事業報告(2020年4月1日から2021年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過及びその成果
当連結会計年度における当社グループの属する住宅関連業界を取り巻く環境は、新型コロナウイルス感染症の影響により年度初は厳しい状況でしたが、その後持ち直しの動きが見られ、新設住宅着工戸数、中古マンション・中古戸建住宅の成約件数は、8月以降概ね回復の傾向となっております。新型コロナウイルス感染拡大の収束時期が見通せず、不透明な状況は続いているものの、市場の先行きについては、リモートワークの普及による在宅時間の増加などで「快適な住環境」が重視される傾向があることや、住宅ローン減税の効果もあり、比較的底堅く推移していくことが期待されます。
このような状況のもと、当社グループは、「今こそもっと成長」を2021年3月期のテーマのひとつとして掲げ、お客さま、お取引先と従業員の安全を最優先に新型コロナウイルスへの感染防止対策を講じながら、商品・サービス等を強化し、企業価値の向上に積極的な取り組みを継続してまいりました。具体的には、当社独自の全期間固定金利商品である「ARUHIスーパーフラット」の商品ラインアップ追加や全疾病保障特約付の保険商品の取り扱いを開始したことに加え、株式会社北都銀行と業務提携契約を締結し、株式会社北都銀行の住宅ローンを希望するお客さまに対する当社商品の紹介も開始しております。事業の遂行に際しては、顧客重視(カスタマーファースト)と、コンプライアンス重視(コンプライアンスファースト)の取り組みを継続して行っておりますが、AIを活用したリスク管理システム「ARUHI ホークアイ1.0」に加え、不動産取引データから価格妥当性を判定する「ARUHI ホークアイ2.0」を導入し、更なるリスクマネジメントの強化に取り組んでおります。また、千葉県の柏の葉キャンパスに第二本社を立ち上げ、従業員のライフスタイルに合わせた多様な働き方の提案や地域コミュニティへの貢献などを目指すとともに、災害などの不測事態の発生リスクへの対応強化も図っております。
これらの結果、当連結会計年度の当社グループの新規融資実行件数は、期末における住宅引き渡しの延期等の影響が一部に見られたこともあり、前年同期比3.6%の減少となりましたが、受理件数は、新型コロナウイルス感染症の影響を最小限に留め前年とほぼ同水準となっております。
営業収益については、融資実行業務において実行件数の減少があったものの、単価が高い建築物件の比率が増え、1件あたりの融資金額が増加したことから、オリジネーション・フィー売上が前年同期比1.4%増加いたしました。また、ファイナンス業務は前年同期比6.3%減少しましたが、過去に融資実行を行った住宅ローンに係るストック型収益である保険関連業務及び債権管理回収業務は好調な推移となりました。保険関連業務は、新型コロナウイルス感染症の流行により、収入減に備える生命保険に対する関心が高まる中、2020年4月より保障内容を充実させた全疾病保障特約の取り扱いを開始するなどにより、前年同期比33.6%増加しました。債権管理回収業務は、過去に融資実行を行った住宅ローンに係る債権に加え、他社からのサービシング債権譲受もあり、サービシング債権残高は着実に増加しており、前年同期比13.5%増加しました。これらの結果、当連結会計年度の営業収益は26,821百万円(前年同期比2.4%増)と厳しい市場環境の中で前年度を超えて着地いたしました。また効果的なコストコントロールを行った結果、税引前利益についても前年度を超え7,745百万円(同5.9%増)となり、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益は5,177百万円(同4.1%増)となりました。
以上により、当社グループの当連結会計年度の営業収益は以下のとおりとなりました。
(注)
- 1.融資実行業務:当業務における主な収入は当社が融資実行した際に受領するオリジネーション・フィー売上(実行金額に一定の料率を乗じて算出)、主な費用はFC(フランチャイズ)運営法人へ支払う支払手数料(オリジネーション・フィー売上の約50%)です。
- 2.債権管理回収業務:当社は、当社が実行した住宅ローン債権について、住宅金融支援機構や信託銀行などの金融機関から委託を受けて、債権譲渡後の住宅ローンに関する債権の管理・回収業務を受託しております。当業務における主な収入は当社が住宅金融支援機構等から受領するサービシング・フィー売上です。なお、住宅ローンの債権譲渡により会計上認識される回収サービス資産について、期中回収分をサービシング・フィー売上に含めております。
- 3.保険関連業務:当社は住宅ローンの販売に際して、保険会社からの業務委託を受けて、保険代理店としての業務を行っております。また、住宅ローンに付帯する団体信用生命保険等の取扱いに関する業務を行っております。当業務における主な収入は、保険代理店手数料売上及び団体信用生命保険料売上です。
- 4.ファイナンス業務:当社は、住宅ローンの融資実行により発生した貸付債権を対象として、債権流動化・証券化を実施することで資金調達を行っております。また、融資実行後、債権流動化・証券化を実施するまでの間、当社が貸付債権を保有する場合には、主に銀行借入により資金調達を行っております。当業務における主な収入は、貸付債権の債権譲渡時に発生する貸付債権流動化関連収益(債権譲渡の対象となる貸付債権について、当社が受け取る権利を有している金利スプレッド等の将来キャッシュ・フローを公正価値で評価し収益認識するもの)及び当社で保有している貸付債権から発生する利息収入です。
- 5.その他業務:その他業務の主な売上の内容は、FC運営法人に対するシステム利用料です。
(ご参考)業績ハイライト
業務別営業収益構成比
営業収益
26,821百万円
前連結会計年度比2.4%増
税引前利益
7,745百万円
前連結会計年度比5.9%増
当期利益
5,177百万円
前連結会計年度比4.1%増
当社における融資実行件数の推移(住宅ローン商品及び投資用マンションローンの合計件数)
年間20兆円※(新規貸出額)という巨大な住宅ローン市場において、外部環境にも大きく左右されず、融資実行件数は成長を実現しております。
※出典 住宅金融支援機構
対処すべき課題
当面の当社グループが属する住宅関連業界におきましては、新型コロナウイルス感染拡大の収束時期が見通せず、依然として不透明な状況は続いておりますが、在宅時間の増加で「快適な住環境」が重視される傾向があることや、リモートワークの普及によるライフスタイルの変化、住宅ローン減税制度の効果もあり、比較的底堅く推移していくことが期待されます。
一方で、やや中期的には、地方から大都市圏への人口流入、ライフステージ・ライフスタイルに合わせた住み替え、単身世帯の増加等を背景とした住宅需要の活性化が予想されます。また、国の中古物件流通促進政策を背景とした中古物件流通量の増加等、住宅ローン市場において引き続き成長が見込める領域(潜在マーケット)が存在すると想定されます。
上記を踏まえたうえで、複数の切り口から対処すべき課題について以下記載いたします。
① 競合他社の状況と商品ラインアップ
日本銀行によるマイナス金利政策や変動金利型住宅ローン金利引き下げ競争の激化を背景として、住宅ローンによる利息収益が期待しにくい環境が続き、銀行をはじめとする民間金融機関の住宅ローン事業の縮小・撤退が報じられておりますが、変動金利商品を提供する大小の銀行は、依然として全住宅ローンの80%を超える市場を占有しており、特にインターネット専業銀行は住宅ローンの商品性・サービスの強化を推し進め、銀行のなかではポジションを拡大しつつある状況にあります。
当社グループは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して提供している全期間固定金利商品で、従来から提供する「ARUHIフラット35」(【フラット35買取型】)に加え、当社独自の全期間固定金利商品である「ARUHIスーパーフラット」(【フラット35保証型】)を数年前から市場に投入・拡大することにより、全期間固定金利市場の拡大を図っております。「ARUHIスーパーフラット」シリーズは全体の実行件数を押し上げる原動力となっており、2020年度の【フラット35】の実行件数(借換を含む)シェアは28.4%(前年比0.9%増)となり、11年連続で第1位となりました。さらに、銀行代理商品やオリジナル変動金利商品等の変動金利商品の導入・拡充により、市場規模の大きなセグメントに参入し、住宅ローン事業の更なる拡大を図っております。今後は、お客さまの属性やニーズの違いを的確に分析・判断し、最適な商品を開発することに加え、新たな顧客層や不動産事業者等への営業基盤強化等が課題であると認識しております。
② 販売チャネル及び営業体制
当社グループは、FC店舗、直営店舗、直販ホールセール営業やWebチャネルなど、さまざまな販売チャネルを拡大して提供することで、より大きな市場により効率よくアクセス可能な体制を整備してまいりました。
今後も、全国に展開されるリアルチャネルとWebチャネルの融合を推進することで、お客さまの多様化するニーズへの対応に引き続き取り組んでまいります。また、2021年4月1日付けで営業体制を再編し、従来のFC店舗の支援・管理機能と直営店舗の営業機能を一本化することで、より高度かつ機動的な営業戦略の策定・遂行を図るとともに地域戦略の強化を目指してまいります。
一方、店舗網の強化に取り組む上で、FC店舗を含む人材の安定的な確保と雇用の拡大、能力向上とコンプライアンス体制の強化が課題であると認識しており、こうした営業体制の再編により、店舗チャネルの戦略的な運営を従来以上に推し進め、販売体制とコンプライアンス体制の強化に継続的に取り組んでまいります。
③ オペレーション体制
当社グループは、住宅ローン業務において、OCR(Optical Character Recognition)やRPA(Robotic Process Automation)、AI(Artificial Intelligence、以下同様)等の最先端テクノロジーを活かして、お客さまの利便性と事務効率の向上への取り組みを加速させております。2019年12月に導入したAIを活用したリスク管理システム「ARUHI ホークアイ1.0」に加え、不動産取引データから価格妥当性を判定する「ARUHI ホークアイ2.0」を2021年3月に導入いたしました。今後も引き続き当社グループ独自の先進的なテクノロジーを活用し、住宅ローン業務の自動化・ペーパーレス化等を通じた更なる事務処理能力、精度の向上及び事務コストの削減に取り組んでまいります。オペレーション体制の強化においては、イノベーション・チャレンジを継続することが当社の責務かつ課題であると認識しております。
また、当社グループは、こうした住宅ローンにおけるオペレーションの強みを活かし、事務コストを削減したい、煩雑な事務作業を外注したい、といった銀行等民間金融機関からのご要望にお応えする事務受託子会社を設立し事務受託事業を行っております。従来コストセンターであった住宅ローン事務を、テクノロジーを活用した独自の強みによりプロフィットセンター化することで、収益化への貢献も行ってまいります。
④ サステナビリティ
サステナビリティの方向性
当社グループは、多くの人が安心して暮らし続けることができる社会の実現を目指しています。また、お客さま・ビジネスパートナー・地域社会などの皆様の期待・要請に応え、高い倫理観のもとに住まいと暮らしをサポートするさまざまな事業を開発・推進することで、社会的課題の解決と持続的な企業価値の向上を図ってまいります。
環境
環境への取り組みにおいては、「良いものを受け継ぎ長く使う、循環型社会の構築に貢献する」「地球環境に配慮した、良質な住宅の普及を促進する」との考え方をベースに企業活動を行っており、当該考え方に基づいたグリーンRMBSを発行しています。グリーンRMBSの裏付け資産は、省エネルギー性能の高い住宅に対するローンである【フラット35】Sのうち適格基準を満たすものを選定しており、省エネルギー性に優れた住宅の普及促進に貢献しております。こうしたグリーンRMBSの発行は、日本初の取り組みとなるもので、2021年4月には「ディール・オブ・ザ・イヤー2020」で「ベスト・ストラクチャード・プロダクト」を受賞いたしました。今後も金融機関として環境負荷を減らす取り組みに努めてまいります。
- (注)
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- 1.RMBSとは、Residential Mortgage-Backed Securitiesの略称です。住宅ローン債権を裏付け資産として発行される証券のことで、グリーンRMBSは、その中でも高い環境改善効果が期待される住宅を取得するための住宅ローンを裏付け資産として発行されるものを指します。
- 2.【フラット35】Sとは、住宅金融支援機構が定める基準を満たす住宅について、当初一定期間の金利を引き下げる【フラット35】Sの制度を利用した住宅ローンを指します。
地域貢献
地域活性への取り組みにおいては、「本当に住みやすい街大賞」の選定を行っております。当社グループは住宅ローン事業で得られた膨大なデータを元に、あこがれやイメージではなく「実際にその地域で生活する」という視点から、住環境・交通利便・教育環境・コストパフォーマンス・発展性の5つの基準について、住宅や不動産の専門家が参画する選定委員会によって、公平な審査のもとに毎年「本当に住みやすい街」を選定しランキングを発表しています。主要な地域別に公表しているこのランキングはTV、雑誌、インターネットなどの多くのメディアに取り上げられ話題となっており、選出された街の商店街の看板やWebサイトなどにランキングを利用していただくことで、街のPRを後押ししております。また、選定された街と連携し地域活性化に向けた取り組みを行うことで、街の持続的な発展に貢献しております。
カスタマーファースト
当社グループはお客さまの満足度向上は最も重要な経営課題の一つであると考えております。当社の考える「お客さま」とは、住宅ローンにおけるお客さまだけでなく、ビジネスパートナー、地域社会、従業員等を含むさまざまな方であると定義しています。全社をあげて顧客満足度の向上への取り組みを行うため、社内のすべての会議体・すべての部署に対してお客さま満足に関する提言を行うCSD(カスタマー・サティスファクション・ディレクター)を設置し、「カスタマーファースト」をスローガンとして、全社的な取り組みを行っております。
「働きやすさ」と「働きがい」の両立
当社グループは、従業員一人一人がそれぞれのワークスタイル・ライフスタイルに合わせてその能力を最大限発揮できる多様性のある職場環境をめざし、その一環としてリモートワーク体制の積極的推進を行っております。
- (注)
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- 1.女性管理職比率については2021年3月期より組織長以上の管理職における女性比率としております。
- 2.いずれも2021年3月末時点
コンプライアンスファースト
当社グループは「コンプライアンスファースト」のスローガンを掲げ、テクノロジーの活用やオペレーションの改善を通じ、ルールに沿った適切な業務運営を行えるよう体制を整えております。FC店舗を含めたこれらの取り組みは継続して強化していくことが重要と認識しており、FC店舗を含む営業部門・オペレーション部門・管理部門などの全役職員に対し、コンプライアンス重視の徹底を教育・研修などを通じて浸透させ、コンプライアンス風土の醸成に引き続き努めてまいります。
⑤ 内部管理体制及び経営管理体制
コンプライアンス
当社グループは、当社の「Mission、Value」の企業理念を具現化した「アルヒ・コンプライアンス行動規範」を定め、FC店舗従業員を含む全役職員に周知しています。この行動規範では、社外のステークホルダーの皆さま(お客さま・株主・社会全般など)への行動規範と帰属する組織の一員(よりよい企業風土・組織の一員・経営者など)としての行動規範を定めています。
また、当社は、こうした行動規範を日常業務で継続的に想起し行動につなげるため、「コンプライアンスファースト」をスローガンに掲げるとともに、FC店舗を含む全店舗及び本社の執務室にコンプライアンスファーストのポスターを掲示しております。当社は、こうしたコンプライアンスカルチャーの醸成や教育・研修による意識の向上、自主点検や定期検査を通じた管理体制によりコンプライアンスの強化に継続的に取り組んでまいります。
リスク管理
当社グループは、リスク管理基本方針に基づくERM(Enterprise Risk Management)体制により、グループ全体のリスクを統合的に管理しています。事業領域の拡大や商品拡充に伴う新規リスクや既存リスクの継続的なモニタリングにより、リスクを適切にコントロールしながらビジネスの拡大と成長による企業価値向上に取り組んでまいります。
コーポレート・ガバナンス
当社は、CGコードを重視した経営を行うため、以下の基本的考え方に基づくコーポレート・ガバナンスを行っております。当社は、これからも透明で健全な企業経営を継続的に行ってまいります。
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ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方
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1)株主の権利に配慮し、権利を適切に行使する環境の整備を行います。
また、持続的な成長や企業価値の向上のため、株主総会及びその他の対話の機会を重視し積極的に対話を行います。 - 2)取締役会等は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、企業戦略等大きな方向性を示し、適切な執行のリスクテイクを支えるとともに、実効性の高い監督を行います。
- 3)永続的な企業価値の向上のため、お客さま・従業員・株主・取引先・債権者・地域社会等のさまざまなステークホルダーと協働し、相互の利益や価値を尊重します。
- 4)会社の経営成績及び財政状態だけでなく、非財務情報としての経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスについて積極的に開示し情報提供の充実による透明な経営を行います。
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1)株主の権利に配慮し、権利を適切に行使する環境の整備を行います。
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ⅱ.人事報酬委員会の設置
役員の人事・報酬決定の透明性を確保するため、取締役会の諮問機関として、社外取締役を中心とした人事報酬委員会を設置しています。 -
ⅲ.取締役会の実効性向上
コーポレート・ガバナンスの要である取締役会の実効性向上に向けた課題を明らかにし、改善を図ることを目的として、実効性評価を行っています。 -
ⅳ.ガバナンス体制
当社のガバナンス体制は以下のとおりです。
なお、取締役会の過半数が独立社外役員であり、監督機能を十分に発揮できる構成となっています。
(注)2021年6月24日の株主総会以降の体制は、同株主総会において第2号議案が承認された場合、業務執行取締役と非業務執行取締役(独立社外取締役)が同数となりますが、業務執行取締役が過半数を占めることとはならないため、引き続き監督機能を十分に発揮できる取締役構成であります。