事業報告(2024年4月1日~2025年3月31日)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過及び成果

当社グループは主に国内の総合病院等の顧客向けに心臓領域を中心とする医療機器事業を展開しております。日本の医療需要は、人口の高齢化に伴い増加しており、今後もそのトレンドは継続することが予想されております。一方、医療供給はひっ迫しており、各種医療サービスの持続可能性が懸念されております。国は、現行の医療システムが医療従事者の慢性的な長時間労働に依存している状況を改善するため、「医師の働き方改革」を推進しております。

このような状況において、医療機器業界で厳しい競争に勝ち残るには、単に治療効果の高い製品を提供するだけでなく、持続可能な医療を実現するための様々な課題の解決にも貢献していく必要があります。当社グループは、メーカーと商社の2つの機能を併せ持つ強みを活かし、柔軟で強固なプロダクト・ポートフォリオを構築することで、これに取り組んでおります。

当連結会計年度における業績は、売上高は前期比10.2%増加、売上総利益は同10.3%増加、営業利益は同13.2%増加、親会社株主に帰属する当期純利益は同24.0%増加となりました。2024年6月の保険償還価格の改定により、販売単価は幅広い品目で下落しましたが、中期経営計画(2024年3月期から2028年3月期までの5年間)の重点施策として掲げた中核事業における「競争力ある製品の継続的導入」と成長事業における「新領域の拡大」が想定以上に順調に進みました。その結果、売上高及び各段階利益はいずれも通期ベースで過去最高となり、二桁増収・二桁増益を達成しました。

中核事業については、EP/アブレーションでは、心房細動のアブレーション症例数が前期比で10%程度増加しました。これを背景に、コア製品である心腔内除細動カテーテルは、新規参入してきた他社との競争の影響がありつつも前期比で8.7%増収となりました。中期で成長ドライバーと位置付けている大腿静脈用止血デバイスも、上市後1年で取扱い施設数を全国のアブレーション施設の約半数にまで拡げ、極めて良好なスタートを切りました。心血管関連では、コア製品のFrozen Elephant Trunkで製品ラインナップの充実を図り、自社の支配的なシェアを維持しつつ、市場の成長を取り込みました。

「新領域の拡大」では、脳血管関連及び消化器ともに新製品の上市が概ね計画通りに進み、各製品の収益への寄与も想定以上となりました。その結果、脳血管関連は前期比で101.9%増収、消化器(終了事業であるコロナリー・インターベンションを除く)は同45.3%増収となりました。

販売費及び一般管理費は、前期比で1,769百万円増加しました。主な増加要因は、人件費や不整脈治療の新しいテクノロジーであるPFA(パルス・フィールド・アブレーション)に関連する研究開発費等の増加です。当連結会計年度においては、第1四半期連結会計期間に計上した貸倒引当金繰入額等の一過性のコスト増もありました。これらの費用の増加は、好調な販売による利益の増加でカバーできており、当連結会計年度の営業利益は前期比で1,434百万円増加し、営業利益率は21.8%となりました。

外部環境の変化については、為替相場のボラティリティが高い状況が続いておりますが、当社の業績への影響は限定的でした。当社の商品仕入の約75%は円建てであり、売上原価の計算に移動平均法を用いているため、一時的な調達コストの上昇の影響は長期間にわたって平準化されます。

当連結会計年度の業績の詳細は以下のとおりです。

① 売上高

売上高は56,610百万円(前期比+10.2%)となりました。詳細は後段の「品目別売上高」に記載しております。

② 売上総利益

売上総利益は34,191百万円(前期比+10.3%)となりました。保険償還価格の改定に伴い、販売単価は多くの品目で下落しましたが、中核事業と成長事業の新領域が総じて好調に推移し、販売数量が増加したことでその影響をカバーしました。
売上総利益率は、60.4%(前期比+0.1pt)となりました。EP/アブレーションにおける大腿静脈用止血デバイスや脳血管領域の仕入商品の販売拡大により、自社製品比率は57.4%(前期比△1.4pt)となりました。一方、製造原価の低減や、在庫の廃棄損・評価損の減少などがあったため、マージン悪化の影響は吸収されました。

③ 営業利益

営業利益は12,326百万円(前期比+13.2%)、営業利益率は21.8%(前期比+0.6pt)となりました。販売費及び一般管理費は、1,769百万円増加しました。主な増加要因は以下のとおりです。

  • ●PFAシステムの開発に係る研究開発費の増加
  • ●給与水準の引き上げによる人件費の増加
  • ●旅費交通費や広告宣伝費等の販売関連費の増加
  • ●新基幹システム等に係るIT関連費や減価償却費の増加
  • ●取引先の手形取引停止処分による貸倒引当金繰入の増加

④ 経常利益

経常利益は12,335百万円(前期比+16.6%)となりました。営業外収益として、受取利息や受取配当金などで336百万円を計上しました。営業外費用として、投資有価証券評価損や自己株式の公開買付けに伴う支払手数料などで327百万円を計上しました。

⑤ 親会社株主に帰属する当期純利益

親会社株主に帰属する当期純利益は9,317百万円(前期比+24.0%)となりました。特別損失としては、362百万円を計上しております。主な内訳は第4四半期連結会計期間に発生した内視鏡レーザーバルーンのコンソールに係る固定資産除却損であります。税金費用については、投資有価証券の評価損に係る一時差異が予測可能な期間内に解消する可能性が高くなったことにより、繰延税金資産351百万円を計上したこと、税額控除額が増加したこと等により、税金費用が減少しました。

(品目別売上高)

(注)当連結会計年度より、従来の「心血管関連」に含まれていた「脳血管関連」を独立した新区分に変更しております。前連結会計年度との比較は、変更後の区分に組み替えた数値で算出しております。
また、「心血管関連」の主たる商品に記載していた「オープンステントグラフト」は、「Frozen Elephant Trunk」に名称を変更しております。

事業区分別の概況

リズムディバイス

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リズムディバイスの売上高は、13,267百万円(前期比△1.7%)となりました。当品目区分は、他区分と比較しても保険償還価格の改定による販売単価下落の影響を大きく受けました。ペースメーカについては、他社のリードレスペースメーカが新規植込み症例においてシェアを拡大した影響を受け、販売は低調に推移しました。一方、コア製品であるS-ICDは、医師向けの手技トレーニング企画等の販促が奏功し、売上高は二桁成長と好調に推移しました。

EP/アブレーション

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EP/アブレーションの売上高は、27,845百万円(前期比+14.8%)となり、通期ベースで過去最高を更新しました。心房細動のアブレーション症例数が前期比10%程度増加したことを背景に、コア製品の心腔内除細動カテーテルは、他社との競争がありつつも前期比で8.7%増収となりました。前連結会計年度に導入した大腿静脈用止血デバイスも、全国のアブレーション施設の約半数に相当する400施設程度にまで採用施設数を拡げ、好発進となりました。一方、第3四半期連結会計期間からPFAを用いた新しい治療の浸透が加速しており、PFAの治療下では不要となる食道温モニタリングカテーテルや一部のEPカテーテルが軟調に推移しました。

心血管関連

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心血管関連の売上高は、12,206百万円(前期比+7.0%)となり、通期ベースで過去最高を更新しました。コア製品のFrozen Elephant Trunk(FET)は、市場のトレンドとなっている人工血管一体型の製品の販売に注力し、不足していたサイズラインナップの拡充も行いました。その結果、他社と競争がある中でも90%以上のシェアを維持し、FETは前期比で9.6%の増収となりました。また、人工血管、腹部用ステントグラフト、心房中隔欠損閉鎖器具などの他の製品も、堅調に推移しました。

脳血管関連

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脳血管関連の売上高は、1,842百万円(前期比+101.9%)となりました。塞栓用コイル 及び血栓吸引カテーテルは、継続的に製品ラインナップの拡充を行うことで顧客への訴求力を高め、市場への浸透が進みました。さらに、第2四半期連結会計期間に上市したステントリトリーバーも、血栓吸引カテーテルと併用されることから販売面でのシナジーがあり、収益に寄与しました。

消化器

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消化器の売上高は、1,448百万円(前期比+10.2%)となりました。前連結会計年度で終了したコロナリー・インターベンション事業を除いたベースでの売上高は1,345百万円(前期比+45.3%)となりました。注力している胆膵領域では、主力製品の胆管チューブステントがシェアを拡大したほか、胆管拡張バルーン、造影カニューラ、ダブルルーメンダイレータ等の特長ある自社製品を上市しました。また、販売リソースの効率化を進めるべく、ノンコアである肝臓領域の肝癌治療用ラジオ波焼灼電極針は、他社に販売委託することを決定しました。これに伴う在庫の一括納入が第4四半期連結会計期間にあり、同製品は前期比で大幅な増収となりました。

企業集団の財産及び損益の状況の推移

(注) 1株当たり当期純利益は期中平均株式数により算出しております。

対処すべき課題

①中期経営計画への取り組み

当社は「最新最適な医療機器を通じて健康社会の実現に貢献する」ことをMissionに掲げております。商社として海外メーカーの新規性の高い医療機器を国内に導入するとともに、メーカーとして医療現場のニーズを反映した医療機器を開発・製造するというユニークなビジネスモデルを活かし、Missionの実現に向けて取り組んでおります。
2023年5月に公表した中期経営計画(2024年3月期~2028年3月期)に関して、計画の2期目にあたる2025年3月期を終え、業績の順調な進捗状況と重点施策の取り組み状況を踏まえ、今後の中期的な展望について見直した結果、中期経営計画の最終年度である2028年3月期に当初の数値目標を上回る公算が高くなったことから、各数値目標を上方修正することといたしました。

* 旧数値目標においては脳血管及び消化器領域、新数値目標においては脳血管、消化器及び構造的心疾患領域

これらの数値目標を達成するために、当初の3つの重点施策に新たな戦略を加え、次の4つの重点施策に取り組んでまいります。

1.新領域の拡大

当社は今後の市場成長が期待でき、また、心臓血管領域で培った知見や技術を活かすことができる脳血管、消化器及び構造的心疾患領域を新領域と位置付けております。2028年3月期においてこれらの領域で110億円の売上を目指しており、新たな収益の柱として成長させてまいります。
脳血管領域においては、2022年にWallaby Medical社と脳血管内治療デバイス11品目の日本国内における独占販売契約を締結しております。脳動脈瘤治療の塞栓用コイルで市場参入し、当連結会計年度は脳梗塞治療のステントリトリーバーの販売を開始いたしました。これにより、前連結会計年度に上市した血栓吸引カテーテルを合わせて対象疾患の一つである脳梗塞治療の主要デバイスが揃ったことから脳血管領域における成長を加速させてまいります。
消化器領域では、2017年以降、心臓血管領域で確立した自社特有の技術を活用して複数の製品を上市してまいりました。カテーテルの高機能シャフト製造技術を応用した胆管チューブステントは医療現場で高い評価を受け、販売が拡大しております。当連結会計年度は胆管拡張バルーンやダブルルーメンダイレータなどの自社技術を活かした製品を市場に投入しており、消化器領域での当社ブランドのさらなる浸透に取り組んでまいります。
当初の中期経営計画にはなかった新たな重点施策として、経カテーテル生体弁(TAVI)で構造的心疾患領域へ参入いたします。経カテーテル生体弁は、市場規模が大きく成長が見込まれるため、同製品を市場に投入することで構造的心疾患領域における当社のプレゼンスを上げてまいります。

2.競争力のある製品の継続的導入

当社を取り巻く事業環境は、医療費抑制を目的とした保険償還価格の継続的な引き下げや競合他社との競争激化等により、今後も厳しい状況が続くことが見込まれます。当社は商社機能とメーカー機能を併せ持つビジネスモデルを活かし、心臓血管領域において継続的に新製品を導入することで、収益性の維持と市場競争力の強化に努めてまいります。
心臓血管領域のコア製品であるFrozen Elephant Trunkは競合他社の参入による市場の活性化を好機と捉えて、販売の拡大に向けて注力しております。さらに医療現場のニーズに基づいた新しいモデルの上市に向けて製品開発にも取り組んでまいります。
当連結会計年度は、心房細動アブレーションの領域においてPFAという新たな治療法が市場導入されました。この治療法は、合併症リスクの低減と手技時間の短縮が期待されている治療法です。今後、PFAの浸透に伴い心房細動の症例数増加が予測される中で、当社はコア製品である心腔内除細動カテーテルの差別化された新モデルの拡販を推進してまいります。また、当連結会計年度において、独自のPFAシステムを有するCardioFocus社とPFA製品の共同開発とグローバル市場への供給を目的とした戦略的なパートナーシップを締結しました。当社の強みであるカテーテル製造技術とCardioFocus社のPFAに関する臨床および装置ノウハウを活かし、競争力のある製品でグローバルでのPFA市場参入に向けて準備を進めてまいります。

3.資本効率を意識した経営の強化

当社は自社製品の研究開発や製造設備への投資、商品の販売権獲得を目的とした仕入先に対する投融資を行っております。今後も費用対効果を重視したうえで、将来の事業成長に向けた投資を実施してまいります。
当連結会計年度はPFAなどの新たな技術に関連する研究開発や新規性の高い製品の国内導入に向けた治験を中心に投資を行っております。また、今後、中長期でのグローバル市場への進出に備えた成長投資に関しても積極的に行ってまいります。
今後も安定した営業キャッシュ・フローの創出を見込んでいることから、中期経営計画期間中で配当と自己株式の取得を合わせて総額270~300億円程度の株主還元を計画しております。中期経営計画で公表したキャッシュ・アロケーションの方針に則り、財務健全性を確保しながら、成長投資と株主還元をバランスよく実施してまいります。

4.グローバル売上の拡大とOEM製造の推進

当社は、中長期的な事業成長を実現するため、2つの新たな成長戦略を積極的に推進してまいります。
「グローバル売上高の拡大」では、心臓血管および消化器領域の自社製品について、海外における販路開拓を加速させてまいります。中期経営計画の期間内では、日本国内承認で展開できる中東・アジア地域を中心に 十数か国へ販路を拡大してまいります。長期的には、当社のコア自社製品である心腔内除細動カテーテルやFrozen Elephant Trunk の米国・欧州市場への輸出を目指して取り組んでまいります。
もう一つの戦略である「OEM 製造の推進」では、当社が長年培ってきたカテーテル製造に関する技術やノウハウを最大限に活かし、新たな事業機会の創出に取り組んでまいります。

②サステナビリティへの取り組み

1.サステナビリティに関する戦略と目標

当社のMissionでは、患者様や医療従事者に最新最適な医療機器を提供するという経済的な価値だけでなく、健康社会の実現という社会的な価値も同時に追求することを目指しております。事業成長だけでなく様々なステークホルダーの期待に応えることは、企業価値の向上につながると考えることから、サステナビリティを重要な経営戦略と位置付けております。
当社のサステナビリティの取り組みは、代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会が中心となり、会社全体の活動方針の決定や推進を行っております。取締役会で特定した7つのマテリアリティ(重要課題)ごとに設置された分科会で具体的な取り組みを行い、四半期毎にサステナビリティ委員会で目標達成に向けた進捗確認を行っております。取締役会は委員会からの定期的な報告を受けて監督を行うとともに、サステナビリティに関する重要な事項を決定しております。
なお、当社が2021年6月に特定したマテリアリティについては、約4年経過し、社会課題や当社を取り巻く事業環境は大きく変化しております。この状況を踏まえ、2025年3月にマテリアリティの見直しを行い、7つのマテリアリティを特定しました。2025年4月より新たに特定した7つのマテリアリティを推進してまいります。

2.当連結会計年度におけるESGに関する主な取り組みと成果

* MDSAP:Medical Device Single Audit Program(医療機器単一調査プログラム)
アメリカ、オーストラリア、ブラジル、カナダ、日本の5か国の規制要求事項に対する、製造業者のQMSの適合性及び妥当性について、認定された調査機関による一度の調査で確認するプログラム

詳細な取り組み状況は当社ウェブサイトにて開示しております。
https://www.jll.co.jp/sustainability/

連結計算書類