当事業年度の事業の状況
事業の経過及び成果

これまで当社グループ(当社及び当社の関係会社)は、「トータルヘルスケア企業」として、健康の維持・増進、病気の診断から治療までを担う事業を展開してまいりました。新型コロナウイルス感染拡大や地政学的リスク等の影響により社会環境が変化する中、不確実性の高い世界がもたらす社会課題を先取りし、環境変化で生まれた新しい技術やニーズを取り入れながら、健康意識の高まりを成長機会と捉え、「トータルヘルスケア企業」の真価を発揮し、持続的成長の実現に向けた取り組みを進めてまいりました。
当連結会計年度の売上収益は、すべての事業セグメントで増収となり、2兆185億68百万円(前期比16.1%増)となりました。主な要因は、医療関連事業において、持続性抗精神病薬「エビリファイ メンテナ」、抗精神病薬「レキサルティ」、V2-受容体拮抗剤「ジンアーク」、抗悪性腫瘍剤「ロンサーフ」のグローバル4製品、及び導出品に対するロイヤリティ・マイルストーン収入の伸長が業績を牽引したことによります。この結果、日本のバソプレシンV2-受容体拮抗剤「サムスカ」の心不全・肝硬変における体液貯留の効能の独占販売期間満了に伴う減収を超えて、売上収益は大幅に伸長しました。さらに、ニュートラシューティカルズ関連事業においても、健康意識が高まる中、「ポカリスエット」及び「ネイチャーメイド」が引き続き伸長しました。
研究開発費投資前事業利益は、6,203億58百万円(同37.8%増)となりました。主な要因は、前述のグローバル4製品及び導出品に対するロイヤリティ・マイルストーン収入の増収を受け売上総利益が増加したこと、一方で、新規事業への投資を加速する中で既存事業への投資を効率化することで販売費及び一般管理費を適正にコントロールし販売管理費率を低減したことによります。
研究開発費は、3,078億4百万円(同11.8%増)となりました。主な増加要因は、新規作用機序を有する抗精神病薬に係る住友ファーマ株式会社との共同開発及び販売に関するライセンス契約締結に基づく開発費、非小細胞肺がんを対象として開発中のzipalertinib/TAS6417、及びIgA腎症を対象として開発中のsibeprenlimab/VIS649が順調に進捗したことや為替影響があったことによります。
想定以上の売上成長と販売費及び一般管理費を適正にコントロールした結果、事業利益は3,125億53百万円(同78.7%増)と大幅な増益となりました。
営業利益は、1,396億12百万円(同7.1%減)となりました。主な要因は、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの治療薬AVP-786、デイヤフーズ社及び住友ファーマ株式会社との共同開発品等に係る減損損失として当連結会計年度で合計1,724億19百万円を計上した影響です。
なお、当期利益は1,254億99百万円(同8.6%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,216億16百万円(同9.2%減)となりました。
主要な事業内容(2023年12月31日現在)




「顕在化しているが満たされない医療上のニーズ」をテーマに、重点領域として精神・神経領域とがん領域に注力しています。さらに循環器・腎領域、消化器領域、眼科領域、診断薬事業、輸液事業、医療機器事業など多岐にわたる領域・事業に取り組むことにより、病気の診断から治療に至る包括的なヘルスケアサービスを提供しています。
治療薬
Therapeutic drugs
臨床栄養製品 等
Clinical nutrition
診断薬
Diagnostics
医療機器
Medical devices
売上収益構成比 %
医療関連事業は、当連結会計年度における売上収益はグローバル4製品が好調に推移し1兆3,643億58百万円(前期比19.9%増)、事業利益はロイヤリティ収入の増加、継続した経費コントロールの推進もあり2,780億57百万円(同83.1%増)となりました。


◆グローバル4製品
当社がグローバル4製品と位置付ける持続性抗精神病薬「エビリファイ メンテナ」、抗精神病薬「レキサルティ」、バソプレシンV2-受容体拮抗剤「サムスカ/ジンアーク」、抗悪性腫瘍剤「ロンサーフ」の売上収益の合計は、前期比17.4%増の7,268億50百万円となりました。
持続性抗精神病薬「エビリファイ メンテナ」
米国では、服薬アドヒアランスに課題がある双極Ⅰ型障害や統合失調症患者に対する製品の有用性の訴求や、対面による情報提供活動により処方数が伸長し、為替影響もあり増収となりました。日本では、統合失調症に加え、双極Ⅰ型障害の情報提供活動を強化し、売上収益は順調に増加しています。これらの結果、売上収益は同22.4%増の2,024億64百万円となりました。

抗精神病薬「レキサルティ」
大うつ病補助療法及び統合失調症に加えて、2023年5月より、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの治療薬として販売する米国では、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションに関する疾患啓発活動を積極的に進め、また、DTC広告*を実施しております。対面による情報提供活動の強化により処方数が伸長し、為替影響もあり増収となりました。日本では、統合失調症の情報提供活動の強化により新規処方数が伸長し、売上収益は増加しました。これらの結果、売上収益は同25.6%増の2,125億9百万円となりました。
- * 患者に直接訴求する医療用医薬品の広告

バソプレシンV2-受容体拮抗剤「サムスカ」
日本では、常染色体優性多発性のう胞腎(ADPKD)に対する処方数が伸長し、治療経験のある患者が1万例を超えております。一方、心不全・肝硬変における体液貯留の効能においては、後発医薬品発売の影響を受け大幅減収となりました。低ナトリウム血症の治療薬として販売する米国でも、後発医薬品発売の影響を受け大幅減収となりました。これらの結果、売上収益は同45.1%減の482億30百万円となりました。
バソプレシンV2-受容体拮抗剤「ジンアーク」
米国では、ADPKD治療薬として、継続的な疾患啓発や臨床データの情報提供活動等により処方数が伸長し、為替影響もあり大幅増収となりました。これらの結果、売上収益は同31.7%増の1,835億41百万円となりました。

抗悪性腫瘍剤「ロンサーフ」
米国では、2023年8月に大腸がんにおけるベバシズマブ併用療法の適応追加が承認され、NCCNガイドライン*による併用療法の推奨並びに為替の影響もあり大幅増収となりました。欧州においては、処方数の伸長や為替の影響があり、売上収益は増加しました。また、同年7月に同併用療法が承認されました。日本では、論文掲載等による同併用療法の認知向上に伴い、売上は堅調に推移しています。これらの結果、売上収益は同39.3%増の801億5百万円となりました。
- * 世界的に広く利用されているがん診療ガイドライン


日々の健康の維持・増進をサポートする機能性飲料・機能性食品等を中心に事業を展開しています。医薬品事業で培われたノウハウを活かし、科学的根拠に基づいた独創的な製品開発に取り組んでいます。
機能性飲料・機能性食品 等
Functional beverages and
foods
健粧品(コスメディクス)*
Cosmedics
OTC医薬品・医薬部外品
OTC products and
quasi-drugs
- *健粧品:cosmetics(化粧品)+medicine(医薬品)の造語
売上収益構成比 %
ニュートラルシューティカルズ関連事業は、当連結会計年度における売上収益は機能性飲料等とサプリメントが大きく貢献し4,834億63百万円(前期比10.6%増)、事業利益は596億52百万円(同10.1%増)となりました。


◆主要・育成3ブランド
当社グループが主要3ブランドと位置付ける「ポカリスエット」、「ネイチャーメイド」、ニュートリション エ サンテ社ブランドの売上収益の合計は、前期比14.8%増の3,129億98百万円となりました。育成3ブランドと位置付けるデイヤフーズ社ブランド、「エクエル」、「ボディメンテ」の売上収益の合計は、同2.3%減の278億51百万円となりました。
主要3ブランド
水分・電解質補給飲料「ポカリスエット」は、日本では、水分・電解質補給の啓発活動の継続、スポーツイベントや温浴施設でのブランド接点や飲用体験の増加等もあり、販売数量は伸長しています。海外では、各地の文化や状況に応じた啓発により水分・電解質補給の重要性が浸透している中、長年の取り組みを通じてブランドイメージを構築したことにより、販売数量が伸長しています。

ファーマバイト社のサプリメント「ネイチャーメイド」は、ブランドや品質に対する高い信頼性を背景に、ソーシャルメディアでのマーケティング活動や為替の影響もあり増収となりました。

欧州を中心に健康食品を展開するニュートリション エ サンテ社ブランドは、フードサービス*やEコマースの拡大を進めています。事業再編の影響により減収となりましたが、「Gerblé」等の主力製品の成長や為替の影響等により、日本円ベースでは増収となりました。
- * 公共機関や学校等における給食サービス

育成3ブランド
プラントベース(植物由来)食品であるデイヤフーズ社ブランドは、北米の乳代替チーズ市場の競合環境激化等の影響により減収となりましたが、独自技術を活かした製品ラインアップの拡充及び流通拡大に取り組んでいます。

女性の健康と美をサポートするエクオール含有食品「エクエル」は、日本では女性の健康に関するセミナーの開催等、幅広い情報提供活動により製品の認知が進み、売上収益は順調に増加しています。
植物由来の乳酸菌B240*を含有する「ボディメンテ」は減収となりましたが、コアユーザーの育成や製品認知の向上と利用拡大に取り組んでいます。
- * Lactiplantibacillus pentosus ONRICb0240:東京農業大学が単離、大塚製薬㈱が有効性を確認した乳酸菌


1968年に世界初の市販用レトルトカレー「ボンカレー」を発売以来、時代に先駆けた製品開発に取り組み、「美味・安全・安心・健康」をテーマに、消費者の皆様に身近な食品・飲料の分野で事業を展開しています。
飲 料
Beverages
食 品
Foods
酒 類
Wine
売上収益構成比 %
消費者関連事業は、当連結会計年度における売上収益は370億81百万円(前期比3.3%増)、事業利益は持分法投資利益の増加等により178億23百万円(同149.8%増)となりました。


主力製品の「ボンカレー」は、2023年には発売55周年を迎え、世界最長寿のレトルトカレーブランドとして、ギネス世界記録™(最長寿のレトルトカレーブランド 対象年度2022年)に認定されました。ビタミン炭酸飲料「マッチ」は、既存品のユーザー拡大に加え、2023年3月に発売した「マッチ 塩レモンソーダ」と同年10月に発売した「マッチ ビタミンみかん」の好調を受け、販売数量が伸長しました。「クリスタルガイザー」は、軽量ボトル・軽量キャップ、50%リサイクルペットボトルによる環境への取り組みを発信したブランド価値の訴求等に取り組んでいます。

自動車・電気電子・建材分野において各種素材を提供する化学品事業、グループの医薬品・食品・飲料を中心に「環境にやさしい」物流を目指す倉庫・運送事業、先端の科学技術の発展を支える電子機器事業など多角的に事業を展開しています。
機能化学品
Chemicals
ファインケミカル
Fine chemicals
倉庫・運送
Warehousing and
distribution
包 装
Packaging
電子機器
Electronic equipments
売上収益構成比 %
その他の事業は、当連結会計年度における売上収益は1,763億95百万円(前期比4.2%増)、事業利益は77億17百万円(同14.7%減)となりました。


機能化学品分野は、半導体市場の回復遅れや中国の市場停滞もありましたが、売上収益は前期並に推移しています。ファインケミカル分野は、抗生剤中間体の販売増加等により、増収となりました。
倉庫・運送分野は、物流のデータ連携によるトータルヘルスケア物流プラットフォーム強化により、新規の外部顧客の獲得及び取扱数量が堅調に推移している一方、国際輸送の運賃単価の下落があり、売上収益は微減となりました。
研究開発の状況
当連結会計年度における当社グループの研究開発費は3,078億4百万円です。
うち、医療関連事業においては2,920億28百万円、ニュートラシューティカルズ関連事業においては98億74百万円、消費者関連事業においては6億63百万円、その他の事業においては52億38百万円です。
開発品目一覧(2023年12月31日現在)
第Ⅲ相臨床試験段階(フェーズⅢ)以降
当社グループは、精神・神経領域、がん・がんサポーティブケア領域を重点領域とし、循環器・腎領域等においても未充足疾患に焦点を当てた研究開発を進めています。

主な進捗状況(2023年12月31日現在)
第Ⅱ相臨床試験段階(フェーズⅡ)以降

設備投資の状況
当連結会計年度におけるのれん及び無形資産の取得を含む設備投資額は2,109億88百万円となりました。これらの資金調達につきましては、自己資金及び借入金にて充当いたしました。
医療関連事業における設備投資額は822億91百万円、ニュートラシューティカルズ関連事業の設備投資額は1,053億97百万円、消費者関連事業においては36億11百万円、その他の事業においては72億36百万円、全社(共通)においては124億51百万円となっております。
なお、ニュートラシューティカルズ関連事業の設備投資額にはファーマバイト社によるボナファイドヘルス社の取得が含まれております。
他の会社の株式その他の持分又は新株予約権等の取得又は処分の状況
2023年11月30日に、当社の連結子会社であるファーマバイト社が、ボナファイドヘルス社の全株式を取得し、100%子会社といたしました。
対処すべき課題
2023年度を最終年度とした第3次中期経営計画期間には、新型コロナウイルス感染拡大の影響とロシア・ウクライナや中東情勢に伴う地政学的リスクの高まりにより、社会情勢は一層不透明さを増し、当社グループの事業活動においても一定の影響を受けました。2023年は、コロナ禍で自粛されていた社会活動が再開されたことに伴い、新たな事業環境に対応するマーケティング活動や営業活動等を積極的に進めてまいりました。一方で、原材料価格の高騰、為替変動による物価上昇等にも対処してまいりました。
根本的なヘルスケア業界を取り巻く事業環境は、高齢化、高額医薬品の発売、感染症対策等による医療費の増加傾向が続き、日米欧諸国において治療に対する医療コストへの関心が高まっております。限られた財源の中で、医療指針が医療コストと治療効果のバランスの中で捉えられ、薬価制度の改革やジェネリック医薬品の浸透が進む一方、AI、機械学習や遺伝子治療等の新テクノロジーが台頭してきています。このような中、病気に対する日々の予防を含む健康への意識が一段と高まりを見せております。当社グループは“大塚だからできる”新たな社会への貢献に引き続き取り組むとともに、これらの健康意識の高まりを成長機会と捉え、持続的成長の実現に向けて進んでまいります。
当社グループは、“Otsuka-people creating new products for better health worldwide”の企業理念のもと、「流汗悟道」「実証」「創造性」という経営の真髄に基づき、ユニークかつ多様な事業と、世の中の真のニーズ・インサイト、サイエンスやテクノロジーを有機的に結合させることから生まれる新しいコンセプトや、多様な事業との重なりや派生、ニッチな領域の開拓により新たな価値を創造してきました。日々の健康の維持・増進、疾病の診断から治療までを担うトータルヘルスケア企業として、顕在化しているが満たされないニーズと消費者が気づいていないニーズに対し、医療関連事業とニュートラシューティカルズ関連事業の独創的な製品を提供することにより、「世界の人々の健康に貢献する、なくてはならない企業」を目指してまいります。
現在、2024年度から2028年度までを対象期間とする第4次中期経営計画の策定を進めており、2024年6月7日に公表を予定しております。
第3次中期経営計画の位置付けと主な施策
第3次中期経営計画では、「独自のトータルヘルスケア企業として世界に躍進~成長の5年間~」と位置付け、医療関連事業とニュートラシューティカルズ関連事業をコア事業として、「新たな価値創造」と「既存事業価値の最大化」に取り組み、また「資本コストを意識した経営」を実践し持続的な成長を目指しました。
業績目標年平均成長率10%以上の事業利益成長
医療関連事業、ニュートラシューティカルズ関連事業の製品・ブランドの着実な成長により、年平均成長率10%以上の事業利益成長を目指します。
事業戦略既存事業価値の最大化と新たな価値創造
主力製品・ブランドへの戦略的な取り組みにより成長を加速
医療関連事業においてはグローバル4製品、ニュートラシューティカルズ関連事業においては主要3ブランドと育成3ブランドを成長ドライバーと位置付け、戦略的な取り組みを強化します。
次世代の事業・製品への取り組み
医療関連事業では、既存事業価値の最大化、“大塚だからできる”新領域での挑戦、未充足な医療ニーズへの対応と独創的かつ多様な研究基盤からのイノベーション創出に取り組みます。ニュートラシューティカルズ関連事業では、環境変化を見据えた新しいコンセプトの創出、新カテゴリー、新エリア展開へ挑戦します。
財務方針資本コストを意識した経営の実践
将来への成長投資と安定した株主還元の両立に取り組むとともに、「規律ある経営実践」を実施することで、加速するグローバル展開を支えるための経営基盤を整備します。
2023年度の進捗
- 医療関連事業において、成長ドライバーのグローバル4製品の大幅な成長が貢献し、売上収益は第3次中期経営計画の目標を大きく超えて達成しました。アンメット・ニーズの解決に貢献する後期開発パイプラインの中で、レキサルティは、米国においてアルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの適応症を有する初めての抗精神病薬として承認を取得しました。超音波腎デナベーションシステムは、米国において高血圧の新たな治療選択肢として、腎デナベーションデバイスとして初めて承認を取得しました。新製品育成についても着実に進捗しております。
- ニュートラシューティカルズ関連事業において、ポカリスエットやサプリメントが貢献し、売上収益は第3次中期経営計画の目標を達成しました。事業利益率も12%以上を維持し、前期に続き、売上収益、事業利益ともに過去最高となりました。引き続き、高成長市場においてブランドを確立することにより、さらなる事業規模の拡大と収益性の向上を目指します。
- 事業利益は、想定以上の売上成長と販売費及び一般管理費を適正にコントロールした結果、パテントクリフや社会環境の変化による影響を乗り越え過去最高となり、第3次中期経営計画の目標である年平均成長率10%以上を大きく超えて、20%強の高水準を達成しました。