第156期事業報告(2021年4月1日から2022年3月31日まで)

帝人グループ(企業集団)の現況に関する事項

(1)事業活動の経過及び成果

1)当期の経営成績

2021年度は、前期に引き続き新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延し、グローバルレベルで社会・経済活動の制限が継続しました。自動車産業や航空機産業を中心に需要が回復に向かう一方、各産業においてサプライチェーンが停滞したほか、半導体不足や原燃料価格・物流費の高騰などが企業業績に大きな影響をもたらしました。またロシアによるウクライナ侵攻勃発後、エネルギーや鉱物などの価格が供給不安によって上昇するなど、経済の先行き不透明感が増大しました。

帝人グループは、持続可能な社会の実現に貢献し、「未来の社会を支える会社」になるという長期ビジョンのもと、2020年度から3か年の中期経営計画を「成長基盤の確立期」と位置づけ、各施策を推進しています。中期経営計画2年目である当期においては、COVID-19の影響を受けながらも、将来の収益拡大に向けた投資として、マテリアル事業領域においてはオランダでパラアラミド繊維の生産能力増強の設備投資を進め、北米では自動車向け複合成形材料のテキサス新工場の建設や炭素繊維新工場の立ち上げを実行しました。また、ヘルスケア事業領域では武田薬品工業(株)から糖尿病治療薬の販売権を取得し、着実に販売移管を進めるなど、収益基盤の強化と将来の事業拡大に向けた基盤構築を進めました。また、事業間の融合分野として参入した再生医療等製品事業について、子会社化した(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(以下、「J-TEC」)との事業計画を策定し、協同での取り組みに着手しました。

帝人グループの当期の経営成績は、売上高が前期対比10.7%増の9,261億円となり、営業利益は同19.5%減の442億円となりました。経常利益は持分法投資利益の計上等により前期対比7.4%減の497億円、親会社株主に帰属する当期純利益は減損損失の計上等により232億円(前期は67億円の損失)となりました。営業利益に関して、ヘルスケア事業領域では、好調な「フェブリク」販売や糖尿病治療薬の販売承継効果で大幅増益となり、IT事業も底堅い収益を確保しました。一方、マテリアル事業領域では自動車用途や航空機用途を中心に、COVID-19影響から需要が回復し販売量が増加したものの、第2四半期から顕在化した半導体不足の影響や、原燃料価格・物流費の高騰、一部事業での定修や停電による生産休止の影響を受け減益となり、繊維・製品事業も医療用防護具(ガウン)の官需が収束した影響で減益となりました。

その結果、収益性を示すROEは中期経営計画最終年度(2022年度)目標(10%以上)を大きく下回る5.5%となり、営業利益ROICについても中期経営計画最終年度目標(8%以上)を下回る5.5%となりましたが、キャッシュ創出力を示すEBITDAは前期(1,068億円)を上回る水準の1,130億円となりました。

2)財政状態

当期末の総資産は、前期末に比べて1,665億円増加し、12,076億円となりました。流動資産は、現金及び預金や売掛債権、その他流動資産等の増減により、前期末に比べて374億円増加しました。固定資産は、償却を上回る設備投資により有形固定資産が327億円増加したことや、武田薬品工業(株)からの2型糖尿病治療剤の販売権取得により販売権が1,182億円増加した一方で、主に退職給付信託への拠出資産を一部返還したことにより、退職給付に係る資産が228億円減少しており、前期末に比べて1,290億円増加しました。

負債は、前期末に比べて1,320億円増加し、7,428億円となりました。主に販売権の取得資金として社債を発行したことで、有利子負債が1,051億円増加しました。

純資産は、前期末に比べて344億円増加し、4,648億円となりました。主に親会社株主に帰属する当期純利益232億円の計上、及び主要通貨に対する円安の進行による為替換算調整勘定の増加によるものです。

これらの結果、D/Eレシオは1.1倍、自己資本比率は36.4%となりました。(前期末 D/Eレシオ0.9倍、自己資本比率39.0%)

なお、当期末のBS換算レートは、122円/米ドル、137円/ユーロ、1.12米ドル/ユーロ(前期末111円/米ドル、130円/ユーロ、1.17米ドル/ユーロ)となっています。

事業別業績概況

当期における事業別の概況は次のとおりです。

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COVID-19影響からの需要回復により自動車用途や航空機用途を中心に販売量が増加したものの、半導体不足や原燃料価格・物流費高騰、一部事業の定修や生産休止などが収益に大きく影響。各事業分野で販売価格改定を進め、収益性の改善を図った。

EBITDA構成比 %

(単位:

売上高は3,851億円と前期対比881億円の増収(29.7%増)、営業損失は57億円(前期は10億円の営業利益)となりました。EBITDAは前期対比65億円減の250億円となり、営業利益ROICは-2%となりました。

アラミド事業分野

アラミド事業分野では、主力のパラアラミド繊維「トワロン」において、自動車用途を中心とし各市場において需要回復が進み、販売量が増加しました。一方、第1四半期に実施した大型定修とその期間延長、並びに第3四半期に発生した原料工場の停電による生産休止により在庫が逼迫し、販売量にも影響しました。また、欧州の天然ガス価格高騰による燃料コストの上昇を受けて、販売価格改定を進めました。結果、前期対比増収・減益となりました。

樹脂事業分野

樹脂事業分野では、半導体不足、COVID-19による顧客における稼働減少の影響を受け、販売量は前期対比若干減少しました。また、主原料であるBPAの価格高騰影響を受けて、販売価格改定を進めました。結果、前期対比増収・増益となりました。

炭素繊維事業分野

炭素繊維事業分野では、航空機、風力発電、レクレーションを含む用途全般において炭素繊維「テナックス」の販売量が増加しました。また、主原料であるANの需給逼迫による価格高騰を受けて、販売価格の改定を進めました。結果、前期対比増収・増益となりました。当期において北米新工場の稼働を開始しており、将来に向けた航空機向け中間材料開発を継続しています。

電池部材事業分野

電池部材事業分野では、リチウムイオンバッテリー(LIB)用セパレータ「リエルソート」がスマートフォン向けの販売量を伸ばしました。また、ライセンス供与しているコーティング技術を使用した電気自動車向けLIB用セパレータの販売の進展に伴い、ライセンス対価の受領が始まっています。結果、前期対比増収・増益となりました。

複合成形材料事業分野

複合成形材料事業分野では、半導体や部品の供給不足により主要顧客であるOEMの生産休止が継続したことで、Teijin Automotive Technologiesが米国において注力するSUV・ピックアップトラック向けの部材生産にもその影響が波及しました。また、需給逼迫による原材料価格の高騰が継続し、製造コストに大きく影響しました。そのため、顧客との販売価格改定交渉を進め、第4四半期より一部の顧客との間で価格改定を実現しました。米国における失業給付加算の終了後も低位に推移していた労働市場参加率は期後半より少しずつ改善の傾向を示しており、Teijin Automotive Technologies(米)における人員確保の状況は徐々に改善しました。結果、前期対比増収・減益となりました。

*自動車向け複合成形材料事業のグローバル事業ブランド

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主力製品である「フェブリク」の販売や在宅医療機器のレンタルは堅調。販売承継した糖尿病治療薬も順調に推移し、増収・増益に大きく貢献。2017年に米国メルク社へライセンス供与したアルツハイマー病治療薬候補のマイルストーン(一時金)収入あり。過去最高の営業利益を計上。

EBITDA構成比 %

(単位:

売上高は1,836億円と前期対比349億円の増収(23.5%増)、営業利益は432億円と前期対比116億円の増益(37.0%増)となりました。EBITDAは前期対比268億円増の705億円となり、営業利益ROICは20%となりました。

医薬品分野

医薬品分野では、2021年4月1日付で武田薬品工業(株)より承継した2型糖尿病治療剤4製品の販売が順調に推移しました。また、主力製品である「フェブリク」や先端巨大症・下垂体性巨人症/神経内分泌腫瘍治療剤「ソマチュリン」が順調に販売量を拡大しました。さらに、2021年6月に「下肢痙縮」の効能追加承認を取得した「ゼオマイン」も、堅調に販売量を拡大しました。2017年に米国メルク社へライセンス供与したアルツハイマー病治療薬候補の臨床試験開始に伴うマイルストーン収入(一時金)を2021年12月に受領しました。

*ソマチュリン®/Somatuline®は、Ipsen Pharma(仏)の登録商標です。

在宅医療分野

在宅医療分野では、在宅酸素療法(HOT)市場において、医療機関におけるCOVID-19向け病床確保のための入院抑制・在宅療養へのシフトが継続し、酸素濃縮器のレンタル台数が伸長しました(前期末対比約3%増)。また、在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)市場では、検査数が緩やかな回復基調となり、レンタル台数の増加が継続しました(前期末対比約8%増)。

結果、医薬品・在宅医療分野においては、前期対比増収・増益となりました。

ヘルスケア新事業分野

ヘルスケア新事業分野では、人工関節・吸収性骨接合材等の埋め込み型医療機器事業において、手術数の回復傾向に加え、新製品の販売が順調に伸長しました。ただし、地域包括ケア等の新規事業の先行費用の影響もあり、前期対比増収・減益となりました。

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EBITDA構成比 %

(単位:

売上高は2,825億円と前期対比325億円の減収(10.3%減)、営業利益は56億円と前期対比119億円の減益(67.8%減)となりました。EBITDAは前期対比118億円減の121億円となり、営業利益ROICは4%となりました。

衣料繊維は、欧米や中国向けの素材・製品の販売や重衣料の国内販売に回復が見られるものの、COVID-19による国内市況低迷や海外工場のロックダウン、原燃料価格や物流費の高騰により、全般的に苦戦しました。産業資材では、自動車関連部材や電子部品向けの化成品の販売は好調に推移し、水処理フィルター向けのポリエステル短繊維も好調を維持しましたが、第2四半期以降、半導体不足による自動車生産台数減少の影響を受けました。医療用防護具(ガウン)の官需が収束した影響があるものの、事業の選択と集中による基礎収益力の底上げや、コロナ禍に対応したデジタルツールの活用等による販管費減が業績に寄与しました。またコスト上昇に対する販売価格改定を進めました。

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EBITDA構成比 %

(単位:

売上高は538億円と前期対比43億円の減収(7.5%減)、営業利益は97億円と前期対比7億円の減益(6.7%減)となりました。EBITDAは前期対比5億円減の108億円となり、営業利益ROICは61%となりました。

ネットビジネス分野では、電子コミックサービスにおいて前期の外出自粛による特需の収束や海賊版サイトの影響が続いたため減収となりましたが、広告費最適化により利益を確保しました。ITサービス分野では、COVID-19の影響が残る中、堅調に推移しました。なお、主にオフィス移転による販管費増のため全体では減益となっています。

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売上高は212億円と前期対比33億円の増収(18.6%増)、営業損失は21億円(前期は営業損失2億円)となり、EBITDAは前期対比6億円減の1億円となりました。

J-TECにおいて、2021年6月に製造販売承認を取得した「オキュラル」(角膜上皮幹細胞疲弊症に対する口腔粘膜上皮細胞を用いた世界初の再生医療等製品)が2021年12月に保険収載され、販売を開始しました。また、2021年11月、他家(同種)培養表皮の治験を開始しました。再生医療製品事業及び研究開発支援事業の売上は拡大した一方で、前親会社でかつ主要取引先であった富士フイルム株式会社との受託開発取引停止に伴う再生医療受託事業の売上減少により、前期比減収となりました。

(2)財産及び損益の状況の推移

(3)設備投資の状況

当期の設備投資は、主に武田薬品工業(株)からの2型糖尿病治療剤の日本における販売移管等による無形固定資産の取得や、アラミド事業及び複合成形材料事業の生産能力増強を目的とした設備投資等により2,008億円実施しました。

(4)資金調達の状況

金融機関からの借入金、ハイブリッド社債(劣後特約付社債)及び普通社債の発行により資金調達を実施しました。主に武田薬品工業(株)からの2型糖尿病治療剤の日本における販売移管に係る資金調達の実施により、有利子負債は前期末比1,051億円増加し、4,852億円となりました。

本販売移管の資金調達の一部として、格付会社より発行額の50%に対して資本性が認定されたハイブリッド社債を2021年7月21日付で600億円発行し、一時的に悪化する財務体質を改善し将来の収益源育成に向けた資源投入の実行を支える財務健全性を確保することとしました。

(5)経営方針及び対処すべき課題

1)帝人グループが目指す姿

帝人グループは、企業理念に基づき、持続可能な社会の実現に向けて、長期ビジョンである「未来の社会を支える会社」になることを目指しています。世界的な社会課題とSDGsが掲げるゴールを踏まえ、優先的に取り組む5つのマテリアリティ(重要課題)を特定し、3つのソリューションを中心に価値を社会に提供することで、持続可能な社会の実現と企業価値のさらなる向上を目指します。

2)対処すべき課題
a) 中期経営計画と定量目標について

中期経営計画 2020-2022 ALWAYS EVOLVING」(以下、「中期経営計画」)では、「成長基盤確立期」とし、将来の収益獲得のために育成が必要な事業を「Strategic Focus」、既に収益を上げており、さらなる成長を目指す事業を「Profitable Growth」として位置付け、積極的に投資を進める方針を掲げています。収益性指標として「ROE」(全社)と「営業利益ROIC」(全社・事業別)、成長性指標として「EBITDA」(全社・事業別)を最重要指標とし、2022年度の定量目標としてROE 10%以上、営業利益ROIC 8%以上、EBITDA 1,500億円を設定し、これらの目標達成に向け、財務健全性、資本コストに留意しながら、企業価値向上に資する事業ポートフォリオ実現に向けた投資を実行しています。

<経営指標推移>

b) 対処すべき課題

COVID-19の蔓延はグローバルレベルで経済、人々の生活、価値観に激的な変化をもたらしました。また足元では、半導体不足、原材料価格や欧州天然ガス価格、物流費の高騰などの様々な影響によって収益力が低下したことに加え、国際的な政治・地政学的なリスクの発現による不確実性の高まりもあり、2022年度業績見通し(2022年5月公表)は中期経営計画の定量目標を下回る状況です。各事業の収益力強化のための諸施策を実行するとともに、帝人グループの各事業の位置づけを改めて評価し、企業価値向上に資する事業ポートフォリオ構築に向けて次期中期経営計画を策定します。

■マテリアル事業領域

マテリアルでは、モビリティの軽量化、素材・部品の環境対応などを始めとしたさまざまな社会のニーズをビジネス機会とし、高機能素材とマルチマテリアル化による高付加価値用途への展開を戦略としています。足元では、原材料/天然ガス価格・物流費・北米労務費の高騰などにより収益性が大幅に低下しており、収益力の回復・向上がマテリアル事業の課題となっています。

■ヘルスケア事業領域

帝人グループは、「予防/健康増進→治療→リハビリ/介護」のケアサイクル全体において、それぞれのプロセスに応じた製品・サービスを提供する地域密着型総合ヘルスケアサービスプロバイダーとなることを目指しています。そのような中、現中期経営計画に織り込んだM&Aの実施を含む新事業の拡大に遅れが生じており、また、主力医薬品「フェブリク」の後発品が2022年度に参入することが想定され、それによる収益の低下影響を可能な限り克服し、持続的に成長するための事業基盤と製品・サービスを構築していくことがヘルスケア事業の課題となっています。

■繊維・製品/IT事業

■その他

連結計算書類