柔軟に設定可能なものとしました。複線型のキャリアパスを可能とする「連峰制」をさらに進め、異なる専門性で高位ポストに昇任できる仕組みとなっております。また、定年後の再雇用者(シニア・エキスパート)の活躍を期待して処遇の改善を図りました。従業員とのエンゲージメントをさらに深めながら、改定後の制度を円滑に運用し、実効性を高めてまいります。

また、人員規模の増大、人材の多様化に応じた、計画的かつ継続的な育成・キャリア形成支援研修の重要性の高まりから、TTCには「MRIアカデミー」、ITSでは「デジタルアカデミー」を設置し、経営理念を具現化する人材を輩出するための教育施策を実施しています。引き続き、働き方改革を推進して健康経営、社員活躍推進、ダイバーシティ向上、従業員のエンゲージメントを強化・向上させていきます。人材が当社グループ最大かつ最重要の資産との考え方にもとづき、優秀な人材が存分に能力を発揮・活躍できる一層魅力的な環境を備えた企業グループとして持続的成長を目指します。

あわせて、生産性向上や価格転嫁等にも継続して努めるとともに、品質の維持・向上への不断の取り組みによって顧客価値の増大も実現してまいります。

(*)
FLAPサイクル:自らの適性や業務に必要な要件を知り(Find)、スキルアップに必要な知識を学び(Learn)、目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)という一連のサイクルのこと。個々の能力・適性・志向性を踏まえたオーダーメイドのキャリア形成を支援する仕組みを指す。
(3) 研究・提言活動強化・積極的な生成AI活用

研究・提言活動は、当社グループにおける価値連鎖の起点であり、さらなる強化が必要と認識しています。研究・提言を通じて未来社会像の実現に向けた社会潮流を形成し、当社グループ全体の社会価値を高めます。具体的には、時機を捉えた自律的な取り組みと科学的知見(エビデンス)に基づく提言を実践し、官公庁の主要施策や企業の戦略立案に貢献していきます。

生成AIの登場や飛躍的発展・普及は、多くの産業・職業に影響を及ぼすとされていますが、当社業務も例外ではなく、事業モデルの根本的な転換、想定外の業界からの競合の登場などによる競争優位性の喪失など、様々な将来的リスクが考えられます。こうしたリスクをむしろ事業機会として活かすため、当社グループでは、案件の企画・提案から業務遂行、プロジェクト管理などの様々な場面で積極的に生成AIの活用を進めています。こうした取り組みを通じて、当社グループ全体の生産性向上を図り、さらに高度な顧客価値の提供を目指します。

(4) リスク対応力の強化

業容拡大に伴い、従来にない大型事業や事業形態の案件遂行機会が増加しており、プロジェクトマネジメントの重要性が高まっています。また、新事業の取り組みにおいては、当社グループにとって対応経験・知見の蓄積がないリスクに直面する可能性があり、リスクの早期把握・迅速な対応が求められます。

KRI(Key Risk Indicator)による予兆モニタリングを実施することでリスク増減傾向の把握と予兆管理を高度化するとともに、システム開発におけるプロジェクト管理機能や法務機能、情報セキュリティについてもグループ全体でさらに強化しています。

中期経営計画

当社グループは社会課題解決企業を標ぼうし、差別化を図ることで市場での存在感を確保することを目指しています。そのために、2030年にありたい姿を描いたうえで、実現に向けた「中期経営計画2026」(以下「中計2026」)を2023年10月に策定し、同計画に基づき取り組みを進めてきました。

「中計2026」での成長は、当社グループの経営理念のもと、財務、非財務、社会の3価値の拡大とともに、DX事業の成長による規模拡大と基幹事業の質の改革による収益性向上、次世代事業の育成・拡大による事業ポートフォリオ転換の加速などによって実現する計画とし、そのうえで、基本方針として、①事業戦略、②基盤戦略、③価値創造戦略を定めました。

一方、変化の激しい情報・通信並びにコンサルティング業界において、「中計2026」開始から2会計年度を経て、これら業界の好調な市場環境を当社グループに十分取り込めておらず、戦略・事業の見直しの必要性を認識するに至っております。

「中計2026」では「社会・公共」「デジタル」「金融システム」の3分野でMRI、DCSの一体的連携やシナジーによる事業成長を目指してまいりましたが、その効果の発現が限定的であると判断いたしました。その一方で、それぞれが強みを有する領域では、まだ今後の拡大・成長余地があると考えております。市場や競合環境が激化するなかで、それぞれの強みを活かした成長戦略及び事業展開が一層重要になってきます。

そのため、「中計2026」の最終年度である2026年9月期にあたり、「中計2026」の戦略及び目標を一部見直すとともに、事業再構築を含め、2027年9月期に開始予定の次期中期経営計画(以下「次期中計」)の策定に向けた検討を推進いたします。そのなかで、事業の選択と集中を進め、今後の成長を期待する領域を明確化し、必要なリソースを投入します。加えて、将来の着実な成長への布石を打ちながら、一定の利益を確保することを目指します。

(注)
  • TTC:シンクタンク・コンサルティングサービスセグメント
  • ITS :ITサービスセグメント
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

① 財務価値

経常利益及びROEを重要な経営指標としております。計画2年目にあたる当連結会計年度の実績を踏まえ、「中計2026」最終年度の目標を以下のとおり修正しました。2026年9月期中に「次期中計」を策定し、今後の中長期的な成長戦略を検討しつつ、企業価値並びに資本効率の向上を図ってまいります。

② 非財務価値

当社グループとして設定したマテリアリティに基づき、「社会課題解決力」を表現する具体的な非財務価値の指標を定め、その達成を目指しています。具体的には、「人的基盤」「知的共創基盤」「社会信頼基盤」の3要素に区分のうえ、女性採用比率や特許出願数・登録数、再生可能エネルギー比率などを指標として設定し、これらの達成状況を社内取締役の変動報酬(株式報酬)の算定要素の一部に採用し、役員報酬に反映させています。

③ 社会価値

当社グループとして設定したマテリアリティに基づき、創出を目指す社会価値や当社グループの強みが生み出す社会価値について、当社グループが遂行する関連事業に結び付けて「人材・ヘルスケア事業規模」「GX関連事業規模」「育成したベンチャー企業数」などの指標を定め、社会価値の明確化を図ります。

当社グループとして設定したマテリアリティの詳細は、当社ウェブサイトをご参照ください。

https://www.mri.co.jp/sustainability/management/materiality.html

2026年9月期の基本方針

① 事業戦略

<シンクタンク・コンサルティングサービス(TTC)>

TTCでは、調査・コンサルティング事業を再強化し、研究・提言機能から調査、実証等を経て社会実装に至る価値連鎖強化に注力してまいります。さらに選択と集中、という観点で、まず集中領域では「電力・エネルギー」「医療・介護」「ビジネスアナリティクス・AI」の3つのテーマに絞り込み、取り組みを強化します。

また、総合シンクタンクとしてのカバー領域の幅広さを強みと捉え、官公庁向けの「制度・政策」や「DX」、民間向けの「経営・DX」についても、強化してまいります。

加えて、サービス型事業投資として、「電力サービス」「医療・介護サービス」「インテリジェンスAI、融資業務AI、業務組込AI」に注力、投資を拡大します。

(注)
  • サービス型事業:予め定型的なサービスを用意し、利用期間に応じた料金体系を採用することで、より高い利益率を目指す事業。
  • 業務組込AI:業務の遂行過程で利用するツールの中に予め組み込んでおくことで、より日常的に活用し、業務効率を向上できるようにしたAI。

<ITサービス(ITS)>

ITSでは、マーケット規模、提案力・営業力、リソースの3つの軸を設定して事業を評価し、重点分野への選択と集中を進めます。下表のとおり、各分野で拡大していく事業を特定したうえで、リソースの重点配置や顧客の深掘り、受注拡大を目指してまいります。特に、「成長」とした4つの事業分野の拡大に注力します。

「主力」とした事業分野については、一定の規模・顧客のもとで事業展開しておりますが、今後見極めと選択を進めてまいります。

(注)
  • ハイタッチ連携:特に製品提供・販売者と連携した直接顧客営業接点の増加。
  • コンサルリード:顧客に対するコンサルティングを契機としてシステム導入案件の獲得を目指すこと。

② 基盤戦略

セグメント別に、それぞれ以下の観点から整備・高度化します。

<TTC>

  • ・人的資本経営:
    競争力の源泉としての人的資本を拡充し、エンゲージメントを強化しつつ、事業戦略と連動した人材ポートフォリオの実現を目指します。
  • ・グループ連携:
    連携を強化すべき領域(公共DX、電力DX、DA・AI等)にリソースを集中し、コンサルティングと社会実装のシナジーを追求します。
  • ・先行投資:
    継続的な成長に向けた人的投資(人材確保・育成)、研究開発(研究・提言、新事業開発)、設備投資等を計画的に実施します。
  • ・生産性:
    生成AI社内活用の適用範囲をバックオフィスを含む全社に拡大します。また、ミドルオフィス改革による事業部門の支援機能を向上させます。
  • ・リスクマネジメント:
    当社グループの業容拡大、AI等を活用した事業などの展開に伴い、リスク管理システムのさらなる高度化、システム開発におけるプロジェクト管理体制、法務機能、情報システムセキュリティについても、グループ全体で機能発揮・強化していきます。
  • ・社会・非財務価値、ブランド価値向上:
    社会潮流の形成、情報発信、未来共創活動の推進という3つの観点から、研究・提言機能を強化するとともに、当社グループの経営理念に基づいて目指している3価値の拡大のなかでも、社会価値及び非財務価値の訴求方針について検討し、グループとしてブランド価値向上を図ってまいります。

<ITS>

  • ・技術基盤:
    クラウド及び運用の両側面から技術力を強化するとともに、AIを適用して開発生産性の向上を目指します。
  • ・事業基盤:
    営業力、外部連携、コンサルティング、ワンストップ商材、地域戦略の5つの観点から基盤を強化します。
  • ・経営基盤:
    三菱総研DCS株式会社の本社移転及び新社内システム導入を機とした働き方改革・生産性向上の実践、コーポレート業務の生産性向上を図ります。

③ 価値創造戦略

上記事業及び基盤戦略に基づき顧客に提供する価値を高め、ひいては財務、非財務、社会の3価値の好循環・拡大によって、当社グループのサステナビリティ経営を推進いたします。ステークホルダーに対するグループ広報・IR活動を通じ、社会価値及び保有する非財務資本・価値を積極的に説明・訴求し、社会課題解決企業グループとしての認知・信頼を獲得し、当社グループ全体のブランドイメージを確立させます。

連結計算書類