事業報告(2020年4月1日から2021年3月31日まで)
企業集団の現況
当事業年度の事業の状況
事業の経過及び成果
全般的概況
当期における世界経済は、新型コロナウイルス感染症が全世界へ拡大し、経済活動は抑制を強いられる事態が継続しました。各国で開始されたワクチン接種により、経済活動の正常化への期待が高まるものの、なお先行き不透明の状況が続いております。国内においても、政府により感染拡大防止と経済活動の両立を意図した施策が講じられましたが、見通しの立たない不安定な状況が続き、国内消費、設備投資の回復ペースは鈍く推移しています。
情報通信分野においては、5Gサービスが各国で開始されるなど、オペレータの5G商用化スケジュールは順調に進展しています。日本においても2020年3月から都市部を中心とした一部のエリアで5Gサービスが開始されました。2020年7月には、3GPPにおいてユースケースの拡張が期待される超低遅延及び多数同時接続の仕様策定(Release 16※)の標準化が完了し、Automotive分野での5G活用に向けた研究開発や、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が始まっています。3GPPでは引き続き、高周波数帯の拡張、通信エリアの拡大、低消費電力・低コスト通信など、5Gの更なる効率性、性能改善を目的とした新たな仕様(Release 17※)の検討が、2022年の標準化完了を目指して進められています。
また、クラウドサービスの高度化や5Gサービスの進展によりデータ・トラフィックが急増し、ネットワーク・インフラを逼迫させつつあります。ネットワークの更なる高速化を進めるサービス・プロバイダでは、100Gbpsサービスの導入が本格化するとともに、ネットワーク機器メーカーでは、400Gbpsネットワーク装置の開発も進展しています。
このような環境のもと、計測事業グループは、5Gの開発投資需要を獲得するためのソリューションの開発と組織体制の整備に注力し、5G商用化に向けた開発関連需要を獲得しました。また、ネットワーク高速化に向けた開発・生産関連需要も獲得しました。一方、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、一部の顧客の投資に慎重な姿勢がみられました。
PQA事業の分野においては、加工食品生産ラインの自動化投資が進んでおり、X線を用いた異物混入検査や包装品質検査など品質保証工程の自動化に係る需要は今後も拡大が見込まれますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により一部の顧客の設備投資に慎重な姿勢が続いています。PQA事業グループは、このような状況下でX線を軸としたソリューションの競争力強化と対面営業に代わる販売促進策の強化に取り組みました。
この結果、受注高は1,075億67百万円(前期比0.1%減)、売上収益は1,059億39百万円(前期比1.0%減)、営業利益は196億51百万円(前期比12.8%増)、税引前利益は198億38百万円(前期比15.5%増)、当期利益は161億43百万円(前期比20.5%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益は161億5百万円(前期比20.6%増)となりました。
期末の受注残高は、225億71百万円(前期比1.9%減)であります。
(※) 3GPPで標準化される規格番号
事業部門別概況
当期の事業部門別売上収益は次のとおりであります。

(単位:)
この事業部門は、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。
当期は、5Gチップセット及び携帯端末の開発需要が順調に推移しました。特にアジア地域において、5G商用化に向けた開発需要が拡大し、5Gビジネスを牽引しました。また、データセンター等でのネットワーク高速化に向けた開発・生産関連需要も獲得しました。一方、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、主に日本地域において一部の顧客の投資に慎重な姿勢がみられました。
この結果、売上収益は748億9百万円(前期比0.5%減)、営業利益は177億14百万円(前期比16.9%増)となりました。
(単位:)
この事業部門は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。
当期は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う先行きの不透明感から一部の顧客の設備投資に慎重な姿勢が継続しています。また、業務の効率化を促進する等、販管費の削減に取り組みました。
この結果、売上収益は214億19百万円(前期比5.1%減)、営業利益は13億40百万円(前期比4.1%増)となりました。
なお、当社は、2021年4月1日付で、会社分割により、アンリツインフィビス株式会社が営んでいたPQA事業に関する権利義務の一部を同社から承継しました。
(単位:)
これら2事業以外に、情報通信事業、デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等の事業を展開しております。
当期は、売上収益97億9百万円(前期比4.6%増)、営業利益は17億97百万円(前期比5.4%減)となりました。
売上収益1,059億39百万円を地域別に見ますと、日本は322億2百万円(前期比11.3%減)、米州は213億80百万円(前期比2.9%増)、EMEA(欧州・中近東・アフリカ)は110億21百万円(前期比3.1%増)、アジア他は413億34百万円(前期比5.3%増)であり、当社グループ全売上収益に対する比率は日本30.4%、米州20.2%、EMEA10.4%、アジア他39.0%であります。


設備投資の状況
当期の設備投資は総額54億49百万円であり、主力の計測事業を中心に技術革新と販売競争に対処するため開発環境基盤強化と原価低減及び製品品質向上に向けた投資を継続するとともに、グローバルでの情報システム統一に向けた投資を推進しました。
資金調達の状況
当期において、新株式発行及び社債発行等の資金調達は行っておりません。
直前3事業年度の財産及び損益の状況
企業集団の財産及び損益の状況の推移

当社の財産及び損益の状況の推移

企業集団の財産及び損益の状況の推移






対処すべき課題
今後の見通しにつきましては、情報通信分野においては、5Gの更なる技術革新や利活用分野への進展により、今後も5G関連の需要は拡大していくことが見込まれます。また、データセンター等でのネットワークインフラの拡充に向けた需要も拡大が見込まれます。このような事業環境の中、当社グループは、以下の経営理念・経営ビジョン・経営方針及び中長期経営戦略のもと、中期経営計画「GLP2023」(計画期間: 2021~2023年度)の達成に取り組み、5Gビジネスを中心に、更に5G利活用分野への広がりやネットワーク高速化の需要拡大に的確に対応したソリューションをタイムリーに提供することで、競争力優位を確立し、5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーを目指します。
① 経営理念・経営ビジョン・経営方針
当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。
なお、当社は、全グループ従業員等が同じ将来の姿を共有し、かつ社外に対して強いアピールをもって高い認知を得ることを目的として、2021年4月1日付で経営ビジョン及び経営方針を改定しております。
〔経営理念〕
誠と和と意欲をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する
〔経営ビジョン〕
「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ
〔経営方針〕
- 克己心を持ち、「誠実」な取り組みにより人も組織も”日々是進化”を遂げる
- 内外に敵を作らず協力関係を育み、「和」の精神で難題を解決する
- 進取の精神に富み、ブレークスルーを生み出す「意欲」を持つ
- ステークホルダーと共に人と地球にやさしい未来をつくり続ける「志」を持つ
また、経営ビジョン及び経営方針の改定に伴い、これまでのブランドステートメント「envision:ensure」を改定し、新たなブランドステートメント「Advancing beyond」(更なる高みへ)を策定しました。これは、アンリツの継続的な進歩と進化の思いを表現するものであります。
② 中長期的な経営戦略及び中期経営計画GLP2023
当社グループは、主力の計測事業を軸に、情報通信サービスに関わるビジネスを展開しております。現在の5Gシステムに代表される通信インフラの様々なイノベーションは、社会を劇的に変革するとともに、人類に「つながる」ことの豊かさを提供し、グローバル社会の進歩を生み出してきました。「誠と和と意欲」、“オリジナル&ハイレベル”を経営理念とするアンリツは、情報通信における品質の見える化のために研ぎ澄ましてきた「はかる」技術を、食品・医薬品分野にも水平展開し、安全・安心な社会に貢献しています。
当社グループは、2021年4月に新たな経営ビジョンのもと、新たに3ヶ年の中期経営計画 GLP2023をスタートいたしました。
当社のコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術を更に掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えてまいります。関係するあらゆるステークホルダーとともに持続可能で魅力的な未来を次世代に繋いでいくという思いを込めた経営ビジョンのもと、2030年度には安定した収益を上げる企業としての2,000億円企業を目指してまいります。
GLP2023の3年間は、5G計測市場のピークに向けた成長の3年であり、新たな芽を成長させる3年でもあります。4つのカンパニーと先端技術研究所の体制のもと、重点的に新たに成長させる4つの分野を 1)EV(電気自動車)、電池測定、2)ローカル5G、3)光センシング、4)医療・医薬品と捉え、それぞれの分野で外部との連携やM&A等を行うことで成長を加速させてまいります。
また、その先の将来も見据え、6GやNEMS(Nano Electro Mechanical Systems ※)の基礎研究も開始しております。組織の枠を超え、会社の枠を超え、今までの概念に縛られず、前進してまいります。
(※) NEMS:半導体加工技術をベースとするマイクロマシンを更に小型化した、nmオーダーの機械構造を持つデバイス
③ コーポレートガバナンスの充実
当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレートガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などの従前からの取組みに加え、社外取締役比率50%以上を確保することにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレートガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。なお、当社は、前記の視点を明確にするため、「アンリツ株式会社 コーポレートガバナンス基本方針」を制定しており、当社ウェブサイト(https://www.anritsu.com/ja-JP)に掲載しております。
④ サステナビリティの推進
当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題の解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えています。その基本的な考え方を定めた「サステナビリティ方針」について、従来より実践している当社のサステナビリティ経営の活動をベースに、新しい経営ビジョン・経営方針に沿った内容に改定いたしました。この方針には2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:国連総会で定められた持続可能な開発目標)アジェンダの5つのP、すなわち、People、Planet、Prosperity、Peace、Partnershipの要素が包含されています。
〔サステナビリティ方針〕
私たちは「誠と和と意欲」をもってグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指します。
- 長期ビジョンのもと事業活動を通じて、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献します。
- 気候変動などの環境問題へ積極的に取り組み、人と地球にやさしい未来づくりに貢献します。
- すべての人の人権を尊重し、多様な人財とともに個々人が成長し、健康で働きがいのある職場づくりに努めます。
- 高い倫理観と強い責任感をもって公正で誠実な活動を行い、経営の透明性を維持して社会の信頼と期待に応える企業となります。
- ステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、協力関係を育み、社会課題の解決に果敢に挑んでいきます。
当社グループは、この方針のもと、経営資源を最大限に活かして、活動を展開し、世界共通目標SDGsの実現に貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。
