事業報告(2024年4月1日から2025年3月31日まで)

事業の経過および成果〈全般の状況〉

当連結会計年度における世界経済は、地政学リスクに伴う不確実性が継続したものの、欧米諸国を中心とした金融政策の緩和にも支えられ、全体として底堅く推移しました。

このような世界経済情勢のもと、半導体市場は、前年度の調整局面から一転して回復傾向となりました。自動車や産業機器関連などの半導体は依然として軟調に推移したものの、データセンタ向けのHPCデバイスや高性能DRAMなど、AIの普及に関連する半導体需要が市場の伸びを牽引しました。

当社グループの半導体試験装置ビジネスにおいては、AI関連の高性能半導体向け需要が大幅に拡大しました。当社グループは、顧客の要求納期に最大限応えるべく、タイムリーな部材調達および製品供給能力の確保に努め、コア部品に対する既存サプライヤーとの長期契約やサプライチェーン複線化などの施策を通じた取り組みが奏功しました。

この結果、当連結会計年度における売上高は7,797億円(前年度比60.3%増)、営業利益は2,282億円(同2.8倍)、税引前利益は2,248億円(同2.9倍)、当期利益は1,612億円(同2.6倍)となりました。

高収益製品の販売比率上昇、円安による増収・増益効果などにより、いずれも連結会計年度における過去最高額を更新しました。なお、第4四半期にのれんおよび無形資産の一部減損損失(約214億円)を計上しております。当連結会計年度の平均為替レートは米ドルが153円(前年度143円)、ユーロが164円(同155円)、海外売上比率は98.0%(同95.9%)でした。

V93000テスト・システム EXA Scale

〈部門別の状況〉

半導体・部品テストシステム事業部門

売上高 5,981 億円
前年度比 80.4 %増
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当部門では、自動車や産業機器関連などの成熟半導体向け試験装置需要は軟調である一方で、半導体の複雑性の増加、HPCデバイスなどの性能向上を背景に、高性能SoC半導体用試験装置の売上が大幅に増加しました。メモリ半導体用試験装置については、HBMをはじめとする高性能DRAMに向けた旺盛な試験装置需要を背景に売上が大幅に伸長しました。当社グループの部材調達および製品供給能力の強化もこれらの売上増加を支えました。

以上により、当部門の売上高は5,981億円(前年度比80.4%増)、セグメント利益は2,440億円(同2.7倍)となりました。

T5833 メモリ・テスト・システム

メカトロニクス関連事業部門

売上高 732 億円
前年度比 38.9 %増
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当部門では、旺盛な半導体試験装置需要を背景に、関連するデバイス・インタフェースの売上が伸長しました。

以上により、当部門の売上高は732億円(前年度比38.9%増)、セグメント利益は168億円(同83.0%増)となりました。

サービス他部門

売上高 1,084 億円
前年度比 6.0 %増
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当部門では、当社グループ製品の設置台数の増加に伴いサポート・サービスの売上が伸長しました。しかしながら、テストソケットに関連するEssai, Inc.のビジネスにおいて、大口顧客向けの売上が低調に推移していることに加え、新規顧客への拡販が想定より遅延していることを踏まえ、のれんおよび無形資産の減損損失約214億円を計上しました。これらの結果、当セグメントは前年度を上回る損失となりました。なお、前年度のセグメント損失には、取引先との係争に関する受取和解金等による利益約32億円およびのれんの一部減損損失約90億円を含んでいます。

以上により、当部門の売上高は1,084億円(前年度比6.0%増)、セグメント損失は109億円(同81億円悪化)となりました。

部門別売上状況(連結)

財産および損益の状況

対処すべき課題

1.中長期経営方針
「グランドデザイン」

当社グループは、経営理念である「先端技術を先端で支える」を体現する会社であり続けるため、長期的にどうありたいか、そしてそのために何をなすべきかなどの当社グループの進むべき方向性を、2018年より中長期経営方針「グランドデザイン」として定めています。

2018年版の「グランドデザイン」のもとでは、第1期と第2期の二つの中期経営計画を推進し、当初の構想を超えた規模とスピードで当社グループの市場シェア向上、業容拡大、収益性改善を実現しました。

そして2024年、当社グループをさらに発展させるため、また当社グループが顧客や社会にとって価値ある存在であり続けるため、「グランドデザイン」をそれまでの経営・事業体制の変化や当時最新の長期事業環境見通しを踏まえた内容へ改定しました。

当社グループは今後、この改定版「グランドデザイン」に則り、ステークホルダーへの提供価値の拡大とそれを支える経営基盤の強化に努めてまいります。

<ビジョン・ステートメント>

「半導体バリューチェーンで最も信頼され、最も価値あるテスト・ソリューション・カンパニーへ」
(Be the most trusted and valued test solution company in the semiconductor value chain)

当社グループは、提供価値の拡大を通じ、すべてのステークホルダーから半導体バリューチェーンで最も信頼され、最も価値あるテスト・ソリューション・カンパニーとなることを目指します。

<長期事業環境認識と対処すべき課題>

マクロ的な事業環境における将来の不確実性は、今後も高い状態が継続すると予想されます。気候変動、地政学的リスク、人口動態の変化など、世界を取り巻く問題はより深刻化しており、社会課題の複雑化が飛躍的に進んでいます。

一方で、AIに代表される、これら社会課題を解決するためのイノベーションが多様な産業でダイナミックに進行しています。それに呼応し、社会的イノベーションの基盤となる半導体に対しては、さらなる性能改善と経済合理性確保に向けた企業間・地域間連携の拡大や、域内供給体制の強化などが今後見込まれます。これらに沿い、半導体バリューチェーンは、その複雑さをさらに増しつつ、中長期的な発展を遂げていくと想定しています。

さらに半導体テストの技術的な潮流について展望すると、さらなる微細化、新アーキテクチャーの採用、先端パッケージの採用など、半導体の高性能化とエネルギー効率向上を実現するための技術進化が、半導体テストの複雑性を今後も持続的に引き上げていく見通しです。とりわけ、今後の半導体市場の最大の成長牽引役と予想されるAIやHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)関連の半導体において、テストの複雑性は一層顕著となると目しています。

このように複雑性の進行が業界のキートレンドとなる中、半導体テスト関連市場は、顧客のテスト能力増強投資を通じ、中長期的な市場成長を遂げると予想しています。また今後のテスト・ソリューションにおいては、半導体の品質保証プロセスにおける効率性向上をもたらす、より高度な自動化が望まれる方向と分析しています。こうした潮流下、当社グループは、より性能に優れる製品の開発・販売に加え、それら製品群を発展・統合した新たなソリューションやサービスの提供がさらなる成長機会となると見込んでおり、その機会の具体化を今後の中長期成長施策の基軸とする方針です。また業界全体が複雑化する中にあっては、当社グループ自身においても効率が重要であり、経営および事業全般にわたってさまざまな効率性の向上に取り組みます。

<経営における長期的目標>

半導体は、サステナブルな社会の実現や多様な産業の発展に向けて今後も不可欠な存在とされています。そして現在の当社グループにおけるほぼすべての事業は、より性能に優れた半導体の実現と普及に深く結びつくものとなっています。このことから当社グループが経営理念に基づき、先端の技術開発を通じてより良い半導体の開発と普及に寄与していくことは、自社の持続的な成長のみならず、さらなる「安全・安心・心地よい」社会実現に向けても直接的に貢献する行為であり続けると考えます。

この考えに基づき、今後当社グループは、先述のテストの複雑化への対応などを含めた顧客課題の解決を軸としながらサステナブルな社会実現につながる取り組みを推進し、それを通じて各ステークホルダーに対して提供する経済的・社会的価値を多面的かつバランスよく拡大することを、経営における長期的な目標とします。

2.第3期中期経営計画(MTP3、2024~2026年度)の概要

半導体テスト関連市場は、短期的なダウンサイクルを織り込みつつも、中長期的に成長を続けると見込んでいます。また半導体市場の拡大に加え、半導体の複雑性への対応が業界における構造課題となる中で、当社グループの事業機会は中長期的に拡大するものと考えています。

そうした環境下、当社グループは、改定版「グランドデザイン」に則り策定した第3期中期経営計画を推進することで、中長期的なステークホルダーへの提供価値拡大に取り組みます。

<戦略>
1. Outpace the growth in our core market (コア市場の成長率を上回る成長実現)

当社グループの今後のコア市場においては、半導体の生産量増加、半導体の高性能化、そして半導体の複雑性進行への対応が重要な成長機会となると想定しています。これに対しては、個々のテスト・ソリューションの性能向上に加え、顧客に“Automation of Test”、すなわち半導体テストの効率性向上をもたらす新たな価値を、当社グループが擁する多様な製品・ソリューション群の有機的な結合や社外パートナーとの連携などを通じて創造します。これらにより、市場成長率を上回る事業成長を引き続き実現することを目指します。

2. Expand adjacently / new businesses (近縁市場・新規事業領域への展開)

半導体の高性能化や複雑性が進行する中では、より広く、統合されたテスト・ソリューションが望まれます。当社グループはこれまでもシステムレベルテストやテスト周辺機器への事業展開を進めてきましたが、今後もこのアプローチを継続することで顧客への提供価値をさらに拡大します。具体的には、当社製品のインストールベースを活用したフィールド・サービスやAdvantest Cloud SolutionsTMの販促に取り組むほか、Applied Research & Venture Teamによる事業機会創生にも挑戦します。

3. Drive operational excellence (オペレーショナル・エクセレンスへの取り組みを推進)

当社グループは、技術、ノウハウ、リソースの活用を部門横断的に進めることで、半導体業界におけるテスト課題を解決していきます。また、当社グループのステークホルダーすべてにとって価値がある企業となるためには、製品や技術面の優秀さだけではなく、あらゆるオペレーションの効率性と効果性を高めていく必要があると認識しています。それに向け、DXを通じた社内オペレーションの迅速化と省人化、強靭なサプライチェーンの構築、有能人材の登用や社員教育の拡充などによる人的資本強化、AIやデータ・アナリティクスを活用した社内生産性向上などに取り組みます。

4. Enhance sustainability (サステナビリティの取り組み強化)

気候変動や人権問題をはじめとするサステナビリティ課題に対する能動的かつ積極的なアクション、法令遵守や企業倫理の徹底を含めた責任ある事業活動の遂行、リスクマネジメントの強化やコーポレートガバナンスの高度化などを通じて企業価値向上基盤をさらに強化するとともに、各ステークホルダーからより厚い信頼を得られるよう努めます。またサステナビリティに関する取り組みの推進にあたっては、その根源となるものは企業内の共通カルチャーや価値観であることから、これらの醸成と浸透にも努めます。

<経営指標>

MTP3では、上記の4つの戦略を通じて収益拡大、収益性改善、資本効率向上を図ることで、企業価値の向上に取り組みます。これに沿い、MTP3において重視する経営指標を売上高、営業利益率、当期利益、投下資本利益率(ROIC)、基本的1株当たり当期利益(EPS)とし、これらの向上に努めます。なお各指標の進捗を中長期視点で評価するため、経営指標には市場変動の影響を平準化できる3か年平均の値を用います。MTP3の初年度にあたる2024年度は、すべての経営指標において目標値を超過しました。

<コスト・利益構造>

優れたテスト・ソリューションの開発と販売促進、サプライチェーンマネジメントや製造オペレーションの最適化などを通じ、売上総利益率の改善に取り組みます。また研究開発投資や人的資本強化投資など、持続的な価値創造の源泉となる費用については積極的に投下する一方、DX化などの経営効率や業務生産性を高める施策を展開することで収益構造の継続的な改善に努めます。他方で、世界経済や当社の市場環境における将来の不確実性は高い状態にあります。環境変化に即した機動的な財務マネジメントを遂行していくことで、上記経営目標の達成に努めます。

<資本政策、株主還元>

資本政策として、研究開発、設備増強、M&A等の成長に向けた事業投資を優先します。半導体市場の長期的拡大と半導体のさらなる高性能化に即して当社グループの将来キャッシュ創出力が拡大するよう、MTP3期間中に予想される累計6,000億円以上の営業キャッシュ・フロー(研究開発費控除前)を、中核事業におけるオーガニック成長投資ないしノン・オーガニック成長投資、および近縁市場への事業展開の加速に振り向けます。また、資本効率と資本コストに配慮したバランスシート管理の見地から負債(デット)も柔軟に活用してまいります。さらに経営基盤の強化および持続的企業価値創造のために財務健全性を維持した上で適正な資本構成を図る方針であります。

2024年4月から開始したMTP3の3年間における株主還元方針は、安定した事業環境を前提として、配当については1株当たり通期30円を最低限とする方針のもと、安定的・継続的な配当実施に努めてまいります。総還元性向(※)に関しては、MTP3期間の3年間合計で 50%以上を目途といたします。また手元現金水準については、平時における目安を1,000~1,200億円と見積っています。成長投資や運転資本への資金需要を超えて余裕資金が生じる場合は、配当や自己株式取得を通じて株主の皆さまに還元します。

(※)総還元性向:(配当額+自己株式取得額)÷連結当期利益

3.今後の見通し

今後の当社グループを取り巻く事業環境を展望しますと、暦年2025年の半導体市場は、前年に引き続きAI関連向け半導体需要が牽引するものと見ています。半導体試験装置市場においても、自動車や産業機器向けなどのAI関連用途以外の需要回復にはなお時間を要するものの、半導体の複雑化および生産拡大を背景に、AI関連向け試験装置需要は引き続き高水準に推移するものと見込んでいます。AIに関連した半導体に参入する企業の増加も、この需要に寄与するものと考えます。

一方で世界経済を俯瞰しますと、継続する地政学リスク、急激な為替変動リスクなど、当社グループを取り巻く事業環境は先行きの不透明感が強まっています。

これらの見通しを踏まえ、2025年度の通期連結業績予想については売上高7,550億円、営業利益2,420億円、税引前利益2,400億円、当期利益1,790億円を予想しています。予想の前提とした為替レートは、米ドルが140円、ユーロが155円です。

なお現時点では、関税措置による当社グループ事業および業績への直接的な影響は軽微であると認識しています。しかしながら、当社グループを取り巻く事業環境は不確実性を増しており、依然として予断を許さない状況にあると捉えております。

当社グループは、外部環境の変化に絶えず注意を払い、機敏かつ柔軟に対応するとともに、引き続きMTP3で掲げた施策を推し進めることで中長期的なステークホルダーへの提供価値拡大に取り組んでまいります。

連結計算書類