事業報告(2023年4月1日から2024年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過および成果
当期における経済環境は、国際情勢の不安定化に伴い高騰した資源・エネルギー価格が下落に転じるなど、世界的なインフレ傾向に落ち着きが見られる中、欧米の金融当局は政策金利を据え置くなど、今後の景気減速に備えた動きが進んでいます。一方、国内においては、物価上昇に対する価格転嫁の動きが続く中、行楽需要やインバウンド需要の回復に伴うサービス消費の拡大や設備投資の増加など、足元の景況感は改善しつつあるものの、実質賃金が上昇していないことなどによる個人消費の低迷、人手不足の深刻化など、依然として本格的な景気回復が見通しづらい状況にあります。
このような状況下、ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、グループ各社の経営資源を結集したグループ経営体制の下、お客様や社会の多様化するニーズに対する総合的な提供価値の拡大に向けた取組みを推進しています。
当期の連結業績は、以下のとおりとなりました。

当期の営業収益は1兆7,586億26百万円となり、前期に比べ420億41百万円の減収となりました。これは、プライシングの適正化を進めたものの、宅配便の取扱数量や国際輸送の需要が減少したことなどによるものです。
営業費用は1兆7,185億66百万円となり、前期に比べ220億16百万円減少しました。これは、資源・エネルギー価格、時給単価など外部環境の変化によるコスト上昇が継続した中で、オペレーティングコストの適正化に向けた取組みに注力したことなどによるものです。
この結果、当期の営業利益は400億59百万円となり、前期に比べ200億25百万円の減益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、固定資産売却益の計上などにより376億26百万円となり、前期に比べ82億71百万円の減益となりました。
なお、当社は、2023年7月27日開催の取締役会において、株式会社ワールドホールディングスとの戦略的な業務提携に関する合意書の締結を決議するとともに、当社の連結子会社であるヤマト・スタッフ・サプライ株式会社の発行済株式の51%を、株式会社ワールドホールディングスの連結子会社である株式会社ワールドスタッフィングに譲渡しました。本株式譲渡に伴い、当社のヤマト・スタッフ・サプライ株式会社に対する議決権所有割合は49%となり、第2四半期末より、同社は当社の持分法適用関連会社になりました。
ヤマトグループ全体としての取組み
ヤマトグループは、経営理念に掲げる「豊かな社会の実現への貢献」を通じた持続的な企業価値の向上を実現するため、お客様や社会の多様化するニーズに対する総合的な提供価値の拡大に向けた取組みを推進しています。また、外部環境の変化等に伴うコスト上昇に対応するため、プライシングの適正化を進めるとともに、パートナー企業のコスト上昇に対して適時適切に対応するなど、輸配送ネットワークの維持・強化とお客様により良いサービスを提供し続ける環境の構築に取り組んでいます。
- ①
- ネットワーク・オペレーションの構造改革
EC需要への対応や企業間物流における小口・多頻度化の進展など、多様化する物流ニーズに最適化した専用ネットワークの構築を進めるとともに、業務量の変動に対するより柔軟な対応や拠点間輸送の効率化、荷待ち時間の短縮などを実現するため、小規模・多店舗展開してきたラストマイル集配拠点の集約・大型化やターミナル機能の再定義、デジタルテクノロジーを活用した「仕分け作業」や「運び方」の変革、事務処理の効率化など、宅急便ネットワークの強靭化に向けた取組みを推進しています。
また、当期においては、日本郵政グループと締結した協業に関する基本合意書に基づき、「クロネコゆうパケット」「クロネコゆうメール」の取扱いを開始しました。引き続き、両社の経営資源を有効活用し、お客様の利便性向上に資する輸送サービスの構築と事業成長を図るとともに、物流業界が抱える「2024年問題」や「カーボンニュートラル」などの課題解決に向けた取組みを推進しています。
- ②
- 法人ビジネス領域の拡大
世界の政治・経済とサプライチェーンのブロック化や環境問題などのリスク要因が増大する中、ヤマトグループは、サプライチェーン全体に拡がる顧客の経営課題の解決を目指すソリューションビジネスを新たな成長領域と位置づけています。かかる中、引き続き、営業とオペレーションが一体となり、グループの経営資源を最大限活用し、国内からグローバルに拡がるサプライチェーン全体に対する提供価値の拡大に取り組んでいます。
また、「2050年温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ(自社排出)」に向けて、EVの導入やドライアイスを使わない保冷輸送など、当社のGHG排出量削減を推進するとともに、お客様が保有する在庫や生産活動の最適化に向けて、より環境負荷の少ないサプライチェーンを構築するため、国際規格ISO 14083:2023に準拠したGHG排出量可視化ツールの開発など、引き続き、法人顧客への新たな提供価値の創出に取り組んでいます。当期においては、「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」(宅配便3商品)を対象とした「カーボンニュートラリティ宣言」を実施しました。本宣言は、2023年3月期(2022年4月~2023年3月)において、国際規格ISO 14068-1:2023に準拠したカーボンニュートラリティを達成したことを示すとともに、事業活動に伴うGHG自社排出量の削減に向けて継続的に取り組むことで、2050年までの宅配便3商品のカーボンニュートラリティ実現をコミットメントしたものです。ヤマトグループは、このような気候変動に配慮した輸送サービスの提供を通じて、個人および法人顧客のさらなる利用促進につなげていきます。
- ③
- 持続的な企業価値向上を実現する戦略の推進
ヤマトグループは、サプライチェーンの「End to End」に対する提供価値を拡大し、持続的な企業価値向上を実現するための基盤として、デジタル戦略、人事戦略の推進、サステナブル経営およびガバナンスの強化に取り組んでいます。
デジタル戦略については、「事業とデジタル」を一体的に推進する体制を整備するとともに、あらゆる情報をリアルタイムに把握し、社内外のシステムと連携できるデジタル情報基盤「ヤマトデジタルプラットフォーム」の活用による、お客様に対する提供価値の拡大やオペレーションの効率化に取り組んでいます。当期においては、引き続き、顧客体験価値のさらなる向上を図るため、デジタルテクノロジーを活用して、お客様の声の収集・分析およびサービスの改善・設計を推進しています。
人事戦略については、社員の成長をグループの成長につなげる「人材マネジメント方針」に基づき、新たな付加価値創出に向けた最適な人材ポートフォリオの構築や、多様な社員の働きやすさと働きがいの向上などに取り組んでいます。
サステナブル経営の強化については、中長期的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けた2つのビジョン「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」「共創による、フェアで、“誰一人取り残さない”社会の実現への貢献」に基づき、特定した重要課題(マテリアリティ)への取組みを推進しています。
環境の領域については、「2050年温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ(自社排出)」および「2030年温室効果ガス(GHG)排出量48%削減(2021年3月期比)」の実現に向け、引き続き、「EV23,500台の導入」「太陽光発電設備810基の導入」「再生可能エネルギー由来電力の使用率向上」などの施策を推進しています。当期においては、EV運用オペレーションの最適化に向けた取組みや再生可能エネルギー由来電力の活用など、エネルギーマネジメントの実証拠点となる京都府の八幡営業所がリニューアルオープンしました。同営業所はモデル店として、全国で初めて、全集配トラック(32台)をEV化するとともに、太陽光発電設備や蓄電池を導入し、再生可能エネルギー由来電力の活用や電力平準化システムの導入による電力使用ピークの偏りの緩和などに取り組んでいます。
また、自動車メーカー様と連携し、カートリッジ式バッテリーを用いた軽EVの集配業務における実証実験を開始するなど、サステナブルな物流の実現に向けた取組みを進めています。
社会の領域については、引き続き、人材の多様性を尊重し、社員が活躍できる職場環境を整備するとともに、社会の諸課題に向き合い、共創による地域づくりを推進するなど、豊かな社会の実現に向けて取り組んでいます。
ガバナンスの強化については、引き続き、経営の監督と執行の分離、経営の透明性の維持、強化など、コーポレート・ガバナンスの強化を推進するとともに、意思決定のスピードを重視したガバナンス体制の下で、事業構造改革に取り組んでいます。
- ④
- 中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」の策定
ヤマトグループは「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」を2030年の目指す姿として定め、本年2月、2027年3月期を最終年度とした中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」を策定しました。本中期経営計画では、宅急便ネットワークの強靭化と提供価値の拡大、サプライチェーン全体に拡がるソリューションの提供を通じた法人ビジネス領域の拡大、多様化する顧客や社会のニーズに応える新たなビジネスモデルの事業化、グループ経営基盤の強化などに取り組み、「経済価値」を生み出すとともに、社会の持続可能性への取組みによる「環境価値」「社会価値」を創造していきます。なお、2025年3月期より本中期経営計画で定義した「エクスプレス事業」「コントラクト・ロジスティクス事業」「グローバル事業」「モビリティ事業」の4事業によるセグメントに変更します。
セグメント別の概況
リテール部門
- ①
- リテール部門は、宅急便をはじめとする高品質な小口輸送サービスを提供するとともに、グループ全体のビジネスの起点として、生活様式やビジネス環境に伴うお客様の変化を第一線の社員が汲み取り、法人営業担当者と連携してグループの経営資源を活用したソリューション提案を行うなど、宅急便のサービス提供によって生み出されるお客様との接点という利点を活かし、お客様のニーズに応える価値提供に取り組んでいます。そして、5,000万人以上にご登録いただいている「クロネコメンバーズ」、法人のお客様170万社以上にご利用いただいている「ヤマトビジネスメンバーズ」を中心に「送る」「受け取る」をより便利にするサービスの提供や、輸送以外の生活・ビジネスに役立つ様々なサービスの拡充に取り組んでいます。
- ②
- また、ネットワーク・オペレーション全体の生産性を向上させるため、宅急便ネットワークの強靭化に向けた取組みを推進しています。当期は、引き続き、都市部を中心に小規模・多店舗展開してきたラストマイル集配拠点の集約・大型化や、保冷専用ネットワークの構築を推進するとともに、配達エリアや配達ルートを、業務量の変動に合わせて柔軟に設定する仕組みの構築を進めました。
- ③
- 外部顧客への営業収益は、宅配便の単価は上昇したものの、取扱数量が減少したことなどにより8,779億48百万円となり、前期に比べ1.9%減少しました。営業利益は、オペレーティングコストの適正化に向けた取組みを推進しているものの取扱数量の減少分を補うには至らず、前期に比べ97億8百万円減少しました。
法人部門
- ①
- 法人部門は、国内からグローバルに拡がるサプライチェーン全体に対する提供価値の拡大に向けて、営業とオペレーションが一体となり、専用ネットワークの構築・拡大を推進するとともに、物流オペレーションの改善や効率化に留まらず、お客様の経営課題に立脚した改善提案や、より実効性のあるプロジェクトの構築や管理運営など、アカウント営業の強化に取り組んでいます。
- ②
- EC需要が集中する都市部において、仕分け・輸送からラストマイルまでのオペレーションプロセスを簡素化したEC物流ネットワークの構築を推進するとともに、大手EC事業者様との連携の下、オンラインショッピングモールに出店するEC事業者様の物流最適化に向けて、受注から出荷・配送までの全部または一部の機能を代行するサービスの拡販とさらなる利便性の向上に取り組んでいます。
- ③
- また、成長が加速する越境ECにおいては、輸入通関に関わるシステムと国内配送ネットワークを円滑に連携し、お届けまでのリードタイム短縮を実現する取組みを推進するなど、サプライチェーンの「End to End」に対する提供価値の拡大に向けた取組みを進めています。当期においては、越境ECを利用する購入者に対し、低コストかつスピーディーな納品を実現する、越境EC事業者向け海上小口輸送サービスの提供を開始しました。
- ④
- 外部顧客への営業収益は、国際輸送の需要が減少したことなどにより8,240億96百万円となり、前期に比べ2.6%減少しました。営業利益は、リテール部門への配達委託に関する費用が増加したことなどにより、前期に比べ85億51百万円減少しました。

その他
- ①
- 当期においては、引き続き、複数の企業グループのネットワークを用いたボックス輸送や車両整備サービスの拡販に取り組みました。
- ②
- 外部顧客への営業収益は565億81百万円となり、前期に比べ5.8%減少しました。また、営業利益は127億34百万円となり、前期に比べ8.4%減少しました。
安全・地域共創などの取組み
- ①
- ヤマトグループは、人命の尊重を最優先とし、安全に対する様々な取組みを実施しており、輸送を主な事業とするグループ各社を中心に、安全管理規程の策定および管理体制の構築、年度計画の策定など、運輸安全マネジメントに取り組んでいます。当期においては、引き続き「こども交通安全教室」を幼稚園・小学校などで開催するとともに、グループ全体での「交通事故ゼロ運動」や全国のドライバーが安全運転の技能や知識を競い合う「全国安全大会」を開催するなど、安全意識の向上を図る取組みを推進しました。
- ②
- ヤマトグループは、より持続的な社会的価値の創造に向けて、社会と価値を共有するCSV(クリエーティング・シェアード・バリュー=共有価値の創造)という概念に基づいた取組みを推進しています。引き続き、地域社会の健全で持続的な発展と地域の皆様の安心・快適な生活をサポートする地域密着のコミュニティ拠点として「ネコサポステーション」を運営し、家事サポートサービスや、IoT電球「HelloLight」を活用した「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」を展開するなど、生活全般に関わる相談窓口の設置、地域の皆様が交流できるイベント開催などに取り組んでいます。また、当期においては、北海道でドラッグストアを展開する小売事業者様とヤマト運輸株式会社が締結したパートナーシップ協定に関する基本合意書に基づき、宅急便営業所や移動販売専用車を活用した買い物支援の拡充、ドラッグストア店舗での荷物の受け取り、店舗で購入した商品の自宅への配送、効率的で安定した店舗納品など、北海道が抱える社会課題の解決や持続可能な地域社会の実現に向けた取組みを推進しています。
- ③
- ヤマトグループは、社会とともに持続的に発展する企業を目指し、公益財団法人ヤマト福祉財団を中心に、障がい者が自主的に働く喜びを実感できる社会の実現に向けて様々な活動を行っています。具体的には、パン製造・販売を営むスワンベーカリーにおける積極的な雇用や、就労に必要な技術や知識の訓練を行う就労支援施設の運営など、障がい者の経済的な自立支援を継続的に行っています。