事業報告(2023年4月1日から2024年3月31日まで)
企業集団の現況
当事業年度の事業の状況
事業の経過及び成果
全般的概況
当期における世界経済について、米国では金融引き締めの中でも堅調な経済情勢が継続した一方、欧州・中国では景気減速がみられました。国内においては新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い経済活動が正常化し、穏やかな回復基調にありましたが、ウクライナ情勢の長期化、中東情勢の混乱など地政学リスクは継続し、依然として先行き不透明な状況が継続しています。
通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、インフレによる5Gスマートフォン価格の高騰等もあり、世界的にスマートフォンの出荷台数の減少が継続していますが、AIを搭載した高機能スマートフォンの登場により、今後の市場の活性化が期待されます。
「Release 17」(*1)の標準化完了によって更に進展した5G利活用の領域では、Automotive分野での5G活用に向けた研究開発や、ローカル5Gのようなプライベート領域での5Gネットワーク構築に向けた調査や実証実験が始まっています。IoT分野では、米国のラストワンマイルで利用されるCPE(Customer Premises Equipment、顧客構内設備)の需要が増加してきており、5G無線モジュールの開発に加えてWi-Fi 7(*2)の開発需要も生じています。 非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)としては、衛星を用いた通信サービスが相次いで始まっており、5G規格に準拠する端末のリリースが待たれています。2024年6月に標準化完了予定の「Release 18」(*1)では、AI/ML(Machine Learning)に関する仕様の策定により、AI搭載に関する強化が行われる予定です。 また、2023年12月に開催された世界無線通信会議「WRC-23(World Radiocommunication Conference 2023)」において、5G-Advancedの周波数が合意されました。更に、次世代の通信規格である6Gの研究開発も始まっています。
5Gのネットワークでは、無線アクセスネットワークのオープン化に取り組むO-RANアライアンスが活動を進めてきました。これまでメーカー独自のインターフェースで構成されていた基地局装置に対してO-RANの標準仕様を適用することで、マルチベンダーでの無線アクセスネットワークの構築が容易になりました。これにより、世界各地のオペレータがO-RANの導入を進めています。
また、生成AIの普及拡大によるデータ・トラフィックの急増に対応するために、データセンターの新設及び大容量化が加速しています。ネットワークの更なる高度化を進めるサービス・プロバイダでは、100Gbpsサービスが本格化するとともに、ネットワーク機器メーカーでは、PCIe(Gen5/6)(*3)の開発や400GE/800GEネットワーク装置の開発も進展しています。更に、オール光化を目指すIOWN(*4)の研究開発も始まっています。
当社グループは、主としてモバイル市場の不振による通信計測事業の売上収益悪化の下、原材料価格の高騰やインフレに伴う費用の増加に対して、価格転嫁の推進や業務効率化に取組んでいます。
このような環境のもと、当社グループの経営成績は次のとおりとなりました。
当期は、受注高は1,072億77百万円(前期比2.6%減)、売上収益は1,099億52百万円(前期比0.9%減)、営業利益は89億83百万円(前期比23.5%減)、税引前利益は99億51百万円(前期比20.0%減)、当期利益は76億74百万円(前期比17.1%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は76億75百万円(前期比17.2%減)となりました。
期末の受注残高は、346億76百万円(前期比0.4%増)であります。
なお、当期は2021年4月に策定した3ヶ年の中期経営計画GLP2023の計画最終年度であり、GLP2023策定当初に掲げていた目標と実績は次のとおりであります。

- (*1)
- 3GPPで標準化される規格番号
- (*2)
- 第7世代のWi-Fi規格で、Wi-Fi 6の使用帯域幅160MHzを320MHzまで拡張し、高速化を実現
- (*3)
- 第5/第6世代のPCI Express規格(シリアル転送方式の拡張スロット用インターフェース規格)
- (*4)
- Innovative Optical and Wireless Networkの略称で、IOWN Global Forumが検討を進めている、オール光ネットワークなど革新的技術を用いた新しい通信基盤
事業部門別概況
当期の事業部門別売上収益は次のとおりであります。
なお、当期より、従来「その他事業」に含まれていた「環境計測事業」について報告セグメントとして記載する方法に変更しています。

(単位:)
この事業部門は、サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行っています。
当期は、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要は堅調であるものの、世界的な5Gスマートフォンの開発投資需要の減少により、前期比で減収減益となりました。
この結果、売上収益は710億5百万円(前期比2.4%減)、営業利益は75億44百万円(前期比30.6%減)となりました。
(単位:)
この事業部門は、高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行っています。
当期は、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要が堅調に推移し、前期比で増収となりました。費用面では、第4四半期に固定資産除却損317百万円が発生したことにより、営業利益は前期と同水準となりました。
この結果、売上収益は253億73百万円(前期比2.1%増)、営業利益は12億95百万円(前期比2.7%減)となりました。
(単位:)
この事業部門は、EV・電池向け試験装置、ローカル5G向け支援サービス、道路やダム・河川等の映像監視用モニタリングソリューションの開発、製造、販売を行っています。
当期は、国内においてEV・電池向け試験需要が堅調に推移し、前期比で増収増益となりました。
この結果、売上収益は74億38百万円(前期比16.7%増)、営業利益は5億37百万円(前期比943.9%増)となりました。
(単位:)
その他の事業は、センシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等からなっております。
当期は、売上収益は61億34百万円(前期比11.6%減)、営業利益は8億10百万円(前期比44.8%増)となりました。
売上収益1,099億52百万円を地域別に見ますと、日本は342億36百万円(前期比3.6%増)、米州は259億3百万円(前期比4.5%増)、EMEA(欧州・中近東・アフリカ)は163億28百万円(前期比10.8%増)、アジア他は334億83百万円(前期比12.7%減)であり、当社グループ全売上収益に対する比率は日本31.1%、米州23.6%、EMEA14.8%、アジア他30.5%であります。


設備投資の状況
当期の設備投資は総額41億67百万円であり、主力の通信計測事業を中心に技術革新と販売競争に対処するための新製品開発と原価低減に向けた投資を継続しました。また、事業活動に伴う温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル実現に向け、太陽光発電設備の増設を行いました。
資金調達の状況
当期において、新株式発行及び社債発行等の資金調達は行っておりません。
直前3事業年度の財産及び損益の状況
企業集団の財産及び損益の状況の推移

当社の財産及び損益の状況の推移

企業集団の財産及び損益の状況の推移






対処すべき課題
当社グループの主力である通信計測事業においては、生成AIの普及拡大によるデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた測定需要が今後も拡大していくことが期待できます。また、自動車の5G搭載に向けた開発、非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)関連の開発、5Gミリ波の整備などでの測定需要の拡大や「Release 18」以降で標準化される5G-Advancedや6Gに向けた測定需要の獲得を目指していきます。
PQA事業においては、食品市場の品質保証プロセスの自動化、省人化を目的とした設備投資需要を確実に捉え、海外市場の売上拡大を目指します。
環境計測事業においては、堅調な推移が見込まれる国内のEV・電池向け試験需要を確実に捉えていきます。
当社グループは、関係するあらゆるステークホルダーとともに持続可能で魅力的な未来を次世代に繋いでいくという思いを込めた、以下の経営理念・経営ビジョン・経営方針のもと、2030年度には安定した収益を上げる企業としての売上高2,000億円企業を目指してまいります。
① 経営理念・経営ビジョン・経営方針
当社は、様々なステークホルダーに対する責任と対話を重視し、以下のとおり経営理念・経営ビジョン・経営方針を策定しています。経営ビジョンには、グループ従業員等の一人ひとりが自ら挑戦し、新しい価値を社会に提供し続け、未来に向けて成長していく、という思いを込めています。
〔経営理念〕
「誠と和と意欲」をもって、“オリジナル&ハイレベル”な商品とサービスを提供し、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献する
〔経営ビジョン〕
「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ
〔経営方針〕
- 克己心を持ち、「誠実」な取り組みにより人も組織も”日々是進化”を遂げる
- 内外に敵を作らず協力関係を育み、「和」の精神で難題を解決する
- 進取の気性に富み、ブレークスルーを生み出す「意欲」を持つ
- ステークホルダーと共に人と地球にやさしい未来をつくり続ける「志」を持つ
② 中長期的な経営戦略及び中期経営計画GLP2026
当社グループは、主力の通信計測事業を軸に、情報通信サービスに関わるビジネスを展開しております。当社のコンピテンシーである「はかる」を極めていくとともに、内外の異なる発想や技術を更に掛け合わせ、従来の「はかる」を超えた価値や新領域を開拓していくことで次の事業の柱を成長させ、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えてまいります。
2021年4月に策定した3ヶ年の中期経営計画GLP2023では、当初目標として、計画最終年度である2023年度に売上収益1,400億円、営業利益270億円を掲げていたところ、当期は売上収益1,099億円、営業利益89億円の実績となり、目標未達となりましたが、GLP2023の3年間で新領域のビジネスを立ち上げることができました。
当社グループは、2024年4月に、新たな3ヶ年の中期経営計画GLP2026をスタートいたしました。GLP2026では、前中期経営計画GLP2023で育てた新しい芽を事業の柱へと成長させ、計画最終年度である2026年度に売上収益1,400億円、営業利益200億円、営業利益率14%を目指します。
GLP2026の3年間は、5Gから6Gへの移行期であり、2030年度に売上高2,000億円企業となるための重要なマイルストーンと位置付けております。
GLP2026では6Gと3つの新領域のビジネスを重点的に拡大します。3つの新領域のビジネスは“産業計測”(*1)と“EV/電池”そして“医薬品/医療”です。M&Aとオーガニックで、新領域ビジネスの成長を加速し、更には来るべき6Gビジネスの需要を確実に獲得するための準備をいたします。
(*1) 通信以外の産業向けに汎用計測器を拡販すること

③ コーポレートガバナンスの充実
当社は、経営環境の変化に柔軟かつスピーディに対応し、グローバル企業としての競争力を高め、継続的に企業価値を向上させていくことを経営の最重要課題としております。その目標を実現するために、コーポレートガバナンスが有効に機能する仕組みを構築することに努めております。執行役員制度導入による意思決定と業務執行の分離の促進、「監査等委員会設置会社」への移行、独立社外取締役が委員長を務める指名委員会・報酬委員会・独立委員会の設置、取締役会の実効性評価の実施などの従前からの取組みに加え、社外取締役比率50%以上を確保することにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、コーポレートガバナンス体制を一層充実させることで、グローバルな視点でより透明性の高い経営の実現を目指してまいります。 なお、当社は、前記の視点を明確にするため、「アンリツ株式会社 コーポレートガバナンス基本方針」を制定しており、当社ウェブサイト (https://www.anritsu.com/ja-jp)に掲載しております。

④ サステナビリティの推進
当社グループは、誠実な企業活動を通じてグローバルな社会の要請に対応し、社会課題の解決に貢献してこそ企業価値の向上が実現されると考えています。 当社のサステナビリティ経営の基本的な考え方を定めた「サステナビリティ方針」には、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の5つのP、すなわち、People、Planet、Prosperity、Peace、Partnershipの要素が包含されています。
〔サステナビリティ方針〕
私たちは「誠と和と意欲」をもってグローバル社会の持続可能な未来づくりに貢献することを通じて、企業価値の向上を目指します。
- 長期ビジョンのもと事業活動を通じて、安全・安心で豊かなグローバル社会の発展に貢献します。
- 気候変動などの環境問題へ積極的に取り組み、人と地球にやさしい未来づくりに貢献します。
- すべての人の人権を尊重し、多様な人財とともに個々人が成長し、健康で働きがいのある職場づくりに努めます。
- 高い倫理観と強い責任感をもって公正で誠実な活動を行い、経営の透明性を維持して社会の信頼と期待に応える企業となります。
- ステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、協力関係を育み、社会課題の解決に果敢に挑んでいきます。
当社グループは、この方針のもと、経営資源を最大限に活かして、活動を展開し、世界共通目標SDGsの実現に貢献することを通じて、企業価値の向上を目指してまいります。
