事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当期のわが国経済は、新型コロナウイルス感染症対策として取られていた行動制限が緩和されたことから、観光需要にも回復が見られるなど経済活動の正常化が進み、緩やかな持ち直しの動きがみられましたが、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発したエネルギー価格の高騰、資材・原材料等の価格上昇に加えて、欧米各国の金融引き締め策により海外景気の下振れが懸念されるなど、依然として先行きが見通せない厳しい状況が続きました。
このような情勢のもとで、当社グループは、2022年度を初年度とする「京王グループ中期3カ年経営計画」に基づき、コロナ禍以前の利益水準と財務体質を回復するため、大きく「各事業の足元の出血をできる限り早期に止める」ことと「2030年代を見据えた事業変革を完遂する」ことの2点に取り組んでまいりました。その結果、営業収益は、すべてのセグメントで増収となり、3,471億3千3百万円(前期比15.8%増)、営業利益は、その他業を除く各セグメントで改善し、214億7千9百万円となり、経常利益は217億7千2百万円(前期比305.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は131億1千4百万円(前期比134.8%増)となりました。

次に、各セグメント別にご報告いたします。

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セグメント別の概況

営業収益 1,111 93百万円
前期比 12.1 %増
営業利益 39 29百万円
前期比
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運輸業全体の営業収益は、鉄道事業で前期と比べて回復が進んだほか、バス事業およびタクシー業においても増収となり、1,111億9千3百万円(前期比12.1%増)、営業利益は39億2千9百万円となりました。
鉄道事業では、京王線(笹塚駅~仙川駅間)連続立体交差事業について、事業主体である東京都と用地取得を引き続き進めたほか、代田橋駅~明大前駅間や桜上水駅付近などで高架橋柱の構築工事を進めました。安全への取組みでは、京王線布田駅~国領駅間を走行中の車内で発生した傷害事件を受けて、リアルタイム伝送機能を持つ防犯カメラの車両、駅への設置を進めました。また、警察・消防と連携した車内暴漢対処訓練を実施し、テロ行為等への抑止力を向上させるとともに、万一の場合でもお客様に被害が及ばないよう対応力を強化するなど、安心して当社線をご利用いただけるよう安全体制の強化に取り組みました。その他の安全性向上策では、笹塚駅において1番線、4番線でホームドアの使用を開始したほか、2番線、3番線でも設置に向けた準備を進めました。また、自然災害対策として、高架橋柱や盛土、トンネルなどの耐震補強工事を引き続き実施しました。営業面では、5000系車両1編成を増備するとともにダイヤ改正を実施し、「京王ライナー」の朝間および夕夜間時間帯の運行を拡大したほか、「Mt.TAKAO号」を増発するなど、利便性の向上をはかりました。新宿駅については、新宿駅西南口地区開発計画の進捗を受けて改良工事の検討に着手しております。環境への取組みでは、車両について、より消費電力削減効果に優れたVVVFインバータ制御装置への更新を進めたほか、駅構内の照明のLED化に取り組みました。
バス事業では、路線バスにおいて、JR西八王子駅と中野団地を結ぶ路線を新設したほか、CO2等を排出せず騒音が少ない大型電気バスを東京都で初めて導入しました。また、運営を受託している「バスターミナル東京八重洲」の第1期エリアが開業し、営業を開始しました。さらに、橋本駅と物流拠点「GLP ALFALINK相模原」間において新たな従業員用通勤バスの運行を受注しました。
新たな取組みでは、専用ECサイトで注文した商品を駅の専用ロッカーで受け取ることができる「トレくる by KEIO」の実証実験を行いました。
なお、運輸業の各事業は、新型コロナウイルスの流行によりテレワーク等の新しい生活様式が定着するなか、移動需要が以前の水準には戻らないと想定されるなど、極めて厳しい事業環境にあります。このような中、効率化や費用の削減に向けて、あらゆる施策に取り組んでまいりましたが、公共交通事業者として安心で安全な運行を維持し、お客様サービスの向上を進めていくためには、運賃の改定が必要との判断に至りました。そこで、タクシー業では一部エリアについて11月に、バス事業では路線バスの一部エリアについて3月にそれぞれ運賃を改定するとともに、当社では3月に鉄道運賃の改定について認可申請を行いました。今後も経営努力を徹底していくとともに、安全・安心・快適な輸送サービスの実現を目指してまいります。

営業収益 1028 33百万円
前期比 6.1 %増
営業利益 39 25百万円
前期比 93.7 %増
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流通業全体の営業収益は、百貨店業で増収となったほか、ストア業でスーパーマーケット事業が減収となったものの、コンビニ事業の売上増などにより増収となり、また、ショッピングセンター事業で「ミカン下北」が寄与したことなどにより、1,028億3千3百万円(前期比6.1%増)、営業利益は39億2千5百万円(前期比93.7%増)となりました。
百貨店業では、「京王百貨店」新宿店において、新宿駅周辺地区の再開発にともなう環境変化を見据えて、全館にわたる大規模改装に着手し、2階から7階フロアの一部をリニューアルいたしました。4階には、ライフスタイル提案の強化を目的として“くつろぐ。はたらく。体験する。心地よく過ごせる自分時間”をテーマとした複合型カフェラウンジ「Lounge K」をオープンいたしました。また、「ぷらりと京王府中」に小型サテライト店をオープンいたしました。
ストア業では、「京王ストア」八幡山店および稲城店において、惣菜・冷凍食品売場の強化など売場リニューアルを実施したほか、㈱セブン-イレブン・ジャパンのフランチャイズ店について、京王府中駅店など20店をオープンいたしました。
ショッピングセンター事業では、「ようこそ。遊ぶと働くの未完地帯へ。」をコンセプトとした複合施設「ミカン下北」をグランドオープンしました。同施設ロゴデザインは、世界3大デザイン賞のうち「Red Dot Design Award 2022」と「iF DESIGN AWARD 2023」の2つを受賞しております。また、「ぷらりと京王府中」の飲食フロア「TSUZUMI(つづみ)」のリニューアルを完了しました。
「京王ポイントサービス」では、お客様の利便性向上を目的として、スマートフォンをポイントカードとしてご利用いただける「京王パスポートデジタルポイントカード」の発行を開始しました。

営業収益 528 41百万円
前期比 11.9 %増
営業利益 120 90百万円
前期比 15.5 %増
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不動産業全体の営業収益は、不動産賃貸業で前期並みに推移したほか、不動産販売業で分譲マンションや投資用マンションの売上増などにより増収となったことから、528億4千1百万円(前期比11.9%増)、営業利益は120億9千万円(前期比15.5%増)となりました。
不動産賃貸業では、賃貸マンション「ACOLT中野富士見町」および「MODIER NIHONBASHI NINGYOCHO」が竣工し、入居を開始しました。また、「働く」「遊ぶ」「食べる」などをテーマに入居者が交流できるスペースを備えた賃貸住宅「Well-Blend」について、蒲田など3棟で入居を開始しました。さらに、多摩境駅の近隣において店舗、オフィス、物流倉庫からなる複合施設の建設に着手しました。
不動産販売業では、共同販売を進めていた「ブリリアタワー聖蹟桜ヶ丘ブルーミングレジデンス」が竣工し、引渡しを開始しました。また、賃貸マンション「MODIER ICHIGAYA」を一棟販売したほか、バリューアップ工事を実施した新宿区西早稲田の賃貸マンションを一棟販売しました。さらに、㈱サンウッドと共同で進めている「(仮称)浜田山三丁目プロジェクト」において、新築分譲マンションの建設工事に着手しました。
なお、新宿駅西南口地区開発計画については、11月に都市計画決定の告示がなされたことを受け、新宿全体を活性化させる「新宿グランドターミナル」の実現に向けて本計画における南街区開発を推進するため、本年4月から既存建物の解体工事に着手しました。

営業収益 527 52百万円
前期比 59.9 %増
営業損失 21 73百万円
前期比
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レジャー・サービス業全体の営業収益は、ホテル業で訪日外国人旅行客の増加や全国旅行支援の影響などにより前期と比べて稼働率や客室単価が大きく回復し、増収となったことから、527億5千2百万円(前期比59.9%増)、営業損失は前期と比べて改善したものの21億7千3百万円となりました。
ホテル業では、グループ各ホテルにおいて、「ただいま東京プラス」などの全国旅行支援に対応した専用宿泊プランを販売するなど、国内旅行需要の取り込みをはかりました。また、「京王プラザホテル(新宿)」において、季節毎の素材やテーマを冠したスイーツブッフェを展開するなど集客力の強化をはかったほか、コロナ後を見据え、インバウンド需要を取り込むため、海外セールス活動に取り組みました。さらに、「京王プラザホテル札幌」において開業40周年を記念した各種フェアを行ったほか、高山グリーンホテルにおいて本館地下1階大浴場「天領の湯~風雅~」をオープンいたしました。
旅行業では、プロスポーツチームや学生スポーツ大会の参加チームの選手等の移動・宿泊の取扱いを新規受注するなど営業強化に取り組みました。また、広告代理業では、八王子市日本遺産PRキャンペーンを受注したほか、都内商店街の魅力をPRするイベントの企画・運営を受注するなど収益拡大に取り組みました。
なお、事業の選択と集中をすすめるため、ホテル業において「京王プレッソイン東銀座」および「京王プラザホテル多摩」を閉館したほか、旅行業において、個人向け旅行商品を販売するカウンター店舗の一部について営業を終了しました。

営業収益 647 11百万円
前期比 3.5 %増
営業利益 44 78百万円
前期比 12.9 %減
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その他業全体の営業収益は、車両整備業で受注減などにより減収となったものの、ビル総合管理業での受注増などにより、増収となったことから、647億1千1百万円(前期比3.5%増)、営業利益は粗利益の減少などにより44億7千8百万円(前期比12.9%減)となりました。
ビル総合管理業では、東京都立多摩産業交流センター「東京たま未来メッセ」の施設管理に関する受託業務を開始しました。また、多摩都市モノレール㈱の多摩センター駅から玉川上水駅までの17駅についてエレベーターの保守・修繕業務を受注しました。
車両整備業では、東京都交通局から全般重要部検査業務や台車検査業務を受注したほか、三陸鉄道㈱から車輪交換業務を、わたらせ渓谷鐵道㈱から全般検査業務を受注するなど、引き続き各鉄道事業者から車両整備業務を受注しました。また、アルピコ交通㈱の上高地線鉄道車両の改造工事を完了し、同社新村車両基地(長野県松本市)に納入しました。
建築・土木業では、東京消防庁国分寺消防署新庁舎の建設工事を竣工したほか、多摩都市モノレール軌道桁伸縮装置更新工事や多摩市コミュニティセンター改修工事を完了しました。また、豊島区池袋や港区西麻布などでマンションを建設するなど、新築マンション建設工事の受注に取り組んだほか、トミンハイム国分寺泉町の大規模修繕工事を完了しました。なお、業容のさらなる拡大を目的として、京王建設㈱では本年5月に㈱NB建設(本社:神奈川県横浜市)の全株式を取得し、子会社とすることとしました。

【トピックス】京王の新しい取組み① 
KEIO OPEN INNOVATION PROGRAM

「誰もが知っている鉄道を、まだ誰も見たことのない鉄道へ 鉄道事業変革への挑戦」をテーマに、ReGACY Innovation Group㈱と共同で、スタートアップ企業をはじめとした外部企業との共創によるオープンイノベーションの実現を目指す「KEIO OPEN INNOVATION PROGRAM」に取り組んでおります。鉄道会社のビジネスが変革を求められている中で、次の時代につながる移動と沿線力向上を実現していきます。

【事業化に向けた検討採択企業との実証実験】

【トピックス】京王の新しい取組み② 
スポーツによる沿線活性化

沿線のスポーツ振興に寄与する活動を通じて、沿線内の移動創出や沿線地域の活性化に取り組んでいます。
本年4月には、冠協賛した「京王Presents Wリーグプレーオフ2022-2023」のセミファイナル・ファイナルが飛田給駅最寄りの「武蔵野の森総合スポーツプラザ」で開催されました。本大会の開催期間中は、大会ロゴデザインのヘッドマーク列車の運行やグループ各社との連携、調布市内約180店舗での観戦チケット優待などを実施し、当社グループと沿線の魅力を発信しました。
また、本年5月に、沿線の「味の素スタジアム」をホームスタジアムとするFC東京と包括連携協定を締結しました。今後、スポーツを通じた魅力的なまちづくりの推進・地域振興、子供たちの心身の健全な発達・育成に連携して取り組んでまいります。

【トピックス】京王の新しい取組み③ 
新たな金融サービスの提供

京王パスポートカード会員のお客様を対象に、沿線のお店で使える京王ポイントサービスと住信SBIネット銀行の「NEOBANK®」サービスを組み合わせた当社グループの新たな金融サービス「京王NEOBANK」を2023年秋からスタートします。
長期的に幅広いお客様とつながりつづけ、お客様の暮らしがより便利で充実する、新たな金融サービスの実現に向けて取り組みます。

対処すべき課題

京王グループ中期3カ年経営計画(2022~2024年度)

当社グループを取り巻く事業・社会環境は、新型コロナウイルス感染症による生活様式の変容を経て、ポストコロナ社会に移行しています。ホテル業では、インバウンド需要の急激な回復が見られ、百貨店業においても沿線のお客様を中心に回復が見られますが、テレワーク等の定着により、鉄道・バスの輸送人員は、コロナ禍以前の水準に回復することは想定できない状況にあり、駅を中心にビジネス展開しているグループの各事業においても、エネルギー価格が高騰するなか、より能動的に需要創造をしていく努力が求められております。
当社グループでは、これら事業・社会環境の変化に対応した事業構造への抜本的な変革を完遂するため、2022年度を初年度とする「京王グループ中期3カ年経営計画(以下、「中期経営計画」といいます。)」に取り組んでおります。

【中期経営計画の位置づけ】

具体的には、「RESTART」を全体テーマとして掲げ、鉄道会社としての社会における存在意義を見つめ直し、新しいライフスタイルを牽引する存在として、生活圏内の回遊性向上をはかるとともに、豊かで魅力的な「まちづくり」に主体的に関与し、お客様のニーズを捉えた新しい移動需要を創出することで、沿線力の向上をはかります。

【中期経営計画の取組み】

経営目標

中期経営計画最終年度の2024年度には、2018年度(コロナ禍以前)の85%程度まで営業利益を回復させ、2030年代までには過去最高益を超える水準を目指します。

サステナビリティに関する取組み

京王グループ理念

当社グループでは、グループとしての存在価値を明文化した「京王グループ理念」を制定し、これをグループ内外に発信することで、グループ全体の価値観や方向性の共有化をはかっております。

私たち京王グループは、
つながりあうすべての人に誠実であり、環境にやさしく、
「信頼のトップブランド」になることを目指します。
そして、幸せな暮らしの実現に向かって
生活に溶け込むサービスの充実に日々チャレンジします。

サステナビリティ基本方針

当社グループは、公共交通事業者としての社会的責務を果たすという使命を軸に、流通業、不動産業、レジャー・サービス業など幅広い事業を通じて、幸せな暮らしの実現や地域の発展を目指してまいりました。当社グループでは、このような幅広い事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献し、長期的な企業価値の向上を目指す旨を明文化した、「京王グループ サステナビリティ基本方針」を策定しています。

当社の交通ネットワークが広がる沿線地域を事業基盤としている私たちは、
「京王グループ理念」に基づく誠実かつ環境に優しい事業活動を通じ、
交通サービスを中心とした暮らしにおける「安全・安心」を提供し続けます。
そして時代の変化にいち早くきめ細やかに対応しながら多様化するライフスタイルを牽引し、
地域やパートナーと共に多世代が交流・躍動する「まちづくり」に取り組むことで、
持続可能な社会の実現に貢献し、長期的な企業価値を向上させてまいります。

この「京王グループ サステナビリティ基本方針」のもと長期的に取り組むべき主要課題として、SDGs等のガイドラインにおける社会課題の視点も取り入れた7つのマテリアリティ(安全・安心、「まち」との共生・発展、幸せな暮らし、デジタル社会への対応、活躍する人財、環境にやさしく、経営基盤)を設定しました。これらの考え方に基づいた「京王グループの価値創造プロセス」を35、36ページに示しています。

ガバナンス

当社グループではサステナビリティの視点を踏まえた経営を推進するため、当社代表取締役社長が委員長を務める「サステナビリティ推進委員会」を本年5月に設置しています。同委員会では、サステナビリティに関する全社方針や推進体制の整備、ESG課題の把握、マテリアリティの設定と目標策定・実績把握等について審議・決定を行い、当社取締役会に報告することとしています。
また、当社のマテリアリティには、気候変動に関する取組み課題が紐づく「環境にやさしく」と人的資本に関する取組み課題が紐づく「活躍する人財」があり、それぞれについて、本年5月に「環境基本方針」を改定するとともに、「人財戦略」を策定しています。

リスク管理

当社では、「鉄道安全管理委員会」「拡大鉄道安全管理委員会」「リスク管理委員会」「内部統制委員会」を設置し、リスクの把握と対応に努めています。
「鉄道安全管理委員会」では、安全統括管理者(鉄道事業本部長)を中心に、他社で発生した事案も含めて事故・トラブルの原因を把握し、対応策の検討・検証などを行っています。また、代表取締役社長が出席する「拡大鉄道安全管理委員会」を年2回開催し、鉄道事業の安全管理体制全般のマネジメントレビューを行っています。
「リスク管理委員会」では、「京王グループリスク管理方針」のもと、リスク低減と事故・トラブルの発生防止を目的として、対策重点項目の設定と対策の実施状況の確認を行っています。
「内部統制委員会」では、「京王グループ内部統制システムに関する基本方針」のもと、リスク管理に関わる事項や内部監査・財務報告に係る内部統制について、整備状況を確認・検証し、必要に応じた見直しを行っております。
サステナビリティを巡るリスクと機会については、これらの委員会で審議した事項も踏まえて、「サステナビリティ推進委員会」で認識・評価を行い、対応について経営計画に反映させ、当社取締役会に報告することとしています。

連結計算書類