事業報告等

当社グループは、第123期から国際会計基準(IFRS)を任意適用しており、第122期の財務数値は日本基準をIFRSに組み替えて表示しています。

事業の経過および成果

当期の経過および成果

当期における世界経済は、地政学リスクの高まり、物価高騰、為替相場のボラティリティ上昇等に伴う先行き不透明感が継続しました。中国では経済成長の減速が進んだ一方、欧州では緩やかな成長が続きました。また、米国では良好な雇用環境を背景に景気は堅調に推移したものの個人消費の勢いに陰りが見られるなど、先行きへの警戒感が高まりました。日本においては緩やかな景気回復となりました。

国内化粧品市場は物価上昇が家計の重石になる状況が続くなか、堅調に推移しました。訪日外国人旅行者数はコロナ禍前を上回り過去最高を更新しましたが、旅行者の消費行動の変化を背景にインバウンド消費は想定よりも緩やかな成長となりました。

海外化粧品市場の動向は地域ごとにばらつきが見られました。中国海南島などの免税市場では、規制強化に伴う流通在庫調整の影響は着実に縮小した一方で、中国人旅行者を中心とした消費の減速を背景に、厳しい市場環境が続きました。また中国では、景況感の悪化に伴う貯蓄の増加や消費低下を背景に停滞が続きました。欧米市場は下期に成長鈍化の兆しがみられ、全体としては緩やかな成長となりました。

当社グループは、企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、環境問題やダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを中心とした社会課題の解決に向けてイノベーションに積極的に取り組みながら、「Personal Beauty Wellness Company」として、スキンビューティーとウェルネスを融合し、一人ひとりの自分らしい健康美を実現する企業を目指します。そして2030年のビジョン「美の力を通じて“人々が幸福を実感できる”サステナブルな社会の実現」に取り組みます。

当期は、2023年から2025年までの3カ年を中心に取り組む中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」の2年目であり、グローバルコスト削減のための構造改革主要アクションの完遂と、グロスプロフィット最大化を追求する体制の構築に取り組みました。日本事業においては、「持続的な成長」、「稼げる基盤構築」、「人財変革」の3つを柱とする経営改革プラン「ミライシフト NIPPON 2025」の実行を通じて、収益性改善を着実に進めており、グローバルでも計画どおりにコスト構造改革の効果創出を実現しました。中国・トラベルリテール事業においては、組織構造の最適化を図るとともに、多様化する市場の変化を捉えた持続的な成長の実現を目指します。米州・欧州・アジアパシフィック事業においては、積極的な経営資源投下により成長加速を図ります。これらを通じ、適正な地域ポートフォリオへの転換を進め、不透明で変化の激しい市場環境にも柔軟に対応できる経営基盤の構築を進めていきます。

2024年11月には、早期の収益性改善と、その後の持続的な成長をより確実なものとするために、次の2カ年で実行する「アクションプラン 2025-2026」を策定しました。変化の激しい市場でも安定的な利益拡大を実現するレジリエントな事業構造を目指し、「ブランド力の基盤強化」、「高収益構造の確立」および「事業マネジメントの高度化」に取り組みます。

報告セグメント別売上高

当期の売上高は前期比1.8%増の9,906億円、現地通貨ベースでは前期比2.7%減、為替影響、事業譲渡影響および「Dr. Dennis Gross Skincare」買収影響を除く実質ベースでは前期比1.3%減となりました。実質ベースの売上高は、中国人旅行者を中心とした消費の減速により低い出荷レベルとなったトラベルリテール事業や、景況感の悪化に伴う消費低下の影響を受けた中国事業では、前期を下回りました。また、米州事業では、上期に一時的な生産減・出荷減が生じ、第3四半期において生産は安定化したものの、売上回復が遅れ、減収となりました。一方、日本・欧州事業は、成長性・収益性の高い注力領域への積極投資や戦略的マーケティングが功を奏し、力強い成長が継続しました。アジアパシフィック事業は緩やかな成長となりました。

コア営業利益は364億円、2024年11月に公表した業績予想の350億円は超過したものの、前期に対しては35億円の減益となりました。トラベルリテール・米州事業の減益を、日本事業での大幅な増益や、全社を挙げた構造改革効果およびコストマネジメントにて一部相殺しました。また、「その他」は、トラベルリテール・中国事業向けの内部売上高減少に伴う差益減等により減益となったほか、「調整額」は未実現利益消去額の変動影響などにより、減益となりました。

親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期に対し326億円減少し、108億円の損失となりました。コア営業利益の減益や、非経常項目において主に日本事業の早期退職支援プランに関する構造改革費用を計上したことに加え、セラーノート(デットファイナンスの一種。売主が一部融資を行う)に関連する金融費用として128億円の引当金を計上したことが影響しました。なお、当該引当金の計上は2024年のキャッシュ・フローに影響を与えるものではありません。

なお、EBITDAマージンは、9.0%となりました。

報告セグメント別コア営業損益

連結業績

  • (注)
    当期における連結計算書類項目(収益および費用)の主な為替換算レートは、1ドル=151.5円、1ユーロ=163.8円、1中国元=21.0円です。

事業別の取り組み

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 9.5 %増
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ファンデ美容液という新市場創出など
注力ブランドを中心に成長
構造改革効果も貢献しコア営業利益は大幅増益
売上構成比 %

(単位:

日本事業では、経営改革プラン「ミライシフト NIPPON 2025」の実行を通じた収益性改善を引き続き進めています。成長性・収益性の高いブランド・商品・お客さま接点へ活動を集中させることで成長の加速に取り組み、愛用者数の増加が続いている「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「エリクシール」を中心とした注力ブランドで力強い成長を実現しました。また、戦略的マーケティングによりファンデ美容液という新市場創出に取り組み、SHISEIDO エッセンス スキングロウ ファンデーションなどが好調に推移したほか、「クレ・ド・ポー ボーテ」や「エリクシール」の新商品の好調も成長をけん引しました。訪日外国人旅行者数はコロナ禍前の水準を上回り過去最高を更新しましたが、旅行者の消費行動の変化を背景にインバウンド消費は想定よりも緩やかな成長にとどまりました。
以上のことから、売上高は2,838億円となりました。前期比は9.2%増、事業譲渡影響を除く実質ベースでは前期比9.5%増となりました。コア営業利益は281億円、売上増による差益増や費用効率化などにより、前期に対し267億円改善しました。

セラムファースト技術搭載のファンデ美容液

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 4.6 %減
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景況感の悪化による消費低下の影響を受けるも構造改革効果によりコア営業利益は増益
売上構成比 %

(単位:

中国事業では、市場環境変化のなかで成長と収益性のバランスを取りながら、より消費者のニーズを踏まえたブランド・商品の価値伝達による持続的成長への転換を進めています。景況感の悪化に伴う消費低下の影響を受ける中でも、中国最大のEコマースイベントである「ダブルイレブン」では、ALPS処理水の海洋放出後の日本製品買い控えの影響があった前期からの反動もあり、大幅伸長しました。通期では、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「アネッサ」、「NARS」は成長しましたが、「SHISEIDO」は苦戦が続きました。
以上のことから、売上高は2,500億円となりました。前期比は0.8%増、現地通貨ベースでは前期比5.3%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前期比4.6%減となりました。コア営業利益は123億円、売上減に伴う差益減を、原価低減、固定費低減などの構造改革効果などにより相殺し、前期に対し53億円の増益となりました。

「クレ・ド・ポー ボーテ」のプロモーション

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 2.5 %増
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「アネッサ」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、フレグランスが好調
タイを中心とする東南アジアで力強い成長
売上構成比 %

(単位:

アジアパシフィック事業の国・地域では、台湾で市場鈍化の影響を受けましたが、タイを中心とする東南アジアがけん引し成長を維持しました。「アネッサ」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、フレグランスで力強い成長となりました。
以上のことから、売上高は717億円となりました。前期比は6.5%増、現地通貨ベースでは前期比0.9%増、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前期比2.5%増となりました。コア営業利益は60億円、売上増に伴う差益増などにより、前期に対し9億円の増益となりました。

タイでの「アネッサ」イベント

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 7.0 %減
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一時的な生産減・出荷減からの売上回復遅れにより「Drunk Elephant」が減収
売上構成比 %

(単位:

米州事業では、「NARS」や「Tory Burch」が増収となりました。一方、上期に一時的な生産減・出荷減が生じ、第3四半期において生産は安定化したものの、「Drunk Elephant」は売上回復が遅れました。
以上のことから、売上高は1,185億円となりました。前期比は7.5%増、現地通貨ベースでは前期並み、為替影響、事業譲渡影響および「Dr. Dennis Gross Skincare」買収影響を除く実質ベースでは前期比7.0%減となりました。コア営業利益は2億円、売上減に伴う差益減などにより、前期に対し110億円の減益となりました。

「NARS」のエクスプリシット リップスティック

売上高 億円
前期比 %増
実質ベース 8.2 %増
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マーケティング活動強化・新商品展開により
「SHISEIDO」、「NARS」、フレグランスが成長
売上構成比 %

(単位:

欧州事業では、「SHISEIDO」や「NARS」が伸長したほか、フレグランスでは「narciso rodriguez」や新商品が貢献した「ISSEY MIYAKE」が好調をけん引しました。
以上のことから、売上高は1,327億円となりました。前期比は13.4%増、現地通貨ベースでは前期比5.2%増、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前期比8.2%増となりました。コア営業利益は37億円、売上増に伴う差益増などにより、前期に対し3億円の増益となりました。

「ISSEY MIYAKE」のル セルドゥ イッセイ

売上高 億円
前期比 %減
実質ベース 23.8 %減
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旅行者数の増加に伴い日本で成長した一方
中国人旅行者の消費減少の影響を受け減収
売上構成比 %

(単位:

トラベルリテール事業(空港・市中免税店などでの化粧品・フレグランスの販売)では、訪日外国人旅行者数の増加により、日本において堅調な回復を実現しました。一方、中国海南島・韓国では、中国人旅行者を中心とした消費の大幅な減少の影響を受け、低い出荷レベルが続きました。
以上のことから、売上高は1,078億円となりました。前期比は18.6%減、現地通貨ベースでは前期比23.8%減、為替影響および事業譲渡影響を除く実質ベースでは前期比23.8%減となりました。コア営業利益は50億円、売上減に伴う差益減などにより、前期に対し121億円の減益となりました。

海南島での「SHISEIDO」のプロモーション

資本政策

資本政策の基本方針(2024年12月31日現在)

当社は持続的成長に向けて、必要と判断されるタイミングで迅速・果断に投資を行うため株主資本の水準保持に努めます。そのうえで、フリーキャッシュフローや在庫回転日数を中心とした運転資本の効率化を重視して、キャッシュ・フローとバランスシートのマネジメントの強化により、資本効率を意識した経営を実践します。

資金調達に関しては、有利な条件で調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、ネット・デット・エクイティ・レシオ0.2、ネットEBITDA有利子負債倍率0.5倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮したうえで、上記指標は株主還元方針と併せて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。

株主のみなさまへの利益還元については、直接的な利益還元と中長期的な株価上昇による“株式トータルリターンの実現”を目指しています。この考え方に基づき、持続的な成長のための戦略投資を最優先とし、企業価値の最大化を目指す一方で、資本コストを意識しながら投下資本効率を高め、中長期的に配当の増加と株価上昇につなげていくことを基本方針としています。

配当金の決定にあたっては、連結業績、フリーキャッシュフローの状況を重視し、資本政策を反映する指標の一つとして親会社所有者帰属持分配当率(DOE)2.5%以上を目安とした長期安定的かつ継続的な還元拡充を実現します。なお、自己株式取得については、市場環境を踏まえ、機動的に行う方針としています。

利益還元の状況の推移

連結計算書類