事業報告(2021年1月1日から2021年12月31日まで)
企業集団の現況
(1) 当事業年度の事業の状況
事業の経過及び成果
当連結会計年度における事業環境は、未曾有の先行き不透明感をもたらした新型コロナウイルス感染症に対して、ワクチン普及によりパンデミック収束への期待が高まっているものの、変異ウイルスによる感染拡大など、不透明感がなお色濃い状況でありました。
国内においては、深刻な負の影響をもたらした景況感に持ち直しの基調が続くも、緊急事態宣言の再発令や延長に限らず、長引く半導体不足等の下押し圧力により、主要顧客である大手メーカーにおいても回復の力強さに大きなばらつきが出ております。しかしながら、人手不足感も強まっており、ITをはじめ建設業やサービス業において、エンジニアの活用ニーズはいまだ活況であります。さらに、コロナ禍に伴い、接触削減やリモートワークを支えるシステム化需要やDX需要の高まりが顕著となったほか、会社売却や事業売却等の業界再編が製造系・IT系ともに進んでおります。
このような国内の事業環境に対して、当社グループは、かねてより業績平準化による成長基盤の強化を推進してまいりました。製造系分野においては、期間工が手掛けていた工程に長期間の派遣契約にて労働者を派遣することにより生産変動の影響低減を図っております。派遣管理のDX化を通じて生産性向上を図るHRテックサービスである派遣スタッフ管理システム「CSM(クラウド・スタッフィング・マネジメント)」の展開も本格的な拡大の兆しが見えております。半導体不足をはじめとするサプライチェーンの滞りが自動車業界の生産活動に一時的な影響を及ぼしましたが、自動車需要は衰えておらず振替生産が見込まれるため、2021年から2022年までの期間でみれば当社グループの事業への影響は限定的であると考えます。しかしながら、本格的な振替生産に向けた旺盛な人材ニーズを受けて採用コストを投下しており、足もとでは、この先行投資と生産調整の影響が出ております。また、外国人技能実習生等の管理受託分野においては、適切な管理実績が顧客に高く評価され、コロナ禍に伴い新規来日が困難かつ帰国便は臨時運行している状況下にあっても、12月末の管理人数は20,004名と国内首位を維持しております。技術系分野においては、人とテクノロジーを融合して効率化・省力化を実現するビジネスモデル「派遣2.0」の対象領域拡大を図りました。当社グループの教育機関であるKENスクールを活用して、機械設計のみならず、ITや建設、医薬分野に至るまで、多岐にわたって未経験者を教育して配属するスキームを加速させ、採用単価の上昇を抑えながら増員して業績を伸長させました。加えて、新卒採用人数も国内首位を争う規模となり、4月には連結で約3,000名の新卒者が入社しております。このほか、マクロ環境の影響を受けやすい製造分野とは異なり、景気変動の影響を受けにくい事業分野も順調に拡大しており、とりわけ米軍施設向け事業が、建物や設備の改修・保全業務がコロナ禍の影響をさほど受けず引き続き順調に伸長しました。米軍工事の入札には、同額のボンド(履行保証保険)が義務付けられることが通例であり、当社の信用力を活かしてボンド枠を拡張し、利益率の高い大口受注へとつなげた結果、前期比で大幅な増収増益で推移しております。
一方、海外においては、ワクチンの普及と並行してコロナ禍への対策が進んだことにより、先進各国とも経済が回復基調にありますが、変異株の急拡大も相まって不確実性がいまだ高い状況にあります。
このような海外の事業環境に対して、当社グループは、海外においても従前より業績平準化による成長基盤の強靭化を力強く推し進めてまいりました。景気変動の影響を受けにくい政府事業等の公共系アウトソーシング事業等を拡充することに加えて、リモート対応可能な技術系分野を展開するほか、人材不足の国に対して人材の余剰感のある国から人材を流動化するスキームをグローバル規模で展開しております。さらに、前年度にいち早くリモート対応等の体制を整備しており、デジタル政府機能への貢献をはじめ中央・地方政府向けが成長をけん引したことに加えて、ライフラインを支えるeコマースの流通系事業も更なる発展を遂げております。また、2021年1月にグループインしたCPLグループはアイルランド最大の人材ビジネス企業であり、IT技術者派遣のみならず、金融、製薬、ライフサイエンス、医療、ヘルスケア等の幅広い産業に専門スキル人材の派遣や人材紹介、マネージドサービス等を提供しており、厳格な再ロックダウン下でも順調な業績で推移しました。
これらの事業及び地域ポートフォリオ分散の取組が功を奏し、売上収益及び営業利益いずれも過去最高を更新しました。
なお、オランダOTTOグループの業績が計画を大きく上回って推移しており、IFRS会計処理に則りプットオプション負債の公正価値評価にて一過性の金融費用を約111億円(第4四半期連結会計期間において約53億円積み増し)計上しております。この一過性の金融費用は税金計算には加味されず、税引前利益以下の各利益を同額押し下げる大きな影響を及ぼしました。しかしながら、買収後のOTTOグループが想定を上回って成長していることは、本質的に非常にポジティブな結果であり、中長期的な企業価値向上に資するものと考えます。また、2022年1月に残余株式早期買取の契約を締結済であります。2022年12月期予定の完全子会社化以降は、この一過性の金融費用は発生いたしません。
以上の結果、連結売上収益は569,325百万円(前期比55.9%増、過去最高を更新)、営業利益は24,186百万円(前期比82.1%増、過去最高を更新)、税引前利益は12,003百万円(前期比55.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は832百万円(前期比56.5%減)となりました。
なお、当社グループは、成長の持続可能性を重視しております。SDGs経営に向けたサステナビリティ方針として、当社グループでは、事業を通して世界の様々な人々の「就業機会」と「教育機会」の創造を実現し、社会課題の解決と事業の成長、ステークホルダーへの貢献に、持続的に取り組んでまいります。2021年を当社グループのSDGs元年と位置付け、2月にアウトソーシンググループSDGs宣言、3月にサステナビリティ委員会を設置しました。加えて、4月には、国連グローバル・コンパクト(UNGC)への署名とともにグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンへ加盟し、UNGCの提唱する企業責任イニシアティブの4分野(人権・労働・環境・腐敗防止)10原則の遵守を支持しております。引き続き、事業活動が広く社会に還元される仕組みを追求してまいります。
事業区分別の概況

売上収益
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営業利益
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事業内容
当社子会社にて、メーカーの設計・開発、実験・評価工程への高度な技術・ノウハウを提供するサービス、WEB・スマートフォン等の通信系アプリケーションやECサイト構築、基幹系ITシステム・インフラ・ネットワークの各種ソリューションサービス及び構築、医療・化学系に特化した研究開発業務へのアウトソーシングサービス、建設施工管理・設計や各種プラントの設計・施工・管理等の専門技術・ノウハウを提供するサービス、ITスクール事業等を行っております。
国内技術系アウトソーシング事業におきましては、コロナ禍の影響は限定的であり、前期比で大幅な増収増益となりました。4月入社の新卒2,364名の新人研修コストを吸収し高い利益成長を遂げております。採用人数については、引き続きKENスクールを活用した未経験者を教育して配属するスキームにより採用単価を抑制しながら伸ばしており、期末外勤社員数は、前期末(2020年12月末)比3,472名増の21,622名と、後発ながら業界トップに躍進しております。製造業の景気変動の影響を受けにくくするための重点分野として位置付けているIT分野や建設、医薬分野も順調に拡大しました。
以上の結果、売上収益は123,797百万円(前期比19.8%増)、営業利益は9,891百万円(前期比32.7%増)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
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事業内容
当社及び当社子会社にて、メーカーの製造工程の外注化ニーズに対し、生産技術、管理ノウハウを提供し、生産効率の向上を実現するサービスを行っております。また、顧客が直接雇用する期間社員等の採用代行(有料職業紹介)、期間社員及び外国人技能実習生や留学生等の採用後の労務管理や社宅管理等に係る管理業務受託事業及び期間満了者の再就職支援までを行う、一括受託サービスを行っております。
国内製造系アウトソーシング事業におきましては、コロナ禍による低調から脱却し、前期比で大幅な増収増益となりました。製造派遣・請負及び期間工の有料職業紹介においては、半導体不足や東南アジアにおけるコロナ禍によるサプライチェーンの滞りの影響で生産調整が生じました。振替生産が見込まれるため、一過性の影響であると考えますが、足もとでは、生産調整の影響を受けつつ本格的な振替生産に向けた人材ニーズを受けて採用コストを投下しており、セグメント利益が先行投資のために計画未達となりました。期末外勤社員数は前期末比4,904名増の21,443名となりました。これは主に、自動車業界を中心とした旺盛な需要に支えられ採用を推進したためであります。管理業務受託におきましては、顧客メーカーの外国人技能実習生活用ニーズは引き続き堅調でありますが、技能実習予定者の来日が困難な状況が継続しており、成長が足踏みする結果となりました。しかしながら、適切な管理実績を引き続き高く評価され、国内首位の事業者として12月末の管理人数は20,004名となりました。
以上の結果、売上収益は99,727百万円(前期比54.7%増)、営業利益は7,319百万円(前期比19.8%増)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
当社子会社にて、米軍施設等官公庁向けサービスや物流向けサービス、コールセンター向けサービス等を提供しております。
国内サービス系アウトソーシング事業におきましては、引き続き前期比で大幅な増収増益となりました。製造系とは異なり景気変動の影響を受けにくい米軍施設向け事業が主力事業であり、米軍施設の建物や設備の改修・保全業務がコロナ禍の影響もほとんどなく順調に伸長しました。米軍工事の入札には、同額のボンド(履行保証保険)が義務付けられることが通例であり、当社の信用力を活かしてボンド枠を拡張し利益率の高い大口受注へとつなげております。
以上の結果、売上収益は29,191百万円(前期比17.7%増)、営業利益は4,048百万円(前期比42.5%増)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
在外子会社にて、欧州及び豪州を中心にIT、金融、製薬、ライフサイエンス、医療、ヘルスケアなどへの専門スキル人材の派遣・紹介事業、AIを活用した公的債権回収等を行っております。
海外技術系事業におきましては、前期比で大幅な増収増益となりました。CPL社のグループ入りによる増加のみならず、オーガニック成長としても、回復に勢いがありました。英国では、公的債権回収の受託業務が回復途上でありますが、豪州では、IT系の需要拡大に加え、インフラや建築などへの注力戦略が好調を維持しております。コストコントロールも奏功し、高い利益成長を維持しております。
以上の結果、売上収益は139,799百万円(前期比263.4%増)、営業利益は4,586百万円(前期比4,459百万円増加)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
在外子会社にて、アジア、南米、欧州等において製造系生産アウトソーシングへの人材サービス及び事務系・サービス系人材の派遣・紹介事業や給与計算代行事業を行っております。また、欧州及び豪州にて公共機関向けBPOサービスや人材派遣、欧州及びアジアにて国境を越えた雇用サービスを行っております。
海外製造系及びサービス系事業におきましては、前期比で大幅な増収増益となりました。オランダの大手スーパーを中心としたインターネットショッピング関連事業が、需要拡大を受け大きく伸長したほか、英国では、給付金や税還付関連の地方自治体向けBPO事業が特需となり、公共系派遣も好調であります。南米でも、インターネットショッピングの需要拡大に伴い物流向けが活況となり、小売向けの清掃業務も好調を維持しました。
以上の結果、売上収益は176,750百万円(前期比32.0%増)、営業利益は6,716百万円(前期比92.3%増)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
当社子会社にて、事務代行業務等を行っております。
その他の事業におきましては、特例子会社での障がい者による事務のシェアードサービス事業及び手話教室事業等が、新型コロナウイルスの感染再拡大の影響を受けました。
以上の結果、売上収益は60百万円(前期比66.5%減)、営業利益は213百万円(前期比24.9%減)となりました。
(2) 直前3事業年度の財産及び損益の状況
① 企業集団の財産及び損益の状況







(注)第22期・第23期・第24期において行った企業結合に係る暫定的な会計処理の確定に伴い、第22期・第23期・第24期の関連する諸数値について遡及修正しております。なお、第23期・第24期の数値は、過年度の不正または誤謬による虚偽表示の訂正による遡及処理後の数値であります。
② 当社の財産及び損益の状況







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(注)
- 「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号 平成30年2月16日)等を第23期の期首から適用しており、第22期の総資産の金額については、当該会計基準等を遡って適用した後の金額となっております。
- 第23期・第24期の数値は、過年度の不正または誤謬による虚偽表示の訂正による遡及処理後の数値であります。
(3) 対処すべき課題
今後の世界経済の見通しにつきましては、未曾有の先行き不透明感をもたらした新型コロナウイルス感染症に対して、ワクチン承認によりパンデミック収束への期待が高まっているものの、変異ウイルスによる感染拡大など、国際情勢に重大な影響を及ぼす事象の発生が続いており、これらのリスク増大によって世界経済は、不透明感がなお色濃い状況であります。
当社グループでは、このように先行きが不透明な事業環境の中でも、持続的成長を実現していくために、以下を対処すべき主要課題と捉えております。
また、この度の当社グループ17社における過年度の計算書類・連結計算書類等において不正または誤謬による虚偽表示が行われていたことを厳粛に受け止め、ガバナンス体制の強化を推し進めてまいります。
① ガバナンス体制の強化
積極的なМ&Aも行いグローバルに事業拡大している当社グループでは、買収した会社も含めて上場企業のグループ会社にふさわしい健全な経営を行う必要があります。これを継続して実現するため、グローバル経営の視点に立った同一目標・同一管理手法を確立し、加えて、内部統制システムを全社に適用し、当社グループ全体のガバナンス強化及びコンプライアンス体制の拡充を図ってまいります。
当社は、2021年12月28日に外部調査委員会から調査報告書を受領し、当社グループ17社において過年度の不正または誤謬による虚偽表示を行っていたことが判明したため、2019年12月期から2021年12月期第2四半期までの有価証券報告書等及び決算短信等の訂正を行いました。当該訂正を受け、2022年2月、株式会社東京証券取引所より、改善報告書の徴求及び公表措置の通知を受けております。
株主及び投資家の皆さま、お取引先の皆さま、その他すべてのステークホルダーの皆さまに、多大なるご心配とご迷惑をおかけしておりますことを、改めて深くお詫び申し上げます。当社では、本件事案を厳粛に受け止めるとともに、以下の再発防止策を着実に実行することにより、皆さまからの信頼回復に努めてまいります。
・トップ主導の社内風土改革
・コンプライアンス意識の改革、再発防止策の徹底
・関与者の責任明確化と経営体制の強化
・コーポレート・ガバナンス体制・組織体制の再構築
・内部統制部門の強化
・内部通報制度の見直し
・会計処理に係る社内ルールや経理会計システムの見直し
・実現可能な事業計画・予算の策定
② SDGs経営の強化
当社グループは、サステナビリティ方針に基づき、社会と企業の持続可能な発展に貢献できるよう取り組んでおります。この活動をさらに強化し、5つのマテリアリティ(重要課題)に沿ってKPIを定めており、事業を通じて社会問題の解決に寄与しながらSDGsの目標達成に貢献してまいります。
③ 人材育成による企業体質の強化
人材を活用したビジネスを行う当社グループは、人材を最も重要な資産として捉えております。人材を適正に扱うため、また人材を扱った各種サービスを適正に提供するための基礎的な知識・能力や、生産現場における労務管理能力及び生産管理能力を向上するための教育・育成を徹底しております。併せて高度・多様化し続ける顧客ニーズに迅速、柔軟かつ的確に対応するためにも、優秀な人材確保及び人材育成を重要課題として取り組んでおります。
特に今後は、当社グループの新規分野及び海外分野の経営を展開できる、世界で通用する規律・遵法意識を兼ね備え、多様な知識と経験を有する有能な人材を、国籍や性別を問わず、グローバルに採用・教育することが急務であります。
④ 変動の激しい事業を補完する体制の構築
製造系事業は、生産変動の激しい量産工程に対する人材派遣や業務請負を行っている性質上、リーマンショックのような大きな景気後退時には、急激かつ大量の雇用解約が発生するのに対し、景気回復時の増産時には採用が追い付かず、往時の業績に戻ることのできない同業者が散見され、機会損失が非常に大きな問題となっています。
このような状況に対し、当社グループでは、急な大型減産でもグループ全体では黒字を維持しながら雇用解約せずに人材を確保しておき、その後の増産に即時配属して業績を回復できる体制が必要と考えます。そのために製造とは異なるサイクルの分野や景気の影響を受けにくい分野の事業拡大を推進し、製造系事業の売上構成比を相対的に抑制しながら、業績平準化による成長基盤の強靭化を目指してまいります。
⑤ 成長機会を逃がさない基盤構築
日本国内の人口は減少傾向にあるため人材市場は限定的となり、今後の大きな成長は望めませんが、世界全体では人口は増加傾向にあり、今後30億人増加するともいわれております。当社グループの事業の多くは稼働している人員数に業績が連動しているため、人口が増加し余剰感のある国から不足している国へ、グローバルに人材を流動化させる体制を構築し、この成長ポテンシャル獲得に取り組んでまいります。併せて、人材流動化スキームで移動する労働者をサポートするためのプラットフォームの開発・提供にも取り組み、雇用を伴わない新たな事業の柱としての確立・発展を目指します。これらの体制構築及び運用を実現した暁には、世界一の人材サービス企業への道も拓けると考えており、体制構築に向けた成長投資を推進してまいります。