事業報告(2024年4月1日から2025年3月31日まで)

企業集団の現況

当事業年度の事業の状況

事業の経過及び成果

全般的概況

当期における世界経済は、インフレの鎮静化を背景とした底堅い成長を維持し、国内においても雇用・所得環境が改善する下で穏やかな回復基調となりました。一方で、米国の政策変更の影響による貿易紛争リスクの高まりには注視が必要な状況です。

通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、世界的なスマートフォンの出荷台数が回復してきており、AIを搭載した高機能スマートフォンなど、新たな機能の搭載による市場の活性化が期待されます。

5G利活用の領域では、Automotive分野での5G活用に向けた研究開発が進展しており、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が継続されています。IoT(Internet of Things)分野では、米国のラストワンマイルで利用されるCPE(Customer Premises Equipment、顧客構内設備)の需要や、5G無線モジュールの開発に加えてWi-Fi 7(*1)の開発需要が増加してきています。非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)としては、衛星を用いた通信サービスが相次いで始まっており、4GシステムのNB-IoT(Narrowband IoT)を用いる端末もリリースされています。2024年6月に標準化が完了した「Release 18」(*2)では、IoT向けのeRedCap(enhanced Reduced Capability)や5G NR(New Radio)を用いるNTNなどで機能の向上が図られ、チップセットや端末への対応が進められています。また、3GPPにおいて次世代の通信規格である6Gの仕様についての議論も始まり、研究開発も行われています。

5Gのネットワークでは、無線アクセスネットワークのオープン化に取り組むO-RANアライアンスが仕様を策定しており、これまでメーカー独自のインターフェースで構成されていた基地局装置に対してO-RANの標準仕様を適用することで、マルチベンダーでの無線アクセスネットワークの構築が容易になりました。

また、生成AIの普及拡大によるデータ・トラフィックの急増に対応するために、データセンターの新設及び大容量化が加速しています。生成AI向けのデータセンターにおいては800GEネットワークへの更新が本格化してきており、光デバイスメーカーでの800GE向け光デバイスの生産増強が進展しています。ネットワーク機器メーカーにおいてはPCIe(Gen5/6)(*3)などのハイスピードバスの開発が進展しており、1.6TE向けの光デバイスの開発が始まっています。さらに、データセンターのグローバル接続として、新たな経路での光海底ケーブル敷設が、ハイパースケーラーによって進められています。加えて、オール光化を目指すIOWN(*4)の活動も活発化してきています。

PQA事業の分野においては、人手不足の影響から食品生産ラインの自動化投資が進んでおり、X線を用いた異物混入検査や包装品質検査など品質保証プロセスの自動化、省人化に係る需要が米国を中心に好調に推移しています。

このような環境のもと、当社グループの経営成績は次のとおりとなりました。

当期は、受注高は1,125億85百万円(前期比4.9%増)、売上収益は1,129億79百万円(前期比2.8%増)、営業利益は121億24百万円(前期比35.0%増)、税引前利益は127億37百万円(前期比28.0%増)、当期利益は92億59百万円(前期比20.7%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は92億57百万円(前期比20.6%増)となりました。

期末の受注残高は、336億91百万円(前期比2.8%減)であります。

    (*1)
    第7世代のWi-Fi規格、第6世代(Wi-Fi 6)の使用帯域幅160MHzを320MHzまで拡張し、高速化を実現
    (*2)
    3GPPで標準化される規格番号
    (*3)
    第5/第6世代のPCI Express規格(シリアル転送方式の拡張スロット用インターフェース規格)
    (*4)
    Innovative Optical and Wireless Networkの略で、IOWN Global Forumが検討を進めている、オール光ネットワークなど革新的技術を用いた新しい通信基盤

事業部門別概況

当期の事業部門別売上収益は次のとおりであります。

売上収益
前期比 %減
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構成比 %

(単位:

この事業部門は、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。

当期は、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要が好調に推移しましたが、通信事業者の基地局建設・保守用計測器への投資が低調であり、前期比で減収となりました。一方、プロダクト・ミックスの変化により収益性が改善しました。

この結果、売上収益は701億9百万円(前期比1.3%減)、営業利益は83億75百万円(前期比11.0%増)となりました。

売上収益
前期比 %増
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構成比 %

(単位:

この事業部門は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。

当期は、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要が好調に推移しました。米国において大手顧客のX線検査機需要を獲得したこと等により、前期比で増収増益となりました。

この結果、売上収益は282億41百万円(前期比11.3%増)、営業利益は28億36百万円(前期比119.0%増)となりました。

売上収益
前期比 %増
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構成比 %

(単位:

この事業部門は、EV/電池向け試験装置、ローカル5G向け支援サービス、道路やダム・河川等の映像監視用モニタリングソリューションの開発、製造、販売を行っています。

当期は、国内においてEV/電池向け試験需要が好調に推移し、前期比で増収増益となりました。

この結果、売上収益は85億45百万円(前期比14.9%増)、営業利益は9億円(前期比67.6%増)となりました。

売上収益
前期比 %減
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構成比 %

(単位:

その他の事業は、センシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等からなっております。

当期は、売上収益は60億81百万円(前期比0.9%減)、営業利益は14億56百万円(前期比79.7%増)となりました。

売上収益1,129億79百万円を地域別に見ますと、日本は363億78百万円(前期比6.3%増)、米州は281億29百万円(前期比8.6%増)、EMEA(欧州・中近東・アフリカ)は154億49百万円(前期比5.4%減)、アジア他は330億22百万円(前期比1.4%減)であり、当社グループ全売上収益に対する比率は日本32.2%、米州24.9%、EMEA13.7%、アジア他29.2%であります。

設備投資の状況

当期の設備投資は総額33億71百万円であり、主力の通信計測事業を中心に技術革新と販売競争に対処するための新製品開発と原価低減に向けた投資を継続しました。

資金調達の状況

当期において、新株式発行及び社債発行等の資金調達は行っておりません。

直前3事業年度の財産及び損益の状況

企業集団の財産及び損益の状況の推移
当社の財産及び損益の状況の推移

企業集団の財産及び損益の状況の推移

対処すべき課題

当社グループの主力である通信計測事業においては、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要が今後も拡大していくことが期待できます。また、モバイル市場においては、世界的なスマートフォンの出荷台数が回復してきており、AIを搭載した高機能スマートフォンの普及加速などによる測定需要の獲得を目指していきます。

PQA事業においては、新製品の投入を進めることで、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要を確実に捉え、売上拡大を目指していきます。また、医薬品市場に向けた新製品開発と、販売力の強化を推進していきます。

環境計測事業においては、堅調な推移が見込まれる国内のEV/電池向け試験需要を確実に捉えるとともに、海外市場への進出に取り組みます。

当社グループは、関係するあらゆるステークホルダーとともに持続可能で魅力的な未来を次世代に繋いでいくという思いを込めた、以下の経営理念・経営ビジョン・経営方針のもと、2030年度には安定した収益を上げる企業としての売上高2,000億円企業を目指してまいります。

① 経営理念・経営ビジョン・経営方針

当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。経営ビジョンには、グループ従業員等の一人ひとりが自ら挑戦し、新しい価値を社会に提供し続け、未来に向けて成長していく、という思いを込めています。

〔経営理念〕

「誠と和と意欲」をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する

〔経営ビジョン〕

「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ

〔経営方針〕
  • 克己心を持ち、「誠実」な取り組みにより人も組織も”日々是進化”を遂げる
  • 内外に敵を作らず協力関係を育み、「和」の精神で難題を解決する
  • 進取の気性に富み、ブレークスルーを生み出す「意欲」を持つ
  • ステークホルダーと共に人と地球にやさしい未来をつくり続ける「志」を持つ

② 中長期的な経営戦略及び中期経営計画GLP2026

当社グループは、主力の通信計測事業を軸に、情報通信サービスに関わるビジネスを展開しております。当社のコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術を更に掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えてまいります。

当社グループは、2024年4月に、新たな3ヶ年の中期経営計画GLP2026をスタートいたしました。GLP2026では、前中期経営計画GLP2023で育てた新しい芽を事業の柱へと成長させ、計画最終年度である2026年度に売上収益1,400億円、営業利益200億円、営業利益率14%を目指します。

GLP2026の3年間は、5Gから6Gへの移行期であり、2030年度に売上高2,000億円企業となるための重要なマイルストーンと位置付けております。

GLP2026では6Gと3つの新領域のビジネスを重点的に拡大します。3つの新領域のビジネスは“産業計測”(*1)と“EV/電池”そして“医薬品/医療”です。M&Aとオーガニックで、新領域ビジネスの成長を加速し、更には来るべき6Gビジネスの需要を確実に獲得するための準備をいたします。

(*1) 通信以外の産業向けに汎用計測器を拡販すること

③ コーポレートガバナンスの充実

当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレートガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などの従前からの取組みに加え、社外取締役比率50%以上を確保することにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレートガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。なお、当社は、前記の視点を明確にするため、「アンリツ株式会社 コーポレートガバナンス基本方針」を制定しており、当社ウェブサイト (https://www.anritsu.com/ja-jp)に掲載しております。

④ サステナビリティの推進

当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題の解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えています。当社のサステナビリティ経営の基本的な考え方を定めた「サステナビリティ方針」には、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の5つのP、すなわち、People、Planet、Prosperity、Peace、Partnershipの要素が包含されています。

〔サステナビリティ方針〕

私たちは「誠と和と意欲」をもってグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指します。

  • 長期ビジョンのもと事業活動を通じて、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献します。
  • 気候変動などの環境問題へ積極的に取り組み、人と地球にやさしい未来づくりに貢献します。
  • すべての人の人権を尊重し、多様な人財とともに個々人が成長し、健康で働きがいのある職場づくりに努めます。
  • 高い倫理観と強い責任感をもって公正で誠実な活動を行い、経営の透明性を維持して社会の信頼と期待に応える企業となります。
  • ステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、協力関係を育み、社会課題の解決に果敢に挑んでいきます。

当社グループは、この方針のもと、経営資源を最大限に活かして、活動を展開し、世界共通目標SDGsの実現に貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。

連結計算書類