事業報告(2020年6月1日から2021年5月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

⑴ 事業の経過および成果

当連結会計年度(2020年6月1日から2021年5月31日まで)における世界経済及びわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により、非常に厳しい状況となりました。ワクチン接種が進み、経済活動再開の動きも見られますが、一部の地域では変異株が再拡大するなど、感染症を十分にコントロールできる状況には至っておらず、引き続き経済活動は制約されています。当種苗業界におきましては、人の動きが制限されたことにより、イベントや観光、外食関連の需要が大きく減少した一方、消費者の在宅機会増加による新たな需要、ストレス軽減や癒しを求める家庭園芸への需要増加が見られました。また、サプライチェーン関連では、国際貨物便の減少などにより、物流の乱れが生じました。

このような状況のなか、当社グループでは、在宅勤務や時差勤務の推進、前倒しなどの入出荷の工夫、ウェブ会議やプロモーション動画の活用など、ステークホルダーの方々の感染防止を最大限図りつつ、必要な事業の継続に努めました。

これらの結果、当社グループの当連結会計年度における売上高は692億18百万円(前期比75億50百万円、12.2%増)となりました。また、主に売上高が増加したことを受け、営業利益は97億25百万円(前期比22億43百万円、30.0%増)、経常利益は100億78百万円(前期比20億7百万円、24.9%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は76億36百万円(前期比15億42百万円、25.3%増)と、各項目において過去最高の結果になりました。なお、品目別では、野菜種子は、ブロッコリー、トマトなどの当社主力商品が好調に推移したことに加え、中国向けニンジン種子の販売時期変更によるプラス要因もあり、大幅な増収となりました。花種子は、期初、新型コロナウイルス感染症拡大を受け低調なスタートになりましたが、トルコギキョウ、ヒマワリなどを中心に年度後半にかけて回復し、通期では増収となりました。苗木と資材は、家庭園芸での需要が増加したことなどから、増収となりました。

セグメント別の業績の概要

売上高 167 5 百万円
前期比 3 35 百万円
%増
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売上高構成比 %

(単位:

事業内容

国内の種苗会社等への農園芸商材(野菜種子・花種子・球根・苗木・資材)の卸売

トマト「かれん」

国内卸売事業は、球根は減少しましたが、野菜種子、花種子、苗木、資材の売上が増加し、前期比増収となりました。

品目別では、野菜種子は、ホウレンソウ、ニンジン、ダイコン、メロンなどは減少しましたが、トマト、ブロッコリー、ネギ、レタスなどの産地への導入が大きく進み、全体では増収となりました。花種子は、パンジーなどが減少しましたが、無花粉タイプのトルコギキョウがプロモーションにより増加したほか、ハボタン、ケイトウ、ヒマワリなども増加し、全体では微増となりました。資材は、消費者の在宅機会増加により新たに生まれた需要を受け園芸資材の売上が増加し、また夏の天候不順に対応した高機能液肥やリニューアルした低コスト環境制御システム「アルスプラウト」も好調に推移しました。

これらの結果、売上高は167億5百万円(前期比3億35百万円、2.0%増)、営業利益は52億91百万円(前期比1億15百万円、2.2%増)となりました。

売上高 437 76 百万円
前期比 69 47 百万円
%増
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売上高構成比 %

(単位:

事業内容

海外の種苗会社等への農園芸商材(野菜種子・花種子・苗木)の卸売

ヒマワリ「ビンセント」

海外卸売事業は、野菜種子、花種子とも売上が増加しました。また、為替レートも全般的に円安となったことから、前期比、大幅な増収となりました。

野菜種子は、ブロッコリー、トマト、ペッパー、カボチャなどの当社主力商品が、ほぼ全地域で好調に推移いたしました。またそれ以外の品目では、ニンジンは、中国での販売に関し、商流及び販売時期を変更した一時的な要因も加わり、アジアで大きく増加いたしました。北中米では買収効果でレタスが増加したほか、欧州・中近東ではネギ、南米ではメロン、アジアではカリフラワーなども増加しました。

花種子は、年度初めは新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けましたが、徐々に回復し、通期では増収となりました。品目別では、トルコギキョウ、ヒマワリに加え、カンパニュラ、プリムラ、ケイトウなどが大きく増加しました。地域別では、アジア、北中米で、増加額が大きくなりました。

これらの結果、売上高は437億76百万円(前期比69億47百万円、18.9%増)、営業利益は133億39百万円(前期比22億20百万円、20.0%増)となりました。

売上高 57 85 百万円
前期比 2 24 百万円
%増
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売上高構成比 %

(単位:

事業内容

ホームセンター・通信販売・直営ガーデンセンターを通じた園芸愛好家への園芸商材(野菜種子・花種子・球根・苗木・資材)の販売

小売事業は、量販店向けのホームガーデン分野、通信販売とガーデンセンター横浜の直売分野とも、消費者の在宅機会増加による需要に呼応した営業を展開しました。また、園芸や菜園関連のオリジナル商品を軸とした各商品の販売提案や、初心者へのプロモーションを実施した結果、絵袋種子や資材の売上が伸びました。さらに、11月には通信販売のECサイトをリニューアルオープンし、好調に推移しました。

これらの結果、売上高は57億85百万円(前期比2億24百万円、4.0%増)、営業利益は1億20百万円改善し、1億10百万円の利益(前期は10百万円の営業損失)となりました。

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売上高構成比 %

事業内容

造園工事・管理・その他

造園緑花分野は、新型コロナウイルス感染症拡大により、民間及び公共工事の延期や中止が発生し、公園や観光施設の閉鎖とイベントなどの中止もあり、事業へのマイナス影響を余儀なくされました。新たに選定された指定管理者事業の増加や新規工事を受注できたことにより、売上高は29億50百万円(前期比43百万円、1.5%増)となりましたが、営業利益は38百万円(前期比65百万円、62.6%減)となりました。

次に当社グループの研究・開発についてご報告いたします。

主力商品である野菜と花の品種開発は研究本部、農園芸資材の開発はソリューション統括部が担当し、全世界の市場に向けた品種の育成、農園芸資材の開発を行っております。研究・開発拠点として、日本国内では静岡県掛川市をはじめ5か所に、海外では北米、南米、欧州、アジア圏など、13か所に農場を配しております。

当社の理念である「心と体の栄養」を世界の人々に届けることを目標に、サカタオリジナルの価値ある商品開発を進めてまいります。

当連結会計年度の主な研究内容および成果は、次のとおりであります。

【野菜】

当連結会計年度は、ホウレンソウ「ドンキー」が、一般社団法人日本種苗協会主催の第71回全日本野菜品種審査会において1等特別賞を受賞するとともに、農林水産大臣賞も受賞し、国内外における高い研究開発力が評価されました。

新品種におきましては、青枯病、褐色根腐病への強度の耐病性を有する台木トマト「グランシールド」、青果用に加え、特に需要が高い初夏どりの加工業務用として期待されるキャベツ「がいな」、鮮やかな果色が長持ちするオクラ「ずーっとみどり」、濃厚な味わいで食味に優れるラグビーボール型カボチャ「スイートタックル」、適応幅が広く形状安定性に優れる高品質な秋冬ダイコン「冬の守」、加工歩留まりがよいダイコン「夏相撲」および「秋相撲」、濃緑で低温伸長性に優れた小ネギ「菊千代」、晩抽性、耐暑性に優れ、晩春・初夏どりで特に能力を発揮する一本ネギ「初夏扇2号」、厳寒期における伸長性に優れるチンゲンサイ「翠勲(すいくん)」、花蕾が乱れやすい早春どりでも、良質な花蕾が収穫できる晩生ブロッコリー「レイトドーム」など、生産者の要望に沿い、消費者にも喜ばれるオリジナル性の高い品種を数多く発表いたしました。

海外市場では、日本国内で開発された品種のみならず、海外の各農場で育成された品種が現地市場でご好評を頂き、販売増加に貢献しております。

ホウレンソウ「ドンキー」

ダイコン「冬の守」

【花】

当連結会計年度は、ジニアの新品種「プロフュージョン レッドイエローバイカラー」が、世界2大花き品評会とされる米国の「オール アメリカ セレクションズ」(AAS)、欧州の「フロロセレクト」(FS)でゴールドメダルを獲得いたしました。AASにおいてゴールドメダルは17年ぶりの選出であり、一つの品種でAAS、FS共にゴールドメダルを獲得することも17年ぶりとなります。

また、一般社団法人日本種苗協会主催の第66回全日本花卉品種審査会ではトルコギキョウ「SM8-642」と世界初の無花粉(PF)八重咲トルコギキョウ「PF ダブル スノー」が、さらに第67回審査会ではペチュニア「バカラiQ ブルー」がそれぞれ1等特別賞を受賞いたしました。その中から特に優秀な品種として、トルコギキョウ「PF ダブル スノー」が農林水産大臣賞も受賞し、当社のオリジナリティあふれる品種育成が評価されました。

新品種におきましては、発芽揃いと切り花スタイルの良いカンパニュラ「チャンピオンiQ」を新シリーズとして発表することが出来ました。そのほかの切り花品種では大輪フリンジ咲きで人気色の「ボヤージュ(1型) ラベンダー」を始めトルコギキョウ8品種を発表いたしました。

花壇苗品種では、暖房経費を削減でき省エネルギーで環境にやさしいペチュニア「エコチュニア ローズベイン」、「同 ピンクモーン」と雨に強いペチュニア「バカラiQ ブルー」、色鮮やかな「サンパチェンス オレンジ」、さらにコンパクトな草姿で冬でも咲き続けるパンジー「パシオ ピンクフレア」、「同 ビーコン」を発表いたしました。

ジニア「プロフュージョン レッドイエローバイカラー」

トルコギキョウ「PF ダブル スノー」

【ソリューション】

当連結会計年度は、『Seedfun.(シードファン)』シリーズが、園芸初心者から園芸経験者の方まで広くご好評をいただき、コロナ禍におけるおうち時間のひとつとして「園芸」需要が高まり、通信販売、ホームセンター、園芸店などで販売が増加いたしました。また、『Seedfun.(シードファン)』シリーズより、新たに『くり返し使える竹ラベル』を発売いたしました。

園芸初心者向けとして、『はじめてさんのかんたんタネまきキット 誰でもできる!かわいいお庭』は、タネまき培養土である「ジフィーセブン」と栽培管理用トレーなどのキットで構成され、ご家庭で簡単にタネまきをすることができる商品となっています。また、園芸経験者向けとして、『タネからはじめるかんたん苗づくりキット 「買う苗」から「つくる苗」へ』は、天然素材の「ジフィーポット」などで構成され、苗を購入している方が、タネまきから苗を作る工程をじっくり楽しんでいただける商品となっています。

また、『くり返し使える竹ラベル』は、プラスチック製のものが多く、デザイン面、環境面から自然素材の製品を求める声があり、竹ならではの温かみや、一本ずつ異なる木目など自然な質感・デザインで植物に馴染みやすく、鉛筆で書けば繰り返し使える素材となっています

『Seedfun.(シードファン)』シリーズは、タネまきの先の楽しさまで提案できる総合園芸ブランドを目指し、今後もラインアップを拡充していく予定です。

「くり返し使える竹ラベル」

「Seed fun.シリーズ」

⑵ 設備投資の状況

当連結会計年度に実施いたしました設備投資の総額は、50億47百万円であります。

主な内容は、当社の2021年6月より運用を開始している新基幹システムの導入への投資(13億98百万円)となります。

⑶ 資金調達の状況

運転資金、借入金の返済などに必要な資金は自己資金の充当および金融機関からの借入により調達しております。

対処すべき課題

国内の農業分野では、農業人口の減少、農村地帯の過疎化、食料自給率の低下等が、引き続き大きな課題となっております。2020年3月、政府は、「食料・農業・農村基本計画」を制定し、国内農業における国際競争力の向上、農村の振興、食料の安定供給の確保、農業の持続的な成長を遂げるための改革を進めております。また、農業の現場では、環境制御システムの導入、AI(人工知能)、ICT(情報通信技術)、ドローンなどの先端技術を駆使したスマート農業の活用により、農作業における省力化・軽労化はもとより新規就農者の確保や、栽培技術の継承も期待され、新たな可能性が拡がりつつあります。

世界的には、農薬や穀物種子を含むアグロケミカル産業の多国籍大手企業による業界再編の動きも見られる一方、国際的な枠組みにおいては持続可能な開発に向け、食料の安定確保や栄養の改善が重要課題と位置付けられており、各企業にもその貢献が求められております。

これらを実現するためには、付加価値の高い種苗の安定供給がますます重要となっており、種子を提供する種苗会社の社会的な役割がこれまで以上に高まりつつあります。

また、2020年から世界中に広がった新型コロナウイルス感染症については、ワクチン接種なども普及しておりますが、終息への見通しはいまだに不透明で、各国における景気や消費動向にさまざまなインパクトを与えています。このような中、人々に心の栄養をもたらす花、身体の栄養をもたらす野菜へのニーズはむしろ高まっており、その種苗を提供する当社は、より一層グローバルに重要な役割を担っていると言えます。諸外国では、種苗業は生活に必須の業種「エッセンシャルカテゴリー」に位置付けられており、ロックダウン下でも一定の活動が保証されております。

当社グループではこうした状況の下、下記に掲げた課題に取り組みながら、持続的な研究開発活動とグローバルな営業展開をさらに推し進めてまいります。また、新型コロナウイルス感染症の拡大で加速すると考えられる生活様式や産業構造、事業環境の変化をとらえ、柔軟に対応することによって、より高い収益力と健全な財務体質を兼ね備えた種苗業界のリーディングカンパニーを目指してまいります。

①高収益ビジネスモデルの確立

生産者が安心して栽培を実現し、高い収益の確保につなげられるよう、当社では高品質で、オリジナル性の高い種苗を継続的に創出する研究体制の構築を行っております。

また、新たにトップシェアを狙う戦略品目の開発・拡販に努め、経営資源の重点戦略品目への集中とアジアを中心とした新興国市場における成長機会の取り込みによる高収益体制を確立いたします。

②各地域における健全な収益構造の構築と重点戦略の推進

成長市場における市場拡大、成熟市場における高収益モデルの確立を行うことによって、アジア・北米・南米・欧州アフリカの各地域における健全な収益構造を確立いたします。また、成熟市場においては、戦略品目でのシェアの拡大、新興市場においては、野菜や花の消費需要喚起と地域栽培環境に応じた商品の開発等、具体的な重点戦略を立案、実行いたします。

③安定供給と効率化を実現するサプライチェーンインフラの整備

種子の安定供給を実現する生産体制・技術・機能を強化し、効率的なグローバルサプライチェーンマネジメント体制の実現に向けた仕組みづくりを行い、コストと在庫の削減を目指します。

④グローバルカンパニー実現に向けた人材育成、組織、マネジメント体制の構築

日本国籍のグローバルカンパニー実現に向けた人的資源の管理体制の構築や、経営体制の整備とグループマネジメントの高度化をさらに進めます。

⑤経営の効率化を実現するグローバルIT基盤の整備

情報系、会計、サプライチェーン管理のシステムを再整備し、グローバルに最適な事業管理、経営判断を支援するITシステム基盤を構築します。

また、当社グループでは、2015年9月、「国連持続可能な開発サミット」において採択された「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)」、そして2020年10月、内閣総理大臣から宣言された「2050年カーボンニュートラルの実現」に賛同し、さまざまな課題に向き合い、事業を通じて持続可能な社会づくりに貢献してまいります。

連結計算書類