事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)

事業の経過およびその成果

当期の世界経済は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が徐々に縮小し全体としては回復基調となりました。一方、ロシア・ウクライナ情勢をめぐる混乱の長期化、エネルギーコスト上昇などに伴うインフレの進行や各国の金利政策に伴う急激な為替の変動、米国および欧州での金融不安など、依然として不安定な状況が続いております。

このような経営環境のなか、当社グループでは中期経営ビジョン「STEP」の重点取り組みである「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUらしさの進化」の3つの項目について、改革を着実に推し進めてまいりました。また、収益確保に向けても、1台でも多くのクルマを生産しお客様にお届けするべく全社一丸での活動を進めるとともに、価格政策および売上構成の改善、コストの圧縮などバリューチェーン全体で様々な取り組みを推進してまいりました。

インプレッサ

当期の連結決算は、自動車売上台数の増加、価格政策および売上構成の改善ならびに為替変動による増収効果により、売上収益は3兆7,745億円と前期に比べ1兆299億円(37.5%)の増収となりました。

利益面についても、原材料価格の高騰および諸経費等の増加があったものの、売上収益の増加により、営業利益は2,675億円と前期に比べ1,770億円(195.7%)の増益、税引前利益は2,784億円と前期に比べ1,714億円(160.2%)の増益、親会社の所有者に帰属する当期利益は2,004億円と前期に比べ1,304億円(186.3%)の増益となりました。

クロストレック

事業別の概況

売上高
前期比 %増
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当社の重点市場である米国の自動車全体需要は前年並みの約1,420万台となりました。また、国内の自動車全体需要は約435万台と前期を約4%上回る結果となりました。

このような事業環境のなか、半導体の供給不足などによる生産制約が年間を通じてあったものの、柔軟に生産計画を調整するなど影響の最小化に努めたことにより、当期における生産台数は前期に比べ14.7万台(20.3%)の増加となりました。

重点市場である米国を中心にSUBARU車の需要は強く、売上台数は堅調に推移し、海外は75.3万台と前期に比べ10.8万台(16.8%)の増加、国内は10.0万台と前期に比べ1.0万台(11.4%)の増加となりました。その結果、海外と国内の売上台数の合計は85.2万台と前期に比べ11.8万台(16.1%)の増加となりました。

売上収益は、前述のとおり為替の変動や自動車売上台数の増加、価格政策および売上構成の改善などにより、3兆6,906億円と前期に比べ1兆131億円(37.8%)の増収となりました。またセグメント利益は、原材料価格の高騰および諸経費等の増加があったものの、売上収益の増加により、2,633億円と前期に比べ1,707億円(184.5%)の増益となりました。

フォレスター
アウトバック
事業別
売上高構成比
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売上高
前期比 %増
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「ボーイング777」などの引き渡しならびに哨戒機「P-1」および輸送機「C-2」向けの生産が増加したことなどにより、売上収益は790億円と前期に比べ167億円(26.9%)の増収となりました。セグメント損失は21億円となり、前期に比べ49億円(70.3%)改善しました。

コロナ禍による影響を受けた航空宇宙事業ですが、引き続き構造改革を継続するとともに、民間航空機需要の回復や防衛力整備計画の策定、堅調なUH-2/SUBARU BELL 412EPXの受注状況をふまえ、防需・民需に加えヘリコプターの三本柱で成長を図っていきます。

陸上自衛隊多用途ヘリコプター「UH-2」

事業別
売上高構成比
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売上高
前期比 %増
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売上収益は49億円と前期に比べ1億円(2.8%)の増収となりました。セグメント利益は63億円と前期に比べ15億円(30.9%)の増益となりました。

事業別
売上高構成比
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(注) 企業集団の内部売上収益は除いております。

対処すべき課題

当社は、企業指針を以下のとおりと定めております。

<ありたい姿、提供価値、経営理念>

経営理念は、『"お客様第一"を基軸に「存在感と魅力ある企業」を目指す』です。これは2011年に定めたものです。

当社グループが、お客様に提供する価値は、『安心と愉しさ』です。これも上記の経営理念と同時期に定めたものですが、時代や外部環境の変化に左右されない「SUBARUらしさ」を深化させ、SUBARUブランドをさらに高めていくためには必須のものと認識しております。

ありたい姿は『笑顔をつくる会社』です。これは2017年に株式会社SUBARUへ社名変更した際に公表したものですが、SUBARUのお客様の振る舞いから教えられたことでもあります。

これらに基づいて、SUBARUを自動車事業と航空宇宙事業におけるグローバルブランドとして持続的に成長させ、中長期的な企業価値を向上させてまいります。

中期経営ビジョン「STEP」

自動車業界が大変革期にあるなか、変化を見極めスピード感をもって対応していくことが必要です。当社グループは「安心と愉しさ」の提供を通じてお客様から共感され信頼していただける存在となることを目指し、2018年7月に中期経営ビジョン「STEP」を公表し、2025年ビジョンとして次の3つの項目を掲げております。

<2025年ビジョン>
  • 1.個性を磨き上げ、
    お客様にとってDifferentな存在になる
  • 2.お客様一人一人が主役の、
    心に響く事業活動を展開する
  • 3.多様化する社会ニーズに貢献し、
    企業としての社会的責任を果たす

2025年ビジョンの実現に向けて「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUらしさの進化」を重点取り組みとして活動を進めてまいりました。2018年の発表から約5年が経過いたしましたが、これらの重点取り組みは、着実に進捗しております。

「組織風土改革」については、「個の成長」に焦点を当てた活動を推進し、従業員一人ひとりが成長や働きがいを実感できるよう、エンゲージメントを高めるフェーズへ移行しております。

「品質改革」では、品質の高さをSUBARUブランドの大事な根幹、付加価値の源泉であると位置づけております。新技術への対応を含め、その取り組み結果を実績で示すフェーズとして改革を進めております。

「SUBARUらしさの進化」については、2020年1月の技術ミーティングにおいて発表いたしました「死亡交通事故ゼロ※1」と「脱炭素社会への貢献」に向け、「安心と愉しさ」を支える技術をより一層進化させます。さらに、当社の強みであるAWD(全輪駆動)の制御ノウハウをモーター制御にも活用するなど、電動化の時代においても「SUBARUらしさ」を強化していきます。

これらの取り組みを通じて「個性を磨き上げお客様にとってDifferentな存在になる」ことを目指し、SUBARUとお客様との深い関係をさらに深化させてまいります。

このお客様との深い関係性は、SUBARUブランドの財産であり、失われないようにしていかなければなりません。

お客様の生活に寄り添い、お客様とともに「愉しく持続可能な社会の実現」に向けて取り組んでまいります。そして、人、社会、地球までをも笑顔にしたい、そのようなSUBARUでありたいとの想いから、「笑顔をつくる会社」をありたい姿としております。

※1:SUBARU乗車中の死亡事故およびSUBARUとの衝突による歩行者・自転車などの死亡事故をゼロに

① 事業継続計画(BCP)への対応

自動車事業においては、2020年後半から顕在化した世界的な半導体不足の影響を受け、当社グループでも工場の操業を停止するなどの生産調整を余儀なくされました。現時点では、サプライチェーンマネジメントの体制強化、代替品への切り替え促進、商品の仕様の見直しや車種および工場間における部品の振り替えなどの全社にまたがった活動により、生産台数も回復傾向にあります。しかしながら、半導体を含むお取引様から調達している部品の一部において、いまだ供給リスクが残存しているものもあり、重大な経営リスクとして捉えております。引き続き、調達および製造部門を中心とした全社一丸の取り組みを強力に進め、1台でも多く、1日でも早くお客様へ商品を提供することを目指してまいります。

また、鋼材などの原材料価格や製造にかかるエネルギー価格の高騰による収益性の悪化についても課題と捉えており、収益確保に向けた取り組みを遅滞なく進めていきます。

ロシア・ウクライナ情勢に関する当社グループへの影響については、当該地域での現地生産を行っておらず、販売規模も極めて小さいことから現時点では限定的と見込んでおります。その他の地政学的リスクなども含め、引き続き状況を注視してまいります。

そのほか、近年世界的に増加しているサイバー攻撃はサプライチェーン全体の脅威となっており、部品供給の停止や工場の操業停止に発展するリスクを有するほか、販売店を含む当社グループが保有する個人情報の漏洩リスクも抱えております。当社グループのみならずお取引先様を含めたサイバーセキュリティ対策の底上げを図っております。

航空宇宙事業においては、原材料価格高騰による収益性の悪化やサプライチェーンにおける供給課題などのリスクに対し、組織改編を含め、ロジスティクス機能やサプライチェーンマネジメントの強化を進めています。

② 中期経営ビジョン「STEP」の推進

当社は、2018年7月に発表した中期経営ビジョン「STEP」の進捗報告を2021年5月に行いました。
重点取り組みとした「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUらしさの進化」のこれまでの実績と今後の取り組みの方向性は以下のとおりです。

(組織風土改革)

当期も「意識を変え、行動を変え、会社を変える」を継続して合言葉に掲げ、全社で活動を推進してまいりました。具体的には、前期に引き続き「社長対話会」や異業種の他企業経営層リーダーを招いた当社マネジメント層との「社外対話会」を実施することなどにより、マネジメント層の意識変革から全従業員への意識・行動改革へ波及させる取り組みを進めてまいりました。また、当期は新たに「Team-Window」という活動をスタートいたしました。これは各部門の代表として選ばれた一般従業員のメンバーが定期的に集合し、経営方針や他部門の情報などその時々の主要なトピックスについて説明を受け理解した後に、自らの職場に戻りメンバーそれぞれの言葉で情報を展開することで、会社の主要な情報の理解・浸透を図ることを目的としております。従来のマネジメントラインでの情報展開に加え、部門の代表として選ばれたメンバーが横のラインから解りやすく自部門内に情報共有を行うことで、より一層の情報理解の深化を図り、従業員一人ひとりの意識・行動の変革につなげております。

その他にも、ITツールなどを活用した部門や職位を越えた全社横断的なコミュニケーションも自発的、継続的に行われており、組織の活性化の一助となっています。

加えて、「新人事制度」や「公募型ジョブローテーション」などの運用も継続して推進し、従業員が自らのキャリアビジョンを実現するためにチャレンジできる仕組みのさらなる浸透も図っております。

今後も「個の成長」をさらに強化し、仕事の成果や達成感を通じて従業員エンゲージメントを高め、「組織の成長」につなげてまいります。

(品質改革)

2018年より着手している品質改革は、以下の3つの切り口で活動を推進してまいりました。

1つ目は「品質最優先の意識の徹底と体制強化」です。実際に発生した不具合事例や再発防止策などを紹介する「品質キャラバン」を継続して実施するなど、全社での品質意識を高める啓発活動や振り返り活動を継続的に行うことで、従業員一人ひとりの品質に対する意識のさらなる向上を図っております。

2つ目は、製品の量産における不具合の流出を防止する「つくりの品質の改革」です。これには市場で発生した不具合に対して、迅速な解決策を講じる取り組みも含まれております。当期はこれまでに引き続き品質改善チームの体制強化、「品証ラボ」設備拡充による不具合調査能力の向上、部品トレーサビリティの範囲拡大など、設備や体制の構築により改善スピードの向上を図ってまいりました。また、2022年8月からは、より厳格な完成検査を実施するための「新完成検査棟」が稼働いたしました。今後も生産ラインごとに順次稼働していく予定です。

3つ目は、初期の検討段階からお取引先様も含めた新型車開発上流からの「生まれの品質の改革」です。開発責任者の権限を強化し、開発の最上流から生産・物流まで一貫した品質確保に取り組んでまいりました。

これらの取り組みにより、市場処置の件数や台数、品質関連にかかる総費用は着実に減少しております。また、2023年には上記の3つの品質改革活動を織り込んだ新型「クロストレック」を市場に導入しました。当社グループは今後も品質改革の手を緩めることなくステップアップさせ、加速する電動化をはじめとした変化の時代においても、お客様が笑顔になっていただける品質の実現を追求し続けてまいります。

(SUBARUらしさの進化)

「2030年死亡交通事故ゼロを目指す」「個性と技術革新で脱炭素社会へ貢献していく」ことを実現するために、当社の提供価値である「安心と愉しさ」を支える技術を強化してまいります。

死亡交通事故ゼロに向けては2020年に市場導入した高度運転支援システム「アイサイトX」に続き、2022年にはアイサイトの認識能力を強化する「広角単眼カメラ」を北米市場向け「アウトバック」、国内市場向け新型「クロストレック」「インプレッサ」に採用し、予防安全機能を強化しました。当社は運転支援システムをさらに高度化させることにより事故を回避・軽減させ、自車起因の交通事故を減らします。また、他車起因による事故に対してもAACN※2などの技術を加えることにより、死亡交通事故ゼロへ向けた取り組みを強力に進めていきます。

脱炭素社会への貢献に向けては、2022年5月に公表した2025年付近に開始予定の矢島工場でのBEV※3の自社生産について、規制動向やマーケットの動きに合わせ、より柔軟に対応できる生産体制を構築することで、矢島工場のBEV生産キャパシティを当初計画の年間10万台から、2026年頃を目途に20万台へ引き上げられるよう準備を進めております。これにより2028年以降のBEV生産キャパシティは新規に立ち上げる大泉工場と合わせて40万台規模を見込みます。

また、2026年時点にグローバルで20万台のBEV販売を目指しております。2022年に市場導入した「SOLTERRA(ソルテラ)」に加え、今後新たに3車種のBEVをSUVカテゴリーに投入することで、当社が強みとしているSUVラインアップを充実させてまいります。

※2:Advanced Automatic Collision Notification
(先進事故自動通報システム)

※3:Battery Electric Vehicle(電気自動車)

今後の激しい変化に対応しつつ、将来にわたって市場競争力をもったSUBARUらしい商品を実現するべく、より全社最適な視座を有する開発体制への転換を図ってまいりました。2023年4月から、CTO※4およびCTO室を技術本部から独立させ、実務から適度に距離をおいた環境で、かつ、より経営に近い立場で技術戦略の構築を目指すとともに、将来技術に留まらず、製造・調達をはじめとするものづくり全般の戦略企画を行ってまいります。

※4:Chief Technology Officer

③ アライアンスの深化

自動車業界を取り巻くイノベーションは加速しており、いわゆる「CASE※5」領域での対応が求められております。

トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という)と電動化技術、コネクテッド領域、自動運転領域などの分野で協業を深化・拡大させることを通じて、変化へ柔軟に対応してまいります。

具体的な取り組みとして、両社の強みを持ち寄りつくり上げた「SOLTERRA」の市場導入を行ったほか、2025年にはトヨタハイブリッドシステムを採用した「次世代e-BOXER」を搭載する車両の生産を開始するべく着実に準備を進めております。

また、内燃機関の活用の選択肢を広げる挑戦として、カーボンニュートラル燃料を使用したレース車両で「スーパー耐久シリーズ」に2022年シーズンより参戦しています。トヨタと協調し、かつ、競いながら、「モータースポーツを基点としたもっといいクルマづくり」を進めるとともに、エンジニアの育成やカーボンニュートラル社会の実現を目指す活動に取り組んでおります。

※5:Connected(コネクテッド)
Autonomous(自動運転)
Shared(シェアリング)
Electric(電動化)

連結計算書類