事業報告(2020年4月1日から2021年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過及びその成果

市場環境

近年のデジタル化の加速と今般の新型コロナウイルス感染症の拡大によって、当社グループが所属するICT(情報通信技術)市場は大きな変革期を迎えています。お客様の多くは、新事業の創出や既存事業の効率化による「事業の成長」と、テレワークに代表される働き方の抜本的な見直しによる「事業の継続」の双方を実現するために、ICTの利活用を拡大しています。

このような市場環境で当社グループが継続して成長するためには、高付加価値の創出、即ちネットワーク・クラウド・セキュリティ・働き方改革等の高品質なICT基盤の導入に加えて、それらの効果を最大化する「利活用の加速」までを一貫して支援することで、明確な投資対効果をお客様にお届けすることが必要です。

これを踏まえ、当社グループは、2020年3月期~2022年3月期の3年間を対象期間とした以下の中期事業計画を定め、市場の変化に対応した取組を進めています。

中期事業計画と当連結会計年度の取組

当社グループの企業理念は、「ICTの利活用を通じて、社会変革へ貢献する」ことです。ICT市場の変革に対応し、高付加価値を創出するために、「お客様・パートナーの成長」「会社の成長」「社員の成長」を実現します。

そして、これらの3つの成長を実現するために、以下の3つの基本戦略を進めています。

1.注力市場・新モデルの拡大:市場カバレッジの拡張

注力市場として、デジタル化が大きく進展する3つの市場を選定しています。1)大規模病院を対象とした「ヘルスケア」、2)教育委員会や学校を対象とした「スクールシステム」、3)製造工場を対象とした「スマートファクトリー」です。

また、新モデルとして、「所有から利用」への需要の変化を捉えた2つのモデルを選定しています。1)サービス事業者(通信事業者や大手民間企業)と新サービスを共創する「MSP(マネージド・サービス・プロバイダー)の支援」、2)再生品を活用してコスト効率の高いサービスを提供する「リファービッシュメント(再生品)の展開」です。

中期事業計画期間において、注力市場及び新モデルそれぞれで受注高50億円の伸長(合計250億円の伸長)を計画しています。各市場・モデルにおける、当連結会計年度の状況は以下のとおりです。

2.統合サービス事業の加速:サービス比率の拡大

当社グループでは、お客様への活動の全てを、高付加価値を創出するための「統合サービス事業」と定義し、計画・導入・運用・最適化の全てのICTライフサイクルを支援しています。当中期事業計画期間では、サービス比率を50%まで増加させることを計画しています。

当連結会計年度では、高付加価値サービスの提供に向けて、運用・最適化サービスの拡大、お客様ICT基盤のグランドデザイン段階からの支援及びお客様と創出価値を対話する施設の整備等の各種取組が順調に進捗しました。

3.働き方改革2.0/DXの実践:生産性の向上

当社グループは2010年より、いつでも・どこでも業務を行うことが可能な環境を整備してきました。これを「働き方改革1.0」と称しています。これに加えて、全ての業務を見直してシステムと一体化することで、業務のスピードや品質を向上させ、全社の生産性向上に取り組んでいます。これを、「働き方改革2.0/DX」と呼びます。また、「働き方改革2.0/DX」の取組を通して得られた成功・失敗の知見をお客様に還元する(netone on netone)ことで、他社が真似できない当社独自の価値の提供に取り組んでいます。

当連結会計年度では、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、当社においても働き方改革に係る取組を全社を挙げて推し進め、テレワークを中心とする新しい働き方・デジタル化を実現しました。また、DXに関しては、データの可視化や業務の自動化の実現に向けた詳細設計及び新収益認識基準への対応準備を進めました。

新型コロナウイルス感染症の影響及び対応状況

当連結会計年度では、新型コロナウイルス感染症の影響として、テレワーク等の働き方改革による新たな事業機会の獲得が実現できた一方で、一部の製造業・病院・パートナー企業において投資の低減傾向がみられました。

新たな事業機会の獲得

お客様は、緊急事態宣言時等のテレワーク対応及びWith/Afterコロナを見据えた事業継続の観点から働き方の抜本的な見直しを進めています。当社グループは、テレワーク環境を実現する仮想デスクトップ・Web会議等の各種システム及び社外でも安全に業務を進められるセキュリティ対策の提供を通して、お客様の事業継続・働き方改革を支援しました。

お客様の投資低減

製造業では、投資優先順位の高いデジタル化への取組は加速したものの、既存設備の更新等についてはその時期を延期する動きがありました。病院では、新型コロナウイルス感染症への対応を優先し、ICT投資が減少しました。パートナー企業では、テレワーク等の業務環境の変化やエンドユーザの業績の影響を受けて事業が低調となりました。

当社グループの事業継続性の向上

当社グループは、既にテレワークでも業務を進められる環境を整備しており(働き方改革1.0)、緊急事態宣言時にも迅速かつ柔軟に対処することができました。その後、人事制度を最適化して、2020年10月よりテレワークを原則とする働き方へと移行しました。

また、ICT基盤の保守・運用サービス施設であるコンタクトセンターを、Web会議/チャット/仮想デスクトップ/モバイルの活用により完全テレワーク化し、出勤が困難な状況においてもお客様へのサービス提供に影響が無い体制を構築しました。

不正事案及び過年度業績の修正について

当社は、2019年11月に東京国税局による指摘を端緒に、同年12月13日から2020年3月11日まで特別調査委員会による調査を実施し、同月12日に特別調査委員会の「納品実体のない取引に関する調査最終報告書」を開示しました。

その後、外部機関からの指摘があり、当社元従業員による資金流用の疑義を認識したため、当社とは利害関係を有しない外部の弁護士及び公認会計士で構成される外部調査委員会を設置し、調査を進めてまいりました。当社は、2020年12月16日及び2021年3月18日に外部調査委員会の調査報告書を開示いたしました。かかる調査により、①当社の元従業員が、仕入先との間の架空取引又は水増し取引を利用して、当社の資金を不正に流用したこと、②当社の従業員及び元従業員が、リース会社又は仕入先に「リスク費」を保留し、原価付替を行っていたこと、③当社の元従業員が、複合取引において原価付替を行っていたこと、④内部監査室の実施する財務報告に係る内部統制の評価業務において不適切なサンプリングが行われていたことが判明いたしました。

また、2021年3月期第2四半期決算準備の過程において、外部機関の指摘により、上記納品実体のない取引に関して行った会計処理の一部に誤りが存在した可能性を認識したことから、当社は、社内調査チームによる事実確認を実施し、2020年12月16日に社内調査チームによる調査結果を開示いたしました。かかる調査により、⑤当社が2020年3月に行った過年度決算訂正において、第31期から第33期の3期間にわたって計上した、納品実体のない取引に関連する立替金約51億円に係る特別損失は、一連の架空循環取引の開始時点である第29期から第33期の期間にわたって負担すべき性質を有するものであったこと、⑥上記納品実体のない取引に関し、当社から複数業者へ流出した資金の一部が当社が売上として計上した取引にかかる役務や物品の提供に充てられていたこと、⑦2020年3月の過年度決算訂正時において納品実体がないと認定した仕入取引の一部について、実在性があったこと等が判明いたしました。

当社は、外部調査委員会及び社内調査チームによる調査結果に基づき、これらの事項について適切な会計処理を行う必要があるとの認識に至ったため、過年度の当社連結財務諸表及び財務諸表を訂正しました。2021年3月期第1四半期までの親会社株主に帰属する当期純利益(純資産)への累計影響額は△13億29百万円となりました。

なお、当社は、2021年3月18日付「『外部調査委員会調査報告書~ガバナンス・企業文化の観点から~』の受領及び開示版の公表に関するお知らせ」のとおり、外部調査委員会から、外部調査委員会の2020年12月14日付調査報告書において指摘された不正事案等の原因に関する調査結果及び再発防止策の提言を受けました。当社は、外部調査委員会の調査結果・提言を真摯に受け止め、当社の再発防止策を決定し、取組を進めています。

当連結会計年度の業績概要

当連結会計年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響があるものの、スクールシステム(GIGAスクール構想を含む)・テレワーク拡大・セキュリティ対策・クラウド基盤等のビジネスが堅調に推移しました。これらの結果、当連結会計年度における受注高は2,035億20百万円(前年同期比0.5%減)、売上高は2,021億22百万円(前年同期比8.5%増)、受注残高は949億15百万円(前年同期比1.5%増)となりました。

損益につきましては、「統合サービス事業」が進捗したことにより、機器商品群・サービス商品群の収益性が改善し、売上総利益は559億13百万円(前年同期比14.2%増)となりました。従業員数の増加及び従業員のテレワーク環境を支援したことで販売費及び一般管理費は362億39百万円(前年同期比11.7%増)となり、営業利益は196億73百万円(前年同期比19.2%増)となりました。経常利益は、不正取引に関する調査費用等並びに新型コロナウイルス感染症対策の支援を目的とした寄付金を営業外費用に計上したことにより182億8百万円(前年同期比11.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は123億21百万円(前年同期比25.5%増)となりました。

商品群別概況

当連結会計年度において、商品群別の受注高・売上高・受注残高は以下の表のとおりとなります。

機器商品群では、受注高は昨年度に受注した大型案件が剥落したものの横ばいで推移しました。売上高はGIGAスクール案件によって増加しました。

サービス商品群では、「統合サービス事業」が進捗し、受注高・売上高・受注残高が増加しました。

ご参考:商品群について

当社グループでは、機器商品群(ICT製造メーカーから仕入・販売)と、サービス商品群(当社の人財が役務サービスとして提供)に分けて記載しています。

当社独自の付加価値でお客様に最適なICT基盤を提供できるようサービス比率の向上に努めてまいります。

市場別概況

お客様ニーズが多様化する中、ICT市場は地域や企業の状況によってマーケット特性が異なります。市場を注視し、お客様に応じた最適なソリューションを提供するため、当社グループでは、市場を大きく4つに区分しています。当連結会計年度において、市場別の受注高・売上高・受注残高は以下のとおりとなります。

エンタープライズ市場 
民間企業向け

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主な事業内容

製造業(自動車、電機等)、非製造業(運輸、サービス等)、国内金融機関、外資系企業等、大手民間企業に向けてビジネスを展開しております。競争力強化に向けた情報活用や働き方改革・コスト削減等を、ICT基盤の利活用を通じて支援しております。

当連結会計年度の概況

新型コロナウイルス感染症対応への要望が強く、テレワークの拡大、セキュリティ対策、クラウド基盤ビジネスが堅調に推移した一方で、新型コロナウイルス感染症の影響で、投資意欲の減少や一部案件の延期が発生し、受注高・売上高は前期比で減少しました。

通信事業者市場 
通信事業者向け

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主な事業内容

固定・移動体通信事業者向けにビジネスを展開しております。お客様とともに、社会インフラとしての安心・安全なインターネット基盤やクラウドコンピューティング基盤の整備を行っております。

当連結会計年度の概況

設備投資意欲は全体的に低調なものの、サービス基盤や法人事業の支援、テレワークの増加に伴う回線の増強が好調に推移し、受注高・売上高は前期比で増加しました。

パブリック市場 
公共向け

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主な事業内容

官公庁・自治体、文教、社会インフラを提供している企業(ケーブルテレビ、電力等)、ヘルスケア(病院)等の公共機関向けにビジネスを展開しております。公的情報等に対するセキュリティの強化や、投資コストを最適化する共通基盤の整備を行っております。

当連結会計年度の概況

ヘルスケアが低調であった一方で、スクールシステム(GIGAスクール構想を含む)が好調に推移し、受注高・売上高は前期比で増加しました。

パートナー事業(ネットワンパートナーズ株式会社) 
パートナー向け

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主な事業内容

パートナー企業との協働事業(再販ビジネスモデル)により、当社グループのみでは対応できない、幅広い市場に向けたビジネスを展開しております。当社グループのICT基盤ソリューションと、パートナー企業のシステムソリューションを融合して、市場ごとに最適な付加価値を創出しております。

当連結会計年度の概況

パートナー各社が新型コロナウイルス感染症の影響を受けた結果、一部案件の延期もあり、受注高は前期比で減少しましたが、昨年度に受注した大型案件が寄与し、売上高は前期比で増加しました。

対処すべき課題

当社グループは、不正事案の再発防止を最重要課題とするとともに、継続して中期事業計画に沿った事業成長を図ってまいります。

不正事案の再発防止
外部調査委員会による原因分析

外部調査委員会は、不正事案の原因について、「外部調査委員会調査報告書~ガバナンス・企業文化の観点から~」において以下のように分析しています。

1)内部統制・内部通報・企業文化の視点からの分析

主要な問題点としては、3ラインモデル(組織のリスク管理・統制活動のモデル。一般的に、第1ライン:事業部門、第2ライン:管理部門、第3ライン:内部監査部門、で構成される)のうちの第1ラインについては、営業部門内において、また、営業部門と他部門の間においてチェック機能が欠如していたこと等が挙げられ、第2ラインについては、責任部門や役割の分担が不明確なリスクの管理体制、不十分なリスクモニタリング活動及びコンプライアンス活動が挙げられる。そして、かかる第1ライン及び第2ラインの問題点を生み出した東日本第1事業本部を中心として存在する企業文化については、業績を上げることを過度に重視する価値観、営業担当者個人に責任を集中させるやり方、経営陣と現場の意識の乖離といった問題点が挙げられる。

2)三様監査の視点からの分析

監査役及び内部監査室において不正リスクへの意識が希薄であったこと、内部監査室におけるフォローアップ、能力、被監査部署との関係に問題があったこと、監査役、会計監査人と内部監査室との連携及び経営陣と内部監査室との連携が必ずしも十分でなかったことなどが挙げられる。また、内部監査室の業務の一つである内部統制評価業務の形骸化も確認された。

3)過去調査を踏まえた再発防止策の不徹底という視点からの分析

過去の不正事案の再発防止策は、管理部門が主導して作成されたものであり、「現場を良く知る人間」の関与が不十分であったため、必ずしも現場の実務を反映しておらず、ルールが不足、形骸化していた等の問題点が確認された。

4)ガバナンスの視点からの分析

当社の経営トップをはじめとする経営陣は、リスク管理体制の脆弱性を認識しながら、その是正のための取組を行っておらず、また、過去に会計不正事案が繰り返し発生していたにもかかわらず、コンプライアンスについて役職員に対して強いメッセージを十分に発してこなかったなど、会計不正リスク管理の観点から経営陣の認識や取組について問題なしとはし得なかった。

当社では、外部調査委員会からの提言を受け、2021年4月1日付で刷新した経営体制の下、2020年12月16日付で提出した改善状況報告書に記載の再発防止策を全面的に見直して以下の新たな再発防止策を講じてまいります。今後、組織単位による中長期的な成長を視野に入れた経営体制へとシフトし、再発防止策を実行することで内部統制を実効的に機能させ、抜本的な企業統治や企業文化の改革に全社一丸となって取り組むことにより、信頼回復に向け邁進してまいります。詳細は、2021年5月13日公表の「再発防止策の追加について」をご覧ください。

中期事業計画の推進

当社グループは、継続した成長に向けて、引き続き以下の3つの基本戦略に取り組みます。

1.注力市場・新モデルの拡大:市場カバレッジの拡張

各市場・モデルにおいて、以下の取組を進めてまいります。

2.統合サービス事業の加速:サービス比率の拡大

継続した高付加価値サービスの提供に向けて、ネットワーク・クラウド・セキュリティ・働き方改革等の高品質なICT基盤の導入に加えて、その効果を最大化する「利活用の加速」まで一貫して支援することで、お客様のデジタル化におけるビジネスパートナーの地位確立を図ります。

また、自治体情報セキュリティクラウド等の仕様が共通している案件について、提供ソリューションを統一することで品質向上及び生産性向上を図ります。

3.働き方改革2.0/DXの実践:生産性の向上

働き方改革2.0においては、新しい働き方におけるコラボレーションを加速する、バーチャルとリアルを融合させたオフィスの検討を進めます。また、DXにおいては、再発防止策として、ガバナンス強化機能の追加を優先します。

市場別の要望と取組

エンタープライズ市場では、お客様単体ではなくグループ全体でのデジタル化(スマートファクトリーを含む)・セキュリティ強化・クラウド活用・働き方改革への要望が増加しています。通信事業者市場では、法人事業・MSPビジネスにおける、民間企業・公共機関向けのデジタル化・セキュリティ強化ビジネスの支援要望が増加しています。パブリック市場では、全国的に自治体情報セキュリティクラウドやセキュリティ強靭化システムの更新需要が高まっています。そして、パートナー事業では、協業ビジネス・MSPビジネスにおいて当社ソリューションへの期待が高まっています。

当社グループは、統合サービス事業の各種ソリューションによって、これらの要望に対応します。そして、それらソリューションの統一化によって高品質かつコスト効率の高いシステムを実現します。

また、各市場共通の取組として、新型コロナウイルス感染症の影響が続く状況において、当社グループの働き方改革のノウハウの提供とともにテレワーク環境・セキュリティ対策の実装を進めることで、お客様の事業継続に貢献します。

中期事業計画の最終年度となる2022年3月期の連結業績につきましては、売上高2,090億円、営業利益220億円、経常利益220億円、親会社株主に帰属する当期純利益150億円、営業利益率10.5%、サービス比率45.0%、ROE19.2%を予定しています。営業利益・営業利益率・ROEにおいて、中期事業計画を達成する見通しです。

(注)上記の業績見通しは、当社が現時点で合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績と大きく異なることがあります。

中期経営指標

当社グループは、「すべてのステークホルダーから信頼され支持される企業」を目指し、ガバナンス・企業文化の改革に最注力するとともに、新たな付加価値の創出に挑戦し続けることで、企業価値の向上に努めてまいります。

連結計算書類