事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)
事業の経過及びその成果並びに対処すべき課題
事業の経過及びその成果




当期の我が国経済は、原材料・エネルギー価格の高騰や円安の進行などによる物価上昇が継続しましたが、経済活動の正常化が進み、個人消費や企業の生産活動を中心に持ち直しの傾向となりました。海外経済は、米国や欧州でインフレや金融引き締めの影響により経済活動が抑制されたことなどから、回復のペースが鈍化し、中国ではゼロコロナ政策に伴う活動制限などにより、本格的な回復には至らない状況となりました。また、半導体不足やサプライチェーンの混乱等の影響により、自動車生産の回復が遅れるなど、当社グループを取り巻く事業環境は厳しい状況が続きました。
このような中、当社はKOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)に掲げる「安定収益基盤の確立」に向けた重点施策を着実に実行するとともに、引き続きものづくり力の強化や販売価格の改善に努めてまいりました。
この結果、当期の売上高は、前期に比べ3,899億円増収の2兆4,725億円となり、営業利益は、鉄鋼メタルスプレッドが大幅に改善したものの、素材系事業や建設機械における販売数量の減少、固定費を中心としたコストの増加、在庫評価益の縮小などにより、前期に比べ12億円減益の863億円となりましたが、経常利益は、エンジン認証問題に関する補償金収入の増加などにより、前期に比べ136億円増益の1,068億円となりました。特別損益は、建設機械の中国事業における事業整理損や固定資産の減損損失を計上したことなどから87億円の損失となり、親会社株主に帰属する当期純利益は前期に比べ124億円増益の725億円となりました。
当社は、配当につきましては、継続的かつ安定的に実施していくことを基本としつつ、財政状態、業績の動向、先行きの資金需要等を総合的に考慮して決定することとしております。これに基づき当期の期末配当につきましては、1株につき25円とすることを決議いたしました。これにより年間の配当は、先にお支払いいたしました中間配当と合わせて、1株につき40円となります。
事業別の事業の経過及びその成果
当社グループの事業別の事業の経過及びその成果は次のとおりであります。

- (注)粗鋼には高砂製作所の電炉の生産数量を含めております。
(鉄鋼)
鋼材の販売数量は、自動車向けの需要が減少したことなどから、前期を下回りました。販売価格は、鋼材市況の上昇や原料価格上昇分の転嫁などにより、前期を上回りました。
この結果、売上高は、前期比21.1%増の9,097億円となりました。経常利益は、販売数量の減少や固定費を中心としたコストの増加、在庫評価益の縮小による減益要因がある一方、販売価格の改善が大幅に進展したことなどにより、前期に比べ144億円増益の490億円となりました。
(アルミ板)
アルミ板の販売数量は、飲料用缶材向けの需要の伸び悩みなどにより、前期を下回りました。販売価格は、販売価格に転嫁される地金価格が上昇したことなどにより、前期を上回りました。
この結果、売上高は、前期比19.3%増の1,954億円となりました。経常損益は、販売数量の減少や調達コスト上昇分の販売価格への転嫁遅れなどにより、前期に比べ99億円悪化の70億円の損失となりました。
鉄鋼アルミ全体では、売上高は、前期比20.8%増の1兆1,051億円となり、経常利益は、前期に比べ44億円増益の419億円となりました。

- (注)2022年3月31日付で(株)コベルコ マテリアル銅管等を連結の範囲から除外したことに伴い、当期の素形材において銅管の生産実績はありません。
素形材の販売数量は、造船向け需要を取り込んだ鋳鍛鋼や一般産業向け需要が回復したチタンで前期を上回りました。一方、自動車向けの需要が減少したことから、アルミ押出、銅板、鉄粉は前期を下回りました。
この結果、売上高は、前年度に銅管事業を譲渡した影響もあり、前期比16.7%減の2,777億円となり、経常利益は、固定費を中心としたコストの増加や、銅管事業における在庫評価益の剥落などにより、前期に比べ42億円減益の9億円となりました。
溶接材料の販売数量は、東南アジア向けの需要が減少したことから、前期を下回りました。販売価格は、調達コスト上昇分の転嫁などにより、前期を上回りました。
この結果、売上高は、前期比15.0%増の884億円となり、経常利益は、前期に比べ0億円増益の28億円となりました。

受注高は、石油化学やエネルギー分野を中心に堅調に推移したことから、前期比20.7%増の2,493億円となり、受注残高は2,147億円となりました。
売上高は、前期比12.0%増の1,869億円となり、経常利益は、売上高の増加や、堅調な需要を受けた受注採算の改善などにより、前期に比べ17億円増益の143億円となりました。

受注高は、還元鉄関連事業や廃棄物処理関連事業で複数の大型案件を受注した前期に比べ、24.4%減の1,575億円となり、受注残高は3,711億円となりました。
売上高は、前期比7.0%増の1,452億円となる一方、経常利益は、還元鉄関連事業を中心とした案件構成差などにより、前期に比べ35億円減益の41億円となりました。
油圧ショベルの販売台数は、インフラ投資の減退により需要が減少した中国での減少に加え、部品の調達不足影響を受けた日本や欧州、北米でも減少したことから、前期を下回りました。クローラクレーンの販売台数は、エンジン認証問題を受けた北米での減少により、前期を下回りました。販売価格は、調達コスト上昇分の転嫁や、為替相場がドル、ユーロに対して円安となった影響などにより、前期を上回りました。
この結果、売上高は、前期比2.7%増の3,817億円となり、経常利益は、販売台数の減少や、調達コスト上昇分の販売価格への転嫁遅れによる減益要因がある一方、円安による輸出採算の改善やエンジン認証問題に関する補償金収入の増加などにより、前期に比べ2億円増益の123億円となりました。
販売電力量は、神戸発電所3号機(2022年2月に営業運転開始)及び4号機(2023年2月に営業運転開始)の稼働により、前期を上回りました。電力単価は発電用石炭価格の上昇により、前期を上回りました。
この結果、売上高は、前期比195.2%増の3,243億円となり、経常利益は、神戸発電所3号機及び4号機の稼働などにより、前期に比べ113億円増益の245億円となりました。
売上高は、前期比4.5%減の275億円となり、経常利益は、前期に比べ7億円減益の63億円となりました。
- (注)1.
- 受注高・受注残高には、当社グループ間での受注の額を含んでおります。
- (注)2.
- 当社グループの売上高には、調整額△646億円を含んでおります。なお、売上高構成比は、調整額を除いた各事業の売上高の合計をもとに算出しております。
対処すべき課題等
<当社グループを取り巻く事業環境>
当社グループを取り巻く事業環境は、足下の地政学リスクに関する変化等はあるものの、中長期の事業環境を見据えると、コロナ禍を契機とした産業構造の変化に加え、カーボンニュートラルの実現に向けた社会変革、さらに、DXの進展等が予想されることに変わりはなく、いずれも、事業構造変革と新たな収益獲得の機会として、積極的に取り組んでいく必要があります。

<KOBELCOグループ中期経営計画(2021~2023年度)>
2021年5月公表の中期経営計画では、当社グループの重要な課題、当社グループを取り巻く事業環境を踏まえ、「安定収益基盤の確立」、「カーボンニュートラルへの挑戦」の2つを最重要課題といたしました。
加えて、これらを実現するための、経営体制の見直しや、多様な人材の活躍推進など、経営基盤を強化する施策にも引き続き取り組んでまいります。

まず、この中期経営計画の期間を「素材系を中心とする収益力強化」などの取組みを更に深化させ、当社グループとして「安定収益基盤を確立」する期間と位置付け、新規電力プロジェクトの立上げが完遂し、収益貢献がフルに寄与する2023年度にROIC(投下資本収益率)5%以上の収益レベルを確保し、さらに、将来の姿として、ROIC8%以上を安定的に確保し、持続的に成長する企業グループを目指します。
また、鉄鋼と電力事業における「カーボンニュートラルへの挑戦」は、多様な技術と人材を競争力の源泉として幅広い事業を営む当社グループの強みを活かし社会に貢献できる新たなビジネスチャンスと捉え、グループ一丸となって取り組んでまいります。
【安定収益基盤の確立】
2023年度にROIC5%以上の収益レベルを確保し、将来的にROIC8%以上を目指すための「安定収益基盤を確立」するために、中期経営計画で掲げた5つの重点施策、具体的には「鋼材事業の収益基盤強化」、「新規電力プロジェクトの円滑な立上げと安定稼働」、「素材系事業の戦略投資の収益貢献」、「不採算事業の再構築」、「機械系事業の収益安定化と成長市場への対応」に着実に取り組んでおります。また、原料・資材、エネルギー価格等の変動費だけでなく、人件費等固定費も含めてコストは上昇局面にあることから、コストアップ分の販売価格への転嫁を引き続き着実に実行してまいります。
鋼材事業の収益基盤強化については、長期的に鋼材内需が縮小していくとの想定のもと、加古川製鉄所の粗鋼生産量6.3百万トン前提での安定収益確保、さらに6.0百万トンでも黒字が確保できる体制の構築を目指しており、鉄鋼メタルスプレッドの改善に着実に取り組んでおります。引き続き、固定費及び変動費の更なる削減、特殊鋼線材・ハイテン等高付加価値品へのシフト(品種構成改善)、海外事業の収益貢献に取り組んでまいります。なお、カーボンニュートラルの実現を踏まえた将来の鋼材生産の上工程設備の在り方については、並行して検討を進めてまいります。
新規電力プロジェクトについては、予定どおり2022年2月から神戸発電所3号機が、さらに2023年2月から神戸発電所4号機が営業運転を開始いたしました。これにより、電力事業としては400億円/年程度の収益貢献が期待できることから、引き続き安定稼働に取り組んでまいります。
自動車軽量化戦略推進の中で行ってきた素材系事業の戦略投資案件については、アルミ系事業を中心に、需要拡大時期の後ろ倒し、ものづくり力の課題等に加えて、原料・資材、エネルギー価格等の変動費だけでなく、人件費等固定費も含めてコストは上昇局面にある中で、価格転嫁に遅れが生じたこと等により、収益力が大きく低下しております。コストアップ分の販売価格への転嫁を着実に進め、早期に収益に貢献するよう取り組んでまいります。
不採算事業の再構築については、需要環境や産業構造が変化している鋳鍛鋼事業、チタン事業及び国内外ともに競合が激化しているクレーン事業について、不採算品種からの撤退や要員削減等の合理化を予定どおり進め、黒字化を達成するとともに、一定の収益性を確保しました。
機械系事業については、社会インフラ、水素・再生エネルギー関連、MIDREX®等のCO₂削減をはじめとした環境貢献メニューの引き合いは増加傾向にあります。2021年11月に実施した(株)神鋼環境ソリューションの完全子会社化や、2022年1月に開始した三浦工業(株)によるコベルコ・コンプレッサ(株)の株式取得を伴う汎用圧縮機事業に関する資本業務提携などの効果を早期に発揮し、グループ内連携を促進しながら積極的に受注に取り組んでまいります。加えて、水素・再生エネルギー関連や廃棄物処理等の環境貢献メニューに関する当社独自技術の開発も推進してまいります。建設機械事業については、中国における市場環境の変化を踏まえ、グローバルな視点で最適な供給体制を目指すべく、グローバル生産・供給体制の再編を着実に実行し、収益安定化と生産コストの低減を進めてまいります。また、建設業界の働き方変革等へのソリューションを提供する「コト」ビジネスの収益化、現場設置ノウハウの提供等の建設機械周辺ビジネスの事業化も進めてまいります。
コストアップ分の販売価格への転嫁については、原料・資材、エネルギー価格の変動費だけでなく、人件費等固定費も含めてコストは上昇局面にあり、素材系事業、建設機械事業を中心に大幅なコストアップが生じております。引き続きコスト削減をはじめとする収益改善や安定生産に取り組むとともに、コストアップ分の販売価格への転嫁を着実に実行することで、「安定収益基盤の確立」を進めてまいります。
【カーボンニュートラルへの挑戦】
カーボンニュートラルへの移行や社会変革はグローバルで明確な潮流となっておりますが、当社グループとしては、内部・外部環境において、リスクと機会、双方の要因を抱えている中、2050年のカーボンニュートラルへ挑戦し、その移行の中で企業価値の向上を図ることが目指すべき将来像と考えております。
リスクの最小化に対しては、2050年のカーボンニュートラル達成に向け、当社独自技術の開発推進、外部の革新技術の活用等により、CO₂削減に果敢に取り組んでまいります。機会の最大化には、MIDREX®、自動車軽量化・電動化への素材供給等、CO₂排出削減に貢献する多様なメニューと多様な技術の融合を可能にする強みを活かし、これらメニューの需要拡大をビジネスチャンスとしてしっかり捕捉してまいります。

当社グループとしては、まず、生産プロセスにおいて、2030年で2013年度比30~40%のCO₂を削減し、2050年でのカーボンニュートラル実現に挑戦し、達成を目指してまいります。
特に、製鉄プロセスについては、既存技術(省エネ技術、スクラップ、AI操炉®等)の追求と革新技術に加え、2021年2月に公表した当社独自技術である高炉でのMIDREX®技術の活用により、業界をリードし、他社との差別化も図っており、2022年5月に公表した国内初の低CO₂高炉鋼材“Kobenable Steel”の販売も開始しております。今後は、グリーンスチールの更なる認知度向上と市場拡大に向けた取組みを推進してまいります。
また、2022年10月に世界初となる100%水素を還元剤とするMIDREX H2TM直接還元鉄プラントを受注するとともに、2023年3月には還元に利用する天然ガスを最大100%まで水素に置き換えることができるMIDREX FlexTM直接還元鉄プロセスが世界で初めて採用されるなど、当社グループの保有するMIDREX®技術をはじめ、自動車軽量化・電動化に寄与する素材・部品供給等、多様な技術を通じて世界のカーボンニュートラルの実現に貢献し、そのCO₂排出削減貢献量として、2030年で6,100万トン、2050年で1億トン以上を目指してまいります。
電力事業においては、神戸発電所の蒸気をもとにした周辺地域への熱・水素供給による地域全体でのエネルギー利用の高効率化、電力事業とエンジニアリング事業の連携によるバイオマス燃料(下水汚泥、食品残渣)の混焼の取組みを強化し、また、アンモニア混焼の取組みも実用化に向けた検討を進めてまいります。そして、2050年に向けて、神戸の石炭火力発電所で、アンモニア混焼率拡大、アンモニア専焼に挑戦するとともに、真岡発電所では、カーボンニュートラル都市ガスの最大活用に取り組み、カーボンニュートラルの達成を目指してまいります。
【経営基盤領域の強化】
「安定収益基盤の確立」と「カーボンニュートラルへの挑戦」を実現するために、経営体制の見直しに加えて、DX戦略の推進や、多様な人材の活躍推進、「KOBELCO TQM」等の横串を通した活動を通じて、経営基盤強化にも継続的に取り組んでおります。
経営体制については、取締役会の構成・諮問機関の見直しによる取締役会のモニタリング機能の強化、委員会体系・執行役員制度の見直しや本社部門の組織改正による執行側の体制強化等の経営体制の見直しを2021年4月から実施しており、この体制のもと、着実に実効性の向上に取り組んでおります。
DX戦略の推進については、ICT・AI分野の技術開発・事業適用を強化・加速するため、2021年4月に「デジタルイノベーション技術センター」を新設するとともに、当社グループのDXに対する戦略を統括的に立案・実行する「DX戦略委員会」を設置しました。また、2021年12月にKOBELCOグループの「デジタルトランスフォーメーション戦略」を公表し、2022年1月には経済産業省が定めるDX認定制度に基づき、「DX認定事業者」としての認定を取得いたしました。さらに、建設機械事業においては、2022年12月より重機の遠隔操作システムと、操縦履歴・遠隔重機データを活用することで、人・重機・現場を常時つなぎ、建設現場のDXを可能にする「K-DIVE®サービス」の提供を開始するとともに、2023年4月よりクレーン施工計画の策定支援アドインソフト「K-D2 PLANNER®」の一般販売も開始いたしました。今後もDXの取組みをより体系的、かつ戦略的に強化・加速してまいります。
また、多様な技術と同様に、当社グループの強みである素材系、機械系、電力事業の幅広い事業領域で有する多様な人材が、その能力を十分に発揮し、活躍できるよう、人事制度の変革、人材育成の強化、ダイバーシティ&インクルージョンの取組み(人材の多様性を認め、受け入れて活かすこと)、働き方変革を推進してまいります。
さらに、2018年度に活動を開始した「信頼回復プロジェクト」を2021年4月に「信頼向上プロジェクト」に再構築し、引き続き品質ガバナンスの向上と信頼向上に取り組んでおりますが、このプロジェクトにおける「KOBELCO TQM」活動を通じて、製品・サービスの品質だけでなく、業務・組織・マネジメントといった企業活動における品質全般の向上に、引き続き取り組んでまいります。
なお、2023年2月28日に公表のとおり、当社の監査等委員である取締役において、不適切な出張旅費の精算が判明したため、同日付で当該監査等委員である取締役1名が辞任いたしました。本件に関しては、同年3月30日に公表のとおり、監査等委員会において再発防止策を策定し、取締役会にて報告されておりますが、当社では、役員、顧問、従業員の経費支払い、精算ルールについても改めて周知徹底を行い、コンプライアンス活動推進に取り組んでまいります。
<KOBELCOグループのマテリアリティ(中長期的な重要課題)>
当社グループは、当社グループが持つ「個性と技術を活かし合い、社会課題の解決に挑みつづける。」ことで持続的に成長し続け、「安全・安心で豊かな暮らしの中で、今と未来の人々が夢や希望を叶えられる世界。」を実現することをグループ企業理念に掲げ、サステナビリティ経営の推進に取り組んでおりますが、より効果的に推進するため、様々な社会課題の中から、経営資源を重点的に投入する中長期的な重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
KOBELCOグループ中期経営計画の取組みは、さらにその先を見据えた当社グループとして取り組むべき重要課題の解決につながるものであり、これらの課題に果敢に挑戦し続けることで、当社グループを取り巻くステークホルダーの皆様にとってかけがえのない存在でありつづけるとともに、企業価値の向上を当社グループは目指してまいります。

株主の皆様におかれましては、引き続きご指導とご鞭撻を賜わりますとともに、当社グループをご支援いただきたく、何卒よろしくお願い申しあげます。