事業報告(2022年10月1日から2023年9月30日まで)

企業集団の現況に関する事項

当連結会計年度の事業の状況

事業の経過及びその成果

当連結会計年度(2022年10月1日~2023年9月30日)の世界経済は、コロナ危機前に比べて低い成長ペースとなりました。米欧では政策金利の引き上げが最終局面に向かいつつも、根強いインフレが続いています。加えて、金融引き締めによる需要抑制効果が実体経済に波及しつつあります。中国においてはゼロコロナ政策解除と政府の経済対策により持ち直しの動きがみられるものの、不動産市況の低迷や若年層を中心とした雇用環境の弱さなどを背景に、回復ペースは緩やかです。

わが国経済は、経済活動の正常化を背景に、持ち直しが続いています。物価高によって消費が抑制されている面がありますが、供給制約の緩和による欧米向けを中心とした自動車輸出の回復などがみられます。

海外経済の不透明感が高まるなかでも、企業はDX・GX(*)関連の投資を強化するなど、高めの投資計画を維持しています。また政府は「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針、2023年6月)において、DX・GX等の加速や、リスキリングなどの人への投資の強化などの方針を示しています。こうした政府の方針は、企業の投資促進に加えて、当社グループが重点分野としている「人材」「エネルギー・循環」「情報通信」などやDX事業の追い風になると期待されます。

当連結会計年度は「中期経営計画2023」(中計2023)の最終年であり、その総仕上げに注力してきました。

国内では新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5月8日から5類感染症に移行し、社会・経済活動がポストコロナの「新常態」の流れへと加速しています。当社では、かねてより「新常態」を見据えた取り組みを進めており、社会・経済活動の回復や企業の設備投資強化の動きなどを事業機会として着実に捉えるべく、活動してまいりました。社会課題解決企業を標ぼうする企業グループとして、新型コロナウイルスという近年に例のない社会課題に対して積極的に取り組みました。中計2023の期間中、社会課題解決並びに当社グループ事業のいずれの側面でも大きな役割を果たしたものと考えております。

中計2023では、人材、都市・モビリティ、エネルギー、ヘルスケア、情報通信、循環、食農、レジリエンスなどの分野で、研究・提言から社会実装に至るバリューチェーン(価値創造プロセス)を一貫して手掛ける経営に取り組みました。加えて当社グループの中核であるリサーチ・コンサルティング事業、金融ソリューション事業の価値提供力に磨きを掛けるとともに、シンクタンクとしての研究・提言機能の強化、成長領域であるDX事業などに先行的な投資を行いました。

成長事業の牽引役と位置づけたDX事業では、民間、公共、金融の3つの分野を設定して展開を図りました。当社及びITサービスセグメントの中心的役割を担っている三菱総研DCS株式会社との連携を一層強化し、営業・コンサルティング活動面でも双方の組織を結び付けた一体的な取り組みにも進展がみられます。

民間向けには、DXコンサルティングとクラウド移行を組み合わせた支援やビッグデータ分析によるデジタルマーケティング、公共向けには行政DXの推進、金融向けには事業領域や顧客層の拡大など積極的な展開を図りました。

AI等先端技術の活用、なかでも生成AIの動向をいち早く捉えた研究開発を進め、自社内で積極的に利用したうえで、ウェブからの情報収集・レポーティングを自動化するAIツールに、生成された文章に含まれる誤情報を検知・削除する機能を実装したAIサービスの提供を開始しました。

以上の取り組みの成果は、政府関係のクラウドや5G関連事業、デジタル技術を活用した防災関連事業等、民間企業のDX推進支援やスマートモビリティ関連事業等の受注実績として顕在化しております。

このような結果、当社グループの当連結会計年度における業績は、売上高は122,126百万円(前年度比4.7%増)となりました。一方、将来成長のための先行投資を積極的に進めたことから、営業利益は8,688百万円(同5.2%減)、経常利益は10,002百万円(同4.7%減)となりました。前期に投資有価証券売却益を計上していたこと等により、親会社株主に帰属する当期純利益は6,287百万円(同18.4%減)となりました。

(*)
GX:グリーン・トランスフォーメーション(Green Transformation)の略。再生可能エネルギー中心の産業・社会構造への転換や温室効果ガスの削減を成長戦略に据え、環境保全と経済成長の両立を目指す取り組み。

セグメント別の業績

セグメント別の業績は次のとおりであります。

シンクタンク・コンサルティングサービス

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主要な事業内容

政策や一般事業に関する調査研究及びコンサルティング

当連結会計年度は、官公庁分野の5Gや防災関連通信分野の実証案件、ガバメントクラウド等のデジタル関連案件、ヘルスケア(医療・介護等)関連案件等の伸長により、売上高(外部売上高)は50,462百万円(前年度比3.9%増)となりました。一方、大型実証事業における外注費や将来成長のための人材投資、研究・提言機能強化の先行コストが増加し、経常利益は4,428百万円(同14.7%減)となりました。

ITサービス

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主要な事業内容

ソフトウェア開発・運用・保守、情報処理・アウトソーシングサービス

当連結会計年度は、金融向けシステム基盤更改案件を含む金融・カード分野の多様なシステム開発案件などが売上に貢献し、売上高(外部売上高)は71,663百万円(前年度比5.3%増)、経常利益は5,560百万円(同4.9%増)となりました。

対処すべき課題

(1) 人的資本経営の強化

人材は、当社グループの競争力や成長の源泉となる重要な資産です。成長シナリオを実現するため、当社グループ全体の事業戦略の視点から必要な人材を確保し、最適な人材ポートフォリオを実現します。人材ギャップ解消のための採用・育成戦略を立案するとともに、処遇改善や成長領域に対応した人材の重点的な強化を行います。

また、グループ経営の観点からグループ全体でのリソース活用によるキャリア形成支援を進めます。

人材育成にあたっては、社員個々の志向に応じた育成・成長を支援する当社独自の「FLAPサイクル(*)」の導入・実践などの施策に取り組んでいます。また、複線型キャリアをベースとし、それぞれに役割を配したジョブ型の人事制度へ移行しました。引き続き、働き方改革を推進して健康経営、社員活躍、ダイバーシティ向上などに努めつつ従業員のエンゲージメントを強化・向上し、優秀な人材が存分に能力を発揮・活躍できる一層魅力的な環境を備えた企業グループを目指します。

働き方改革等の取り組みは短期的にはコスト増となりますが、人材が当社グループ最大かつ最重要の資産との考え方に基づき、当社グループの持続的成長にとって不可欠な取り組みと捉えております。ただし、あわせて生産性向上や価格転嫁等にも継続して努めるとともに、品質の維持・向上への不断の取り組みによる顧客価値の増大もあわせて実現してまいります。

(*)
FLAPサイクル:自身の適性や業務に必要な要件を「知る」(Find)、スキルアップに必要な知識を「学ぶ」(Learn)、目指す方向に「行動する」(Act)、新たなステージで「活躍する」(Perform)という一連の循環で一人ひとりのキャリア形成を促す当社独自の方法論。
(2) DX事業、新事業等の加速

当社グループは、基盤事業による収益を拡大しながら成長事業に投資し、中長期的に次代のコア事業を育成していく両利き経営を引き続き推進しています。中期経営計画2026の事業戦略に位置づけた「社会・公共イノベーション」「デジタルイノベーション」「金融システムイノベーション」のいずれも、現在の政策・経営課題の潮流であるDX、GX、人材が事業展開・成長の鍵を握る要素となっており、これらを捉えた事業設計を進めてまいります。

また、将来を担う事業を育成し、事業ポートフォリオの転換を急ぐことも重要な課題と捉えています。具体的には人的リソースを過度に制約としないサービス提供型の事業規模の拡大・収益化、PROSRVやmiraicompassなどの既存有力サービスに続く新サービスの開発、海外事業の展開などに取り組んでまいります。

(3) 研究・提言活動強化・積極的な生成AI活用

シンクタンクを中核とする当社グループでは、「研究・提言」から政策・制度策定や事業開発の支援、開発や運用、実際のサービス提供に至る価値の連鎖によって独自性を発揮することを目指しています。研究・提言活動は、この価値連鎖の起点であり、さらなる強化が必要と認識しています。研究・提言を通じて未来社会像の実現に向けた社会潮流を形成し、当社グループ全体の社会価値を高めます。具体的には、時機を捉えた自律的な取り組みと科学的知見(エビデンス)に基づく提言を実践し、官公庁の主要施策や企業戦略立案に貢献していきます。

また、生成AIの登場や飛躍的発展・普及は、多くの産業・職業に影響を及ぼすとされていますが、当社業務も例外ではなく、事業モデルの根本的な転換、想定外の業界からの競合の登場や競争優位性の喪失など、様々な将来的リスクが考えられます。こうしたリスクをむしろ事業機会として活かすため、当社グループでは積極的にグループ内での生成AIの活用を進め、プロジェクト管理DX等を推進しています。こうした取り組みを通じて、当社グループ全体の生産性向上を図り、さらに高度な顧客価値の提供を目指します。

(4) リスク対応力の強化

業容拡大に伴い、従来にない大型事業や事業形態の案件遂行機会が増加しており、プロジェクトマネジメントの重要性が高まっています。また、新事業の取り組みにおいては、当社グループにとって対応経験・知見の蓄積がないリスクに直面する可能性があり、リスクの早期把握・迅速な対応が求められます。

リスク増減傾向の把握と予兆管理を高度化するとともに、システム開発におけるプロジェクト管理機能をグループ全体で発揮・体制強化するほか、法務機能や情報セキュリティについてもさらに強化してまいります。

中期経営計画

社会は、中国の影響力拡大、ウクライナや中東情勢などを背景としたパワーバランスの不安定化、インフレの拡大、サステナビリティや経済安全保障の重要性の一層の高まりなどに加え、DXと革新的AI技術の飛躍的進歩と普及拡大など急速に変化しています。視点を変えれば、社会課題解決が、これまで以上に求められているといえます。

当社グループを取り巻く環境は、官公庁や民間企業におけるDX推進やIT投資の堅調さが継続しており、市場成長の取り込みをめぐる競争がさらに激化しています。そのなかで情報・通信業では、M&Aやサービス化などによる高利益水準を追求する動きが活発になっています。

こうした認識のもとで、当社グループは社会課題解決企業を標ぼうし、差別化を図ることで市場での存在感を確保することを目指します。そのために、2030年にありたい姿を描いたうえで、実現に向けた「中期経営計画2026」(以下「中計2026」)を2023年10月に策定しました。

「中計2026」は、前「中期経営計画2023」(以下「中計2023」)を起点として、2030年までの9年間を3カ年ずつ3段階に区切り、その中間と位置づけました。3段階を「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」としたうえで、「ステップ」に相当します。「中計2026」では、「中計2023」で第一歩を踏み出した経営理念の実現・価値創造プロセスをさらに進めるとともに、顕在化した課題に対応し、グループ横断の事業領域で独自の価値提供モデルを構築してまいります。そのうえで、「ジャンプ」期間でさらなる領域拡大・収益性向上を目指します。

「中計2026」での成長は、当社グループの経営理念のもと、財務、非財務、社会の3価値の拡大とともに、DX事業の成長による規模拡大と基幹事業の質の改革による収益性向上、次世代事業の育成・拡大による事業ポートフォリオ転換の加速などによって実現する計画です。

そのうえで、基本方針として、①事業戦略、②基盤戦略、③価値創造戦略を定めました。

事業戦略

デジタル×コンサル×シンクタンク融合のワンストップモデルを構築し、グループ全体でDXへの取り組みを加速し、次世代に向けた事業育成を進めます。

こうした事業戦略をグループ全体で推進するため、「事業」軸中心に戦略領域を定め、「シンクタンク」「社会・公共イノベーション」「デジタルイノベーション」「金融システムイノベーション」の4事業を推進します。

  • ・シンクタンク事業:
    研究・提言を通じて未来社会像の実現に向けた社会潮流を形成し、当社グループ全体の社会価値を高める機能を担います。
  • ・社会・公共イノベーション事業:
    公共・民間を対象とした当社グループの中核として堅持し、課題解決策の社会実装実現、政策知見を活かし調査研究・DX・コンサルティングサービスを展開します。
  • ・デジタルイノベーション事業:
    経営・DXコンサルティングとともに高い市場成長性が見込まれる製造・流通分野向けのDXソリューションを展開するとともに、データ分析・AIを活用したサービスを推進します。
  • ・金融システムイノベーション事業:
    既存の金融機関向け事業を中心に、金融コンサルティングの拡充や金融DX領域に展開します。

基盤戦略

事業成長のための基盤を次の5つの観点から整備・高度化します。

  • ・人的資本経営:
    競争力の源泉としての人的資本を拡充し、当社グループ全体としての最適な人材ポートフォリオを実現します。
  • ・営業力強化:
    DX事業のマーケティング及びプロモーション機能をグループ連携体制で強化します。
  • ・新事業強化・海外:
    人的リソースを過度に制約としないサービス提供型モデルを新事業と位置づけ、当社グループらしい多様な新事業を探索・開発強化します。また、海外顧客やビジネスパートナーのグローバル事業展開及び国内顧客の海外事業展開等をハノイ・ドバイの海外拠点を起点に支援するなど、海外事業も推進してまいります。
  • ・グループ内DX:
    生成AIの活用やプロジェクト管理DX等を用いて、当社グループ全体の生産性向上を図り、さらに顧客価値の提供を目指します。
  • ・リスクマネジメント:
    当社グループの業容拡大、AI等を活用した事業などの展開に伴い、リスク管理システムのさらなる高度化、システム開発におけるプロジェクト管理体制、法務機能、情報システムセキュリティについても、グループ全体で機能発揮・強化していきます。

価値創造戦略

上記事業及び基盤戦略に基づき顧客に提供する価値を高め、ひいては財務、非財務、社会の3価値の好循環・拡大によって、当社グループのサステナビリティ経営を推進いたします。ステークホルダーに対するグループ広報・IRを通じ、社会価値及び保有する非財務資本・価値を積極的に説明・訴求し、社会課題解決企業グループとしての認知・信頼を獲得し、当社グループ全体のブランドイメージを確立させます。

経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

財務価値

経常利益及びROEを重要な経営指標とし、「中計2026」の目標水準を以下のとおり定めました。なお、2030年における一層の事業規模拡大を目指す中間点として、売上高目標も定めております。これら目標達成への取り組みを通じ、企業価値並びに資本効率の向上を図ってまいります。

「中計2026」最終年度(2026年9月期)の目標水準

●売上高
:1,350億円
●経常利益
:140億円
●ROE
:12%

非財務価値

当社グループとして設定したマテリアリティに基づき、「社会課題解決力」を表現する具体的な非財務価値の指標を定め、その達成を目指しています。具体的には、「人的基盤」「知的共創基盤」「社会信頼基盤」の3要素に区分のうえ、女性採用比率や特許出願数・登録数、再生可能エネルギー比率などを指標として設定し、これらの達成状況を社内取締役の変動報酬(株式報酬)の算定要素の一部に採用し、役員報酬に反映させています。

社会価値

当社グループとして設定したマテリアリティに基づき、創出を目指す社会価値や当社グループの強みが生み出す社会価値について、当社グループが遂行する関連事業に結び付けて「人材・ヘルスケア事業規模」「GX関連事業規模」「育成したベンチャー企業数」などの指標を定め、社会価値の明確化を図ります。

サステナビリティに関する考え方と取り組みについて

■ガバナンス

サステナビリティは、当社グループの経営の基盤となる考え方であり、社長が務める最高サステナビリティ責任者(CSO:チーフ・サステナビリティ・オフィサー)、コーポレート部門長が務めるサステナビリティ経営責任者を設置し、推進の責任を明確化しています。

この体制に基づき、サステナビリティ活動計画やマテリアリティの設定・見直し、非財務価値・社会価値に関する目標等の策定・管理は、グループ経営企画部サステナブル経営推進室が担います。

サステナビリティに関する審議決定事項は、グループ経営企画部長が起案、サステナビリティ経営責任者、CSO及び経営戦略委員会の承認を得たうえで、経営会議が決定します。さらに取締役会がサステナビリティにかかる基本方針、定期的な計画の進捗状況などにつき報告を受け、監督いたします。

■戦略

目指す社会の実現・経営理念の実現に向けて、当社グループが重点を置く社会価値・非財務価値、それらの向上の方向性として、サステナビリティに関するマテリアリティ(重要課題)を定めました。

事業を通じた豊かで持続可能な社会の構築、当社グループの持続的成長の2つの側面から、計6項目のマテリアリティを設定しています。

■リスク管理

当社グループにおけるサステナビリティに関連するリスクは、当社グループ全般のリスク管理体制、管理方法の中で識別、評価、管理しています。加えて、社長がCSOを務めるサステナビリティ経営推進体制のもと、サステナビリティにかかる方針や施策の管理、取締役会への報告を行っています。

※なお、サステナビリティに関する詳細は、当社ウェブサイト「サステナビリティ」ページをご参照ください。<https://www.mri.co.jp/sustainability/index.html

連結計算書類