事業報告
事業の経過および成果
当期の経過および成果
当期の国内における景況感は、雇用・所得環境の改善を背景に、緩やかな回復基調で推移したものの、10月以降は消費税増税や台風などの自然災害影響等により、個人消費は先行き不透明な状況が続きました。国内化粧品市場は、消費税増税前の駆け込み需要や増税後の反動はあったものの、増加傾向が続く訪日外国人によるインバウンド需要もあり、全体として緩やかな回復基調が継続しました。海外化粧品市場は、国によりばらつきがみられる欧州は弱い成長にとどまり、メイクアップ市場のマイナス成長が続いた米州も低調に推移しました。一方、中国を含むアジアでは、香港などでの厳しい市場環境による影響があったものの、全体としては堅調に成長しました。
資生堂グループは2015年に、100年先も輝き続ける企業となるため中長期戦略VISION 2020をスタートさせました。日本発のグローバルビューティーカンパニーとして競争に勝ち抜くため、すべての活動を生活者起点とし、グローバルでブランド価値向上に取り組んでいます。
当期は、VISION 2020の第2フェーズである後半3カ年の2年目であり、成長加速のための新戦略の実行に取り組みました。成長をけん引するプレステージブランドやメイド・イン・ジャパンのコスメティクス・パーソナルケアブランドにマーケティング投資を集中するとともに、デジタルマーケティングやイノベーション創出への投資強化も進めました。加えて、課題であるサプライチェーンの基盤構築、米州・欧州の収益性向上に取り組みました。
この結果、当期の売上高、営業利益、親会社株主に帰属する当期純利益において、過去最高を更新しました。売上高は、戦略的に投資強化を続けているプレステージ領域が全体をけん引し、現地通貨ベースで前期比5.7%増となりました。前期のアメニティグッズ事業の撤退影響や当期の米国会計基準ASC第606号適用影響および米国スキンケアブランド「Drunk Elephant」買収影響等を除く実質ベースでは、前期比6.8%増となりました。円換算後では、前期比3.4%増の1兆1,315億円となりました。
営業利益は、マーケティングや研究開発、人材への投資を強化した一方、売上増に伴う差益増などにより、前期比5.1%増の1,138億円となりました。
親会社株主に帰属する当期純利益は、営業利益の増加に加え、税金費用の減少などにより、前期比19.8%増の736億円となりました。
当期の連結売上高営業利益率は10.1%、連結ROE(自己資本当期純利益率)は15.6%、連結ROIC(投下資本利益率)は12.9%となりました。当期における財務諸表項目(収益および費用)の主な為替換算レートは、1ドル=109.1円、1ユーロ=122.1円、1中国元=15.8円です。
連結業績




報告セグメント別売上高増減

※1 各事業の前期比は、実勢の為替レートベースにて算出。
※2 「為替影響等」には、為替影響△261億円、2019年の米州における米国会計基準(ASC第606号)の適用影響、日本における2019年の皮膚用薬ブランド「フェルゼア」、「エンクロン」の撤退影響が含まれます。
報告セグメント別営業利益または損失

(注)
1. 当社グループの米国会計基準適用子会社は、当期の連結財務諸表からASC第606号「顧客との契約から生じる収益」を適用しています。本基準を適用する対象子会社は、米国において非公開企業であるため、米国基準で定められている当期の連結財務諸表からの適用としています。本基準により、従来、販売費および一般管理費として処理していた顧客に対する一部の支払いを、当期より、売上高から控除しています。また、従来、販売費および一般管理費として処理していた一部費用を売上原価および棚卸資産に計上しています。本基準の適用にあたっては、経過措置として認められている本基準適用の影響を適用開始日に認識する方法を採用しており、比較年度の修正は行っていません。
2. 当期より、当社グループ内の経営管理体制に合わせ、報告セグメントの区分方法を見直しています。従来「プロフェッショナル事業」に計上していた資生堂美容室株式会社および「日本事業」に計上していた資生堂アステック株式会社と花椿ファクトリー株式会社は、いずれも「その他」へ計上しています。なお、前期のセグメント情報については、変更後の区分方法により作成したものを記載しています。
3. 「その他」は、本社機能部門、株式会社イプサ、資生堂美容室株式会社、生産事業、フロンティアサイエンス事業および飲食業などを含んでいます。
4. 営業利益または損失における売上比は、セグメント間の内部売上高または振替高を含めた売上高に対する比率です。
5. 営業利益または損失の調整額は、主にセグメント間の取引消去の金額です。
事業別の取り組み
安定した収益力によりグループをけん引
(単位:)
日本事業は、持続的な成長に向けて、当社が強みを持つスキンケア、ベースメイク、サンケアの“肌3分野”に引き続き注力しました。「SHISEIDO」では、美容液「アルティミューン」やファンデーションが好調に推移し、売上が大きく伸長しました。また、素肌までキレイにする薬用スキンケア効果と美しい仕上がりを両立させる“薬用 ケアハイブリッドファンデ”を発売した「HAKU」や「dプログラム」が成長しました。加えて、アジア全域でのクロスボーダーマーケティングの強化により、拡大する訪日外国人のインバウンド需要を確実に獲得しました。また、消費税増税前の駆け込み需要はあったものの、増税後の消費マインドの弱さの影響に加え、天候不順の影響を受けました。
以上のことから、売上高は前期比0.6%減の4,516億円となりました。前期のアメニティグッズ事業の撤退影響等を除いた実質ベースでは前期比0.7%増となりました。営業利益は、売上減に伴う差益減や投資強化などにより、前期比0.3%減の911億円となりました。

“メイド・イン・ジャパン”ブランドにより売上・利益成長を加速
(単位:)
中国事業では、「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「イプサ」、「NARS」などのプレステージブランドが高成長を持続したことに加え、コスメティクスブランドでは“メイド・イン・ジャパン”ブランドである「エリクシール」や「アネッサ」が大きく伸長しました。Eコマースは、プレステージやコスメティクスの商品を積極展開したことに加え、デジタルを活用したマーケティングの展開や、中国のネット通販大手との協業の強化などにより、大きく成長しました。2019年後半は、香港での厳しい市場環境による影響があったものの、中国本土では高い消費者需要が続きました。
以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比19.0%増、円換算後では前期比13.3%増の2,162億円となりました。営業利益は、デジタルマーケティング投資を強化した一方、売上増に伴う差益増などにより、前期比19.2%増の292億円となりました。

プレステージブランドの好調持続、東南アジアで成長拡大
(単位:)
アジアパシフィック事業では、不透明な経済環境の中で、プレステージブランドの「LAURA MERCIER」や「クレ・ド・ポー ボーテ」が好調を継続したことに加え、「エリクシール」、「アネッサ」、フレグランスブランドの「Dolce&Gabbana」が大きく伸長しました。韓国は市場環境の変化を受け厳しい状況となったものの、東南アジア地域では、直営店展開の拡大やマーケティング投資の強化を進め、好調に推移しました。
以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比5.8%増、円換算後では前期比2.5%増の698億円となりました。営業利益は、売上増に伴う差益増があった一方、マーケティング投資の強化などにより、前期比4.9%減の74億円となりました。

厳しい市況の中、収益性改善に向けた取り組み強化
(単位:)
米州事業では、厳しい市場環境の中、「SHISEIDO」や「Dolce&Gabbana」が成長を継続しました。「bareMinerals」では、収益性が低い直営店の閉鎖など構造改革を引き続き進めました。また、2019年11月に米国市場を中心に急成長しているスキンケアブランド「Drunk Elephant」を買収しました。グローバルで需要拡大が見込める米国発の同ブランドを加えることにより、主力であるプレステージ・スキンケア事業にさらに注力し、発展させるとともに、米州事業の収益基盤を強化します。
以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比3.9%減、米国会計基準ASC第606号適用影響および「Drunk Elephant」買収影響を除く実質ベースでは、前期比0.3%減となりました。円換算後では前期比5.6%減の1,243億円となりました。構造改革費用の減少などにより、営業損失は前期に対し34億円改善の114億円となりました。米州事業を機能別に分けると、米州における販売事業、グローバルで展開するメイクアップのブランドホルダー機能、メイクアップ、デジタル、テクノロジーの価値創造の拠点となる“センター・オブ・エクセレンス”※機能を持ち、このグローバル機能の戦略的投資も負担しています。販売事業では1桁後半の営業利益率となり、当期よりブランドホルダーコストを吸収して、収益化を実現しました。今後は「bareMinerals」の構造改革や「Drunk Elephant」の育成を進め、収益性を一層改善していきます。
※センター・オブ・エクセレンス(CoE):スキンケアは日本、メイクアップとデジタルは米州、フレグランスは欧州といった、各カテゴリーにおいてグローバルで最先端の地域が、当社グループのグローバルな戦略立案・商品開発をリードする体制のことです。
米州事業の収益構造(「Drunk Elephant」を除く)


成長拡大、着実な収益改善へ
(単位:)
欧州事業では、新製品が好調に推移した「Dolce&Gabbana」や「narciso rodriguez」などのフレグランスブランドが伸長しました。「SHISEIDO」はメイクアップ商品が好調に推移したほか、「NARS」も成長を継続しました。「クレ・ド・ポー ボーテ」は10月にイギリスのロンドンに出店し、今後も欧州での展開を強化していきます。
以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比11.8%増、円換算後では前期比4.6%増の1,184億円となりました。売上増に伴う差益増などにより、営業損失は前期に対し58億円減の22億円と大きく改善しました。欧州事業を機能別に分けると、欧州における販売事業、フレグランスのブランドホルダー機能、フレグランスの“センター・オブ・エクセレンス”機能を持ち、このグローバル機能の戦略的投資も負担しています。販売事業では2桁の営業利益率となり、当期はブランドホルダーコストを吸収してブレークイーブンの水準まで改善することができました。今後は、フレグランスに加え、スキンケアの展開を加速しながら売上を拡大することで収益性を一層改善していきます。
欧州事業の収益構造


アジアが高成長をけん引、高収益率を継続
(単位:)
トラベルリテール事業(空港免税店等での化粧品・フレグランスの販売)は、旅行者の増加に伴いアジアを中心に市場が拡大しています。当社は同事業について成長余地が大きいことから、グローバルプレステージ領域でのポジションを一層強化することをねらいに、最重要事業の一つとして積極的に取り組んでいます。
当期は、世界各地の空港での広告宣伝など積極的なマーケティング投資の効果により、韓国、中国、タイなどアジアを中心に「SHISEIDO」、「クレ・ド・ポー ボーテ」、「NARS」、「アネッサ」が前年を大きく上回る伸長を継続しました。また、成長加速に向け、「イプサ」や「エリクシール」の導入拡大や戦略的な店頭カウンター強化に取り組みました。
以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比19.4%増、円換算後では前期比16.6%増の1,022億円となりました。営業利益は、売上増に伴う差益増などにより、前期比25.5%増の221億円となりました。

中国・アジアの成長加速
(単位:)
プロフェッショナル事業は、ヘアサロン向けのヘアケア、スタイリング剤、ヘアカラー剤やパーマ剤などの技術商材を販売しています。当期は、商品やマーケティングの強化に取り組み、中国で大きく成長したほか、マレーシアやシンガポールなども好調に推移しました。
以上のことから、売上高は現地通貨ベースで前期比6.0%増、円換算後では前期比3.8%増の147億円となりました。営業利益は、マーケティング投資の強化などにより、前期比15.9%減の3億円となりました。

資本政策
資本政策の基本方針(2019年12月31日現在)
当社は持続的成長に向けて、必要と判断されるタイミングで迅速・果断に投資を行うため株主資本の水準保持に努めます。そのうえで、フリーキャッシュフローやキャッシュコンバージョンサイクルを重視して、キャッシュ・フローとバランスシートのマネジメントの強化により、資本効率を意識した経営を実践します。
資金調達に関しては、有利な条件で調達が可能となる格付シングルAレベルを維持すべく、デット・エクイティ・レシオ0.3、EBITDA有利子負債倍率1.0倍を目安としながら、市場環境などを勘案して最適な方法でタイムリーに実施します。ただし、今後の収益力およびキャッシュ・フロー創出力を考慮したうえで、上記指標は株主還元方針と併せて、さらなる資本効率の向上に資する最適資本構成になるよう、適宜見直します。
株主のみなさまへの利益還元については、直接的な利益還元と中長期的な株価上昇による“株式トータルリターンの実現”を目指しています。この考え方に基づき、持続的な成長のための戦略投資を最優先とし、企業価値の最大化を目指す一方で、資本コストを意識しながら投下資本効率を高め、中長期的に配当の増加と株価上昇につなげていくことを基本方針としています。
配当金の決定にあたっては、連結業績、フリーキャッシュフローの状況を重視し、資本政策を反映する指標の一つとして自己資本配当率(DOE)2.5%以上を目安とした長期安定的かつ継続的な還元拡充を実現します。なお、自己株式取得については、市場環境を踏まえ、機動的に行う方針としています。
利益還元の状況の推移

(注)第120期(当期)の1株当たり年間配当額および年間配当額は、2020年3月25日開催予定の定時株主総会の第1号議案(剰余金の配当の件)が原案どおり可決されることを前提とした金額です。