事業報告(2021年4月1日から2022年3月31日まで)

事業の経過及びその成果

当期の我が国経済は、海外経済の回復に伴う輸出の増加などを背景に、持ち直しの動きが見られました。海外経済は、米国での個人消費や設備投資の増加、欧州での個人消費の回復など、持ち直しの動きが続いたものの、中国においてインフラ投資が減退したことや、新型コロナウイルス感染症の再拡大などの影響により、全体としては回復ペースが鈍化しました。また、原材料及びエネルギー価格の高騰が長期化したことに加え、世界的な半導体不足や東南アジアでの感染症拡大などに伴う部品供給不足により、自動車減産の影響が拡大するなど、当社を取り巻く事業環境は厳しい状況が続きました。

このような中、当社は引き続きコスト削減をはじめとする収益改善や安定生産に取り組むとともに、販売価格の改善に努めてまいりました。

この結果、当期の売上高は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた前期に比べ3,770億円増収の2兆825億円となり、営業利益は前期に比べ572億円増益の876億円、経常利益は前期に比べ770億円増益の932億円となりました。特別損失として投資有価証券売却損92億円を計上し、親会社株主に帰属する当期純利益は前期に比べ368億円増益の600億円となりました。

当社は、配当につきましては、継続的かつ安定的に実施していくことを基本としつつ、財政状態、業績の動向、先行きの資金需要等を総合的に考慮して決定することとしております。これに基づき当期の期末配当につきましては、1株につき30円とすることを決議いたしました。これにより年間の配当は、先にお支払いいたしました中間配当と合わせて、1株につき40円となります。

事業別の事業の経過及びその成果

当社グループの事業別の事業の経過及びその成果は次のとおりであります。

鉄鋼アルミ

売上高
前期比 %増
経常損益 375
前期比
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %
  • (注)粗鋼には高砂製作所の電炉の生産数量を含めております。

(鉄鋼)

鋼材の販売数量は、自動車及び建築向けを中心に前期を上回りました。販売価格は、鋼材市況上昇の反映や原料価格上昇分の転嫁などにより、前期を上回りました。

この結果、売上高は、前期比33.2%増の7,510億円となりました。経常損益は、原料価格上昇分の販売価格への転嫁時期のずれによる減益要因がある一方、販売数量の増加や原料価格の上昇に伴う在庫評価影響の改善などにより、前期に比べ579億円改善の346億円の利益となりました。

(アルミ板)

アルミ板の販売数量は、飲料用缶材向けの拡販に加え、自動車向け需要の増加及び拡販により、前期を上回りました。

この結果、売上高は、前期比23.7%増の1,638億円となりました。経常利益は、販売数量の増加に加え、在庫評価影響による損益が前期に比べて改善したこともあり、前期に比べ22億円増益の28億円となりました。

鉄鋼アルミ全体では、売上高は、前期比31.4%増の9,149億円となり、経常損益は、前期に比べ601億円改善の375億円の利益となりました。

素形材

売上高
前期比 %増
経常損益 51
前期比
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

素形材の販売数量は、自動車及びIT・半導体向けを中心に、前期を上回りました。

この結果、売上高は、前期比39.9%増の3,332億円となりました。経常損益は、販売数量の増加に加え、銅市況の上昇に伴う在庫評価影響の改善などもあり、前期に比べ173億円改善の51億円の利益となりました。

溶接

売上高
前期比 %増
経常損益 27
前期比 57.0 %増
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

溶接材料の販売数量は、国内では建築鉄骨向けを中心に、前期を上回りました。海外では東南アジアにおける自動車及び建設機械向け需要が回復したことなどにより、前期を上回りました。

この結果、売上高は、前期比9.9%増の769億円となり、経常利益は、前期に比べ10億円増益の27億円となりました。

機械

売上高
前期比 %減
経常損益 125
前期比 9.6 %増
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

受注高は、設備投資の回復などにより、前期比55.2%増の2,066億円となり、受注残高は1,570億円となりました。※

売上高は、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い前期の受注が低調であったため、前期比4.8%減の1,668億円となり、経常利益は、サービス案件の増加や案件構成の変化に伴う利益率の改善により、前期に比べ10億円増益の125億円となりました。

※受注高について、従来は当社及び主要な連結子会社の受注高を集計しておりましたが、当期より当社及び全ての連結子会社の受注高を集計する方法に変更しております。これに伴い、前期の受注高も再集計し、比較しております。

エンジニアリング

売上高
前期比 %減
経常損益 77
前期比 74.5 %増
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

受注高は、還元鉄関連事業や廃棄物処理関連事業において複数の大型案件を受注したことなどにより、前期比83.8%増の2,085億円となり、受注残高は3,430億円となりました。

また、売上高は、前期並の1,356億円となる一方、経常利益は、前期に新型コロナウイルス感染症の影響を受けた海外案件の進捗が改善したことや案件構成の変化に伴う利益率の改善などにより、前期に比べ33億円増益の77億円となりました。

建設機械

売上高
前期比 %増
経常損益 120
前期比 5.4 %減
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

油圧ショベルの販売台数は、インフラ投資が減退した中国で需要減が見られるものの、東南アジア、欧州を中心にインフラ投資の拡大を受けて需要が回復したことから、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた前期を上回りました。一方、クローラクレーンの販売台数は、エンジン認証問題の影響を受けた北米で減少したものの、インドや欧州の需要回復などにより前期並となりました。

この結果、売上高は、前期比11.5%増の3,716億円となりました。経常利益は、為替相場がドル、ユーロに対して円安となった影響があるものの、販売構成の悪化や調達コストの増加などにより、前期に比べ6億円減益の120億円となりました。

電力

売上高
前期比 %増
経常損益 132
前期比 35.8 %減
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

販売電力量は、真岡発電所における法定点検の実施に伴う稼働日数差や、前期においては電力需給ひっ迫対応による増益影響があったことなどから、前期を下回りました。電力単価は発電用石炭価格の上昇の影響を受け、前期を上回りました。

この結果、売上高は、前期比36.6%増の1,098億円となりました。経常利益は、販売電力量減少の影響などにより、前期に比べ74億円減益の132億円となりました。

その他

売上高
前期比 %増
経常損益 70
前期比 66.6 %増
詳細はこちらを閉じる
売上高構成比 %

売上高は、前期比3.6%増の288億円となり、経常利益は、前期に比べ28億円増益の70億円となりました。

(注)1.
受注高・受注残高には、当社グループ間での受注の額を含んでおります。
(注)2.
当社グループの売上高には、調整額△553億円を含んでおります。なお、売上高構成比は、調整額を除いた各事業の売上高の合計をもとに算出しております。

対処すべき課題等

<当社グループを取り巻く事業環境>

当社グループを取り巻く事業環境は、足下の地政学リスクに関する変化はあるものの、中長期の事業環境を見据えると、コロナ禍を契機とした産業構造の変化に加え、カーボンニュートラルの実現に向けた社会変革、さらに、DXの進展等が予想されることに変わりはなく、いずれも、事業構造変革と新たな収益獲得の機会として、積極的に取り組んでいく必要があります。

<KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)>

2021年5月公表の新たな中期経営計画では、当社グループの重要な課題、当社グループを取り巻く事業環境を踏まえ、「安定収益基盤の確立」、「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題といたしました。

加えて、これらを実現するための、経営体制の見直しや、多様な人材の活躍推進など、経営基盤を強化する施策にも引き続き取り組んでまいります。

まず、この中期経営計画の期間を「素材系を中心とする収益力強化」などの取組みをさらに深化させ、当社グループとして「安定収益基盤を確立」する期間と位置付け、新規電力プロジェクトの立上げが完遂し、収益貢献がフルに寄与する2023年度にROIC(投下資本収益率)5%以上の収益レベルを確保し、さらに、将来の姿として、ROIC8%以上を安定的に確保し、持続的に成長する企業グループを目指します。

また、鉄鋼と電力事業における「カーボンニュートラルへの挑戦」は、多様な技術と人材を競争力の源泉として幅広い事業を営む当社グループの強みを活かし社会に貢献できる新たなビジネスチャンスと捉え、グループ一丸となって取り組んでまいります。

【安定収益基盤の確立】

2023年度にROIC5%以上の収益レベルを確保し、将来的にROIC8%以上を目指すための「安定収益基盤を確立」するために、中期経営計画で掲げた5つの重点施策、具体的には「鋼材事業の収益基盤強化」、「新規電力プロジェクトの円滑な立上げと安定稼働」、「素材系事業の戦略投資の収益貢献」、「不採算事業の再構築」、「機械系事業の収益安定化と成長市場への対応」に着実に取り組んでおります。加えて、原料・資材、エネルギー価格などの高騰を受けて、「調達コストアップ分の販売価格への転嫁」を早期かつ着実に実行してまいります。

鋼材事業の収益基盤強化については、長期的に鋼材内需が縮小していくとの想定のもと、加古川製鉄所の粗鋼生産量6.3百万トン前提での安定収益確保、さらに6.0百万トンでも黒字が確保できる体制の構築を目指しております。具体的には、固定費及び変動費の更なる削減、特殊鋼線材・ハイテン等高付加価値品へのシフト(品種構成改善)、海外事業の収益貢献に取り組んでおります。なお、カーボンニュートラルの実現を踏まえた将来の鋼材生産の上工程設備の在り方については、並行して検討を進めてまいります。

新規電力プロジェクトについては、予定通り2022年2月から神戸発電所3号機が営業運転を開始いたしました。2023年度からは、全ての発電所が稼働することにより400億円/年程度の収益貢献が期待できることから、引き続き円滑な立上げと安定稼働に取り組んでまいります。

自動車軽量化戦略推進の中で行ってきた素材系事業の戦略投資案件については、需要拡大時期の後ろ倒し、ものづくり力の課題等により収益化に時間を要しておりますが、引き続き材料承認取得、量産体制の確立を着実に進め、早期に収益に貢献するよう取り組んでまいります。

不採算事業の再構築については、需要環境や産業構造が変化する中で2019年度に固定資産減損を行った鋳鍛鋼事業、チタン事業及び国内外ともに競合が激化しているクレーン事業について、不採算品種からの撤退や要員削減などの合理化を予定通り進めており、早期黒字化を目指します。

機械系事業については、社会インフラ、水素・再生エネルギー関連、MIDREX®等のCO2削減をはじめとした環境貢献メニューの引き合いは増加傾向にあります。2021年11月に実施した(株)神鋼環境ソリューションの完全子会社化や、2022年1月に開始した三浦工業(株)によるコベルコ・コンプレッサ(株)の株式取得を伴う汎用圧縮機事業に関する資本業務提携などの効果を早期に発揮し、グループ内連携を促進しながら積極的に受注に取り組んでまいります。加えて、水素・再生エネルギー関連や廃棄物処理などの環境貢献メニューに関する当社独自技術の開発も推進してまいります。建設機械事業については、中国市場への依存度の高い従来の収益構造から早期に脱却を図り、他のエリアでの収益化に取り組んでまいります。また、建設業界の働き方変革等へのソリューションを提供する「コト」ビジネスの収益化、現場設置ノウハウの提供等の建設機械周辺ビジネスの事業化を進めてまいります。

調達コストアップ分の販売価格への転嫁については、原料・資材、エネルギー価格の高騰により、素材系事業、建設機械事業を中心に大幅な調達コストアップが生じております。引き続きコスト削減をはじめとする収益改善や安定生産に取り組むとともに、調達コストアップ分の販売価格への転嫁を早期かつ着実に実行することで、「安定収益基盤の確立」を進めてまいります。

【カーボンニュートラルへの挑戦】

カーボンニュートラルへの移行や社会変革はグローバルで明確な潮流となっておりますが、当社グループとしては、内部・外部環境において、リスクと機会、双方の要因を抱えている中、2050年のカーボンニュートラルへ挑戦し、その移行の中で企業価値の向上を図ることが目指すべき将来像と考えております。

リスクの最小化に対しては、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、当社独自技術の開発推進、外部の革新技術の活用等により、CO2削減に果敢に取り組んでまいります。機会の最大化には、MIDREX、自動車軽量化・電動化への素材供給等、CO2排出削減に貢献する多様なメニューと多様な技術の融合を可能にする強みを活かし、これらメニューの需要拡大をビジネスチャンスとしてしっかり捕捉してまいります。

当社グループとしては、まず、生産プロセスにおいて、2030年で2013年度比30~40%のCO2を削減し、2050年でのカーボンニュートラル実現に挑戦し、達成を目指してまいります。

特に、製鉄プロセスについては、既存技術(省エネ技術、スクラップ、AI操炉等)の追求と革新技術に加え、2021年2月に公表した当社独自技術である高炉でのMIDREX技術の活用により、業界をリードし、他社との差別化も図ってまいります。

また、当社グループの保有するMIDREX技術をはじめ、自動車軽量化・電動化に寄与する素材・部品供給など、多様な技術を通じて世界のカーボンニュートラルの実現に貢献し、そのCO2排出削減貢献量として、2030年で6,100万トン、2050年で1億トン以上を目指してまいります。

電力事業においては、神戸発電所の蒸気をもとにした周辺地域への熱・水素供給による地域全体でのエネルギー利用の高効率化、電力事業とエンジニアリング事業の連携によるバイオマス燃料(下水汚泥、食品残渣)の混焼、アンモニア混焼等の取組みを強化し、世界最先端の都市型石炭火力発電所として事業継続を目指してまいります。さらに、2050年に向けて、神戸の石炭火力発電所で、アンモニア混焼率拡大、アンモニア専焼に挑戦するとともに、真岡発電所では、カーボンニュートラル都市ガスの最大活用に取り組み、カーボンニュートラルの達成を目指してまいります。

【経営基盤領域の強化】

「安定収益基盤の確立」と「カーボンニュートラルへの挑戦」を実現するために、経営体制の見直しに加えて、DX戦略の推進や、多様な人材の活躍推進、「KOBELCO TQM」などの横串を通した活動を通じて、経営基盤強化にも継続的に取り組んでおります。

経営体制については、取締役会の構成・諮問機関の見直しによる取締役会のモニタリング機能の強化、委員会体系・執行役員制度の見直しや本社部門の組織改正による執行側の体制強化等の経営体制の見直しを2021年4月から実施しており、この体制のもと、着実に実効性の向上に取り組んでおります。

DX戦略の推進については、ICT・AI分野の技術開発・事業適用を強化・加速するため、2021年4月に「デジタルイノベーション技術センター」を新設するとともに、当社グループのDXに対する戦略を統括的に立案・実行する「DX戦略委員会」を設置しました。さらに、2021年12月にKOBELCOグループの「デジタルトランスフォーメーション戦略」を公表し、2022年1月には経済産業省が定めるDX認定制度に基づき、「DX認定事業者」としての認定を取得いたしました。今後もDXの取組みをより体系的、かつ戦略的に強化・加速してまいります。

また、多様な技術と同様に、当社グループの強みである素材系、機械系、電力事業の幅広い事業領域で有する多様な人材が、その能力を十分に発揮し、活躍できるよう、人事制度の変革、人材育成の強化、ダイバーシティ&インクルージョンの取組み(人材の多様性を認め、受け入れて活かすこと)、働き方変革を推進してまいります。

さらに、2018年度に活動を開始した「信頼回復プロジェクト」を2021年4月に「信頼向上プロジェクト」に再構築し、引き続き品質ガバナンスの向上と信頼向上に取り組んでおりますが、このプロジェクトにおける「KOBELCO TQM」活動を通じて、製品・サービスの品質だけでなく、業務・組織・安全管理を含むマネジメントといった企業活動における品質全般の向上に、引き続き取り組んでまいります。

【KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)】

当社グループは、当社グループが持つ「個性と技術を活かし合い、社会課題の解決に挑みつづける」ことで持続的に成長し続け、「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界」を実現することをグループ企業理念に掲げ、サステナビリティ経営の推進に取り組んでおりますが、より効果的に推進するため、様々な社会課題の中から、経営資源を重点的に投入する中長期的な重要課題(マテリアリティ)を特定しています。

KOBELCOグループ中期経営計画の取組みは、さらにその先を見据えた当社グループとして取り組むべき重要課題の解決につながるものであり、これらの課題に果敢に挑戦し続けることで、当社グループを取り巻くステークホルダーの皆様にとってかけがえのない存在でありつづけるとともに、企業価値の向上を当社グループは目指してまいります。

株主の皆様におかれましては、引き続きご指導とご鞭撻を賜わりますとともに、当社グループをご支援いただきたく、何卒よろしくお願い申しあげます。

財産及び損益の状況

連結計算書類