事業報告(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日)

当社グループ(企業集団)の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当連結会計年度(以下、「当年度」といいます。)における当社グループを取り巻く事業環境は、ウクライナ情勢などの影響により原燃料価格が高騰し、欧米の金融引締め政策や中国のゼロコロナ政策(ロックダウン)も加わり、世界経済は減速しました。国内においては、年度後半以降、コロナ禍からの経済正常化がみられるものの、通年では原燃料価格の高騰や半導体などの原材料供給不足による自動車生産の回復遅れもあり、緩やかな景気回復にとどまりました。

こうした事業環境のもと、世界的な電気自動車化(EV化)に伴う、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使われるVOC(有機溶剤)回収装置の販売が堅調に推移しました。加えて、診断薬用および遺伝子検査試薬用の原料酵素が海外向けの販売を伸ばしました。一方、フィルム事業や不織布マテリアル事業などでは、製品価格改定を進めたものの、原燃料価格高騰の影響をカバーするには至らず、収益性の面で苦戦しました。また、フィルム事業では、セラミックコンデンサ用離型フィルムなどの一時的な需要減退を受けて、販売が減少しました。

財務面では、犬山工場の火災事故に係る受取保険金56億7百万円、投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却益29億46百万円を特別利益に計上しました。一方、不織布マテリアル事業、エンジニアリングプラスチック事業などの事業用資産や休止予定資産に関して、減損損失97億94百万円を特別損失として計上しました。

以上の結果、当年度の売上高は、3,999億21百万円と前年度比6.4%の増収、営業利益は、100億63百万円と前年度比64.6%の減益、経常利益は、65億90百万円と前年度比71.5%の減益、親会社株主に帰属する当期純損失は、6億55百万円(前年度は親会社株主に帰属する当期純利益128億65百万円)となりました。

事業区分別の概況

事業区分別の概況は、次のとおりです。

売上高
営業利益 46 億円
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当セグメントは、製品価格改定を進めましたが、原燃料価格高騰と需要減退の影響が大きく、減収減益となりました。

フィルム事業では、包装用フィルムは、原燃料価格高騰に対し製品価格の改定が追いつかず、さらに、年度後半には荷動きが鈍化しました。工業用フィルムは、原燃料価格高騰に加えて、セラミックコンデンサ用離型フィルムなどの需要減退の影響を受けました。

機能マテリアル事業では、工業用接着剤“バイロン”は、中国のゼロコロナ政策の影響を受けて、販売が減少しました。

売上高
営業利益 45 億円
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当セグメントは、製品価格改定を進めましたが、原燃料価格高騰の影響が大きく、増収ながら営業損失が拡大しました。

エンジニアリングプラスチックは、国内では、原燃料価格高騰に対し製品価格の改定が追いつきませんでした。海外では、製品価格改定を進めましたが、原料価格・物流費の高騰、海外での加工費増加の影響を受けました。

エアバッグ用基布は、製品価格の改定を進めましたが、原糸などの原料購入価格の上昇により、収益性の改善に至りませんでした。

売上高
営業利益 30 億円
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当セグメントは、VOC回収装置、高機能ファイバーの販売が堅調に推移したものの、不織布マテリアル事業における原燃料価格高騰の影響が大きく、増収減益となりました。

環境ソリューション事業では、世界的なEV化に伴うリチウムイオン電池の需要拡大を受けて、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使用されるVOC回収装置、および交換エレメントの販売が堅調に推移しました。

不織布マテリアル事業では、原燃料価格高騰に対する製品価格改定が追いつきませんでした。

高機能ファイバー事業では、“ザイロン”は建築補強用途、自転車タイヤ用途、“イザナス”は釣糸用途を中心に販売が堅調に推移しました。

衣料繊維事業では、円安の影響を受け、海外仕入れコストが上昇しましたが、中東向け特化生地は、輸出採算が好転しました。

売上高
営業利益 92 億円
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当セグメントは、人工腎臓用中空糸膜は原燃料価格高騰の影響を受けましたが、海外向けの原料酵素が堅調に推移し、増収増益となりました。

バイオ事業では、第4四半期に新型コロナウイルス感染症の感染者数が大幅に減少したことで、PCR検査用試薬の販売が減少しました。一方、診断薬用および遺伝子検査試薬用の原料酵素は、海外向けの販売が堅調に推移しました。

医薬品製造受託事業は、FDA対応の費用が嵩みましたが、市販製剤の生産・出荷を順次再開したことで販売が回復しました。

メディカル事業では、人工腎臓用中空糸膜の販売は堅調に推移しましたが、原燃料価格高騰の影響を受けました。

Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局)

売上高
営業利益 22 億円
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(当年度営業利益 消去または全社△45億円)

当セグメントは、不動産、エンジニアリング、情報処理サービス、物流サービス等の各インフラ事業で、それぞれ概ね計画どおりに推移しました。

事業区分別売上高

設備投資等の状況

当年度には、セラミックコンデンサ用離型フィルムの生産設備新設のほか、総額427億円の設備投資を行いました。

資金調達の状況

当年度の所要資金は、自己資金および借入金等により充当しました。

また、サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲットの達成状況に応じて排出権の購入または寄付を実施するサステナビリティ・リンク・ボンド(第44回無担保社債)200億円を発行しました。

重要な組織再編等の状況

吸収合併

当社は、2022年12月26日開催の取締役会において、当社を存続会社、当社子会社の株式会社東洋紡システムクリエートを消滅会社とする吸収合併契約の締結を決議し、2023年4月1日付で効力が発生しました。この合併により、ITリソースを一本化し、デジタル技術の発展・普及に伴う事業環境変化に迅速に対応できる体制としました。

吸収分割

当社は、2023年1月25日開催の取締役会において、当社の機能素材に係る事業に関し、当社を吸収分割会社、当社子会社の東洋紡エムシー株式会社(以下、「東洋紡エムシー」といいます。)を吸収分割承継会社とする吸収分割契約の締結を決議し、2023年4月1日付で効力が発生しました。

なお、東洋紡エムシーは、同日付で、三菱商事株式会社(本社 東京都千代田区、以下「三菱商事」といいます。)を引受先とする第三者割当増資を行いました。三菱商事との合弁事業により、当社の機能素材の事業競争力を高め、より付加価値の高いソリューションを提供していきます。

<ご参考>合弁会社の概要(2023年4月1日現在)

対処すべき課題

当社グループは、昨年、「サステナブル・ビジョン2030」(以下、「長期ビジョン」といいます。)を策定しました。長期ビジョンでは、今後の事業環境の変化を想定し、企業理念『順理則裕』(なすべきことをなし、ゆたかにする)のもとで、2030年のありたい姿やサステナビリティ指標、アクションプランを示しています。社会課題の解決に貢献することを通じて、持続可能な成長(サステナブル・グロース)の実現をめざします。

また、長期ビジョンに掲げる目標を達成するための通過点として、「2025中期経営計画」(2022~2025年度)を策定し、「つくりかえる・仕込む4年」と位置づけ、以下の4つの施策を中心に企業価値向上への取組みを進めます。

安全・防災・品質の徹底

安全・防災については、現場総点検、防災総点検、老朽設備更新を含む安全・防災投資、安全・防災研修の充実などを内容とする「安全・防災マスタープラン」を実行し、「ゼロ災」をめざします。また、品質については、品質保証研修の充実、PL/QAアセスメントの徹底、コンプライアンス教育の強化など、組織風土改革と品質文化づくりに注力し、ゆるぎない信頼の獲得をめざします。

さらに、安全・防災・品質をはじめとするリスクの把握、回避・低減、適切な対応を可能とするため、リスクマップの作成、モニタリングシステムの拡充、グループ会社のガバナンス整備などを進め、グループ全体のリスクマネジメント体制を強化していきます。

事業ポートフォリオの組替え

「収益性」と「成長性」の2軸で各事業を「重点拡大事業」「安定収益事業」「要改善事業」「新規育成事業」に層別し、各々の位置づけに応じた事業運営を行います。フィルム事業およびライフサイエンス事業は、当社グループに優位性があり、市場の拡大が見込めるものとして、「重点拡大事業」に位置づけ、中長期の成長拡大をめざして積極的な投資をしていきます。また、環境・機能材事業は、「安定収益事業」に位置づけられますが、各商材のもつ潜在力やソリューションビジネスとしての有用性を再評価し、将来の第3の柱とすべく、三菱商事との合弁事業を軌道に乗せ成長拡大を図ります。「要改善事業」については、正常化に向けた対策を講じ、グループ全体の資産効率向上に取り組みます。

未来への仕込み

4つのコア技術「高分子技術」「環境技術」「バイオ・メディカル」「快適性設計」を融合させ、新事業領域でイノベーションを創出していきます。新事業・新技術の探索として、リニューアブルポリマー※1の開発、急性血液浄化※2市場への進出、有機薄膜太陽電池材料※3の開発などを進めます。

また、当社グループでは、気候変動リスクへの対応として策定した、カーボンニュートラルに向けたロードマップにそって、2050年までにGHG※4排出量(Scope1,Scope2)ネットゼロ達成に取り組みます。一方、脱炭素社会の実現に貢献する浸透圧発電や風力発電に使われる材料、良質な水域・大気の維持に貢献する海水淡水化膜やVOC回収装置などの拡販を通じて、事業の成長をめざします。

さらに、デジタル・トランスフォーメーションに向けて、IT環境を整備し、ビジネス・イノベーションを加速・推進するための基盤づくりを進めます。

土台の再構築

以下の取組みを通じて、当社グループが持続的に成長していくために必要な基盤、土台を再構築します。

① 人材育成、働き方改革、ダイバーシティ推進
人事制度改革、次世代経営人材の育成、女性の活躍推進(女性リーダー育成)、健康経営の推進

② モノづくり現場力
生産革新活動の推進、技術者教育の整備・充実

③ 事業基盤の整備
リニューアル投資、全社・事業所拠点構想の検討、レガシーシステムの更新

④ ガバナンス・コンプライアンス
グループガバナンス体制の強化、コンプライアンスの徹底、内部監査機能の強化、サプライチェーンの人権尊重

⑤ 組織風土改革
企業理念体系「TOYOBO PVVs」の浸透、まじめな雑談、対話の促進

当社グループは、このような課題に取り組み、事業を通じて社会課題の解決に貢献し、従業員が誇りとやりがいをもって働き続けられる会社、持続的に成長できるサステナブルな会社をめざしていきます。

※1
ケミカルリサイクル、バイオマスプラスチック
※2
急性腎不全などの急性疾患に対して、疾患の原因物質や、体内の過剰な薬物、水分を除去する血液浄化治療
※3
有機物の発電材料を、電極を有するガラスやプラスチックの基板上に塗布して作る太陽電池用の材料
※4
Greenhouse Gas(温室効果ガス)

当社グループの財産および損益の状況の推移

連結計算書類