事業報告(2019年4月1日から2020年3月31日まで)

企業集団の現況

当事業年度の事業の状況

事業の経過及び成果

全般的概況

当期における世界経済は、米中貿易戦争が激化するも、先進国を中心に緩やかに景気拡大が継続してきましたが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞により、景気後退の動きが急速に進んでいます。また、ヒトやモノの移動制限によるサプライチェーンの寸断、都市封鎖等による工場の操業停止や事業拠点の休業など、新型コロナウイルスの感染拡大による企業活動へのマイナス影響が懸念されています。国内においても、インバウンド需要の減少、イベント等の中止、外食等の手控えなどにより国内消費が急速に落ち込んでいます。

情報通信分野においては、モバイル・ブロードバンド・サービスは質量ともに拡がりを見せ、データ通信量は急速に増加して、ネットワーク・インフラを逼迫させつつあります。それらの課題を解決するために、モバイル通信方式4Gは、LTE(Long Term Evolution)及びLTE-AdvancedそしてLTE-Advanced Pro(Gigabit LTE)と進化しました。加えて、次世代の通信方式5Gの仕様策定が3GPPで進行しています。2017年12月に5G NSA-NR(Non-Standalone New Radio)、2018年6月に5G SA-NR(Standalone New Radio)の標準化が完了し、5Gの超高速通信に関する主要機能の全仕様が規定されました。3GPPでは引き続き、ユースケースの拡張が期待される超低遅延及び多数同時接続の仕様策定を検討しており、2020年に標準化完了が予定されています。また、3GPPでは、高周波数帯の拡張、通信エリアの拡大、低消費電力・低コスト通信など、5Gの更なる効率性、性能改善を目的とした新たな仕様の検討が、2021年の標準化完了を目指して進められる予定です。

その結果、米国、韓国、欧州に次いで、中国でも5Gサービスが開始されるなど、各国オペレータの商用化スケジュールは順調に進展しています。日本においても2020年3月から都市部を中心とした一部のエリアで5Gサービスが開始されました。

このような環境のもと、計測事業グループは、5Gの開発投資需要を獲得するためのソリューションの開発と組織体制の整備に注力し、5Gチップセット及び端末の開発関連需要を獲得しました。

PQA事業の分野においては、加工食品生産ラインの自動化投資が進むとともに、X線を用いた異物検出並びに包装に関する品質保証などの需要が堅調に推移しています。PQA事業グループは、このような状況下でX線を軸としたソリューションの競争力強化と海外の販売体制の整備拡充に取り組みました。

この結果、受注高は1,077億9百万円(前期比6.8%増)、売上収益は1,070億23百万円(前期比7.4%増)、営業利益は174億13百万円(前期比54.8%増)、税引前当期利益は171億81百万円(前期比51.2%増)、当期利益は133億97百万円(前期比49.0%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は133億55百万円(前期比49.1%増)となりました。なお、新型コロナウイルス感染拡大による当期業績への影響は軽微でした。

期末の受注残高は、230億3百万円(前期比5.1%増)であります。

事業部門別概況

当期の事業部門別売上収益は次のとおりであります。

売上収益
前期比 %増
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(単位:

この事業部門は、サービスプロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。

当期は、モバイル市場において5Gチップセット及び携帯端末の開発需要が順調に推移しました。特にアジア地域において5G商用化に向けた開発需要が拡大し、5Gビジネスを牽引しました。

この結果、売上収益は751億65百万円(前期比10.3%増)、営業利益は151億48百万円(前期比60.9%増)となりました。

売上収益
前期比 %減
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(単位:

この事業部門は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。

当期は、国内・海外とも食品市場の品質保証プロセスの改善強化、自動化、省力化に向けた設備投資需要は堅調であるものの、顧客先での製品の受入検収期間が長期化した影響等により減収となりました。

この結果、売上収益は225億75百万円(前期比2.2%減)、営業利益は12億87百万円(前期比20.0%減)となりました。

売上収益
前期比 %増
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(単位:

これら2事業以外に、情報通信事業、デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等の事業を展開しております。

当期は、デバイス事業の利益が、前期と比較して増加しました。

この結果、売上収益は92億82百万円(前期比10.3%増)、営業利益は19億円(前期比65.9%増)となりました。

なお、当社は、2020年4月1日を効力発生日として、当社の完全子会社であるアンリツネットワークス株式会社、アンリツエンジニアリング株式会社及び株式会社アンリツプロアソシエを吸収合併し、これら子会社が営んでおりました事業(情報通信、ソフトウェア開発、シェアードサービス等の事業)に関する全ての権利義務を承継しました。

売上収益1,070億23百万円を地域別に見ますと、日本は362億93百万円(前期比12.8%増)、米州は207億73百万円(前期比21.4%減)、EMEA(欧州・中近東・アフリカ)は106億93百万円(前期比12.1%減)、アジア他は392億62百万円(前期比36.0%増)であり、当社グループ全売上収益に対する比率は日本33.9%、米州19.4%、EMEA10.0%、アジア他36.7%であります。

設備投資の状況

当期の設備投資は総額45億18百万円であり、主力の計測事業を中心に技術革新と販売競争に対処するため開発環境基盤強化と原価低減及び製品品質向上に向けた投資を継続するとともに、グローバルに情報システムへの投資を推進しました。

資金調達の状況

当期において、新株式発行及び社債発行等の資金調達は行っておりません。

直前3事業年度の財産及び損益の状況

企業集団の財産及び損益の状況の推移
当社の財産及び損益の状況の推移

企業集団の財産及び損益の状況の推移

対処すべき課題

今後の見通しにつきましては、新型コロナウイルスの感染拡大や米中貿易摩擦の長期化など、今後の世界経済の動向は予断を許さない状況が続いています。今後の新型コロナウイルス感染拡大の経過によっては、サプライチェーンの寸断や様々な事業活動の制限など、長期間にわたって円滑な企業活動が妨げられる可能性があります。当社グループは、事業への影響を最小限に抑えるべく、テレワークの推進、ITツールの活用及び調達の多様化等の対策に取り組みます。一方、情報通信分野においては、世界各国で5Gサービスが開始され、今後も5G関連の需要は拡大していくことが見込まれます。

このような環境の中、当社グループは、以下の経営理念・経営ビジョン・経営方針、中長期経営戦略及び「2020 VISION」のもと、中期経営計画「GLP2020」(計画期間: 2018~2020年度)の達成に取り組み、世界各国の5G商用化計画に的確に対応したソリューションをタイムリーに提供することで、モバイル市場での競争力優位を確立し、5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーを目指すとともに、企業価値の向上を図ってまいります。

① 経営理念・経営ビジョン・経営方針

当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。

〔経営理念〕

誠と和と意欲をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する

〔経営ビジョン〕

衆知を集めたイノベーションで社会のサステナビリティに貢献し、“利益ある持続的成長”を実現する

〔経営方針〕
  • 衆知を集めた全員経営でハツラツとした組織へ
  • イノベーションで成長ドライバーの獲得
  • グローバル市場でマーケットリーダーになる
  • 良き企業市民として人と地球にやさしい社会づくりに貢献

② 中長期的な経営戦略

当社グループは、主力の計測事業を軸に、ICT(Information and Communication Technology)サービスに関わるビジネスを展開しております。ICT分野における成長ドライバーは、「世界的なモバイル・ブロードバンド・サービスとIoTによる新たな社会価値の創造」です。そのプラットフォームとなるものが、中長期にわたるユーザー・エクスペリエンスの向上を目指すコミュニケーションシステムのイノベーションです。このイノベーションを実現するために、広帯域化を支えるLTE、LTE-Advanced/Pro、更に5Gへと続くモバイル通信技術の継続的開発や超高速広帯域な接続性の向上を支える通信ネットワークの再構築が進められています。幅広いモバイル・ブロードバンド・サービスのインフラとなることが期待される5GのNSA-NR、SA-NRの規格の標準化が完了し、これを受けて世界的に5Gの商用化に向けた開発が本格化しています。そして、2030年頃の提供を目指し、5Gを高度化させた6Gの検討が、米国、中国、韓国及び日本で始まりました。基本的な社会インフラからIoTによる新たな価値創造に至るまで、持続可能な社会の実現には「いつでも、どこでも、安全・安心、快適につながる」ネットワークが不可欠です。アンリツは、無線・有線の両方をカバーする先進の計測カンパニーとして、社会とお客様のネットワーク課題を解決してまいります。

PQA事業の成長ドライバーは、「食品・医薬品市場における品質保証ニーズの拡大」です。食品、医薬品関連市場を中心に、長期的には海外売上比率を50%まで引き上げることにより事業拡大を目指してまいります。北米・アジア市場を中心に事業展開を加速するため、海外の経営資源の拡充に努めます。

2020年4月に当社の未来を支える基礎技術の獲得を目指し、先端技術研究所を新設しました。当社のコアコンピテンシーである“はかる”技術を拡張する課題に果敢に挑戦し、オープンかつイノベーティブな研究活動を通じて次世代リーダーを生み出し、10~20年後の当社ビジネスの競争力の源泉となる技術力を培っていきます。

「2020 VISION」は、経営の基本方針に沿って2020年を目途とする時間軸として取り組んできたものであります。「2020 VISION」及び「2020 VISION」のもと各事業部門が掲げるビジョンは以下のとおりです。

〔2020 VISION〕

  • アンリツらしい価値を創造し、ワールドクラスの強靭な利益体質を持つグローバルマーケットリーダーになる
  • 新しい分野でアンリツの先進性を発揮して事業創発をする

〔計測事業〕

5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーになる

〔PQA事業〕

ワールドクラスの品質保証ソリューションパートナーになる

更に、当社グループは、2020年以降を見据えた持続的な成長に向けて「Beyond 2020」を始動させました。「Beyond 2020」では、「5G通信」、「食品安全」の一層の強化に加え、「5G利活用 自動車」、「医薬品安全」、そして「非通信計測事業」の開拓にも挑み、これら5つの柱で社会課題の解決を図り、高収益企業を目指すことを掲げています。

③ 中期経営計画「GLP2020」

当社は、中長期経営戦略上の経営目標の一里塚として、2018年度を初年度とする3ヵ年の中期経営計画「GLP2020」を策定し、事業活動を展開しています。中期経営計画「GLP2020」が目指すものは、「収益力を回復する」ことと、「GLP2017」からの継続課題「利益ある持続的成長のための経営基盤を確立する」ことです。その経営目標を確実に遂行するために、以下の3つの課題に全力で取り組んでおります。

(1) 成長ドライバーの確実な獲得

(2) 強靭な利益体質の構築

(3) 次世代の事業の柱づくり

④ コーポレートガバナンスの充実

当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレートガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレートガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。

なお、当社は、前記の視点を明確にするため、「アンリツ株式会社 コーポレートガバナンス基本方針」を制定しており、当社ウェブサイト(https://www.anritsu.com/ja-JP)に掲載しております。

⑤ サステナビリティの推進

当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えており、サステナビリティ推進活動にも積極的に取り組んでおり、「サステナビリティ方針」を制定しています。当社グループは、この方針に掲げる「安全・安心で快適な社会構築への貢献」、「グローバル経済社会との調和の実践」、「地球環境保護への貢献」、「すべてのステークホルダーとの強固なパートナーシップの構築」を目標に据え、経営資源を最大限に活かして、「誠と和と意欲」をもって安全・安心で豊かなグローバル社会の発展並びに世界共通目標SDGs(Sustainable Development Goals:国連総会で定められた持続可能な開発目標)の実現に貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。

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