事業報告(2024年4月1日~2025年3月31日)
JALグループ(企業集団)の現況に関する事項
事業の経過およびその成果
当期において、日本および米国を始めとする世界主要国経済は、不安定な世界情勢の中で緩やかな成長が持続しました。
こうした経済情勢の下、フルサービスキャリア事業の国際旅客ではインバウンド需要の取り込み、国内旅客では各種キャンペーンによる需要喚起、貨物郵便では自社貨物専用機のネットワーク拡充などに努めました。また、コロナ禍以降取り組んできた事業構造改革(*)を着実に推進することにより、「LCC事業」、「マイル/金融・コマース事業」、「その他(旅行・受託等)」の各セグメントも収入を拡大した結果、売上収益は1兆8,440億円(前年比11.6%増)となりました。一方、費用は円安や世界的なインフレーションの影響を受けたものの、全社員でコスト抑制に取り組み、1兆6,934億円(前年比9.8%増)となりました。以上の結果、EBITは1,724億円(前年比18.7%増)となり、前期に続いて前年比で増収増益を達成しました。
(*)当期より「フルサービスキャリア事業」、「LCC事業」、「マイル/金融・コマース事業」および「その他(旅行・受託等)」の区分に変更しました。

人的資本経営については、新卒採用に加えてキャリア採用を積極的に実施するとともに、教育・研修の拡充を通じて社員の能力向上に努めました。また、業務企画職(総合職)を対象に早期登用を可能にするとともに、60歳以上の社員のさらなる活躍に向けて人事制度を改定するなど、社員エンゲージメントの向上を図りました。
GXについては、2050年のCO2排出量実質ゼロの実現に向け、最新鋭の省燃費機材の導入、大気からCO2を回収する「ネガティブエミッション技術」を持つ企業への出資等さまざまな取り組みを進めました。
これらの取り組みを通じて、SX銘柄2024、ESG投資の代表的指数であるDow Jones Sustainability Asia Pacific Indexの構成銘柄への選定など、外部機関から高い評価を受けました。
今後も、全社員一丸となって新たな挑戦を積み重ね、企業価値の向上に取り組んでまいります。
(注) 以降、当期(2024年度)の事象の年月表記については、年を省略し月のみの記載とします。
各部門の状況

フルサービスキャリア事業(国際旅客・国内旅客・貨物郵便)
フルサービスキャリア事業での売上収益は1兆4,518億円(前期差+1,292億円)、EBITは1,111億円(前期差+49億円)となり、増収増益となりました。(※1)
国際旅客

旺盛なインバウンド需要や緩やかに回復傾向にある日本発業務需要を積極的に取り込んだことにより、旅客数は前期比14.4%増となりました。単価は前期比2.2%減となったものの、引き続き高い水準を維持しました。以上の結果、収入は前期比11.9%増の6,963億円となりました。
事業運営面では、CO2排出量を従来機対比で約15~25%削減できる省燃費性と最高の快適性を備えたエアバスA350-1000型機を、4月にダラス・フォートワース線、10月にロンドン線に投入するなど、商品競争力を向上させました。また、前期末に日本の航空会社初の中東への直行便ドーハ線を開設したことに加え、ガルーダ・インドネシア航空との共同事業を決定するなど、ネットワーク拡充を推進しました。
商品サービス面では、10月より機内Wi-Fiサービスを全クラスで無料にしました。また、SKYTRAX(*1)「5スター」に8年連続で認定され、APEX(*2)「WORLD CLASS」を日本の航空会社で唯一4年連続で受賞するなど、当社のサービスは、航空業界をリードする世界最高の品質と評価されました。
- (*1)英国を拠点とする航空会社の格付会社
- (*2)お客さまの搭乗体験向上のために航空会社や航空関連メーカー、旅行関連企業などで構成する米国を拠点とする非営利団体

国内旅客

各種キャンペーンによる需要喚起施策を通じて好調な個人需要を取り込んだ結果、旅客数は前期比2.9%増、単価は前期比0.8%増となり、収入は前期比3.7%増の5,715億円となりました。
事業運営面では、高需要期における臨時便の設定と一部機材の増席等、限られた経営資源の有効活用を通じて、需要の高い路線の供給拡大と収支改善を実現しました。さらに、費用増に対応した一部運賃の値上げと、閑散期・閑散便を中心とするタイムセールで収入最大化に努めました。また、オーバーツーリズムへの対応として、インバウンド旅客の日本各地への誘客にも注力しました。これらの結果、通年の座席利用率が、過去最高の78.9%となりました。
商品サービス面では、10月からストリーミング配信(*)による動画視聴を無料でお楽しみいただけるよう、機内Wi-Fiサービスの拡充を行いました。また、JALカード会員限定でさらにお得にご利用いただける「JALカードスカイメイト」を2月から新設し、若年層が気軽に旅に出るきっかけづくりに努め、大学生を中心に多くのお客さまにご利用いただきました。
- (*)端末上にダウンロードせずその場で再生される配信方式

貨物郵便

国際貨物
3月から新たにハノイ線を就航するなど、自社貨物専用機を活用してネットワーク拡充を進め、中国・アジア発北米向け貨物を中心に需要を取り込んだ結果、輸送重量は前期比20.4%増となりました。加えて、医薬品などの高付加価値貨物の獲得等に努め、単価は前期比2.1%増となりました。以上の結果、収入は前期比22.9%増の1,233億円となりました。また、リチウム電池輸送に関する国際的な統一基準を取得し、輸送ニーズが高まっているリチウム電池の安全かつ高品質な輸送サービスを構築しました。
国内貨物
コロナ禍に陸上輸送に移行した貨物需要を再誘致するとともに、新たな航空貨物需要の獲得に努めたことにより、輸送重量は前期比9.2%増となり、収入は前期比42.7%増の279億円となりました。また、ヤマトホールディングス株式会社との国内貨物専用機を活用した共同事業については、4月に就航を開始し、物流を通じた社会課題の解決に取り組みました。
LCC事業
LCC事業の売上収益は1,041億円(前期差+292億円)、EBITは115億円(前期差+88億円)となり、増収増益となりました。(※1)
- (注)持分法適用関連会社であるジェットスター・ジャパンの実績は含みません。

各社がそれぞれ強みを持つネットワークを活かし、成長するインバウンド需要を取り込むべく国際線の拡大などを進めました。
ZIPAIR
3月に成田=ヒューストン線を開設したことで、就航先は北米・アジアを中心に10都市まで増加し、15%を超える高い営業利益率を達成しました。また、今後の需要拡大を踏まえ、ボーイング787-9型機の導入を決定しました。
スプリング・ジャパン
国内線から中国路線への移行を進め、回復する中国発需要を着実に取り込むとともに、ヤマトホールディングス株式会社との共同事業に用いる貨物専用機の運航を受託することにより、初の通期黒字化を達成しました。
ジェットスター・ジャパン(持分法適用関連会社)
成田で最大規模のエアラインとして人流の拡大に貢献し、成田発着運航便の搭乗者数累計4,000万人を達成しました。また、12月に関西=台北線を増便し国際線の拡大を図るとともに、新システムによるレベニューマネジメント強化等、収益性向上を図りました。
マイル/金融・コマース事業
マイル/金融・コマース事業の売上収益は2,003億円(前期差+103億円)、EBITは381億円(前期差+34億円)となり、増収増益となりました。(※1)

マイル発行数の増加や好調なコマース事業により大幅な増収となりました。
マイル/金融
日常のさまざまなシーンでマイルをためて、特別な体験へ交換できるよう、マイルの魅力の向上に取り組みました。「JAL Life Status プログラム」(*)の制度拡充や、各種キャンペーンなどの実施により、JALカードの会員数・決済額が増加するとともに、スマートフォン決済「JAL Pay」の利用も促進しました。また、提携企業のポイントからマイルへの交換が堅調に推移するとともに、「JAL光」「JALでkariteco」などの新たなマイル提携サービスも展開しました。以上により、航空事業以外の発行マイル数が前期比11%増となりました。
- (*)2024年1月に導入した、生涯を通じて、ご搭乗に加えて日常生活のさまざまなサービスのご利用でステイタスポイントを獲得いただけるロイヤリティプログラム。
コマース
中核子会社JALUXが、航空関連事業や空港店舗など幅広く事業を展開し、増収増益となりました。また、総合オンラインショッピングモール「JAL Mall」については、出店数が130店舗を超え、商品ラインナップを拡充しました。
その他(旅行・受託等)
その他(旅行・受託等)の売上収益は、2,522億円(前期差+286億円)EBITは123億円(前期差+98億円)となり、増収増益となりました。(※1)

旅行領域では、中核子会社ジャルパックが、デジタル化の進展や円安等による海外および国内マーケットの変化を踏まえつつ、既存事業の収益性向上に取り組むとともに、マイルツアーやワーケーションなどさまざまな取り組みを推進する商品造成を行うなど、関係・つながりの創出に努めました。
外国航空会社のグランドハンドリングの受託においては、持続可能な応需体制の構築に取り組み、インバウンド旅客の増加に貢献しました。また、取扱便数の増加に加え、受託料金の見直しにより収益性の向上を図りました。
エアモビリティ領域では株式会社Soracleを設立し、米国Archer社と協業するなど、新たな空の移動価値の創造に向けて取り組みました。
対処すべき課題
2021年度に策定した2021-2025年度中期経営計画に基づき、コロナ禍からの早期回復、財務基盤の再構築、持続的な成長を実現するための事業構造改革、事業を通じた社会課題の解決等に取り組んでまいりました。2025年度の経営目標・利益目標の達成により、同中期経営計画を完遂し、2026年度以降のさらなる成長へつなげてまいります。

(1) 2021-2025年度中期経営計画の振り返りと見通し
「利益目標の達成」「事業構造改革の推進」「経営目標の達成」
- ・コロナからの早期回復、財務基盤の再構築、持続的な成長を実現する事業構造改革、事業による社会課題の解決など、ESG戦略を最上位の戦略として取り組むことで、成長への転換を実現します。
- ・2025年度は、旺盛な海外需要の取り込みによる国際線の成長、国内線の収益性の改善、マイル・ライフ・インフラ領域の拡大などにより、2024年3月に発表したEBIT 2,000億円を達成します。

(2) 2026年度以降の成長に向けて
既存の事業領域においては、「国際線の成長」「国内線の収益性向上」「生産性向上」「マイル・ライフ・インフラの成長」「GXの取り組み加速」からなる、事業構造改革の深化に取り組み、2028年度のEBIT 2,300億円の達成と、企業価値向上を目指します。また、今後顕在化していく社会課題を新たなニーズととらえ、新領域での事業創出にも積極的に取り組んでいきます。

① 事業構造改革の深化
2028年度のEBIT 2,300億円の達成と、中長期的な企業価値向上に向け、フルサービスキャリア(国際旅客)に加え、LCC、非航空領域を中心とした、成長性・資本効率性の高い領域に重点的にリソースを配分していきます。DXを活用したサービス変革・働き方改革により生産性を向上させ、成長領域へ人財をシフトしていきます。

② 経営資源配分
財務の健全性を維持しながらも、成長領域へ経営資源を重点的に配分していきます。
成長投資を進めて将来の成長を図っていきます。
また、株主の皆さまへの早期の還元拡充も確実に実現してまいります。

③ GX戦略
2050年のネットゼロエミッション実現に向け、
- ・2030年度には73%の機材を省燃費機材に更新します。
- ・2030年度には全搭載量燃料の10%をSAFに置き換えるべく、さまざまな取り組みを進めます。
- ・カーボンクレジットの調達、次世代新技術の導入促進にも、引き続き取り組みます。

④ 社会課題起点での事業成長
既存領域における「関係・つながりの総量」拡大の取り組みに加え、新たな事業領域で社会課題の解決に取り組むことで、中長期的な企業価値の向上を実現します。

⑤ 事業横断の取り組み
中長期的な事業の成長を実現するため、顧客戦略、人財戦略、DX戦略を、事業横断で推進していきます。

以上の取り組みを通じて「JAL Vision 2030」を実現し、多くの人々やさまざまな物が自由に行き交う、心はずむ社会・未来を実現すべく、全社員一丸となって進んでまいります。
