事業報告(2023年4月1日~2024年3月31日)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過及び成果

当社グループは主に国内の総合病院等の顧客向けに心臓領域を中心とする医療機器事業を展開しております。日本の医療需要は、人口の高齢化に伴い増加しており、今後もそのトレンドは継続することが予想されております。一方、医療供給はひっ迫しており、各種医療サービスの持続可能性が懸念されております。国は、現行の医療システムが医療従事者の慢性的な長時間労働に依存している状況を改善するため、「医師の働き方改革」を推進しております。

このような状況において、医療機器業界で厳しい競争に勝ち残るには、単に治療効果の高い製品を提供するだけでなく、持続可能な医療を実現するための様々な課題の解決にも貢献していく必要があります。当社グループは、メーカーと商社の2つの機能を併せ持つ強みを活かし、柔軟で強固なプロダクト・ポートフォリオを構築することで、これに取り組んでおります。

当社グループは、2023年5月に中長期の成長戦略として、5か年の中期経営計画を発表しました。本計画の1年目にあたる当期は、「新領域の拡大」「競争力のある製品の継続的導入」「資本効率を意識した経営の強化」に重点的に取り組みました。

「新領域の拡大」においては、脳血管領域で血栓吸引カテーテル等の複数の新商品を上市したほか、消化器領域では主力製品と位置付けている胆管チューブステントの大幅なシェアアップを達成しました。

「競争力のある製品の継続的導入」においては、コア自社製品における競合他社の新規参入に対抗すべく、心腔内除細動カテーテルやオープンステントグラフトの製品ラインナップを大幅に強化・拡充しました。さらに、術後の患者様のクオリティ・オブ・ライフの改善と医療現場の負担軽減の両方が期待できる大腿静脈用止血デバイスを新たに上市しました。

「資本効率を意識した経営の強化」においては、取締役に対する業績連動株式報酬制度の改定及び従業員向けの業績連動決算賞与の新規導入、営業効率の改善を図るためのデジタルマーケティングの推進、自己株式の取得を通じた株主還元の強化等に取り組みました。

上記施策の順調な進捗に加え、当期は新型コロナウイルス感染症が感染症法上で季節性インフルエンザと同等の位置付けに変更され、営業活動の制約が緩和されたこと、心房細動のアブレーション症例数が前期比8~9%程度増加したこと等が業績の追い風となりました。

なお、当期においては、外国為替相場が大きく円安方向に変動しましたが、当社グループの業績に対する影響は限定的でした。商品仕入の約70%は円建てであること、さらに、売上原価に移動平均法を用いているため、調達コストの一時的な増加が生じてもその影響は長期間にわたって平準化されることが、その主な理由です。

当連結会計年度の業績は以下のとおりです。

  • ① 売上高
    売上高は51,384百万円(前期比0.7%減)となりました。詳細は後段の「品目別売上高」に記載しております。
  • ② 売上総利益
    売上総利益は30,986百万円(前期比3.7%増)となりました。心房細動のアブレーション症例数の増加による自社製品の増収により、「RF Needle(アールエフニードル)」の商流変更による減収の影響を吸収しました。また、自社製品比率が前期比3.9pt上昇し、58.8%となったことに加え、棚卸資産の廃棄損・評価損が前期と比べ116百万円減少したことで、売上総利益率は60.3%(前期比+2.5pt)となりました。
  • ③ 営業利益
    営業利益は10,892百万円(前期比0.5%増)となり、過去最高を更新しました。営業利益率は21.2%(前期比+0.3pt)となりました。販売費及び一般管理費は、前期と比べ1,036百万円増加しました。主な増加要因は以下のとおりです。
    • ●営業活動量の増加に伴う販売関連費用の増加
    • ●基幹システムの刷新に係るIT関連費用の増加
    • ●従業員向けの業績連動決算賞与の導入に伴う賞与引当金繰入の増加
    • ●第4四半期において、取引先に対する売上債権の一部に回収懸念が生じたことによる貸倒引当金繰入の計上
  • ④ 経常利益
    経常利益は10,581百万円(前期比3.0%減)となりました。営業外収益としては、受取利息、受取配当金、為替差益等で390百万円を計上しました。営業外費用としては、将来の事業機会の獲得を目的として出資していた国内のベンチャー企業において、当社が関連するプロジェクトの事業化の見通しが立たなくなったことに伴う投資有価証券評価損のほか、自己株式の取得に係る金融手数料等で701百万円を計上しました。
  • ⑤ 親会社株主に帰属する当期純利益
    親会社株主に帰属する当期純利益は7,515百万円(前期比9.1%増)となりました。前期に政策保有目的で株式を保有している商品仕入先における事業計画の見直しを伴う増資による当社の持分の希薄化により投資有価証券評価損を計上していたため、前期との比較では増益となりました。

(品目別売上高)

(注)当期より、従来の「外科関連」を「心血管関連」に、従来の「消化器/PI」を「消化器」に名称変更しており、心房中隔欠損閉鎖器具は、旧区分の「消化器/PI」から新区分の「心血管関連」へ区分を変更しております。前期との比較は、変更後の区分に組み替えた数値で算出しております。

事業区分別の概況

リズムディバイス

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リズムディバイスの売上高は、13,501百万円(前期比8.9%増)となり、過去最高を更新しました。ペースメーカ関連は、第3四半期において、既に販売終了となっていた旧モデルの自主回収が発生し、本体の交換症例が増加したため、堅調に推移しました。ICD関連は、市場でオンリーワンであるS-ICDの拡販に注力し、新規採用施設を増加させたことで、当期は二桁成長となりました。

EP/アブレーション

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EP/アブレーションの売上高は、24,249百万円(前期比7.8%減)となりました。EPカテーテルは、心房細動のアブレーション症例数が前期比8~9%程度の増加となったことを背景に、心腔内除細動カテーテルをはじめとする自社製品が好調に推移しました。また、当期の第3四半期に上市した大腿静脈用止血デバイスは、医療現場で高い評価を受け良好な立ち上がりとなりました。しかしながら、当期より主力商品の1つであった「RF Needle」に商流変更が生じており、この影響によりトータルでは減収となりました。

心血管関連

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心血管関連の売上高は、12,319百万円(前期比11.9%増)となり、過去最高を更新しました。人工血管関連は、仕入商品の腹部用ステントグラフトや自社製品のオープンステントグラフトが好調に推移しました。従来オンリーワン製品として販売していたオープンステントグラフトについては、第3四半期に他社の新規参入があったものの、新モデルの発売によるラインナップの強化や新規市場の開拓に努めたことにより増収となりました。さらに、脳血管関連についても、当期は血栓吸引カテーテルや塞栓用コイルの追加モデル等の複数の新商品の上市を行っており、預託施設数の拡大とともに販売が好調に推移しました。

消化器

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消化器の売上高は、1,314百万円(前期比35.8%減)となりました。消化器関連は、自社製品の胆管チューブステントが好調に推移し、販売2年目で大幅に市場シェアを拡大させました。また、大腸用ステントや肝癌治療用ラジオ波焼灼電極針等の既存の自社製品も堅調に推移しました。一方、コロナリー・インターベンション関連は事業終了に向け、当期は販売を徐々に縮小させました。この影響により、トータルでは大幅な減収となりました。

企業集団の財産及び損益の状況の推移

(注) 1株当たり当期純利益は期中平均株式数により算出しております。

対処すべき課題

  • ①中期経営計画への取り組み
    当社は「最新最適な医療機器を通じて健康社会の実現に貢献する」ことを経営理念に掲げております。商社として海外メーカーの新規性の高い医療機器を国内に導入するとともに、メーカーとして医療現場のニーズを反映した医療機器を開発・製造するというユニークなビジネスモデルを活かし、経営理念の実現に向けて取り組んでおります。
    2023年5月に公表した中期経営計画(2024年3月期~2028年3月期)では、売上高、営業利益の着実な成長を図るとともに、資本効率を意識した経営を推進するため、以下の5つの数値目標を設定しております。

(数値目標)

* 脳血管領域と消化器領域

これらの数値目標を達成するために、次の3点を重点課題として取り組んでまいります。

  • 1.新領域の拡大
    当社は今後の市場成長が期待でき、また、心臓血管領域で培った知見や技術を活かすことができる脳血管及び消化器領域を新領域と位置付けております。2028年3月期においてこれらの領域で80億円の売上を目指しており、新たな収益の柱として成長させてまいります。
    脳血管領域においては、2022年にWallaby Medical社と脳血管内治療デバイス11品目の日本国内における独占販売契約を締結しております。脳動脈瘤治療の塞栓用コイルで市場参入し、当期は脳梗塞治療の血栓吸引カテーテルの販売を開始いたしました。今後もフローダイバーターなどの新規性が高いデバイスの発売を予定しており、これらのデバイスを着実に市場導入することで脳血管領域におけるプレゼンスを確立してまいります。
    消化器領域では、2017年以降、心臓血管領域で確立した自社特有の技術を活用して複数の製品を上市してまいりました。カテーテルの高機能シャフト製造技術を応用した胆管チューブステントは医療現場で高い評価を受け、販売が拡大しております。引き続き差別化を図った自社製品を開発することで、消化器領域での当社ブランドの浸透に取り組んでまいります。
  • 2.競争力のある製品の継続的導入
    当社を取り巻く事業環境は、医療費抑制を目的とした保険償還価格の継続的な引き下げや競合他社との競争激化等により、今後も厳しい状況が続くことが見込まれます。当社は商社機能とメーカー機能を併せ持つビジネスモデルを活かし、心臓血管領域において継続的に新製品を導入することで、収益性の維持と市場競争力の強化に努めてまいります。
    当期は、当社の業績を牽引してきたコア自社製品である心腔内除細動カテーテルとオープンステントグラフトにおいて競合他社の参入がありました。当社は心腔内除細動カテーテルのパイオニアとして引き続きシェアを維持するために、医療現場のニーズを反映した新モデルを開発し、発売いたしました。オープンステントグラフトにおいては、手術における合併症リスクを低減した新製品を市場に投入し、従来は使用されていなかった症例での使用拡大を目指しております。
    また、既存製品とのシナジーが期待できる仕入商品の探索にも継続して取り組んでおり、当期は大腿静脈用止血デバイスの販売を開始いたしました。この商品を使用することでアブレーション手術後の止血時間の短縮が可能となり、患者様及び医療従事者双方のベネフィットに貢献できると考えております。
  • 3.資本効率を意識した経営の強化
    当社は自社製品の研究開発や製造設備への投資、商品の販売権獲得を目的とした仕入先に対する投融資を行っております。今後も費用対効果を重視したうえで、将来の事業成長に向けた投資を積極的に実施してまいります。
    当期はこれまで準備してきた新基幹システムが稼働開始いたしました。新基幹システムを活用し業務プロセスの最適化に取り組むことで、事業基盤の強化を図ります。また、営業現場の変化に合わせてデジタルマーケティングにも取り組んでおり、販売効率の向上に努めてまいります。
    今後も安定した営業キャッシュ・フローの創出を見込んでいることから、中期経営計画期間中で配当と自己株式の取得を合わせて総額250億円程度の株主還元を計画しております。中期経営計画で公表したキャッシュ・アロケーションの方針に則り、財務健全性を確保しながら、成長投資と株主還元をバランスよく実施してまいります。

②サステナビリティへの取り組み

  • 1.サステナビリティに関する戦略と目標
    当社の経営理念では、患者様や医療従事者に最新最適な医療機器を提供するという経済的な価値だけでなく、健康社会の実現という社会的な価値も同時に追求することを目指しております。事業成長だけでなく様々なステークホルダーの期待に応えることは、企業価値の向上につながると考えることから、サステナビリティを重要な経営戦略と位置付けております。
    当社のサステナビリティの取り組みは、代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会が方針を決定し、活動を推進しております。取締役会で特定した7つのマテリアリティ(重点課題)ごとに設置された分科会で具体的な取り組みを行い、四半期毎にサステナビリティ委員会で目標達成に向けた進捗確認を行うとともに、取締役会は委員会からの報告を受けて監督・指示を行っております。
  • 2.ESGに関する主な取り組み
  • * MDSAP:Medical Device Single Audit Program(医療機器単一調査プログラム)
    アメリカ、オーストラリア、ブラジル、カナダ、日本の5か国の規制要求事項に対する、製造業者のQMSの適合性及び妥当性について、認定された調査機関による一度の調査で確認するプログラム

詳細な取り組み状況は当社ウェブサイトにて開示しております。
https://www.jll.co.jp/sustainability/sustainability_management.html

連結計算書類