事業報告(2021年4月1日から2022年3月31日まで)

SUBARUグループの現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当期の世界経済は、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んだことなどにより、回復基調となりました。一方、新型コロナウイルスの変異株による感染症の再拡大、経済活動の再開に伴う物流の混乱、ロシア・ウクライナ情勢の悪化などにより、依然として先行きの不透明な状況が続いています。

このような経営環境のなか、当社グループでは新型コロナウイルス感染症の予防と拡大防止を継続しながら、事業活動を進めてきました。中期経営ビジョン「STEP」の重点取り組みである「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUらしさの進化」を推進し、その進捗状況を2021年5月に公表し、その後も改革を着実に推し進めてまいりました。

当期の連結決算は、年間を通じた半導体の供給不足が発生したことに加え、第2四半期には東南アジアでの新型コロナウイルス感染症拡大により、当社がお取引先様から調達している部品の供給制約が継続し、米国および国内の生産拠点において生産調整や操業の一時停止を余儀なくされました。これらの影響により、売上収益は2兆7,445億円と前期に比べ857億円(3.0%)の減収となりました。

利益面についても、販売奨励金の抑制や保証修理費の低減を行ったほか為替変動による増益効果などがあったものの、原材料価格の高騰や自動車売上台数の減少などにより、営業利益は905億円と前期に比べ120億円(11.7%)の減益、税引前利益は1,070億円と前期に比べ70億円(6.1%)の減益、親会社の所有者に帰属する当期利益は700億円と前期に比べ65億円(8.5%)の減益となりました。

事業別の概況

売上高
前期比 %減
詳細はこちらを閉じる
事業別
売上高構成比
%

当期の自動車業界は、経済とともに需要も回復基調にありますが、世界的な半導体の供給不足などにより、各国の自動車の生産が滞り、販売にも影響を及ぼす結果となりました。当社の重点市場である米国の自動車全体需要は約1,450万台と前期を約4%下回りました。また、国内の自動車全体需要は約420万台と前期を約9%下回る結果となりました。

このような事業環境のなか、当社もお取引先様から調達している部品の供給制約が継続し、米国および国内の生産拠点において生産調整や操業の一時停止を行ったことにより、海外の売上台数は64.5万台と前期に比べ11.4万台(15.0%)の減少、国内の売上台数は8.9万台と前期に比べ1.2万台(12.1%)の減少となりました。

フォレスター
アウトバック ウィルダネス(米国仕様車)

以上の結果、海外と国内の売上台数の合計は73.4万台と前期に比べ12.6万台(14.7%)の減少となりました。売上収益は2兆6,775億円と前期に比べ600億円(2.2%)の減収となりました。また、セグメント利益は925億円と前期に比べ165億円(15.2%)の減益となりました。

売上高
前期比 %減
詳細はこちらを閉じる
事業別
売上高構成比
%

新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を受け、「ボーイング787」の引き渡しが減少したことなどにより、売上収益は623億円と前期に比べ254億円(29.0%)の減収となりました。セグメント損失は70億円と前期に比べ28億円(28.6%)改善しました。

このような事業環境を踏まえ、前期に引き続き、事業構造のダウンサイジングや経費削減、事業部門をまたいだ一時的な配置転換をはじめとする体質強化活動に航空宇宙事業部門一丸となって取り組み、着実に成果も出てきております。今後、必ず回復する航空機需要に備えつつ、ヘリコプター事業の拡大など事業構造の立て直しも図ってまいります。

SUBARU BELL 412EPX(イメージ)

売上高
前期比 %減
詳細はこちらを閉じる
事業別
売上高構成比
%

売上収益は48億円と前期に比べ3億円(5.0%)の減収となりました。セグメント利益は48億円と前期に比べ17億円(55.8%)の増益となりました。

対処すべき課題

当社は、2021年5月に中期経営ビジョン「STEP」の進捗報告を行い「STEP2.0」として公表いたしました。これを機に、従来、複数存在していた企業指針を整理し、以下のとおり改定しました。

<ありたい姿、提供価値、経営理念>

経営理念は、『"お客様第一"を基軸に「存在感と魅力ある企業」を目指す』です。これは約10年前に定めたものです。

当社グループが、お客様に提供する価値は、『安心と愉しさ』です。これも上記の経営理念と同時期に定めたものですが、時代や外部環境の変化に左右されない「SUBARUらしさ」を深化させ、SUBARUブランドをさらに高めていくためには必須の提供価値と認識しております。

ありたい姿は『笑顔をつくる会社』です。これは5年前、株式会社SUBARUに社名変更した際に定めたものですが、SUBARUのお客様の振る舞いから教えられたことでもあります。

これらに基づいて、SUBARUを自動車事業と航空宇宙事業におけるグローバルブランドとして持続的に成長させ、中長期的な企業価値を向上させてまいります。

中期経営ビジョン「STEP」

自動車業界が大変革期にあるなかで、変化を見極め、スピード感をもって対応していくことが必要です。当社グループは「安心と愉しさ」の提供を通じてお客様から共感され信頼していただける存在となることを目指し、2018年7月に中期経営ビジョン「STEP」を公表し、2025年ビジョンとして次の3つの項目を掲げております。

<2025年ビジョン>
  • 1.個性を磨き上げ、
    お客様にとってDifferentな存在になる
  • 2.お客様一人一人が主役の、
    心に響く事業活動を展開する
  • 3.多様化する社会ニーズに貢献し、
    企業としての社会的責任を果たす

2025年ビジョンの実現に向けて「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUらしさの進化」を重点取り組みとして活動を進めてまいりました。

中期経営ビジョン「STEP」も、2018年の発表から約4年が経過いたしましたが、これらの重点取り組みは、着実に進捗しております。

「組織風土改革」については、「個の成長」に焦点を当てた活動を推進し、従業員一人ひとりが成長や働きがいを実感できるよう、エンゲージメントを高めるフェーズへ移行しております。

「品質改革」では、品質の高さをSUBARUブランドの大事な根幹、付加価値の源泉であると位置づけております。新技術への対応を含め、品質改革の取り組み結果を実績で示すフェーズとして取り組みを進めております。

「SUBARUらしさの進化」については、2020年1月の技術ミーティングにおいて発表いたしました「死亡交通事故ゼロ※1」と「脱炭素社会への貢献」に向け、「安心と愉しさ」を支える技術をより一層進化させます。さらに、当社の強みであるAWDの制御ノウハウをモーター制御にも活用するなど、電動化の時代においても「SUBARUらしさ」を強化していきます。

これらの取り組みを通じて「個性を磨き上げお客様にとってDifferentな存在になる」ことを目指し、SUBARUとお客様との深い関係性をさらに深化させてまいります。

このお客様との深い関係性は、SUBARUブランドの財産であり、失われないようにしていかなければならないと認識しております。

お客様の生活に寄り添い、お客様とともに「愉しく持続可能な社会の実現」に向けて取り組んでまいります。そして、人、社会、地球までをも笑顔にしたい、そのようなSUBARUでありたいとの想いから、「笑顔をつくる会社」をありたい姿としております。

※1:SUBARU乗車中の死亡事故およびSUBARUとの衝突による歩行者・自転車などの死亡事故をゼロに

価値創造プロセス図

① 事業継続計画(BCP)への対応

当社は新型コロナウイルス感染症発生の初期から、CEOをトップとした「新型肺炎特別対策本部」を設置※2し、CRMOの全体統括のもと、お客様やお取引先様、当社グループの従業員の感染防止と安全確保に努めつつ、事業活動を継続してまいりました。従業員の感染予防については、感染拡大の終息が見通せない現状においても、必要な感染予防対策を継続しております。また、従業員とその家族に対しての健康状態の把握や支援、ワクチンの職域接種の実施など健康と安全確保を最優先に取り組んでおります。

さらに、ITインフラの強化やフレックスタイム勤務におけるコアタイム廃止など、ニューノーマルな執務体制への移行を進め、全事業所の間接部門を中心に在宅勤務制度を導入し、働き方改革を進めてまいりました。

加えて、新車発表などのイベントをオンライン化することで、感染予防だけでなく、SUBARUの提供価値をより多くのお客様に直接触れていただく機会を創出しました。今後も新型コロナウイルス感染症の状況を注視しつつ、ステークホルダーの安全確保とSUBARUブランドの発信強化に努めます。

※2:「新型肺炎特別対策本部」は2022年3月末日に終結し、withコロナ下の管理体制として、通常の事業活動のなかで必要な新型コロナウイルス対策を図る体制としました。

自動車事業においては、2020年後半に顕在化した世界的な半導体不足を、引き続き重大な経営リスクとして捉えております。加えて、東南アジアでの新型コロナウイルス感染拡大の影響などにより、お取引先様から調達している部品の一部で供給に支障が生じ、2021年1月、4月、9月、12月、2022年1月、2月において数日間、工場の操業を停止するなどの生産調整を余儀なくされました。また、2022年3月17日に発生した福島県沖の地震でも、一部の部品で供給に支障が生じたことから3月も2稼働日の操業を停止いたしました。

引き続き、部品の供給は予断を許さない状況ですが、その対応として、執行役員の担当業務の変更を伴うサプライチェーンマネジメントの体制強化、代替品への切り替え促進、商品の仕様の見直し、車種および工場間における部品の振り替えなどを実施しております。一日でも早くお客様へ商品を提供することを目指し、調達および製造部門を中心とした全社一丸の取り組みを強力に進めてまいります。

また、前述のような調達課題のほか、貴金属や鋼材といった原材料価格の高騰による収益性の悪化についても課題と捉えており、収益確保に向けた取り組みを遅滞なく進めてまいります。

なお、昨今のロシア・ウクライナ情勢に関する影響につきましては、当社の経営に及ぼす影響は限定的と見込んでおります。当社は当該地域での現地生産を行っておりません。また、両国への商品の販売は、現地法人を介する形態を採っております。2021年の年間の販売規模はロシアでは約5千台、ウクライナでは約5百台となっております。これらの事情から、影響は限定的と見込んでおります。一方で、当社製品に使用する調達部品や原材料などの供給、コストへの影響の有無につきましては、引き続き状況を注視してまいります。

航空宇宙事業においては、昨年から引き続き、事業部門を越えた人員の配置転換による雇用の確保と事業部門内における固定費の圧縮を強力に推進し、今後の需要回復に備えた対応を進めております。

② 中期経営ビジョン「STEP」の推進

当社は2018年7月に発表した中期経営ビジョン「STEP」の進捗報告を2021年5月に行いました。重点取り組みとした「組織風土改革」「品質改革」「SUBARUらしさの進化」のこれまでの実績と今後の取り組みの方向性は次頁のとおりです。

(組織風土改革)

「意識を変え、行動を変え、会社を変える」を当期も継続して合言葉に掲げ、全社で活動を推進してまいりました。具体的には、全社活動として3年目となる「役員講話リレー」「部長対話リレー」のほか、新たな取り組みとして「社長対話会」や他企業の経営層リーダーを招いての「社外対話会」を実施し、一人ひとりの意識を変え、行動の変革につながる活動を進めてまいりました。

これらの取り組みにより、経営課題の共有から外を知るための様々な対話会など、従業員の意識を変え、その成長につながる機会を増やしてまいりました。

また、コロナ禍により加速したITツールの充実や活用が追い風となり、部門や職位を越えた全社横断的なコミュニケーションが自発的に行われ、組織の活性化の一助となっております。

加えて、「新人事制度」や「公募型ジョブローテーション」も導入し、従業員が自らのキャリアビジョンを実現するためにチャレンジできる仕組みも整えてまいりました。今後、「個の成長」をさらに強化し、仕事の成果や達成感を通じて従業員エンゲージメントを高めるとともに、「個の成長」を「組織の成長」につなげることを目指してまいります。その実現のために、これまで経営企画部が推進してきた「組織風土改革」と人事部が主導してきた「働き方改革」「人事戦略」を包括し、一体となって活動を強化していまいります。

(品質改革)

品質改革は3つの切り口で活動を推進しております。

1つ目は、品質改革の土台としての「品質最優先の意識の徹底と体制強化」。「品質方針」の見直しや品質マニュアルを刷新することにより、SUBARUの目指す姿を再定義し全社での啓発活動や振り返り活動を行うことで、従業員一人ひとりの品質意識の変革を促しております。

2つ目は、生産準備以降の領域において、不具合の流出防止を目指す「つくりの品質の改革」。これには市場で発生してしまった不具合に対して、迅速な解決策を講じることも含まれております。重点市場である北米における品質保証体制の強化に向けて品質改善チーム「FAST※3」を立ち上げたほか、2022年度以降には「新完成検査棟」を稼働させる予定です。また、不具合に対する調査能力の向上を目的とした「品証ラボ」の設置や部品トレーサビリティの強化を進めることで、品質改善の対応スピードを向上いたします。

3つ目は、初期の検討段階から開発・設計に至るプロセスを改革する「生まれの品質の改革」。開発最上流から生産・物流まで一気通貫での品質確保をいたします。また、開発責任者の権限の強化や開発プロセスの変更なども進めております。

これら3つの領域での品質改革は着実に進んでおりますが、まだ道半ばであり、お客様や販売店に対してその成果を十分に示すことができていない状況にあります。品質の高さはSUBARUブランドの大事な根幹であり、付加価値戦略の源泉でもあります。引き続き、品質改革に向けた取り組みを強力に推し進め、着実に実績につなげてまいります。

※3:Fast Action & Solution Team

(SUBARUらしさの進化)

2020年1月の技術ミーティングで発信した「2030年死亡交通事故ゼロを目指す」「個性と技術革新で脱炭素社会へ貢献していく」ことを実現するために、SUBARUが提供する価値である「安心と愉しさ」を支える技術を強化してまいります。

死亡交通事故ゼロに向けては、2020年に市場導入した高度運転支援システム「アイサイトX(エックス)」に続き、2022年4月には、アイサイトの能力を強化し、さらに広い範囲を認識できる「広角単眼カメラ」を北米市場向けのアウトバックに新採用することを発表いたしました。今後、採用車種や展開市場の拡大を検討いたします。SUBARUはこれからも、死亡交通事故ゼロへ向けた取り組みを強力に進めてまいります。

脱炭素社会への貢献に向けては、SUBARU初のグローバルに展開するBEV※4のトップバッターとして「SOLTERRA(ソルテラ)」を発表し、2022年5月12日より日本市場において受注を開始しました。日本・米国・欧州のメディアなどを対象に実施したプロトタイプの雪上試乗会において、モーター駆動によるAWDや動的質感はSUBARUらしさとの親和性が高いことを多くの方々に実感いただきました。また今後、電動車を拡充し、自社製BEVを生産すべく、工場の再編に取り組む予定です。生産体制のロードマップとして、2025年付近をターゲットにBEVの自社生産に着手し、段階的に供給能力を高めてまいります。

※4:Battery Electric Vehicle(電気自動車)

今後の激しい変化に対応しつつ、SUBARUらしい商品を実現しうる技術を培い、高め、蓄積し、将来にわたって市場競争力を維持するため、2021年4月に車体やパワーユニットといった機能組織ベースの開発から、機能軸に価値軸を有機的に組み合せる開発体制に変更いたしました。これにより、縦割り型の部門最適・車種最適の視点から全社最適へと視座を広げるとともに、将来的な技術の取り入れにも柔軟に対応することを目指してまいります。

③ アライアンスの深化

自動車業界を取り巻くイノベーションは加速しており、いわゆる「CASE※5」領域での対応が求められております。トヨタ自動車株式会社(以下、「トヨタ」)と電動化技術、コネクテッド領域、自動運転領域などの分野で協業を深化・拡大させることを通じて、変化へ柔軟に対応してまいります。

具体的な取り組みとして、「SOLTERRA」は、両社の強みを持ち寄り、共通の想いである「もっといいクルマづくり」を具現化しております。THS(TOYOTA Hybrid System)を採用した「次世代e-BOXER」を複数の車種へ搭載することも着実に進めてまいります。

また、内燃機関の活用の選択肢を広げる挑戦として、カーボンニュートラル燃料を使用したレース車両で「スーパー耐久シリーズ2022」に参戦しております。トヨタと協調し、かつ、競いながら、「モータースポーツを基点としたもっといいクルマづくり」を進めるとともに、エンジニアの育成やカーボンニュートラル社会の実現を目指す活動に取り組んでおります。

※5:Connected(コネクテッド)
Autonomous(自動運転)
Shared(シェアリング)
Electric(電動化)

連結計算書類