事業報告(2021年6月1日から2022年5月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

⑴ 事業の経過および成果

当連結会計年度(2021年6月1日から2022年5月31日まで)における世界経済及びわが国経済は、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の進捗などにより経済活動が段階的に再開され、景気回復の動きが見られました。一方で、感染力が強い変異株の流行、世界的なインフレ懸念の高まり、サプライチェーンの乱れのほか、ロシアによるウクライナ侵攻や、これに伴う資源価格のさらなる高騰など、先行きの不透明感が強まりました。

このような状況のなか当社グループでは、前倒しなどの入出荷の工夫のほか、在宅勤務や時差勤務の推進、ウェブ会議やプロモーション動画の活用など、ステークホルダーの方々の感染防止を最大限図りつつ、必要な事業の継続に努めました。

これらの結果、当社グループの当連結会計年度における売上高は、資材や苗木の売上は収益認識会計基準等の適用による影響などにより大きく減少しましたが、野菜種子と花種子が大幅な増収となったことや、為替レートも全面的に円安となったことなどから、730億49百万円(前期比38億31百万円、5.5%増)となりました。営業利益は、販売費及び一般管理費が増加したものの、売上増加と粗利益率の改善による売上総利益の増益で吸収し、111億81百万円(前期比14億56百万円、15.0%増)となりました。経常利益は、主に為替影響による営業外損益の改善を受けて、121億14百万円(前期比20億35百万円、20.2%増)となりました。また、親会社株主に帰属する当期純利益は、固定資産売却益の計上などにより、122億56百万円(前期比46億19百万円、60.5%増)となりました。このように業績が好調に推移した結果、前期に引き続き、当連結会計年度も各項目において過去最高を更新いたしました。品目別では、野菜種子は、ブロッコリー、ニンジン、ペッパー、トマトなどが大幅に増加しました。花種子は、ヒマワリが大幅に増加したほか、トルコギキョウ、パンジー、ストック、カンパニュラ、ジニアなど、多くの品目が好調に推移しました。

セグメント別の業績の概要

売上高 127 84 百万円
前期比 39 21 百万円
%減
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売上高構成比 %

(単位:

事業内容

国内の種苗会社等への農園芸商材(野菜種子・花種子・球根・苗木・資材)の卸売

国内卸売事業は、青果市況が低調に推移した影響などから野菜種子の売上が減少したほか、苗木も商流変更により一部商品の取り扱いを中止したことなどから減収となりました。また、収益認識会計基準等の適用に伴う資材の代理人取引の純額表示もあり、前期比減収となりました。

これらの影響を除く品目別動向では、野菜種子は、ブロッコリーやレタスなどが産地への導入が進んだことから増加しましたが、当社新基幹システムの円滑な導入推進のため前連結会計年度に出荷を一部早めた反動などから、トマトなどが減少しました。花種子は、トルコギキョウが、市場性の高い新品種群をデジタルツールで情報発信した結果、主要産地への導入が進み、売上が増加しました。また、パンジーなども高品質種子を苗木業者に安定供給できたことなどから、増加しました。資材は、低コスト環境制御システム「アルスプラウト」が好調に推移したことや値上がり前の駆け込み需要などもあり、収益認識会計基準等の適用に伴う影響を除いたベースでは、増収となりました。

これらの結果、売上高は127億84百万円(前期比39億21百万円、23.5%減)、営業利益は49億29百万円(前期比3億62百万円、6.9%減)となりました。

ブロッコリー「こんにちは」

パンジー「パシオ ブルーフレア」

売上高 520 44 百万円
前期比 82 67 百万円
%増
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売上高構成比 %

(単位:

事業内容

海外の種苗会社等への農園芸商材(野菜種子・花種子・苗木)の卸売

海外卸売事業は、野菜種子、花種子とも、ほぼ全ての国と地域で売上が好調に推移しました。新型コロナウイルス感染症やウクライナ問題など、様々な要因による物流の混乱を回避するために前倒し需要が引き続き発生していることや、為替レートも全面的に円安となったことなどから、前期比、大幅な増収となりました。

品目別では、野菜種子は、ペッパーが各地域のニーズに対応した商品開発などにより、全地域で大きく伸びました。また、ブロッコリーとトマトは北中米、欧州・中近東、南米で、ニンジンはアジアで、カボチャは南米で、特に売上が大幅に増加しました。花種子は、ヒマワリが新しいタイプの切り花として高い評価を得て、全地域で大幅に増加しました。また、トルコギキョウ、パンジー、ストック、カンパニュラ、ジニアなど、数多くの品目でも売上が大きく伸びました。

これらの結果、売上高は520億44百万円(前期比82億67百万円、18.9%増)、営業利益は162億76百万円(前期比29億36百万円、22.0%増)となりました。

ペッパー「シバック」

トルコギキョウ「ボン・ボヤージュ(2型) ベビーピンク」

売上高 51 52 百万円
前期比 32 百万円
%減
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売上高構成比 %

(単位:

事業内容

ホームセンター・通信販売・直営ガーデンセンターを通じた園芸愛好家への園芸商材(野菜種子・花種子・球根・苗木・資材)の販売

小売事業は、一部の苗木商品の取り扱いを中止したことや収益認識会計基準等の適用などから、前期比、減収となりました。しかしながら、花種子が引き続き好調であったほか、量販店向けの資材取引において一部帳合替えもあったことなどから、期初計画比では好調に推移いたしました。

分野別では、直売店ガーデンセンター横浜は、天候不良の影響はあったものの、売上はほぼ横ばいとなりました。通信販売分野では、オリジナル品への注力などから苗木の売上が減少しました。量販店向けのホームガーデン分野では、市況や天候不良の影響で野菜種子は減少しましたが、花種子はコロナ禍における旺盛な需要が継続、資材も一部ホームセンターへの納入品目が増えました。

これらの結果、売上高は51億52百万円(前期比6億32百万円、10.9%減)、営業利益は31百万円(前期比79百万円、71.8%減)となりました。

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売上高構成比 %

事業内容

造園緑花事業(造園工事・緑花関係の育成維持管理)、その他

造園緑花分野は、新型コロナウイルス感染症の動向が見通せない状況下でしたが、徹底した感染防止対策を講じながら営業活動を推進しました。その結果、民間及び公共工事の受注や緑花関係の育成維持管理業務を着実に実施することができたことから、前期を上回る売上高となりました。

これらの結果、売上高は30億68百万円(前期比1億18百万円、4.0%増)、営業利益は81百万円(前期比42百万円、109.7%増)となりました。

富士本栖湖リゾート 富士芝桜まつり

次に当社グループの研究・開発についてご報告いたします。

主力商品である野菜と花の品種開発は研究本部、農園芸資材の開発はソリューション統括部が担当し、全世界の市場に向けた品種の育成、農園芸資材の開発を行っております。研究・開発拠点として、日本国内では静岡県掛川市をはじめ5か所に、海外では北米、南米、欧州、アジア圏など、11カ国14カ所に研究農場を配して、グローバルな研究体制を構築し、気候や環境、土壌や食文化などを踏まえ、世界中で栽培される品種を研究開発しております。

当社の理念である「心と体の栄養」を世界の人々にお届けすることを目標に、サカタオリジナルの価値ある商品開発を進めてまいります。

当連結会計年度の主な研究内容および成果は、次のとおりであります。

【野菜】

当連結会計年度は、コマツナ「C1-059」が一般社団法人日本種苗協会主催の第72回全日本野菜品種審査会において1等特別賞を受賞するとともに、輸出・国際局長賞を受賞いたしました。さらに、当グループの子会社である株式会社ブロリードのブロッコリー「ルミナス」が、同審査会において1等特別賞を受賞するとともに、農林水産大臣賞を受賞し、高い研究開発力が評価されました。

新品種におきましては、秋冬ホウレンソウに求められる濃い葉色、低温伸長性、収量性のいずれにも優れた能力を発揮する「ピンドン」、各種病害に耐病性を持つ台木メロン「デュアルアタック」、早生性、栽培適応性に優れた紫色のカリフラワー「オーナメントパープル」など、生産者の要望に沿い、消費者にも喜ばれるオリジナル性の高い品種を発表いたしました。

海外市場では、2022年2月、メキシコに研究拠点「クリアカン イノベーションセンター」(Culiacan Innovation Center、略称:CIC、メキシコ・シナロア州クリアカン市)を開設しました。果菜類の大産地であるクリアカン市において、メキシコおよび中米市場向けの野菜の品種開発およびマーケティングを強化いたします。

ホウレンソウ「ピンドン」

カリフラワー「オーナメントパープル」

【花】

当連結会計年度は、ペチュニア「バカラiQ ブルー」が一般社団法人日本種苗協会主催の第67回全日本花卉品種審査会において1等特別賞を受賞するとともに、農林水産大臣賞を受賞いたしました。また、トルコギキョウ「SM9-706M」が同審査会において1等特別賞を受賞するとともに、輸出・国際局長賞を受賞いたしました。

海外においてもベゴニアの新品種「バイキング エクスプローラー ローズ オン グリーン」が、世界2大花き品評会のひとつである、米国の「オール アメリカ セレクションズ」(AAS) でゴールドメダルを獲得いたしました。AASにおけるゴールドメダルは、昨年のジニア「プロフュージョン レッドイエローバイカラー」に続き、2年連続での受賞となり、国内外における高い研究開発力が評価されました。

新品種におきましては、トルコギキョウでは大輪セミフリル八重咲きで晩生の白色「リオ ホワイト」を含め計7品種、ポンポン咲きのアスター「あずみ」シリーズ2品種の切り花品種をそれぞれ発表いたしました。

また、人気の「サンパチェンス」シリーズやカリブラコアとペチュニアの属間雑種「ビューティカル」シリーズ、雨に強く開花性に優れた「よく咲くペチュニア バカラiQ」シリーズ、ラナンキュラス「ワンダーランドiQ」シリーズの花壇苗品種をそれぞれ発表いたしました。

当社のオリジナリティあふれる品種開発は国内外で高く評価され続けております。

ペチュニア「バカラiQ ブルー」

ベゴニア「バイキング エクスプローラー ローズ オン グリーン」

【ソリューション】

当連結会計年度は、環境制御系スマート農業ビジネスへの取り組みや農園芸現場における様々な課題解決を目指した事業展開を積極的に進め、特に環境制御システム「アルスプラウト」は、生産現場の省力化を目指す多くのユーザーで活用・導入が進みました。

また、「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(みどりの食料システム法)」や「プラスチックに係わる資源循環の促進等に関する法律」が2022年より施行され、これまで以上に環境との調和や持続的発展が可能な商品、サービスの展開が当社事業活動の計画においても重要なテーマとなっております。

こうした市場変化の中、約50年の販売を誇る播種育苗資材のロングラン商品「ジフィーセブン」、姉妹品となる100%ココピート原料の「ジフィーセブン C」に環境負荷の少ない生分解性ネットを採用し、リニューアル販売を開始いたしました。プラスチック使用量の削減、廃棄物の低減による省力化が見込まれ、現在イチゴを始めとした果菜類を中心に、順調に生産現場への導入が進んでおります。

今後も環境配慮型商品、特に近年注目を浴びているバイオスティミュラント資材や有機栽培へ対応した商品開発に加え、情報技術の積極的活用により、多くのユーザーに安心して使用いただける商品の提供を進めてまいります。

環境制御システム「アルスプラウト」

「ジフィーセブンC」

⑵ 設備投資の状況

当連結会計年度に実施いたしました設備投資の総額は、53億37百万円であります。

主な内容は、掛川総合研究センタ―における研修施設の建設(3億7百万円)、子会社であるSakata Seed America, Inc.における研究施設の建設(6億9百万円)およびSakata Seed Chile S.A.における倉庫施設の建設(3億7百万円)等であります。

⑶ 資金調達の状況

運転資金、借入金の返済などに必要な資金は自己資金の充当および金融機関からの借入により調達しております。

対処すべき課題

世界的な大規模自然災害や地球温暖化などの大きな課題が山積する中で、食料分野においては持続可能な食料システムの構築、農林水産業の生産力向上など、食料の安定確保、栄養状態の改善を図ることが喫緊の課題となっており、各企業にもその貢献が求められております。

また、新型コロナウイルス感染症の蔓延や、近年の世界的政情不安は、各国における景気や消費動向に様々なインパクトを与えています。

国内の農業分野に目を向けますと、農業人口の減少、農村地帯の過疎化、食料自給率の低下等が、引き続き大きな課題となっております。2021年5月、農林水産省は、「みどりの食料システム戦略」を策定し、国内農業における生産性の向上、農村の振興、食料の安定供給の確保、農業の持続的な成長を遂げるための改革を進めております。

このように社会や農業を取り巻く環境が大きく変わる中で、農業の根幹と言うべき種苗そのものが担うべき役割への期待は加速的に高まっております。今まで以上の高い付加価値を種苗に付与し、それを生産者の方々に安定供給する事、この当たり前のことが私ども種苗会社に託された使命です。

必須の業種「エッセンシャルカテゴリー」に身を置く当社として、下記に掲げた課題に取り組みながら、地球上の自然と、その自然に内包される社会、そして当社が持続的に共生するため、社業である種苗事業や緑花事業を通じて貢献してまいります。

①高収益ビジネスモデルの確立

生産者が安心して栽培を実現し、高い収益の確保につなげられるよう、当社では高品質で、オリジナル性の高い種苗を継続的に創出する研究体制の構築を行っております。

また、新たにトップシェアを狙う戦略品目の開発・拡販に努め、経営資源の重点戦略品目への集中とアジアを中心とした新興国市場における成長機会の取り込みによる高収益体制を確立いたします。

②各地域における健全な収益構造の構築と重点戦略の推進

成長市場における市場拡大、成熟市場における高収益モデルの確立を行うことによって、アジア・北米・南米・欧州アフリカの各地域における健全な収益構造を確立いたします。また、成熟市場においては、戦略品目でのシェアの拡大、新興市場においては、野菜や花の消費需要喚起と地域栽培環境に応じた商品の開発等、具体的な重点戦略を立案、実行いたします。

③安定供給と効率化を実現するサプライチェーンインフラの整備

種子の安定供給を実現する生産体制・技術・機能を強化し、効率的なグローバルサプライチェーンマネジメント体制の実現に向けた仕組みづくりを行い、コストと在庫の削減を目指します。

④グローバルカンパニー実現に向けた人材育成、組織、マネジメント体制の構築

日本国籍のグローバルカンパニー実現に向けた人的資源の管理体制の構築や、経営体制の整備とグループマネジメントの高度化をさらに進めます。

⑤経営の効率化を実現するグローバルIT基盤の整備

情報系、会計、サプライチェーン管理のシステムを再整備し、グローバルに最適な事業管理、経営判断を支援するITシステム基盤を構築します。

当社グループでは、2015年9月、「国連持続可能な開発サミット」において採択された「持続可能な開発目標:SDGs(Sustainable Development Goals)」、そして2020年10月、内閣総理大臣から宣言された「2050年カーボンニュートラルの実現」に向け取り組みを進めるべく、サステナビリティ基本方針を定めました。気候変動については、当社の事業に大きな影響を与える可能性があると認識しておりますので、リスク・機会については、TCFD提言に沿った分析を行い、事業を通じて持続可能な社会づくりに貢献してまいります。

社会や環境が大きく変わる中で、当社は引き続き、人々の心の栄養をもたらす花、身体の栄養をもたらす野菜へのニーズに応えてまいります。

連結計算書類