事業報告(2022年1月1日から2022年12月31日まで)
企業集団の現況
(1) 当事業年度の事業の状況
事業の経過及び成果
当連結会計年度における事業環境は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる深刻な影響は後退しつつあるものの、変異株による感染拡大やウクライナ情勢、金融環境のタイト化、急速なインフレなど、国際情勢に重大な影響を及ぼす事象の発生が続き、経済活動の重しとなる状況でありました。
国内においては、円安や原燃料高の逆風のなか持ち直し基調が続くも、中国でのロックダウンや、長引く半導体不足等の供給制限により、主要顧客である大手メーカーにおいても工場稼働率の回復は不透明感がなお色濃い状況でありました。しかしながら、労働市場が逼迫し、ITに限らず幅広い業種においてエンジニアの活用ニーズはいまだ活況であります。
このような国内の事業環境に対して、当社グループは、かねてより業績平準化による成長基盤の強化を推進してまいりました。製造系分野においては、期間工が手掛けていた工程に長期間の派遣契約にて労働者を派遣することにより生産変動の影響低減を図っております。派遣スタッフ管理システム「CSM(クラウド・スタッフィング・マネジメント:派遣管理のDX化を通じて生産性向上を図るHRテックサービス)」は、業界主要企業との共同開発を皮切りに、業界標準プラットフォーム構築に向けた新たな局面を迎えました。供給制限が重石となり自動車業界の生産活動は低下を余儀なくされましたが、自動車需要は衰えておらず調達正常化に伴って生産増加が見込まれるため、中期的には当社グループの事業への影響は緩和されるものと考えます。量産の本格化がずれ込んだ影響を受けるも、全業種で前期比増収を確保しております。また、外国人技能実習生等の管理受託分野においては、適切な管理実績が顧客に高く評価され、段階的に入国緩和が実施されるも特例的な在留延長者の帰国が進む状況にありますが、12月末の管理人数は19,045名と国内首位を維持しております。技術系分野においては、人とテクノロジーをセットで提供することにより効率化・省力化を実現するサービスの拡大を図りました。当社グループの教育機関であるKENスクールを活用し、機械設計のみならず、ITや建設、医薬分野に至るまで、多岐にわたって未経験者を教育して配属するスキームにより、採用単価の上昇を抑えながら増員して業績を伸長させました。加えて、新卒採用人数も国内首位を争う規模となり、4月には連結で3,200名超の新卒者が入社しております。これは採用力のみならず、未経験者の配属先を開拓する営業力と新人教育力、さらには派遣先との信頼関係の賜と考えます。このほか、マクロ環境の影響を受けやすい製造分野とは異なり、景気変動の影響を受けにくい事業分野も拡大を図っております。米軍施設向け事業では、建物や設備の改修・保全への需要は引き続き堅調でありましたが、調達リードタイム長期化により工事進行に期ずれが生じ、当期でみると成長が足踏みする結果になりました。
一方、海外においても、コロナ禍のみならず、ウクライナ情勢等による地政学的リスクの高まりや、インフレ圧力の高止まり、金融引き締め強化など、不確実性がいまだ高い状況でありました。
このような海外の事業環境に対して、当社グループは、海外においても従前より業績平準化による成長基盤の強靭化を力強く推し進めてまいりました。景気変動の影響を受けにくい政府事業等の公共系アウトソーシング事業等を拡充することに加えて、需要が高止まりする技術系分野を展開するほか、人材不足の国に対して人材の余剰感のある国から人材を流動化するスキームをグローバル規模で展開しております。技術系ではITや製薬分野の需要が好調であったほか、サービス系では物流系事業も伸長しました。利益面では、比較的利益率の高い人材紹介事業が好調を継続したものの、インフレや賃金上昇に伴う費用増に加えて、チリSLグループにて一部の資産を費用処理したほか、英国及びアジアでの減損損失等の一過性要因が生じ、伸び悩みました。
なお、当社は、2022年1月にオランダOTTOグループの残余株式早期買取の契約を締結しました。計上済のプットオプション負債と残余株式買取額の差額を金融費用として第1四半期に約24億円計上しております。この金融費用は税金計算には加味されず、税引前利益以下の各利益を同額押し下げる大きな影響を及ぼしました。早期買取により完全子会社となったため、このOTTOグループに係る一過性の金融費用は第1四半期の計上が最終(第2四半期以降は為替レートによる変動のみ)であります。
当社グループは、その時々の環境変化に合わせた的確なビジョン策定と具体的戦略により、事業ポートフォリオを変化させながら持続的な事業拡大を図ってまいりました。このような事業ポートフォリオ及び地域ポートフォリオ分散の取組が功を奏し、第4四半期会計期間(10月~12月)及び下期(7月~12月)並びに通期(1月~12月)において、売上収益のみならず、税引前利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益においても過去最高を更新しました。
この結果、当連結会計年度における連結売上収益は689,777百万円(前期比21.2%増)となりました。
当社グループは、成長の持続可能性を重視しております。SDGs経営に向けたサステナビリティ方針として、当社グループでは、事業を通して世界の様々な人々の「就業機会」と「教育機会」の創造を実現し、社会課題の解決と事業の成長、ステークホルダーへの貢献に、持続的に取り組んでまいります。2021年を当社グループのSDGs元年と位置付け、アウトソーシンググループSDGs宣言、サステナビリティ委員会設置、国連グローバル・コンパクトや女性のエンパワーメント原則への署名等、SDGs経営を推し進めてまいりました。2022年4月にはマテリアリティ(重要課題)に定めたKPIの初年度(2021年)実績と第三者検証報告書を公開いたしました。引き続き、事業活動が広く社会に還元される仕組みを追求してまいります。
事業区分別の概況

売上収益
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営業利益
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事業内容
当社子会社にて、メーカーの設計・開発、実験・評価工程への高度な技術・ノウハウを提供するサービス、WEB・スマートフォン等の通信系アプリケーションやECサイト構築、基幹系ITシステム・インフラ・ネットワークの各種ソリューションサービス及び構築、医療・化学系に特化した研究開発業務へのアウトソーシングサービス、建設施工管理・設計や各種プラントの設計・施工・管理等の専門技術・ノウハウを提供するサービス、ITスクール事業等を行っております。
国内技術系アウトソーシング事業におきましては、コロナ禍の影響は限定的であり、引き続き前期比で増収増益となりました。採用は、リテンションのために新卒入社を見据えてコントロールしながら、引き続きKENスクールを活用した未経験者を教育して配属するスキームにより採用単価の抑制を図っております。各産業で採用活動が復活して採用競争が激化しており、採用人数が伸び悩みましたが、期末外勤社員数は、前期末(2021年12月末)比3,091名増の24,713名と、後発ながら業界トップを保持しました。これは採用力/教育面でのアドバンテージのみならず、未経験者の配属先を開拓する営業力が両輪となり実現できたと考えます。製造業の景気変動の影響を受けにくくするための重点分野として位置付けているIT分野や建設、医薬分野も拡大しました。雇用調整助成金の剥落や、受注損失引当金繰入など一過性の利益を押し下げる要因はあったものの、過去最高のセグメント営業利益となりました。
以上の結果、売上収益は149,605百万円(前期比20.8%増)、営業利益は10,377百万円(前期比5.1%増)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
当社及び当社子会社にて、メーカーの製造工程の外注化ニーズに対し、生産技術、管理ノウハウを提供し、生産効率の向上を実現するサービスを行っております。また、顧客が直接雇用する期間社員等の採用代行(有料職業紹介)、期間社員及び外国人技能実習生や留学生等の採用後の労務管理や社宅管理等に係る管理業務受託事業及び期間満了者の再就職支援までを行う、一括受託サービスを行っております。
国内製造系アウトソーシング事業におきましては、半導体不足やコロナ禍によるサプライチェーンの滞りによる生産調整の影響を大きく受けました。見込んでいた挽回生産は、量産本格化には至らず、とくに自動車領域においては、正社員派遣が中心のため稼働時間減少等による売上減が利益にも同等のインパクトを及ぼしました。そのなかにあって全業種で前期比増収を確保し、期末外勤社員数は前期末比5,086名増の26,529名となりました。管理業務受託におきましては、顧客メーカーの外国人技能実習生活用ニーズは引き続き堅調でありますが、段階的に入国緩和されたものの技能実習予定者の来日が限定的な状況が継続しており、成長が足踏みする結果となりました。しかしながら、適切な管理実績を引き続き高く評価され、国内首位の事業者として12月末の管理人数は19,045名となりました。
以上の結果、売上収益は122,444百万円(前期比22.8%増)、営業利益は7,160百万円(前期比0.1%減)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
当社子会社にて、米軍施設等官公庁向けサービスや物流向けサービス、コールセンター向けサービス等を提供しております。
国内サービス系アウトソーシング事業におきましては、製造系とは異なり景気変動の影響を受けにくい米軍施設向け事業が主力事業であります。米軍施設の建物や設備の改修・保全業務の需要は、コロナ禍の影響もほとんどなく堅調であるものの、輸入建設資材の船便遅延といった調達リードタイム長期化により、工事進行に期ずれが生じました。今後は、外的要因の解消に準じた回復を見込んでおります。利益面では、円安による建設資材や海上輸送費の高騰の影響により費用が増加しましたが、資材の早期発注や、原価高騰を入札金額に反映させて受注精度を高めることにより継続的な成長を見込んでおり、中長期での事業収益力は損なわれていないと考えます。
以上の結果、売上収益は30,527百万円(前期比4.6%増)、営業利益は3,155百万円(前期比22.0%減)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
在外子会社にて、欧州及び豪州を中心にIT、金融、製薬、ライフサイエンス、医療、ヘルスケアなどへの専門スキル人材の派遣・紹介事業、AIを活用した公的債権回収等を行っております。
海外技術系事業におきましては、コロナ禍に伴う制限措置がほぼ解消し、引き続き前期比で大幅な増収増益となりました。英国以外は軒並み好調でありました。英国においても公的債権回収の受託業務において債権発行が回復基調であります。好調なアイルランドやオセアニアでは、とりわけ、利益率の良い人材紹介が活況でありました。一方、インフレが加速しており、費用増を吸収してなお利益率向上を伴った大幅増収となりました。
以上の結果、売上収益は165,138百万円(前期比18.1%増)、営業利益は7,976百万円(前期比75.3%増)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
在外子会社にて、アジア、南米、欧州等において製造系生産アウトソーシングへの人材サービス及び事務系・サービス系人材の派遣・紹介事業や給与計算代行事業等を行っております。また、欧州及び豪州にて公共機関向けBPOサービスや人材派遣、欧州及びアジアにて国境を越えた雇用サービス等を行っております。
海外製造系及びサービス系事業におきましては、オランダのロジスティクス事業が引き続き伸長したほか、ドイツでは医療や航空向けが好調となり、南米では物流向けや小売向け警備事業や清掃業務が堅調に推移しました。英国では行政混乱の影響が、政府向け人材紹介事業や地方自治体向けBPO事業及び人材派遣事業において生じました。
一方、利益面では、とりわけ欧州にてインフレや賃金上昇に伴う費用増が重しとなりました。一過性要因としても、チリSLグループにて一部の資産を費用処理したほか、のれん等の減損損失が発生し、利益を押し下げる結果となりました。
以上の結果、売上収益は222,001百万円(前期比25.6%増)、営業利益は3,382百万円(前期比49.2%減)となりました。

売上収益
(単位:)
営業利益
(単位:)
事業内容
当社子会社にて、事務代行業務等を行っております。
その他の事業におきましては、特例子会社での障がい者による事務のシェアードサービス事業及び手話教室事業等が、新型コロナウイルスの感染再拡大の影響を受けましたが堅調でした。以上の結果、売上収益は61百万円(前期比1.8%増)、営業利益は319百万円(前期比49.8%増)となりました。
(2) 直前3事業年度の財産及び損益の状況
① 企業集団の財産及び損益の状況







(注) 第23期・第24期・第25期において行った企業結合に係る暫定的な会計処理の確定に伴い、第23期・第24期・第25期の関連する諸数値について遡及修正しております。なお、第23期・第24期の数値は、過年度の不正または誤謬による虚偽表示の訂正による遡及処理後の数値であります。
② 当社の財産及び損益の状況







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(注)
- 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を当事業年度の期首から適用しており、当事業年度に係る各数値については、当該会計基準等を適用した後の数値となっております。
- 第23期・第24期の数値は、過年度の不正または誤謬による虚偽表示の訂正による遡及処理後の数値であります。
(3) 対処すべき課題
今後の世界経済の見通しにつきましては、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる深刻な影響は後退しつつあるものの、変異ウイルスによる感染拡大のみならず、ウクライナ情勢による地政学的リスクの高まりや、インフレ圧力の高止まり、金融引き締め強化など、国際情勢に重大な影響を及ぼす事象の発生が続いており、これらのリスク増大によって世界経済は、不透明感がなお色濃い状況であります。
当社グループでは、このように先行きが不透明な事業環境にあっても、持続的成長を実現していくために、以下を対処すべき主要課題と捉えております。
① ガバナンス体制の強化
グローバルに事業拡大している当社グループでは、買収した会社も含めて上場企業のグループ会社にふさわしい健全な経営を行う必要があります。これを継続して実現するため、グローバル経営の視点に立った同一目標・同一管理手法を確立し、加えて、内部統制システムを全社に適用し、当社グループ全体のガバナンス強化及びコンプライアンス体制の拡充を図ってまいります。
当社は、2022年2月22日に株式会社東京証券取引所より改善報告書の徴求及び公表措置の通知を受け、2022年3月8日に改善報告書、2022年9月22日に改善状況報告書を提出しております。
ステークホルダーの皆さまに、多大なるご心配とご迷惑をおかけしておりますことを、改めて深くお詫び申し上げます。当社では、本件事案を厳粛に受け止めるとともに、以下のとおり掲げた再発防止策等を継続して着実に実行することにより、皆さまからの信頼回復に努めてまいります。
- ・経営責任の明確化
- ・経営トップ主導の企業風土改革
- ・コンプライアンス意識の改革、再発防止策の徹底
- ・経営体制の強化
- ・コーポレート・ガバナンス体制・組織体制の再構築
- ・内部統制部門の強化
- ・内部通報制度の見直し
- ・会計処理に係る社内ルールや経理会計システムの見直し
- ・実現可能な事業計画・予算の策定
- ・不正の温床となる取引契約の終了
併せて、コーポレート・ガバナンスの更なる強化を目的として、経営の監督機能と執行機能の分離をより一層明確にし、経営監督機能を強化しながら迅速・果断な意思決定を行うために、社外取締役が過半数を占める指名・報酬・監査の3つの委員会を有し、かつ取締役会から執行役へ大幅な権限委譲が可能な指名委員会等設置会社へ移行することといたしました。2023年3月28日開催予定の第26期定時株主総会での承認を経て移行する予定であります。
今後も、中長期的な企業価値の向上に努めるにあたり、株主、取引先、地域社会、従業員等を含むステークホルダーの皆さまとの堅強な信頼関係の持続的な構築に向けて、自律機能、倫理性の高いコーポレート・ガバナンスを構築し、定期的な検証を行うことを経営上の重要な課題と認識してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組んでまいります。
② SDGs経営の強化
当社グループは、サステナビリティ方針に基づき、社会と企業の持続可能な発展に貢献できるよう取り組んでおります。この活動をさらに強化し、5つのマテリアリティ(重要課題)に沿ってKPIを定めており、事業を通じて社会問題の解決に寄与しながらSDGsの目標達成に貢献してまいります。
③ 人材育成による企業体質の強化
人材を活用したビジネスを行う当社グループは、人材を最も重要な資産として捉えております。人材を適正に扱うため、また人材を扱った各種サービスを適正に提供するための基礎的な知識・能力や、生産現場における労務管理能力及び生産管理能力を向上するための教育・育成を徹底しております。併せて高度・多様化し続ける顧客ニーズに迅速、柔軟かつ的確に対応するためにも、優秀な人材確保及び人材育成を重要課題として取り組んでおります。
今後も、世界で通用する規律・遵法意識を兼ね備え、多様な知識と経験を有する有能な人材を、国籍や性別を問わず、グローバルに採用・教育することを通じて、企業体質の強化に取り組んでまいります。
④ 変動の激しい事業を補完する体制の構築
製造系アウトソーシング事業は、生産変動の激しい量産工程に対する人材派遣や業務請負を行っている性質上、リーマンショックのような大きな景気後退時には、急激かつ大量の雇用解約が発生するのに対し、景気回復時の増産時には採用が追い付かず、往時の業績に戻ることのできない同業者が散見され、機会損失が非常に大きな問題となっています。
このような状況に対し、当社グループでは、急な大型減産でもグループ全体では黒字を維持しながら雇用解約せずに人材を確保しておき、その後の増産に即時配属して業績を回復できる体制が必要と考えます。そのために製造とは異なるサイクルの分野や景気の影響を受けにくい分野の事業拡大を推進し、製造系アウトソーシング事業の売上構成比を相対的に抑制しながら、業績平準化による成長基盤の強靭化を目指してまいります。
⑤ 成長機会を逃がさない基盤構築
日本国内の人口は減少傾向にあるため人材市場は限定的となり、今後の大きな成長は望めませんが、世界全体では人口は増加傾向にあり、今後30億人増加するともいわれております。当社グループの事業の多くは稼働している人員数に業績が連動しているため、人口が増加し余剰感のある国から不足している国へ、グローバルに人材を流動化させる体制を構築し、この成長ポテンシャル獲得に取り組んでまいります。併せて、人材流動化スキームで移動する労働者をサポートするための事業にも取り組み、雇用を伴わない新たな事業の柱としての確立・発展を目指します。グローバル人材流動ネットワークを確立した暁には、世界一の人材サービス企業への道も拓けると考えており、体制構築に向けた成長投資を推進してまいります。