事業報告(2023年4月1日から2024年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当連結会計年度における世界経済は、ウクライナおよび中東情勢の長期化、欧米におけるインフレおよびそれに伴う金融引締め政策の継続、また中国における不動産市場の停滞などから景気減速が懸念される状況となっております。

当社グループがビジネスを展開する地域を概観すると、グレーターチャイナでは、不動産市場の停滞が個人消費を押し下げていることから景気が減速しております。米州では、物価上昇が継続するもペースは鈍化しており、個人消費の増加や雇用増などによる景気の持ち直しが続く見通しです。アセアンでは、内需・インバウンドを中心に景気は堅調に推移しております。日本では、マイナス金利政策解除による金利上昇や地政学リスクなどによる為替の急激な変動、消費節約志向の高まりといった下振れ要因があるものの、実質賃金の改善、企業の設備投資の底堅さ、インバウンド需要の継続など引き続き景気回復が期待されます。

このような状況の下、当連結会計年度の業績は次のとおりとなりました。

  • ・当連結会計年度の業績は、為替が円安に推移したこともあり、売上総利益は増益となりました。
  • ・営業利益は、売上総利益は増加したものの、販売費及び一般管理費が増加したことにより減益となりました。詳細は「セグメント別の概況」をご覧ください。
  • ・親会社株主に帰属する当期純利益については、投資有価証券評価損の減少があったものの、12億円減少の224億円となりました。

セグメント別の概況

セグメント別の業績および主な要因は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度の2023年10月1日より、報告セグメントの区分を一部変更しており、前年同期比の金額および比率については、前連結会計年度を当連結会計年度において用いた報告セグメントの区分に組み替えて算出しております。

※セグメント区分の変更の詳細については、2024年5月8日公表「2024年3月期 決算短信」16ページの(セグメント情報等)をご参照ください。

機能素材

売上総利益 281 億円
前連結会計年度比 5.9 %減
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機能素材につきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・塗料原料の販売が減少
  • ・半導体関連等の電子業界向けの原料販売が減少
  • ・情報印刷関連材料は製造業の収益性が低下し、販売も減少
  • ・営業利益は売上総利益の減少を受け、減益

加工材料

売上総利益 236 億円
前連結会計年度比 2.6 %減
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加工材料につきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・OA・ゲーム機器業界等向けの樹脂販売は需要の減少および顧客の在庫調整の影響等により、減少
  • ・営業利益は売上総利益の減少を受け、減益

電子・エネルギー

売上総利益 342 億円
前連結会計年度比 11.2 %増
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電子・エネルギーにつきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・半導体市況の悪化はあるものの、商材の拡充により半導体業界向け材料販売が増加
  • ・変性エポキシ樹脂関連は主にハイエンドサーバー用の半導体向け、モバイル機器向けの需要増加により、販売が増加
  • ・電子デバイス向けフォトリソ材料の販売が増加
  • ・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

モビリティ

売上総利益 152 億円
前連結会計年度比 5.6 %増
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モビリティにつきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・自動車生産台数の増加および既存顧客向けへのシェア拡大等により樹脂の販売が増加
  • ・内外装・電動化用途の機能素材・機能部品の販売が増加
  • ・営業利益は売上総利益の増加を受け、増益

生活関連

売上総利益 634 億円
前連結会計年度比 13.5 %増
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生活関連につきましては、主な要因は以下のとおりです。

  • ・Prinovaグループはユタ新工場の稼働もあり、全体として販売が増加
  • ・ナガセヴィータ株式会社(2024年4月1日に株式会社林原から商号変更)は主に香粧品素材の販売が増加
  • ・中間体・医薬品原料の販売が増加
  • ・営業利益は売上総利益が増加したものの、主にPrinovaグループの人件費等の一般管理費の増加、ユタ新工場の利益貢献の遅れ等の影響により、減益
その他

特記すべき事項はありません。

対処すべき課題

中期経営計画ACE 2.0

当社グループ(以下、NAGASE)は、2032年(創業200年)の「ありたい姿」からバックキャスティングし、特定したマテリアリティを解決するために5ヶ年の中期経営計画ACE 2.0を策定しました。ACE 2.0の位置づけを“質の追求”と掲げ2021年4月から始動しており、ACE 2.0に掲げる事項を対処すべき課題と捉えております。

※“ACE”は、Accountability(主体性)、Commitment(必達)、Efficiency(効率性)を表します。

ACE 2.0の定量目標および実績

ACE 2.0の定量目標および実績は、下表のとおりです。

2023年度は、世界的な需要の低迷を受けた樹脂販売事業や、需給バランスの悪化を受けた情報印刷関連材料事業は、販売数量の減少と販売単価の下落により、採算が悪化しました。加えて、Prinovaグループは中国廉価品が流入したことにより販売単価が下落したことや、ユタ工場における自動化設備導入の遅れにより人件費等が先行したことで、全体として収益性が悪化しました。

足元では落ち着きつつありますが、全世界的な物価の上昇による金利負担の上昇や人件費の上昇傾向が継続し、収益構造の変革が一層求められる外部環境となっております。

このような背景から、2023年11月に通期予想を営業利益300億円に修正し、全体の業績は、見通しどおりの着地となりました。

また、コロナ禍におけるサプライチェーンの不安定な状況に対応するために戦略的に積み増していた在庫を圧縮したほか、注力領域における取組みの進展、改善領域における損失の縮減等、“質の追求”の面では大きな成果が出た1年となりました。

後記の基本方針のもと、中期経営計画の最終年度である2025年度における定量目標の達成を目指し、引き続きACE 2.0を推進していきます。

ACE 2.0基本方針

ACE 2.0では、NAGASEの持続的な成長を可能にするため、すべてのステークホルダーが期待する“想い”を具体的な“形”(事業・仕組み・風土)として創出し、“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”を目指し、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」の2つの変革と、両変革を支える機能として、DXのさらなる加速、サステナビリティの推進およびコーポレート機能の強化を図ります。

収益構造の変革‐“ありたい姿”に向けた収益基盤の構築

経営資源の最大効率化を図るために、経営資源の確保と再投下を実行しております。効率性および成長性の観点から、事業を「基盤」、「注力」、「育成」、「改善」の4つの領域に分類し、各領域に応じて戦略を実行し、さらにリソースシフトを加速しております。

NAGASEは商社機能に加え、製造機能および研究開発機能を有しております。従来、4象限については事業軸で分類しておりましたが、2023年度において、今後の成長をより確実なものとするために事業ポートフォリオを機能軸で再整理し、各領域における重点分野を明確化いたしました。

(事業ポートフォリオの考え方)
[収益構造の変革―取組み状況]
(基盤領域)

商社機能を事業ポートフォリオにおける基盤領域と定義しています。商社機能はグローバルネットワークとNAGASEの人財が有する情報の目利き力を活かした課題の探索とマッチングを担います。良質な情報を注力・育成領域の事業展開に活かし将来の新規事業、新規素材の創出に欠かせない機能を果たしています。

半導体分野においてサプライチェーンへの深い理解と、技術に関する知見、課題解決力を総合して提案活動を進めた結果、日本における最先端半導体の製造を目指すRapidus㈱の調達取り纏めのパートナーに選定されました。今後、最先端半導体の製造の実現に向けたサプライチェーンの構築・維持を通じて貢献してまいります。

また、新型コロナウイルスの影響を受けて混乱していたサプライチェーン維持のため、戦略的に積み増していた在庫の圧縮を進めた結果、資本の適正化が進みました。

(注力領域)

Prinovaグループを中心としたフード分野、ナガセケムテックス㈱を中心とした半導体分野、ナガセヴィータ㈱(2024年4月に㈱林原から商号変更)を中心としたライフサイエンス分野における製造機能を注力領域と定義しています。

フード分野では、Prinovaグループのユタ工場における自動化設備の導入が足元では完了し、利益貢献に向けた体制が整いました。今後、収益性の高い製造加工ビジネスをグローバルに拡大するべく、M&Aなど、積極的に投資を行ってまいります。

半導体分野ではナガセケムテックス㈱のハイエンドサーバー用途向けの液状封止材の販売が好調に推移し、今後も継続的な成長を見込んでいます。ナガセケムテックス㈱では、剥離剤等の薬液関連製品のBCPの観点から新たな製造拠点の設立の検討を進めています。加えて、パートナーであるSachem Incとの合弁会社であるSN Tech㈱において半導体の製造プロセスにおいて使用されるケミカルの回収・再生事業の開始に向けた取組みが進展しました。今後、半導体業界に対してユニークなソリューションの提供を進めてまいります。

ライフサイエンス分野では化粧品業界や医薬品業界向けの素材を製造する㈱林原の商号をナガセヴィータ㈱に変更しました。これは生命に寄り添い、人と地球の幸せを支える企業として社会に貢献していくという想いを込めたものです。また、ナガセヴィータ㈱はEcoVadisのプラチナを取得し、サプライチェーンにおいて信頼されるパートナーとして外部機関からも最高ランクの評価を獲得しました。新たな事業領域への拡大検討を進めており、M&A等の手段も活用しながら成長を加速させていきます。

(育成領域)

将来の収益の柱となるような新規素材の研究開発や、新規事業創出のためのインキュベーション、高い成長が見込まれるエリアにおける事業を育成領域と定義しています。

研究開発機能を通じて、希少アミノ酸であるエルゴチオネインの量産化に向けた取組みが進展し、将来の事業化に向けて順調に進捗しています。また、でんぷんを主成分とし、独自の酵素技術と有機合成技術を掛け合わせ、生分解性を有しながらも従来と同等の吸水性能を持つ生分解吸水性ポリマーの開発に成功し、マーケティング活動を開始しています。加えて、足元では海洋生分解性を有するグレードの開発にも成功しました。第三者機関における試験において海洋生分解認証に求められる分解性を示すことが確認され、河川等を通じて海洋に流れ出るおそれがある緑化や農業用の保水材用途においても環境対応製品として展開できる可能性が広がりました。

素材開発を通じた社会課題解決に貢献し続けるための研究開発機能の強化を目的として、NAGASEバイオイノベーションセンターとナガセヴィータ㈱の基盤研究機能を統合し、新たなバイオ研究拠点を新設することを決定しました。(開設は2027年4月以降を予定)

既存事業とは異なる視点で将来の新規事業創出を促進するためにCVC(Corporate Venture Capital)を組成しました。最先端の技術やナレッジを広く獲得し、次世代のビジネスの種を見つけるべく、スタートアップへの投資を促進していきます。

また、今後のさらなる成長を期待する分野としてグローバルサウス(インド、ブラジル、メキシコ、インドネシア)を定義し、事業部門横断でのエリア戦略立案等、取組みを進めました。今後もリソースの投下を加速していきます。

(改善領域)

赤字事業や不採算取引、将来の資産の減損損失が懸念される事業を改善領域と定義しています。

徹底したモニタリング活動を通じて不採算取引および減損損失は、2022年度と比べ大幅に減少しました。

2023年度において、事業ポートフォリオマネジメントの高度化を図るため事業別の資本コストを用いたモニタリングを開始しました。各事業においてそれぞれの想定資本コストを上回る価値創造を実現している事業への資本投下を進めるとともに、資本コストと比べて十分な投資収益率を実現していない事業からの資本の引上げを通じた資産の入替えを今後も進めていきます。

なお、持続的な成長に向け、注力・育成領域を中心として総額約800億円の投資案件については検討を継続しております。適切な検討プロセスを通じて企業価値向上に繋がる案件を精査したうえで判断を進めていきます。

企業風土の変革‐“ありたい姿”に向けたマインドセット

“質の追求”を実現するためには、経済価値と社会価値を両輪で追求していくことが必要と考え、財務情報に加え非財務情報のKPIを設定し、両KPI達成に向けモニタリングを行っています。また効率性の追求に向け、コア業務の生産性の改善を図り、また事業戦略によるROICの向上、財務戦略によるWACCの低減を行い、ROICスプレッドの改善を図ります。ROICがWACCを上回る状態を常態化させ、企業価値の向上を目指します。加えて、変革を推進する人財の強化が必要と考えており、社員と会社のエンゲージメントを向上させ、双方の持続的な成長と発展を実現します。

(効率性の追求)
(エンゲージメントの向上)
[企業風土の変革―取組み状況]

2023年度のROICは当初想定通り在庫の縮減が進んだ効果があったものの、ACE 2.0の定量目標および実績に記載の通り事業面における収益性が低下したことにより4.0%となりました。

WACCはNet DEレシオが0.27倍に低下し、加重平均資本に占める株主資本の割合が上昇した影響等により5.9%となりました。

資本効率性を向上させる取組みとして、2023年度は政策保有株式を17銘柄、71億円売却しました。また、各種施策を通じた収益性の向上を推し進めておりますが、ACE 2.0の定量目標であるROE8.0%以上の達成に向けては更なる資本効率性の向上が必要であるとの認識のもと、株主還元方針の変更を決定し、これまでの継続増配に加え、ACE 2.0の最終年度までの2年間の限定措置として、総還元性向を100%とすることを決定いたしました。

なお、変更後の株主還元方針はACE 2.0終了時点で見直しを実施いたします。

(政策保有株式の売却方針および実績)
(株主還元方針の変更)

変革を推進する人財の強化については、当社において、役割・職務の明確化と処遇連動性の確保、ダイナミックな人材配置・登用、多様な高度専門人材の確保・登用を目的とした人事制度改定を実施し、2024年4月1日より運用を開始しました。また、事業部毎にHRBP(HR Business Partner)を配置し中長期の事業戦略と連動した人事戦略を推進するための体制強化を進めました。その他、選択型研修の拡充を通じた学びの機会の創出や、D&I(Diversity&Inclusion)の推進を目的にした経営層や管理職向けワークショップの実施を通じて風土変革等を進めています。これらの取組みを通して、従業員エンゲージメント向上、そして競争力の強化を推進してまいります。

また、組織運営の効率化、意思決定のスピードアップ、不採算事業の整理の実効性強化、人的資源の再配分等を目的とした11事業部から7事業部への統合を実施いたしました。加えて、外部環境の変化に応じて迅速に重要な意思決定ができるような各種会議体の見直しを進めると同時に事業部門への権限委譲も進め、効率的な経営基盤の整備を進めました。

変革を支える機能

両変革を実現するために、DX、サステナビリティおよびコーポレート機能はグループ横断的に必要な機能であり、これらの機能を拡充します。

DXを手段として活用することで、NAGASEの強みである「広域なネットワーク」、「技術知見」および「課題解決力・人財」をさらなる強みとし、顧客や社会の課題を解決できるビジネスモデルの深化・探索、イノベーションの創出および生産性の向上等を図ります。

またサステナビリティ基本方針を根幹に置き、「ありたい姿」の実現に向け、経済価値と社会価値の追求を実現すべく、グループ全体に機能を提供していきます。

[取組み状況]

DXのさらなる加速に関して、デジタルマーケティングによる顧客基盤の強化・拡大に向けたマーケティングプラットフォームの構築については一定の目途が立ち、各事業部門・地域において活用し収益を獲得するフェーズに移行しました。

サステナビリティの推進に関して、脱炭素経営ソリューションの展開パートナーである㈱ゼロボードおよび富士通㈱との協業によりWBCSD※1のPACT※2においてサプライチェーン上のGHG排出量の一次データを収集・連携し最終製品のGHG排出量を算定する取組みを成功させる等、サプライチェーン上における気候変動対応のソリューションに関する知見を深めました。

  • ※1 World Business Council for Sustainable Development(持続可能な開発のための世界経済人会議)
  • ※2 Partnership for Carbon Transparency (サプライチェーン全体でのGHG排出量の一次データ交換の透明性を通じて、製品のカーボンフットプリント情報を企業間で連携するパートナーシップ)

ACE 2.0の非財務目標および実績

ACE 2.0においてマテリアリティ解決に向けた取組みを定量的に評価、モニタリングしていく非財務目標(KPI)として従業員エンゲージメント向上およびカーボンニュートラルに向けたGHG排出量の削減を掲げております。これらの2023年度の実績は以下のとおりです。

従業員エンゲージメントの向上

GHG排出量の削減

連結計算書類