事業報告(2024年4月1日から2025年3月31日まで)
当社グループの現況に関する事項
事業の経過およびその成果
当期の経営成績
当期における世界経済は、持ち直しの動きが継続しましたが、米国の通商政策に関連する景気の下振れリスクに加え、金融資本市場の変動の高まりなどの影響も注視する必要があります。また、わが国経済においても、景気は緩やかに持ち直している一方で、世界経済の先行きを注視する必要があります。
このような環境の中、当社グループは、2023年5月に公表した経営戦略に沿って、「患者さんの安全と持続可能性」「成長のためのイノベーション」「生産性の向上」という3つの優先事項のもと、グローバル・メドテックカンパニーへの変革に向けて取り組みました。当期の売上高は、内視鏡事業、治療機器事業ともに増収となり、前期比715億80百万円増収の9,973億32百万円となりました。営業利益は、増収による売上利益の増加に加え、前期にその他費用として計上していたVeran Medical Technologies, Inc.(米国)の電磁ナビゲーションシステム等の製造・販売終了に関する損失約519億円がなくなったこと等により、前期比1,110億75百万円増益の1,624億62百万円となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、前期に非継続事業において科学事業の譲渡益約3,490億円を計上したことにより、前期比1,247億11百万円減益の1,178億55百万円となりました。また、当社は、上記の経営戦略に基づき、当社が最も価値を発揮できる疾患領域に注力する目的で、整形外科事業を構成する当社の完全子会社であるオリンパステルモバイオマテリアル株式会社およびFH Ortho SAS社(フランス)の全株式を譲渡する契約を締結し、当該契約に基づき、2024年7月12日に本株式の譲渡を完了しました。
為替影響
期中の平均為替レートは、1米ドル=152.58円(前期は144.62円)、1ユーロ=163.75円(前期は156.80円)、1人民元=21.10円(前期は20.14円)となり、売上高では前期比で399億7百万円の増収要因、営業利益では前期比で207億75百万円の増益要因、調整後営業利益では前期比で213億90百万円の増益要因となりました。
なお、為替の影響を除くと、連結売上高は前期比3.4%の増収、連結営業利益は前期比175.7%の増益となります。
- この事業報告において、百万円単位の表示金額は、百万円未満を四捨五入しています。また、グラフや表における「▲」は損失または減少等、負の値を示しています。
- 当社は、国際会計基準(IFRS)を適用しています。
- 当期より、整形外科事業を非継続事業に分類しています。これにより、売上高および営業利益は、非継続事業を除いた継続事業の金額を表示しています。また、継続事業に含まれる、整形外科事業以外の「その他事業」について、当期見込まれる財務情報の金額的な重要性が低下するため、報告セグメントより除外しています。
- 当期より、整形外科事業を非継続事業に分類しています。これにより、当期および前期の売上高および営業利益は、非継続事業を除いた継続事業の金額を表示しています。
事業別の状況
(単位:)
主な製品分野
消化器内視鏡システム、外科内視鏡システム、医療サービス
消化器内視鏡分野では、国産優遇策などの影響により競争環境が激化する中国で売上が減少した一方、消化器内視鏡システム「EVIS X1」の販売が好調な北米で売上が増加し、前期比プラス成長となりました。
外科内視鏡分野では、中国で減収となった一方、北米やアジア・オセアニアで増収となりました。主に北米で、手術システムインテグレーションに係る新製品が好調に推移した結果、前期比プラス成長となりました。
医療サービス分野では、保守サービスを含む既存のサービス契約の安定的な売上に加えて、新規契約の増加もあり、欧州や北米を中心に、全ての地域で前期比プラス成長となりました。
内視鏡事業の営業損益は、次世代内視鏡システムなどに関わる研究開発費が増加したものの、増収による売上利益の増加に加え、前期に引当計上していた高速気腹装置の市場是正処置に係る費用約52億円および小腸内視鏡システムなどの自主回収に伴う費用約50億円がなくなったことや、その他の費用として計上している、開発資産および仕掛中の研究開発の減損損失がそれぞれ約39億円と約45億円、品質保証・法規制対応の変革プロジェクトElevateに係る一時的な費用が約23億円減少したことにより、増益となりました。
為替の影響を除くと、売上高は前期比4.1%の増収、営業利益は前期比19.8%の増益となります。
(単位:)
主な製品分野
消化器科処置具、泌尿器科用デバイス、呼吸器科用デバイス、その他治療領域用デバイス
治療機器事業では、当社が注力している診療領域である、消化器科処置具分野、泌尿器科分野、呼吸器科分野のすべての分野で、北米や欧州を中心にプラス成長となりました。
消化器科処置具分野では、膵管や胆管などの内視鏡診断・治療に使用するERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影術)用の製品群などで売上が増加しました。
泌尿器科分野では、BPH(前立腺肥大症)用の切除用電極や、尿路結石用破砕装置「SOLTIVE SuperPulsed Laser System」の売上が増加しました。
呼吸器科分野では、EBUS-TBNA(超音波気管支鏡ガイド下針生検)で主に使われる処置具や超音波気管支鏡が好調に推移しました。
その他の治療領域では、主に他社製品の取り扱い終了の影響を受けた日本で、減収となりました。
治療機器事業の営業損益は、研究開発費が増加したものの、増収による売上利益の増加に加え、その他の費用として、前期に計上していたVeran Medical Technologies, Inc.(米国)の電磁ナビゲーションシステム等の製造・販売終了に関する損失約519億円ならびにTaewoong Medical Co., Ltd.(韓国)の株式取得契約の締結および解除に関連する費用約20億円がなくなったことや、開発資産の減損損失が約19億円、品質保証・法規制対応の変革プロジェクトElevateに係る一時的な費用が約13億円減少したことにより、増益となりました。
為替の影響を除くと、売上高は前期比2.6%の増収、営業損益は前期比644億34百万円の増益となります。
対処すべき課題
当社グループは、患者さんの安全を最優先に、イノベーション、製品、ソリューション、人材、社会への貢献などあらゆる面でステークホルダーから評価される企業になるべく変革を加速しています。
さまざまな課題に対処しつつ、革新的な医療価値を提供し続けることで持続的な成長を実現し、「私たちの存在意義」である「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」に注力していきます。
(1)経営戦略
当社グループは、2023年5月に公表した経営戦略の中で、当社グループの経営理念に掲げている「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」を図るための指針として、「患者さんの安全と持続可能性」「成長のためのイノベーション」「生産性の向上」の3つを優先すべき事項として掲げ、これらに基づき取り組みを推進しています。

経営戦略の詳細については、当社ウェブサイトに掲載している経営戦略資料をご覧ください。
https://www.olympus.co.jp/company/philosophy/strategy.html
(2)品質保証・法規制対応の変革プロジェクト「Elevate」
「Elevate」は、前期に開始した、複数年にわたる品質保証・法規制対応の変革プロジェクトです。規制当局に対するコミットメントを果たし、未来に向けて品質文化の基盤を強化するため、「設計および開発」「製造およびサプライヤーマネジメント」「サプライチェーン、市場導入・市販後の取り組み」「End-to-End(E2E)品質プロセス」の軸で、20の主要施策から構成されています。グローバルかつ機能横断型の強力なチームによって推進しており、全社的な変革の取り組みとして、4つの目標を掲げています。
Elevateの実行により、製品のライフサイクルマネジメントの改善や、業務プロセスのデジタル化によるコスト削減と効率性の向上、製品の開発、認可取得、発売までのリードタイムの短縮といった効果も期待でき、この取り組みを当社グループの将来的なイノベーションや成長、収益性向上を実現するための重要な施策の一つとして位置付けています。

当期も全社を挙げてElevateの取り組みを推進しており、引き続き順調に進捗しています。2026年3月期末までに規制当局に対する全てのコミットメントを果たすことを目指しています。
(3)組織改編
2025年4月に、事業部門である内視鏡事業と治療機器事業を消化器内視鏡ソリューション事業(GIS)とサージカルインターベンション事業(SIS)に再編成しました。診療領域を重視した組織への変革を進めるとともに、グローバルレベルのマネジメントと地域ごとの営業チームが直接的に連携し、コラボレーションの促進やグローバル戦略と地域戦略の整合性の確保、そして実効性の向上につなげることを目指しています。

この改編を通じて、より迅速な事業運営や地域間における一貫性の確保、縦割り組織の解消に加え、患者さんとお客様を中心とした事業成長の実現を目指します。
(4)米国関税政策対応
⽶国関税政策の影響は不確実性が⾼い状況ではありますが、医療現場に対する当社製品やサービスの提供継続を最優先とした上で、影響の低減に向けた対応を進めてまいります。
当社グループは、引き続き世界をリードするグローバル・メドテックカンパニーとして、さらなる飛躍と持続的な成長を目指します。
株主の皆さまにおかれましては、一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申しあげます。
剰余金の配当等の決定に関する方針
当社は、当社グループの持続的な成長を実現させるため、手元資金を成長ドライバーへの投資に優先的に配分していく方針であり、収益性の高い既存事業への投資や成長機会への戦略的な投資を実施していきます。配当については、安定的かつ段階的に増配し、当社株式の取得については、投資機会と資金状況に応じて機動的に実施する方針です。
上記方針に基づき、当期の期末配当金につきましては、2025年5月13日開催の取締役会決議により、前期より2円増配の1株当たり20円としました。効力発生日および支払開始日は、2025年6月5日です。
(ご参考)

