事業報告(2023年10月1日から2024年9月30日まで)
企業集団の現況に関する事項
当連結会計年度の事業の状況
事業の経過及びその成果
当連結会計年度(2023年10月1日~2024年9月30日)の世界経済は、底堅い成長を維持しました。米欧ではインフレが落ち着きつつあり、中銀は利下げに転じました。中国における不動産市況の低迷は続いていますが、政府の景気刺激策が経済を下支えしています。一方、中東情勢が悪化するなど地政学リスクが高まっており、世界経済に与える影響には警戒が必要です。
わが国経済は、持ち直しの動きがみられます。物価高で抑制されていた消費は、24年春闘を受けた高水準の賃金上昇により回復しつつあります。また、企業の設備投資計画は、海外経済の不透明感が高まるなかでも、DXやGX(*)、人手不足対応を背景に高めの計画を維持しています。
当連結会計年度は「中期経営計画2026」(「中計2026」)の初年度です。当社グループの経営理念のもと、財務、非財務、社会の3価値の拡大とともに、DX事業の成長による規模拡大と基幹事業の質の改革による収益性向上、次世代事業の育成・拡大による事業ポートフォリオ転換の加速などによって「中計2026」目標の達成を図っています。
事業戦略においては、「社会・公共イノベーション」「デジタルイノベーション」「金融システムイノベーション」の3つの事業軸で戦略領域を定めました。あわせてグループ内の連携を強化し、公共向けには行政DXの推進、民間向けにはDXコンサルティングとクラウド移行を組み合わせた支援やビッグデータ分析を採り入れたデジタルマーケティング、金融向けには事業領域や顧客層拡大などに取り組んでおります。
戦略領域としては、AIを活用したサービスをはじめとするDX、GX・環境エネルギー分野、医療・ヘルスケア関連等を定め、各種の取り組み、協業等を進めながら着実な実績の積み上げを図っています。その成果は、当連結会計年度を通じ、政府関係のデジタル化推進、クラウドや通信・放送関連事業等、さらに民間企業のDX推進支援やスマートモビリティ関連事業等の実績に表れてきております。
一方で、「中計2026」で目指す事業ポートフォリオ転換への先行投資を進めましたが、一部に収益化の遅れがみられます。加えて、物価と賃金上昇の好循環を目指す潮流のなかでのベースアップによる人件費増加等により、期初想定以上の費用増も生じており、当連結会計年度の業績は期初計画には届きませんでしたが、事業の選択と集中や人的リソースの再配置などによる、事業収益力の強化を図ってまいります。
引き続き当社グループは、適正な価格転嫁やお客様に提供する付加価値の一層の向上等に努め、適切な利益の確保・向上に取り組みつつ、「中計2026」の実現を目指しております。
このような結果、当社グループの当連結会計年度における業績は、売上高は115,362百万円(前年度比5.5%減)となりました。一方、将来成長のための先行投資を積極的に進めたことから、営業利益は7,060百万円(同18.7%減)、経常利益は8,147百万円(同18.5%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は5,003百万円(同20.4%減)となりました。
- (*)
- GX:グリーン・トランスフォーメーション(Green Transformation)の略。再生可能エネルギー中心の産業・社会構造への転換や温室効果ガスの削減を成長戦略に据え、環境保全と経済成長の両立を目指す取り組み。

セグメント別の業績
セグメント別の業績は次のとおりであります。
シンクタンク・コンサルティングサービス
主要な事業内容
政策や一般事業に関する調査研究及びコンサルティング



当連結会計年度は、官公庁のアナログ規制見直しやデジタル化関連案件、エネルギー・運輸関連の民間企業向けのシステム、事業戦略支援関連業務等が貢献し、売上高(外部売上高)は45,419百万円(前年度比10.0%減)となりました。前期比減収は前連結会計年度に計上した複数の通信関連の大型実証案件等の終了によるものですが、減収による利益影響は限定的でした。経常利益は、持分法による投資利益(営業外収益)の減少により4,237百万円(同4.3%減)となりました。
ITサービス
主要な事業内容
ソフトウェア開発・運用・保守、情報処理・アウトソーシングサービス



当連結会計年度は、産業・公共分野のシステム更改案件等の伸長はあったものの、金融・カード向け大型システム関連案件の減少などにより、売上高(外部売上高)は69,942百万円(前年度比2.4%減)となりました。減収影響に加え、システム基盤更改や人材育成、採用強化等の先行投資に取り組んだ結果、経常利益は3,909百万円(同29.7%減)となりました。






対処すべき課題
(1) 人的資本経営の強化
人材は、当社グループの競争力や成長の源泉となる重要な資産です。成長シナリオを実現するため、当社グループ全体の事業戦略の視点から必要な人材を確保し、最適な人材ポートフォリオを実現します。人材ギャップ解消のための採用・育成戦略を立案するとともに、処遇改善や成長領域に対応した人材の重点的な強化を行います。
また、グループ経営の観点からグループ全体でのリソース活用によるキャリア形成支援を進めます。
人材育成に当たっては、社員個々の志向に応じた育成・成長を支援する当社独自の「FLAPサイクル(*)」を導入しています。さらに、人員規模の増大、人材の多様化に応じた、計画的かつ継続的な育成・キャリア形成支援研修の重要性の高まりから、2024年4月には「MRIアカデミー」を開校し、経営理念を具現化する人材を輩出するための教育施策を実施しています。引き続き、働き方改革を推進して健康経営、社員活躍推進、ダイバーシティ向上、従業員のエンゲージメントを強化・向上し、優秀な人材が存分に能力を発揮・活躍できる一層魅力的な環境を備えた企業グループを目指します。なお、同様に三菱総研DCS株式会社においても、DX人材の活用、教育、リスキリング並びに社内認定制度の運用を行う「デジタルアカデミー」を立ち上げ、組織的な人材育成を強化しています。
働き方改革等の取り組みは短期的にはコスト増となりますが、人材が当社グループ最大かつ最重要の資産との考え方に基づき、当社グループの持続的成長にとって不可欠な取り組みと捉えております。ただし、あわせて生産性向上や価格転嫁等にも継続して努めるとともに、品質の維持・向上への不断の取り組みによって顧客価値の増大もあわせて実現してまいります。
- (*)
- FLAPサイクル:自身の適性や業務に必要な要件を「知る」(Find)、スキルアップに必要な知識を「学ぶ」(Learn)、目指す方向に「行動する」(Act)、新たなステージで「活躍する」(Perform)という一連の循環で一人ひとりのキャリア形成を促す当社独自の方法論。
(2) DX事業、新事業等の加速
当社グループは、基盤事業による収益を拡大しながら成長事業に投資し、中長期的に次代のコア事業を育成していく両利き経営を引き続き推進しています。
「中期経営計画2026」の事業戦略に位置づけた「社会・公共イノベーション」「デジタルイノベーション」「金融システムイノベーション」のいずれも、現在の政策・経営課題の潮流であるDX、GX、人材が事業展開・成長の鍵を握る要素となっており、これらを捉えた事業設計を進めています。
また、将来を担う事業を育成し、事業ポートフォリオの転換を急ぐことも重要な課題と捉えています。具体的には人的リソースを過度に制約としないサービス提供型の事業規模の拡大・収益化、PROSRVやmiraicompassなどの既存有力サービスに続く新サービスの開発、海外事業の展開などに取り組んでまいります。
両利き経営の推進に当たっては、常に収益の拡大と成長事業への投資のバランスを最適化する必要があると認識しており、随時見直しを図りつつ取り組んでまいります。
(3) 研究・提言活動強化・積極的な生成AI活用
研究・提言活動は、当社グループにおける価値連鎖の起点であり、さらなる強化が必要と認識しています。研究・提言を通じて未来社会像の実現に向けた社会潮流を形成し、当社グループ全体の社会価値を高めます。具体的には、時機を捉えた自律的な取り組みと科学的知見(エビデンス)に基づく提言を実践し、官公庁の主要施策や企業戦略立案に貢献していきます。
生成AIの登場や飛躍的発展・普及は、多くの産業・職業に影響を及ぼし始めていますが、当社業務も例外ではなく、事業モデルの根本的な転換、想定外の業界からの競合の登場や競争優位性の喪失など、様々な将来的リスクが考えられます。こうしたリスクをむしろ事業機会として活かすため、当社グループでは積極的にグループ内で生成AIの活用を進め、プロジェクト管理DX等を推進しています。こうした取り組みを通じて、当社グループ全体の生産性向上を図り、さらに高度な顧客価値の提供を目指します。
(4) リスク対応力の強化
業容拡大に伴い、従来にない大型事業や事業形態の案件遂行機会が増加しており、プロジェクトマネジメントの重要性が高まっています。また、新事業の取り組みにおいては、当社グループにとって対応経験・知見の蓄積がないリスクに直面する可能性があり、リスクの早期把握・迅速な対応が求められます。
KRI(Key Risk Indicator)による予兆モニタリングを実施することでリスク増減傾向の把握と予兆管理を高度化するとともに、システム開発におけるプロジェクト管理機能をグループ全体で発揮・体制強化するほか、法務機能や情報セキュリティ対応についてもさらに強化してまいります。
中期経営計画
当社グループは社会課題解決企業を標ぼうし、差別化を図ることで市場での存在感を確保することを目指しています。そのために、2030年にありたい姿を描いたうえで、実現に向けた「中期経営計画2026」(以下「中計2026」)を2023年10月に策定し、同計画に基づき取り組みを進めています。
「中計2026」は、前「中期経営計画2023」(以下「中計2023」)を起点として、2030年までの9年間を3カ年ずつ3段階に区切り、その中間と位置づけました。3段階を「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」としたうえで、「ステップ」に相当します。「中計2026」では、「中計2023」で第一歩を踏み出した経営理念の実現・価値創造プロセスをさらに進めるとともに、顕在化した課題に対応し、グループ横断の事業領域で独自の価値提供モデルを構築してまいります。そのうえで、「ジャンプ」期間でさらなる領域拡大・収益性向上を目指します。

「中計2026」での成長は、当社グループの経営理念のもと、財務、非財務、社会の3価値の拡大とともに、DX事業の成長による規模拡大と基幹事業の質の改革による収益性向上、次世代事業の育成・拡大による事業ポートフォリオ転換の加速などによって実現する計画です。
そのうえで、基本方針として、①事業戦略、②基盤戦略、③価値創造戦略を定めました。
- ①
事業戦略
デジタル×コンサル×シンクタンク融合のワンストップモデルを構築し、グループ全体でDXへの取り組みを加速し、次世代に向けた事業育成を進めます。
こうした事業戦略をグループ全体で推進するため、「事業」軸中心に戦略領域を定め、「シンクタンク」「社会・公共イノベーション」「デジタルイノベーション」「金融システムイノベーション」の4事業を推進します。
-
・シンクタンク事業:
研究・提言を通じて未来社会像の実現に向けた社会潮流を形成し、当社グループ全体の社会価値を高める機能を担います。 -
・社会・公共イノベーション事業:
公共・民間を対象とした当社グループの中核として堅持し、課題解決策の社会実装実現、政策知見を活かし調査研究・DX・コンサルティングサービスを展開します。 -
・デジタルイノベーション事業:
経営・DXコンサルティングとともに高い市場成長性が見込まれる製造・流通分野向けのDXソリューションを展開するとともに、データ分析・AIを活用したサービスを推進します。 -
・金融システムイノベーション事業:
既存の金融機関向け事業を中心に、金融コンサルティングの拡充や金融DX領域に展開します。
-
・シンクタンク事業:
- ②
基盤戦略
事業成長のための基盤を次の5つの観点から整備・高度化します。
-
・人的資本経営:
競争力の源泉としての人的資本を拡充し、当社グループ全体としての最適な人材ポートフォリオを実現します。 -
・営業力強化:
DX事業のマーケティング及びプロモーション機能をグループ連携体制で強化します。 -
・新事業強化・海外:
人的リソースを過度に制約としないサービス提供型モデルを新事業と位置づけ、当社グループらしい多様な新事業を探索・開発強化します。また、海外顧客やビジネスパートナーのグローバル事業展開及び国内顧客の海外事業展開等をハノイ・ドバイの海外拠点を起点に支援するなど、海外事業も推進してまいります。 -
・グループ内DX:
生成AIの活用やプロジェクト管理DX等を用いて、当社グループ全体の生産性向上を図り、さらに顧客価値の提供を目指します。 -
・リスクマネジメント:
当社グループの業容拡大、AI等を活用した事業などの展開に伴い、リスク管理システムのさらなる高度化、システム開発におけるプロジェクト管理体制、法務機能、情報システムセキュリティについても、グループ全体で機能発揮・強化していきます。
-
・人的資本経営:
- ③
価値創造戦略
上記事業及び基盤戦略に基づき顧客に提供する価値を高め、ひいては財務、非財務、社会の3価値の好循環・拡大によって、当社グループのサステナビリティ経営を推進いたします。ステークホルダーに対するグループ広報・IRを通じ、社会価値及び保有する非財務資本・価値を積極的に説明・訴求し、社会課題解決企業グループとしての認知・信頼を獲得し、当社グループ全体のブランドイメージを確立させます。

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
- ①
財務価値
経常利益及びROEを重要な経営指標とし、「中計2026」の目標水準を以下のとおり定めました。なお、2030年における一層の事業規模拡大を目指す中間点として、売上高目標も定めております。これら目標達成への取り組みを通じ、企業価値並びに資本効率の向上を図ってまいります。
「中計2026」最終年度(2026年9月期)の目標水準
- ●売上高
- :1,350億円
- ●経常利益
- :140億円
- ●ROE
- :12%
- ②
非財務価値
当社グループとして設定したマテリアリティに基づき、「社会課題解決力」を表現する具体的な非財務価値の指標を定め、その達成を目指しています。具体的には、「人的基盤」「知的共創基盤」「社会信頼基盤」の3要素に区分のうえ、女性採用比率や特許出願数・登録数、再生可能エネルギー比率などを指標として設定し、これらの達成状況を社内取締役の変動報酬(株式報酬)の算定要素の一部に採用し、役員報酬に反映させています。
- ③
社会価値
当社グループとして設定したマテリアリティに基づき、創出を目指す社会価値や当社グループの強みが生み出す社会価値について、当社グループが遂行する関連事業に結び付けて「人材・ヘルスケア事業規模」「GX関連事業規模」「育成したベンチャー企業数」などの指標を定め、社会価値の明確化を図ります。
人的資本経営に関する考え方と取り組みについて
人的資本経営の実現に向けて、経営戦略に基づく人材戦略を推進するため、2021年4月に現在職務における役割及び成果に基づくジョブ型の人事制度へ抜本的な制度改定を行うとともに、キャリアパスを充実させ社員各人のキャリア構築の多様化を進めています。あわせて「中計2026」で掲げた事業戦略を達成するために必要なあるべき人材ポートフォリオを策定し、現状の人材ポートフォリオとのギャップを明らかにすることで、事業戦略に沿った人材戦略の検討を進めています。
シンクタンク・コンサルティング事業を基盤とするVCP(*)経営には、これまで以上に専門性を有する多才な人材が必要になっています。そのため、社員個人のキャリア自律を支援し、社員一人ひとりが成長し続けることを目指す仕組みとして「FLAPサイクル」を導入しています。FLAPサイクルとは、自身の適性や業務に必要な要件を知る(Find)、スキルアップに必要な知識を学ぶ(Learn)、目指す方向に行動する(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)の4つの頭文字をとった一連のサイクルを意味します。能力・適性・志向性等を踏まえながら個々のキャリア形成を支援していきます。
また、2024年4月には「MRIアカデミー」を開校し、経営理念を具現化する人材を計画的・継続的に輩出するための施策を実施しています。当社の強みである最先端の科学技術やAI、イノベーション創出に関する知見など、「当社ならでは」の研修体系を構築するとともに、増加傾向にあるキャリア入社者に対するシンクタンク/コンサルティングスキルに係るプログラムを充実させ、お客様への提供価値を向上させていきます。将来的には、FLAPサイクルに基づく、リスキリング研修等を行うことなどの検討も進めています。
三菱総研DCS株式会社においても、DX人材の活用、教育、リスキリング並びに社内認定制度の運用を行う「デジタルアカデミー」を立ち上げ、組織的な人材育成を強化しています。顧客接点となる営業やプロジェクト・マネージャー、ITコンサルタントの拡充・育成に注力するとともに、技術やビジネスの変化への対応力をより強化するため、テクニカルスキルに加え、様々な活動の基礎となる思考力、対人力などのポータブルスキル研修の強化など、網羅的に育成体系の見直しを行いました。これらを社員のリスキリングにも活用していきます。
- (*)
- VCP:価値創造プロセス(Value Creation Process)の略。社会課題を起点に、その解決と未来社会の実現をゴールとして、お客様や社会への提供価値の向上と持続的成長を目指す、当社グループの価値連鎖の展開過程を意味する。

また、経営理念である「豊かで持続可能な未来の共創」を実現するための原動力は、当社においては人材に他なりません。人材一人ひとりが最大限の力を発揮していくためには、女性比率、外国人採用、キャリア採用といった狭義のダイバーシティに留まらず、多様な発想、能力をもった人材が活発な議論を交わす職場環境や企業風土が必要不可欠です。また、活発な議論を行うためには、社員の多様性を高めるだけでなく、互いの違いを尊重し、助け合うことで生き生きと働ける組織を育むことが必要です。
こうした考えをもとに、人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針として、当社では「中計2026」の重要施策の一つに「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進」を掲げています。2022年11月に策定した「DE&I行動指針」に基づき、全社員が議論に参加する職場ディスカッションやDE&Iに関する研修の実施、有識者と社長による対談、社員同士がキャリアを語り合う場を設置し、それぞれのアーカイブ動画やセミナーを社内に向け配信しています。経営層から若手、またキャリア入社者や育児休職取得者など、それぞれの立場からの意見や実体験を集約し、社内に広める取り組みを進めています。