事業報告(2024年4月1日から2025年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過及びその成果
当連結会計年度の当社グループを取り巻く環境は、世界的な景気後退と地政学リスクへの懸念が高まりました。ロシア・ウクライナ情勢及び中東情勢の緊張状態は継続し、加えて中国経済の成長率は緩やかに減速し、世界経済の下振れ懸念が続く中、米国政権の動向、とりわけ関税政策に注目が集まり、世界経済の不透明感は強まりました。
世界半導体市場は、AI向け先端半導体デバイスの需要が牽引する一方、PCやスマートフォン、車載向け等の需要は力強さを欠いており、全体としては依然バラつき感が見られ、本格的な回復には今しばらく時間を要するものと思われます。
こうした状況下、当社においては先端半導体向けCMP製品及びシリコンウェハー向け製品の販売が好調に推移したことにより、当連結会計年度の業績は、売上高62,503百万円(前期比21.5%増)、営業利益11,780百万円(前期比42.8%増)、経常利益12,251百万円(前期比36.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益9,428百万円(前期比45.1%増)となりました。
セグメント別経営成績
日本

日本につきましては、CMP製品及びシリコンウェハー向け製品の販売が増加したことにより、売上高は35,464百万円(前期比22.3%増)、セグメント利益(営業利益)は9,722百万円(前期比32.6%増)となりました。
北米

北米につきましては、CMP製品の販売の増加により、売上高は8,201百万円(前期比15.7%増)、セグメント利益(営業利益)は275百万円(前期比23.8%増)となりました。
アジア

アジアにつきましては、先端ロジックデバイス向けCMP製品及びハードディスク基板向け製品の販売が増加したことにより、売上高は16,752百万円(前期比23.5%増)、セグメント利益(営業利益)は4,705百万円(前期比41.5%増)となりました。
欧州

欧州につきましては、CMP製品の販売が増加したことにより、売上高は2,084百万円(前期比17.3%増)、セグメント利益(営業利益)は153百万円(前期比11.0%増)となりました。
用途別売上高
シリコンウェハー向けラッピング材

シリコンウェハー向け製品につきましては、売上高はラッピング材では7,563百万円(前期比38.2%増)となりました。
シリコンウェハー向けポリシング材

売上高はポリシング材では12,698百万円(前期比28.1%増)となりました。
CMP製品

CMP製品につきましては、先端ロジックデバイスやメモリ向けの販売が増加し、売上高は30,658百万円(前期比11.9%増)となりました。
ハードディスク基板向け製品

ハードディスク基板向け製品につきましては、データセンター向けHDD(ハードディスクドライブ)の需要増加を受け、売上高は2,547百万円(前期比84.1%増)となりました。
一般工業用研磨材

一般工業用研磨材につきましては、自動車及び産業機械向け製品の販売が堅調に推移し、売上高は5,415百万円(前期比20.9%増)となりました。
財産及び損益の状況
企業集団の財産及び損益の状況
対処すべき課題
① 経営環境
当社が主たる事業領域としている半導体市場は、AI向け半導体デバイスが牽引した一方で、PCやスマートフォン、車載向け半導体は力強さを欠き、全体としてはバラつき感が見られ、本格的な回復には時間を要する状況でありました。一方、世界各国が半導体を戦略物資と位置づける中、半導体の重要性は益々高まっており、中長期的には更なる拡大が見込まれています。当社のお客様であるシリコンウェハーメーカー及び半導体デバイスメーカーの多くは、将来予想される旺盛な半導体需要に応えるべく大規模な設備投資を進めています。また、半導体の技術革新に伴い、お客様からの新製品開発や品質保証に関する要求水準も高まっております。
一方で、自然災害は年々激甚化の傾向にあり、物流網に与える影響も深刻化しております。また情報セキュリティインシデント(サイバー攻撃等を含む情報セキュリティにおける事件や事故)は、ますます複雑化しております。
② 企業価値向上について
(ア)当社の企業価値の源泉について
当社の創業以来蓄積されたノウハウと研究開発力から生まれた製品の数々は、シリコンウェハーに代表される半導体基板の鏡面研磨、半導体デバイスの多層配線に必要なCMP(化学的機械的平坦化)、ハードディスクの研磨等、高精度な表面加工が求められる先端産業に欠かせぬものとなっております。なかでも、主力事業分野である半導体基板向け超精密研磨材では世界ナンバーワンのマーケットシェアを維持しており、超精密研磨のリーディングカンパニーとして、市場優位性を維持しております。
当社は、超精密研磨分野において長年にわたってお客様の要求に応え続けるとともに、開発・製造技術の向上・蓄積に努めてまいりました。その過程において、お客様との信頼関係を築き上げ、柱となる3つのコア技術「ろ過・分級・精製技術」「パウダー技術」「ケミカル技術」を確立しました。「ろ過・分級・精製技術」は、砥粒の粒度分布を制御し、研磨対象物の品質に悪影響を及ぼす粗大粒子や不純物を除去する技術、「パウダー技術」は、粒子の形状を制御し、異なる粒子を均一に混ぜ合わせ造粒する技術、「ケミカル技術」は、研磨材の性能向上に寄与する分散・溶解・表面保護作用を発現させる添加剤を適切に設計、配合、調合精製する技術です。
当社のコーポレートスローガン「技術を磨き、心をつなぐ」には、先端技術を通してより良い製品づくりに貢献し、人々の心をつなぎ、生活を豊かにするという意味が込められており、人を尊重し地球環境に配慮した製品づくりが当社の「ものづくり」の根底に流れております。当社はこうした「ものづくりの精神」と従業員一人ひとりが変化に果敢に挑戦するという企業風土により、企業競争力を高めてまいりました。
当社の企業価値の源泉は、こうした製造現場と一体となった高い技術力・開発力、長い歴史のなかで培われたお客様との信頼関係、労使間の健全かつ一体感のある企業風土にあると考えております。今後の技術革新をリードし業績の拡大を目指していくためにも、お客様の信頼度の更なる向上が重要であると考えております。また、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上、インテグリティマインドの強化を図っていくことが、困難な状態にも挫けることなく、自ら目標に向かって最後までやり抜く主体的・積極的な行動に繋がり、お客様のご満足と従業員のウェルビーイングが共に実現できると考えており、当社はこうした方針のもと、引き続き企業価値の向上にグループを挙げ取組んでまいります。
(イ)企業価値向上のための課題
半導体市場において将来的に更なる需要増加が見込まれることを鑑み、国内外で段階的に設備投資を進めるべく体制を整備していくこと、新製品開発や品質保証に関するお客様の高まる要求水準を満たすべく研究開発や品質保証のレベルアップを図ること、また、緊急事態に備える事業継続力を強化することが、当社の企業価値向上のための課題であると認識しております。特に、品質保証については、当社が過去から大切にしている「ものづくりへの誇り」のベースとなるインテグリティ(誠実、真摯であること)を強く意識し、社会的規範や倫理を基に自ら考え、直面する課題や問題のみならず、日常の業務プロセスを見つめ直し、「ものづくりへの誇り」を確固たるものにし、お客様及び社会に対する責任を全うしてまいります。
昨今の地政学的な不透明さや感染症拡大等による、原材料の調達難及び価格高騰、物流の混乱等により、サプライチェーンマネジメントの重要性は増しております。当社としてもより強靭な供給体制を整えるべく、お客様要求に適う原材料の安定調達を図り、サプライチェーンマネジメントの強化に、全社一丸となって引き続き取組んでまいります。
一方で、中長期的な企業価値向上の観点からは、半導体市場に過度に依存しない売上の安定化と更なる拡大を目指し、事業領域を拡大する必要があると認識しております。このため、中長期視点での研究開発と新規事業の探索・育成による事業領域の拡大に努めるとともに、非半導体領域及び非研磨分野での用途拡大を進めていくことも当社の企業価値向上のための課題であると認識しております。
(ウ)企業価値向上のための取組み(中長期経営計画)
当社は、2023年5月10日に中長期経営計画(2024年3月期~2029年3月期。以下「本計画」といいます。)を公表しました。その概略は以下のとおりです。
[基本方針]
当社は、企業使命である「高度産業社会の期待に新技術で応え、地球に優しく、人々が快適に暮らせる未来の創造に貢献します」に基づき、既存事業(半導体関連事業等)の更なる拡大と新たな柱となる新規事業の創出を通じて、研磨材メーカーからパウダー&サーフェスカンパニーへの進化を遂げ、持続可能な社会の実現への貢献を目指すことを本計画の基本方針としております。
2024年3月期から2029年3月期の6年間を対象とする本計画では、研究開発とグローバルな製品供給体制の拡充に一層の経営資源を投入するとともに、サステナブルな経営の根幹を成す人材投資やESGに係る取組みを積極的に推し進め、前中長期経営計画で定めた中長期企業ビジョン「私たちは一人ひとりの前向きなアイデアとチャレンジを応援します」を継続し、引き続きその実現に向け、各種施策等を策定いたしました。
[重要施策]
本計画の基本方針に基づく取組みは以下のとおりです。
- (1) 研磨材メーカーからパウダー&サーフェスカンパニーへの進化を実現する新規事業の創出
- (2) 半導体関連事業の強靭な基盤構築と次世代半導体向け材料分野での圧倒的な地位確立
- (3) コア技術の発展と新技術の開発
- (4) 100年企業を実現するGRIT(※)な組織と人づくりへの挑戦
- (5) サステナビリティ経営の実践
※GRIT:困難な状態にも挫けることなく、目標に向かって最後までやり抜くこと
[株主還元]
配当につきましては、連結配当性向を55%以上とすることを目標として、業績に応じた積極的な株主還元を実施するとともに、安定配当の継続にも留意することを基本方針としております。なお、DOE(連結純資産配当率)を配当指標に加えることについても検討してまいりましたが、半導体市況等の事業環境や世界経済の動向を踏まえて引き続きの検討課題としてまいります。
また、内部留保につきましては、今後予想される経営環境の変化に対応すべく、お客様のニーズに応える開発・生産体制の強化、グローバルな事業戦略の遂行及び事業領域の拡大に役立てる所存であります。
[マテリアリティの特定(持続可能な社会の実現にむけて)]
当社は本計画策定に際し、持続可能な社会の実現に向けて、当社が優先して取組む重要課題として18のマテリアリティを特定しました。
当社が特定した18のマテリアリティは以下のとおりです。

具体的な各事業等の施策は以下のとおりです。
[シリコン事業]
半導体基板となるシリコンウェハーを高精度に平坦・鏡面化する研磨工程で用いられる研磨材を研究開発し製造販売する事業です。切断から仕上げ研磨までトータルソリューションを可能とする高品質な製品・サービスを揃えております。益々高度化するお客様の要求に応えるべく、引き続き新技術に支えられた独自性の高い新製品を提供し、「最も信頼されるパートナー」を目指してまいります。
また、電気自動車、ハイブリッド自動車の普及により、今後、需要の高まりが期待されているSiC基板向け製品の開発を進め、世界各地のお客様へ製品を供給するため、米国及びマレーシア拠点での生産を進めております。
[CMP事業]
半導体デバイスの製造工程で用いられる研磨材を研究開発し製造販売する事業です。半導体デバイスの高性能化、高密度化、高集積化に伴い、研磨対象となる膜種とCMPが適用される工程は増加傾向にあります。加えて、近年はシステムとしての性能向上のために、半導体デバイスを3次元に実装する技術が開発されており、その分野でもCMPが検討されております。お客様の製造・開発拠点に近い、日本、米国、台湾に製造・開発拠点を設け、お客様とより密接な関係を構築し、お客様のロードマップに沿った新製品を開発しております。
[ディスク事業]
デジタルデータの記録媒体であるハードディスクドライブ用ディスク基板の製造工程に用いられる研磨材を研究開発し製造販売する事業です。お客様の生産拠点が集中するマレーシアに製造拠点を置くとともに技術スタッフを配置し、技術サポートを実施することでお客様との信頼関係を構築しております。近年、ハードディスクドライブはSSD(ソリッドステートドライブ)への置き換えが進んでおりますが、クラウドサービスや5Gにより送受信されるデータ容量の増加が見込まれており、データセンター向けのハードディスク需要も引き続き高水準で推移するものと思われます。次世代ディスク基板への要求を早期に入手し具現化するため基礎開発の拡充も図り、お客様の要求に合った新製品をタイムリーに提供してまいります。
[溶射材事業]
半導体装置、航空機及び鉄鋼等様々な業界の機械部材の長寿命化、高機能化を実現するために、環境に優しい表面処理として使用される溶射用途向けに、主にサーメット、セラミックス等の溶射材を研究開発し製造販売する事業です。独自の粉末造粒技術を一層強化し、タイムリーなソリューション提案を行い、売上拡大を目指してまいります。
[研磨ソリューション事業]
様々な用途で用いられる、多種多様な材料(金属、樹脂、セラミック、複合材料等)や形状(2次元、3次元形状)に対応した研磨材等の研究開発および製造販売を行う事業です。
世界の様々な業界のお客様から寄せられる、新たな表面創成のご要望に、研磨材の供給のみに留まらず、用途に応じた様々な研磨方法を提案し、周辺消耗材や装置、加工プロセスまでを含めたトータルソリューションでお応えしてまいります。
具体的な取組みの一例として、数年前から取り組んでいる自動車外装用研磨コンパウンドは採用が始まっており、売上拡大を目指してまいります。また、新たに研磨加工の導入を検討される顧客のニーズに応える新たなソリューションビジネスを立ち上げております。
[先端技術・機能材料]
パウダー領域・非研磨事業の拡充を更に推進することを目的として発足した「先端技術・機能材料本部」傘下において、パウダー分野におけるフジミ基幹技術の研究開発を進めると同時に、非研磨分野における新規事業の「創出」と「事業化」を強力に推進してまいります。また、これまで機能材事業や先端技術研究所で養ってきた粒子形状・粒度分布制御及び造粒技術を始めとする当社基幹技術を一体化させ、さらにマーケティング力を強化し、新規用途・お客様層の拡大に一層注力してまいります。
具体的な取組みの一例として、高い放熱性と流動性を備えたセラミックスパウダー、軽量かつ高い耐熱性を備えたセラミックス複合材料、球状・板状・棒状など形状制御技術を活用した新規セラミックスパウダーや3Dプリンター用超硬材料等の開発を進めております。
主要な事業内容(2025年3月31日現在)
当社グループの主な事業内容は、研磨材等の製造、販売及びこれらに付帯する一切の事業であります。