事業報告(2023年4月1日から2024年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過及びその成果

当連結会計年度の日本株式市場は、1989年12月以来の最高値を更新し歴史的な転換点となりました。年度初めは軟調な米国経済指標が相次ぎ、景気後退懸念が高まったことから下落して始まりましたが、その後日銀総裁の金融緩和維持を支持する発言や、米国著名投資家の日本株追加投資を巡る思惑から上昇に転じ、5月には海外投資家による資金流入が続き、TOPIXと日経平均株価ともに高値を更新しました。さらに東京証券取引所の市場改革への期待の高まりから堅調に推移いたしました。大手格付会社による米国債の格下げを背景とする米国株安の流れ、中国の軟調な経済指標(消費者物価指数など)や中国不動産開発大手の米国破産法適用の申請などが嫌気された場面では日本株式市場も下げの影響を受け、また中東情勢の緊迫化による乱高下などにも見舞われましたが、11月には再度日経平均株価は上昇し、堅調な水準での推移となりました。年明け以降は、日本株が再評価され、日本株式市場は海外投資家主導もあり急速に上昇いたしました。当連結会計年度末にかけては日銀が金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除や長短金利操作の撤廃、上場投資信託(ETF)の買い入れ終了などを決定したものの、当面は緩和的な金融環境が継続するとの見通しが示されたことなどを受けて、日経平均株価は前期末に比べ44.0%と大幅に上昇し40,369.44円で取引を終えました。

このような市場環境のもと、当社グループの当連結会計年度末運用資産残高は、1兆8,893億円(注1)と前期末に比して25.9%増加しました。

事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す指標である基礎収益(注2)は、経常的経費の増加はあるものの、それを上回る残高報酬の増加により、前期比5.7%増の63億48百万円(前期は60億5百万円)となり、過去最高値を更新いたしました。

日本株式を投資対象とする運用戦略は、1兆3,131億円と大きく増加いたしました。米国著名投資家による日本株の追加投資や政府の政策など、日本株に対する期待が高まったことで、日本株の投資魅力は世界的に大きくクローズアップされ、その結果、日本の株式市場は大幅に上昇いたしました。海外投資家の要望に応え、資金を運用することは、スパークスの強みであり、追加で資金を受託する動きも具体化してきております。このような動きを捉え、運用資産残高増加の飛躍のエンジンにしたいと考えております。

アジア株式を投資対象とするOneAsia運用戦略は、良好なファンド・パフォーマンスもあり、運用資産残高は1,262億円に増加いたしました。東京・香港・韓国のファンドマネジャーがアジア企業への調査などを共同で行うなど、投資アイデアを共有することを続けることで良好なファンド・パフォーマンスを実現させております。引き続き当社グループが注力しなければならない最も重要な戦略の一つと考えており、新たに旗艦ファンドを立ち上げました。日本株式の運用で培ってきた投資力でこのファンドを大きく成長させ、「アジア株もスパークス」とのSPARXブランドを幅広く認知いただくよう努めております。

再生可能エネルギー発電事業のインフラ資産や不動産を投資対象とする実物資産の運用戦略は、全国の発電施設への投資を実行しており、再生可能エネルギー投資戦略の運用資産残高は2,855億円の規模となっております。太陽光に加え、風力・バイオマス発電所も運営させておりますが、これに加え安定稼働した太陽光発電所を外部から積極的に取得し、運用資産残高を増加させております。また、グリーン水素の製造設備の実証事業や蓄電池ファンドの設立を具体的な形にしてきており、今後も引き続き再生可能エネルギーファンドのパイオニアとして皆様のご期待にお応えするべく、魅力的な投資商品の提供を行ってまいります。

プライベートエクイティ投資戦略は、次世代の企業の成長に資する投資を長期的な視点から実践し、投資会社として未来を創造する新たな領域を開拓するため設立した未来創生ファンドを中心に当該運用戦略のAUMは1,643億円となっております。IPO等のイグジット案件も出ており、これまでの投資の成果が、具体的に投資家の皆様へのリターンとして実現してきております。これらのファンドについても質の高い投資を着実に実行し、投資実績を積み上げ、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成することで未来社会に貢献することを引き続き目指してまいります。加えて、日本モノづくり未来ファンドによるIJTT社のTOB(株式公開買付)が完了いたしました。日本モノづくり未来ファンドは2020年に設立し、日本で優れた技術・人材・サービスを持つモノづくり企業に投資し、TPS(トヨタ生産方式)を活用して各社を支援し、適切な経営戦略を展開することで、社会に貢献することを目指したいという理念のもと設立いたしました。これはスパークスとして新たな投資領域の始まりであり、大きな一歩となりました。

上記の結果、当連結会計年度における残高報酬(注3)は前期比12.0%増の142億58百万円となりました。成功報酬(注4)は、前期比463.8%増の20億54百万円となり、営業収益は前期比23.5%増の164億98百万円となりました。

営業費用及び一般管理費は、前期比17.8%増の90億22百万円となりました。これは主に事務委託費が減少した一方で、公募投信の運用資産残高増加に伴う支払手数料の増加及び人件費の増加によるものです。

これらの結果、営業利益は前期比31.1%増の74億76百万円、経常利益は前期比28.6%増の80億90百万円となりました。また、投資有価証券売却益を13億35百万円計上し、法人税等を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比44.2%増の65億19百万円となりました。

(注1)
当連結会計年度末(2024年3月末)運用資産残高は速報値であります。
(注2)
基礎収益とは、経常的に発生する残高報酬(手数料控除後)の金額から経常的経費を差し引いた金額であり、当社グループの最も重要な経営指標のひとつであります。
(注3)
残高報酬には、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所等の管理報酬を含んでおります。
(注4)
成功報酬には、株式運用実績から発生する報酬の他に、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所スキームの組成の対価等として受ける一時的な報酬(アクイジションフィー)を含んでおります。

対処すべき課題

当連結会計年度のグループ運用資産残高(AUM)は前年度末比25.9%増加して、1兆8,893億円(注1)となり、AUMが増加したことで残高報酬は前年度比15億22百万円増加し、142億58百万円となりました。残高報酬の増加により、また適切にコストコントロールを続けた結果、安定的に稼ぐ力である基礎収益(注2)は過去最高を更新し、スパークスを支える土台は着実に強くなっております。さらに成功報酬が増加したため営業利益は増加し、加えて、新しい投資戦略等へのシード投資の役割を終えた投資有価証券を精査し、売却したことで最終利益の大幅な増益をもたらしております。

来年度についても、当社グループの厚い人財力、投資力によって運用パフォーマンスの質を維持・向上させ、増収増益を目指すとともに、当社グループのパーパスである「(投資を通じて)世界を豊かに、健やかに、そして幸せにする」を実現するため、持続可能な企業価値向上を実現すべく、主として以下の課題に取り組んでまいります。

課題の第一として、2026年3月期までに運用資産残高(AUM)3兆円を達成するため、成長実現のための4本柱(「日本株式」「OneAsia」「実物資産」「プライベートエクイティ」)をバランスよく強化・拡大していくことで高い収益性を維持し、短期的市場変動の影響を受けにくい安定性、成長性に優れた事業ポートフォリオの構築を目指します。

→当社グループマテリアリティ「広範な責任投資の実践」に関連(注3)

4本柱についての、当面の主な課題は以下の通りです。

日本株式投資戦略については、この4月にも、代表的な外部評価機関であるR&I社から、国内株式コア部門において10年のトラックレコードで優秀賞を引き続き受賞するなど、長期にわたる安定して高いパフォーマンスを実現しています。優れた投資力を背景に、ロング・ショート投資戦略、日本株式価値創造投資戦略など収益性の高いオルタナティブ投資戦略のAUM拡大への取組みを強化しております。東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」をきっかけに、PBR1倍割れ企業に対して注目が集まっておりますが、同様の考え方は、創業以来運用調査活動において意識してきたことであり、投資先企業に対して具体的な対話を実行し、運用実績を積み重ねる投資は、本投資戦略の投資方針そのものであって、非常に時宜を得たものであると考えております。今後もただ闇雲に規模を追うのではなく、質の高い運用を継続しつつAUMを拡大・成長させてまいります。

OneAsia投資戦略については、引き続き当社グループが注力しなければならない最も重要な戦略の一つと考えております。アジアの社会変化をとらえて、大きく成長することが見込まれる企業に長期投資することでスパークスらしいアジア投資戦略を大きく育てていくことを考えています。このために、アジアの運用メンバーを東京に結集し、新たなアジアの投資ファンドを立ち上げました。このファンドを軸にこれからアジア投資のスパークスというブランドを強固なものにしてまいります。当社グループのさらなる成長のため、より一層高品質な運用体制の構築に全力で取り組んでまいります。

実物資産投資戦略については、安定稼働した太陽光発電所の取得を積極的に行い、バイオマスや風力など引き続き高い投資リターンが見込まれる発電所へ開発を続け、当連結会計年度は約210億円AUMが増加しました。さらに、グリーン水素(注4)の製造設備の実証事業や蓄電池ファンドの設立を具体的に着手してまいりました。他にもコーポレートPPA(注5)など、投資戦略の開発を、引き続き積極的に進めてまいります。

プライベートエクイティ投資戦略については、未来創生2号ファンドの投資期間が満了したことで残高報酬の計算基礎となる額が変更したことから減少し2024年3月末AUMは1,643億円となりました。宇宙フロンティア1号ファンドについて、投資が進みフルインベストメントとなり、新年度に入り2号ファンドが約110億円で運用開始されております。今後、本投資戦略のファンドが投資した企業が、株式市場に上場すること等に伴う売却益の一部が、当社グループの成功報酬として計上されることから、この成功報酬を最大化するためにも引き続き売却活動に注力してまいります。日本で最大級のベンチャー投資会社として、今後も当社グループらしい新しい投資機会を発掘することで本投資戦略の拡大を進めてまいるとともに、質の高い投資を通じて、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成し、未来社会に貢献することを目指してまいります。加えて、日本モノづくり未来ファンドによるIJTT社のTOB(株式公開買付)が完了いたしました。このIJTT社を非公開化するプロセスは親会社であったいすゞ自動車様とともに綿密に連携、協議を重ねた上で行っております。日本モノづくり未来ファンドは2020年に設立し、日本で優れた技術・人材・サービスを持つモノづくり企業に投資し、TPS(トヨタ生産方式)を活用して各社を支援し、適切な経営戦略を展開することで、社会に貢献することを目指したいという理念のもと設立いたしました。これはスパークスとして新たな投資領域の始まりであり、この領域についても大きく成長させてまいります。

上記の4本柱に加えて、デジタル・AIのプラットフォームが前提となった新しい時代の成長領域であるエネルギー、医療・介護、金融、量子コンピュータなどの新領域へ、保守的・堅実な財務運営方針のもと、自己資金やグループ内リソースを割り当ててまいりました。再生可能エネルギーに対する知見を活かし、特にエネルギーの領域で具体的なビジネスを創造しグリーン水素の製造設備、蓄電所ファンドの設立など実行に移しております。これまで築いてきた投資力をベースに新しいビジネスを作りこむことで事業ポートフォリオを拡大し、ROEの向上に貢献する当社グループらしい投資をさらに進めてまいります。またこのような成長領域への投資を通じて、新しいビジネスをゼロから生み出す企業文化と起業家精神を活性化し、これまでのファンドビジネスをさらに強化するとともに、企業文化や変わらない投資哲学を次世代に継承しながら、新しい取り組みに挑戦し続けることのできる強い組織を創造し続けてまいります。

課題の第二として、組織のフラット化によって次世代のマネジメントを育成、登用することで、マネジメント層の世代交代を進めてまいります。

→当社グループマテリアリティ「独立系の強みを生かしたガバナンス」に関連(注3)

更なる事業拡大と企業価値向上を実現するべく、組織のフラット化による業務執行のさらなる迅速化を通じて、当社グループを率いる後継者となる人材を選抜、育成し、新しい経営体制を確立してまいります。このため今般、第35回株主総会において、社内取締役をさらに減員し、代表取締役社長1名とすることで、マネジメント層の世代交代をさらに進めております。中でも次世代のCEO選任は、当社グループにとって引き続き非常に大きな経営課題であることから、取締役会は十分な時間と資源をかけて、この課題に引き続き取り組んでまいります。

次世代を担うマネジメントに必要な素養・資質としては、単に高い専門性や豊富な経験を備えるだけではなく、人格・人間力にも優れていること、より具体的には当社グループの行動規範(バリュー)である「ARTSの精神(注6)」を体現できていることが極めて重要と考えております。これらの要件を充たした人材に対して、フラット化した組織で、より近くで直接CEOから学ぶ機会を作り、衆目が認める結果を残した者を、次世代のCEOとして登用してまいります。

また、創業時から創業者が大切にしている価値観である、当社グループのパーパス、ビジョン、ミッション、バリューといった企業理念(注7)を、次世代の組織にもしっかりと浸透、引き継いでいくための諸施策を、引き続き講じてまいります。

課題の第三として、当社の競争力の源泉を強化し、中長期的な企業価値向上に資する人的資本を高度化するために必要な諸施策を実行してまいります。

→当社グループマテリアリティ「持続可能で高い収益性とそれらを支える人財」に関連(注3)

日本企業の企業価値に占める無形資産の割合は、一般的に欧米企業に比べて格段に低いとされています。裏を返せば、無形資産の価値を高めることで、企業価値を飛躍的に高める余地が残っているともいえます。無形資産の中で、最も典型的な資産は人的資本であり、特に当社グループのように、有形資産をほとんど有しない企業にとっては、企業価値向上のため、人的資本の重要性は非常に高いと考えます。よって、当社グループらしさを更に追求しつつ、外部環境の変化にも適応することで、従来にも増して「人的資本」の活用を高度化させてまいります。

具体的には、当社グループのパーパス、ビジョン(=思想)に共感し、集う優秀な人財が、様々な多様性を互いに尊重し、最高のプロフェッショナルとなるべく能力・技術の向上に主体的に取り組むだけでなく、思想・技を実現するための行動規範(=所作)を大切にすることで優れた人格の形成にも取り組み、互いに切磋琢磨する成長の機会を与えられ、全員が一丸となって「もっと良い投資(=技)」を実践・提供することで組織の成長に貢献するという働きがいを感じることのできる場を提供するため、様々な諸施策を実行してまいります。

また、当社グループの競争力の源泉は、「①イノベーション力」×「②コミュニケーション力」、つまり「個々の高い専門性を掛け合わせて組織で戦う」ことにあると考えています。よって、①アカウンタブルで再現性の高い投資力やユニークな投資アイデア創出力を強化するため、②社内に望ましい行動様式を明確化・浸透させるとともに、全社一丸となって投資アイデアを具体的にパッケージング化する力を強化するため、また③それらのベースとなる働きやすい環境を整えるため、それぞれ必要と考える諸施策を引き続き、講じてまいります。

(注1)
当年度末(2024年3月末)運用資産残高は速報値です。
(注2)
「基礎収益」とは事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す経営指標であり、その算定方法は以下のとおりです。

基礎収益=残高報酬(手数料控除後)-経常的経費

(注3)
当社グループのマテリアリティ(重要課題)については、下記ウェブサイトをご参照ください。
https://www.sparx.jp/sustainability/materiality.html
(注4)
グリーン水素とは、水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産される水素のことです。この水素を利用し、酸素を大気中に放出することで、環境へ悪影響を与えずに水素を利用することができます。電気分解するためには電気が必要ですが、グリーン水素を作るためのプロセスは、再生可能エネルギーを利用することで二酸化炭素を排出させることなく、水素を製造することができます。
(注5)
コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement)とは、企業や自治体などの法人(電力需要家)が発電事業者から再生可能エネルギーの電力を、直接、長期(通常10~25年)間、購入する契約のことを指します。一般的には、固定価格買取制度(FIT)やフィード・イン・プレミアム(FIP)のような国による再エネ買取制度との対比で用いられ、公的な再生可能エネルギー支援制度を使わず、民間企業と独自に再生可能エネルギー電力の長期買取契約を結ぶスキームを意味します。
(注6)
ARTSの精神
当社グループの行動規範であり、Arigato、Responsiveness、Thoroughness、Sympathyのそれぞれ頭文字をとったものです。
  • A:共に働く仲間、関係するすべての人に敬愛と感謝の気持ちを持って行動します。
  • R:変化への最大の対応として俊敏さを大切にし、常にスピーディな対応を徹底します。
  • T:緻密で丁寧な活動が、革新的な知見を生み出すことを信じ、常に極め続けます。
  • S:調和と貢献の姿勢でお客様と仲間に接します。謙虚さ、誠実さが、お互いの成長につながると信じ、品格をもって行動します。また、柔軟に多様性を受け入れる広い心を持ち、自由な議論の場を創出します。
(注7)
当社グループの企業理念については、下記ウェブサイトをご参照ください。
https://www.sparx.jp/philosophy/

連結計算書類