事業報告(2022年4月1日から2023年3月31日まで)
企業集団の現況
当事業年度の事業の状況
事業の経過及び成果
全般的概況
当期における世界経済は、ウィズコロナの浸透により、新型コロナウイルス感染症が社会経済に与える影響が低下しつつある中で、資源・エネルギー価格の高騰、モノや労働力不足によるインフレ進行、そして各地域でのインフレを抑え込むための金融引き締め策などにより、経済成長は広範にわたり鈍化の傾向がみられました。
通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、各国オペレータが5Gサービスを開始していますが、5Gミリ波の技術的課題やキラーアプリケーションの出現が遅れていることなどにより、5Gスマートフォンの普及速度は緩やかになっています。
「Release 17」(*1)の標準化完了によって更に進展した5G利活用の領域では、Automotive分野での研究開発や、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が始まっています。IoT分野では、米国のラストワンマイルで利用されるCPE(Customer Premises Equipment:顧客構内設備)の需要が増加してきており、5G無線モジュールの開発に加えて、Wi-Fi 6E(*2)の開発需要も生じています。また、次世代の通信規格である6Gの研究開発も動き始めています。
5Gのネットワークでは、オペレータが無線ネットワークをより柔軟に構築できるよう、無線アクセスネットワークのオープン化に取り組むO-RANアライアンスが活動を進めてきました。これまでメーカー独自のインタフェースで構成されていた基地局装置に対してO-RANの標準仕様を適用することで、マルチベンダーでの無線アクセスネットワークの構築が容易になりました。これにより、世界各地のオペレータがO-RANの導入を進めています。
また、クラウドサービスの高度化や5Gサービスの進展によりデータ・トラフィックが急増し、ネットワークインフラを逼迫させつつあります。ネットワークの更なる高速化を進めるサービス・プロバイダでは、100Gbpsサービスの導入が本格化するとともに、ネットワーク機器メーカーでは、400Gbps/800Gbpsネットワーク装置の開発も進展しています。更に、オール光化を目指すIOWN(*3)の研究開発も始まりました。
経営環境については、物価や金利の上昇に加え、地政学的リスクの高まり、世界的な半導体不足の長期化が企業業績に対する重要なリスク要因となっています。
当社グループは、原材料価格の高騰やインフレに伴う費用の増加に対して、製品への価格転嫁による収益性の改善に取組んでいます。また、部品調達リスクに対しては、取引先と強固な関係を構築し、情報を速やかに把握する仕組み作りや、戦略的な部品在庫の確保などの対策を講じています。あわせて、リスクの高い部品については代替品への変更などによりリスクの最小化を図っています。
このような環境のもと、当社グループの経営成績は次のとおりとなりました。
当期は、受注高は1,101億7百万円(前期比0.5%減)、売上収益は1,109億19百万円(前期比5.2%増)、営業利益は117億46百万円(前期比28.8%減)、税引前利益は124億38百万円(前期比27.5%減)、当期利益は92億56百万円(前期比27.9%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は92億72百万円(前期比27.5%減)となりました。
期末の受注残高は、345億45百万円(前期比8.2%増)であります。
- (*1)
- 3GPPで標準化される規格番号
- (*2)
- 第6世代 Wi-Fi 6の使用帯域を6GHz帯まで拡張した無線LAN規格
- (*3)
- Innovative Optical and Wireless Networkの略称で、IOWN Global Forumが検討を進めている、オール光ネットワークなど革新的技術を用いた新しい通信基盤
事業部門別概況
当期の事業部門別売上収益は次のとおりであります。

(単位:)
この事業部門は、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。
当期は、データセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要や汎用測定器の需要を獲得しましたが、モバイル市場の成長鈍化と、原材料価格の高騰や世界的なインフレ、人件費上昇等による固定費の増加、販売促進費の増加が影響し、前期比で減収減益となりました。
この結果、売上収益は727億53百万円(前期比0.8%減)、営業利益は108億74百万円(前期比28.5%減)となりました。
(単位:)
この事業部門は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。
当期は、米州を中心に食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要が堅調に推移しました。費用面では、原材料価格の高騰に加えて、販売活動の強化による販売促進費や物流費等の増加が影響しましたが、前期比で増収増益となりました。
この結果、売上収益は248億49百万円(前期比13.1%増)、営業利益は13億31百万円(前期比13.5%増)となりました。
(単位:)
これら2事業以外に、環境計測事業、センシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等の事業を展開しております。
2022年1月4日付で株式会社高砂製作所を連結子会社とし、前期(2021年度)第4四半期より同社を連結対象としています。
この結果、売上収益は133億16百万円(前期比32.0%増)、営業利益は6億11百万円(前期比45.5%減)となりました。
- (※) 第98期(2023年度)より、「その他の事業」に含まれていた「環境計測事業」について報告セグメントとして記載する方法に変更します。
売上収益1,109億19百万円を地域別に見ますと、日本は330億42百万円(前期比6.5%増)、米州は247億99百万円(前期比7.5%増)、EMEA(欧州・中近東・アフリカ)は147億32百万円(前期比26.9%増)、アジア他は383億44百万円(前期比3.4%減)であり、当社グループ全売上収益に対する比率は日本29.8%、米州22.3%、EMEA13.3%、アジア他34.6%であります。


設備投資の状況
当期の設備投資は総額53億69百万円であり、主力の通信計測事業を中心に技術革新と販売競争に対処するため開発環境基盤強化と原価低減及び製品品質向上に向けた投資を継続しました。また、郡山第二工場に新棟を建設し、BCP対策と生産能力の強化に向けた投資を行いました。
資金調達の状況
当期において、新株式発行及び社債発行等の資金調達は行っておりません。
直前3事業年度の財産及び損益の状況
企業集団の財産及び損益の状況の推移

当社の財産及び損益の状況の推移

企業集団の財産及び損益の状況の推移






対処すべき課題
今後の見通しにつきましては、世界経済は、物価上昇に加え、金融引き締め策や地政学的リスクの高まり等により、景気後退が懸念されています。当社グループの事業領域においても、急激なインフレによる経済状況の不透明さに起因する顧客の設備投資の減速、希少部品の調達リスクの長期化、新型コロナウイルス感染症の変異株の感染再拡大等の懸念材料もあり、当社グループを取り巻く環境は予断を許さない状況が続くものと思われます。
事業環境としては、情報通信分野においては、5G利活用分野(自動車、IoT、ローカル5G等)への広がりなどにより、今後も5G関連の開発需要は継続していくことを見込んでいます。また、データセンター等でのネットワークインフラの拡充に向けた需要の拡大も期待されます。
当社グループは、以下の経営理念・経営ビジョン・経営方針及び中長期経営戦略のもと、5G及び5G利活用ビジネスとネットワーク高速化の需要拡大に的確に対応したソリューションをタイムリーに提供することで、競争力優位を確立し、5G/IoT社会を支えるリーディングカンパニーを目指します。
① 経営理念・経営ビジョン・経営方針
当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。経営ビジョンには、グループ従業員等の一人ひとりが自ら挑戦し、新しい価値を社会に提供し続け、未来に向けて成長していく、という思いを込めています。
〔経営理念〕
誠と和と意欲をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する
〔経営ビジョン〕
「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ
〔経営方針〕
- 克己心を持ち、「誠実」な取り組みにより人も組織も”日々是進化”を遂げる
- 内外に敵を作らず協力関係を育み、「和」の精神で難題を解決する
- 進取の気性に富み、ブレークスルーを生み出す「意欲」を持つ
- ステークホルダーと共に人と地球にやさしい未来をつくり続ける「志」を持つ
② 中長期的な経営戦略及び中期経営計画GLP2023
当社グループは、主力の通信計測事業を軸に、情報通信サービスに関わるビジネスを展開しております。現在の5Gシステムに代表される通信インフラの様々なイノベーションは、社会を劇的に変革するとともに、人類に「つながる」ことの豊かさを提供し、グローバル社会の進歩を生み出してきました。「誠と和と意欲」、“オリジナル&ハイレベル”を経営理念とするアンリツは、情報通信における品質の見える化のために研ぎ澄ましてきた「はかる」技術を食品・医薬品分野にも水平展開し、安全・安心な社会に貢献しています。
当社のコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術を更に掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えてまいります。関係するあらゆるステークホルダーとともに持続可能で魅力的な未来を次世代に繋いでいくという思いを込めた経営ビジョンのもと、2030年度には安定した収益を上げる企業としての2,000億円企業を目指してまいります。
5G計測市場の需要を捉えつつ、新たな芽を成長させていく取組みとしてスタートした3ヶ年の中期経営計画 GLP2023は、第98期(2023年度)が計画最終年度となります。4つのカンパニーと先端技術研究所の体制のもと、重点的に新たに成長させる4つの分野を 1)EV(電気自動車)、電池測定、2)ローカル5G、3)光センシング、4)医療・医薬品と捉え、それぞれの分野で外部との連携やM&A等を行うことで成長を加速させてまいります。
また、その先の将来も見据え、6GやNEMS(Nano Electro Mechanical Systems ※)の基礎研究も開始しております。組織の枠を超え、会社の枠を超え、今までの概念に縛られず、前進してまいります。
(※) NEMS:半導体加工技術をベースとするマイクロマシンを更に小型化した、nmオーダーの機械構造を持つデバイス

③ コーポレートガバナンスの充実
当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレートガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などの従前からの取組みに加え、社外取締役比率50%以上を確保することにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレートガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。なお、当社は、前記の視点を明確にするため、「アンリツ株式会社 コーポレートガバナンス基本方針」を制定しており、当社ウェブサイト (https://www.anritsu.com/ja-jp)に掲載しております。

④ サステナビリティの推進
当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題の解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えています。従来より実践している当社のサステナビリティ経営の活動をベースに、その基本的な考え方を定めた「サステナビリティ方針」には、2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:国連総会で定められた持続可能な開発目標)アジェンダの5つのP、すなわち、People、Planet、Prosperity、Peace、Partnershipの要素が包含されています。
〔サステナビリティ方針〕
私たちは「誠と和と意欲」をもってグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指します。
- 長期ビジョンのもと事業活動を通じて、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献します。
- 気候変動などの環境問題へ積極的に取り組み、人と地球にやさしい未来づくりに貢献します。
- すべての人の人権を尊重し、多様な人財とともに個々人が成長し、健康で働きがいのある職場づくりに努めます。
- 高い倫理観と強い責任感をもって公正で誠実な活動を行い、経営の透明性を維持して社会の信頼と期待に応える企業となります。
- ステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、協力関係を育み、社会課題の解決に果敢に挑んでいきます。
当社グループは、この方針のもと、経営資源を最大限に活かして、活動を展開し、世界共通目標SDGsの実現に貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。
