事業報告(2021年1月1日から2021年12月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

事業の全般的状況

当社第121期(2021年1月1日から2021年12月31日まで)の世界経済は、各国の新型コロナウイルス対策の進展や行動制限の緩和に伴い、経済活動が徐々に持ち直し、国・地域により差はあるものの、総じて回復基調で推移しました。一方、部材不足等により、多くのメーカーで生産の停滞が生じたほか、人手不足等の影響で物流の逼迫が生じ、世界的にインフレが進行しました。

為替相場は、米国ドル、ユーロともに年平均で前期に比べ円安で推移しました。

このような状況の中、当社グループは、減産や調達・物流コストの上昇の影響を吸収すべく、価格の引上げや高収益モデルの販売に注力するなど、売上と利益の確保に努めました。

事業の状況につきましては、オフィス向け複合機は、半導体部品の不足の影響を受けたものの、前期を上回る販売台数となり、また、オフィスの再稼働が徐々に進むにしたがって、サービスと消耗品の売上も回復基調で推移しました。

レーザープリンターとインクジェットプリンターは、東南アジアでの新型コロナウイルス感染の再拡大による減産影響で製品供給に支障が生じましたが、売上は増収となりました。

レンズ交換式デジタルカメラは、フルサイズミラーレスカメラの好調が続き、ラインアップを強化した交換レンズも好調で増収、また、ネットワークカメラは、用途の多様化で拡大する需要を取り込むべく拡販に努め、増収となりました。

医療機器は、政府の医療機関支援策を背景に需要が伸長した国内のほか、北米でも需要が上向き、CT装置や超音波診断装置などが売上を牽引して増収となりました。9月には、断層撮影機能を飛躍的に進歩させる次世代CT装置の開発に有用な先端半導体技術を持つカナダのレドレン・テクノロジーズ社をグループに迎え入れました。

半導体露光装置は、半導体メーカーの積極的な設備投資のもと堅調に推移し、前期を上回る販売台数となったほか、FPD露光装置も安定したパネル需要を背景に、前期における設置活動の制約が改善されたことにより、販売台数は前期を大きく上回りました。

これらの結果、当期の連結売上高は前期比11.2%増の3兆5,134億円となり、また、連結税引前当期純利益は前期比132.4%増の3,027億円、当社株主に帰属する連結当期純利益は前期比157.7%増の2,147億円となりました。

今後の成長が期待される4つの新規事業

【商業印刷】

幅広いメディアで高画質を実現するカットシートプリンター

【ネットワークカメラ】

安心・安全のニーズに応えるネットワークカメラ

【メディカル】

高画質と検査時間の短縮の両立を実現するMRI装置

【産業機器】

圧倒的な競争力をもつ有機ELディスプレイ製造装置

決算のポイント

  • 当期の世界経済は、各国の新型コロナウイルス対策の進展等に伴い、経済活動が徐々に持ち直し、総じて回復基調で推移しました。こうした中、好調な需要の続くミラーレスカメラや露光装置をはじめ、各事業における需要の回復により、連結売上高は前期比11.2%の増収となりました。
  • また、これまでの構造改革の成果やグループを挙げての生産性向上の取り組みの結果、当社株主に帰属する連結当期純利益は前期比157.7%の増益となりました。

売上高・損益の推移

地域別売上高の構成

部門別売上高の構成

事業の部門別状況

売上高
前期比 %増
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売上高構成比率 %

オフィス向け複合機は、半導体部品の不足等による生産停滞の影響もありましたが、コロナ禍により減退した需要の回復が進む中、販売台数は前期を上回り、また、サービスと消耗品の需要もオフィスの稼働率とともに回復に向かったことから、増収となりました。

プロシューマー向け製品では、レーザープリンターは、新型コロナウイルス感染拡大による東南アジア生産拠点の減産影響で、販売台数は前期を下回りましたが、消耗品が好調に推移したことなどから、増収となりました。インクジェットプリンターも同様に、減産影響により販売台数が減少しましたが、高収益モデルの販売に注力したことに加え、堅調な在宅需要に支えられたことから、売上は前期を上回りました。

プロダクション市場向け製品は、本体、サービス・消耗品とも堅調に推移し、増収となりました。

これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比7.4%増の1兆9,388億円となりました。

売上高
前期比 %増
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売上高構成比率 %

レンズ交換式デジタルカメラは、フルサイズミラーレスカメラの「EOS R5」と「EOS R6」の販売が引き続き好調に推移しました。第4四半期には、プロやハイアマチュアユーザーの求める高い性能と信頼性を兼ね備えた「EOS R3」を発売し、好評を得ました。半導体部品の逼迫により製品供給に影響が生じたことから、デジタルカメラ全体の販売台数は前期並みにとどまりましたが、高収益モデルの好調により売上は前期を上回り、また、ラインアップを強化したEOS Rシステム用交換レンズ「RFレンズ」の売上が大きく伸長しました。

ネットワークカメラは、部品の逼迫などを背景に製品供給に影響が生じたものの、防犯・災害監視以外への用途の拡大を背景に更なる市場拡大が見込まれる中、映像解析・管理ソフトウエアの提供、映像ソリューションビジネスを積極的に展開するとともに販売活動の強化に努め、増収となりました。

これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比20.7%増の6,535億円となりました。

売上高
前期比 %増
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売上高構成比率 %

半導体等の部品の不足は医療機器の生産にも影響を及ぼしましたが、CT装置および超音波診断装置は、政府の医療機関支援策を背景に堅調な需要があった国内や、景気回復が進む中で販売体制強化が奏功した北米を中心に、順調に販売台数を伸ばしました。

下期以降は、CT装置や超音波診断装置に加え、X線循環器診断システムやMRI装置等、大型装置の需要も回復し、受注を伸ばしました。

第4四半期には、AIを活用して開発した技術を用い、低侵襲で低ノイズかつ高精細な画像の描出を実現した新世代のCT装置を開発し、販売を開始しました。

これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比10.2%増で過去最高となる4,804億円となりました。

売上高
前期比 %増
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売上高構成比率 %

半導体露光装置は、データセンター、EV(電気自動車)、IoT関連をはじめ、幅広い分野での半導体需要の高まりを背景に、半導体メーカーの積極的な設備投資が続き、前期を上回る販売台数となりました。また、FPD露光装置は、リモートワークの浸透や巣ごもり需要の増加によりPCやタブレット用のディスプレイパネルの需要が堅調で、販売台数は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う渡航制限等により設置が停滞した前期を大きく上回りました。有機ELディスプレイ製造装置は、顧客の設備投資時期の調整もあり、前期の売上を下回りました。

これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比18.2%増の5,457億円となりました。

対処すべき課題

当社グループは、昨年(第121期)、新5カ年経営計画「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅥ(2021年~2025年)」をスタートさせ、「生産性向上と新事業創出によるポートフォリオの転換を促進する」を基本方針として、「フェーズV」(2016年~2020年)で基盤が整った事業ポートフォリオの転換を更に推し進めるべく、事業部門とグループ会社を「プリンティング」、「イメージング」、「メディカル」、「インダストリアル」の4つの産業別グループに再編成しました。また、材料事業やセンサー等のコンポーネントの外販などの事業化を加速させるべく、新たな組織を立ち上げました。

「フェーズⅥ」初年度の昨年は、世界中で新型コロナウイルスの感染が収まらず、当社グループの多くの生産拠点でロックダウンによる一時閉鎖が起こり、また、半導体を中心とした部材の不足と物流の混乱もあって減産を余儀なくされたものの、ワクチン接種の普及により経済活動の再開が進んだことから、需要の回復に応えて増収増益を達成することができました。

今年に入っても新型コロナウイルスの感染収束の見通しは立っておらず、生産や物流の混乱が続く見通しではあるものの、当社グループの事業環境のファンダメンタルズは順調で、昨年と変わらないと考えております。そこで、昨年に引き続き「フェーズⅥ」の基本方針の下、以下の施策に重点的に取り組んでまいります。

1. 産業別グループの事業競争力の徹底強化

各産業別グループにおいて技術の融合や事業領域の見直し、M&Aの活用等により新たな事業を生み出すとともに、開発・生産・販売体制を強化し、事業競争力の徹底強化を図ります。

プリンティンググループ
DX(デジタルトランスフォーメーション)時代、オフィスではプリント数を極力減らすという意味でのペーパーレス化は今後も進むものの、思考や仕事の成果の共有という点では底堅いプリント需要が見込まれます。新型コロナウイルスの感染拡大により、オフィスワークとテレワークを組み合わせたハイブリッドな働き方が加速し、クラウドの活用等により働く場所で制約を受けないプリンティング環境・サービスの提供が求められています。当社グループは、電子写真技術とインクジェット技術という2つのデジタルプリント技術と、ワールドワイドでの販売・サービス網を有する強みを活かし、DX時代に合わせたプリンティング・ソリューションの提供に注力し、オフィスとホームプリンティングの分野において世界No.1を目指します。
また、今後更にアナログからデジタルへのシフトが進むと予想されるカタログ印刷等の商業印刷、ラベル印刷やパッケージ印刷等の産業印刷の分野では、この機をとらえ、省力化や付加価値向上を支援するワークフロー・ソフトの充実とともに、グループの総力を挙げて競争力ある新製品を順次市場に投入し、確固たる地位を築きます。
イメージンググループ
スマートフォンの普及により、デジタルカメラ全体の市場は大きく縮小したものの、フルサイズのセンサーを搭載したミラーレスカメラの販売は、コロナ禍にあっても堅調に推移しており、高画質の写真に対する需要は底堅いものがあります。世界屈指の光学技術を有する当社は、こうした需要に応えるカメラ・交換レンズを今後も順次市場に投入し、「高画質」を重視するプロ・ハイアマチュアユーザーを対象の中心に、ミラーレスカメラにおいても世界No.1の地位を確立します。また近年様々な分野で仮想現実映像、立体映像、360度映像の利活用が進んでいることから、自由視点映像システム、昨年投入したEOS VRシステム、MREALなどでこれら新たな映像体験市場を取り込み、事業の拡大を図ります。
放送や映像制作の分野では、IPストリーミングの需要が増大を続けていることから、高画質リモートカメラシステムのラインアップを強化します。
ネットワークカメラの分野では、世界有数のメーカーであるアクシス社や映像管理ソフト・ベンダーのマイルストーンシステムズ社、映像解析ソフト・ベンダーのブリーフカム社を擁する当社は、グループの総力を挙げて、スマートシティ向けを含むセキュリティ分野におけるプレゼンスを強化します。また同時に、生産現場での検品業務、集配センターでの欠品検知、店舗や展示会場での混雑具合の検知など、従来のセキュリティ目的を超えて、各種業務に対する映像を活用したDXを提供する製品・サービスの展開を図ります。
自動運転などの変革が著しいモビリティの分野では、長年培ってきた当社の光学技術とネットワーク技術を基軸として車載カメラや交通インフラへの事業参入を図り、運転支援等のモビリティサービスの普及に貢献します。
メディカルグループ
高度化する医療に対応するため、画像診断事業をコアにヘルスケアITや体外診断の領域にも事業領域を拡大し、世界の医療に貢献することを目指しています。
画像診断事業については、昨年買収したレドレン社の活用により、これまでにない診断機能への発展可能性と大幅な被ばく低減とを同時に実現するフォトンカウンティングCTの技術開発を進め、早期の実用化に注力します。また、MRIの基幹技術であるQED社のRFコイル技術をはじめとするグループ会社の独自技術に加え、AIを活用した画像処理技術などを活用し、次世代の高機能MRIを開発します。超音波診断装置においては、プラットフォームの内製化・共通化、キヤノンのもつ生産技術による原価低減にも取り組みます。更に、米国を中心とする販売網の強化に取り組むことにより、CTはグローバルシェアNo.1を、その他の画像診断装置は世界トップグループ入りを目指します。
ヘルスケアITの領域では、臨床によって集められた画像や非画像のデータを統合し、AI等の技術を活用して解析・加工し、世界中に提供することによって、質の高い診断支援や効率的な医療の提供を目指します。また、体外診断の領域では、新型コロナウイルス感染症検査試薬をはじめ、検査装置周辺領域へとポートフォリオを広げて事業拡大を図ります。
コンポーネント事業については、新規顧客開拓、販売機能集約等により既存事業を拡大するとともに、M&Aによる成長も視野に入れ、完成品、モジュール、プロセス、サービスなど複数階層のソリューションを提供し、全体売上の10%超を占めるBtoB事業の拡大を目指します。
インダストリアルグループ
通信規格5Gやクラウド・コンピューティングの普及により、ICやメモリーといった半導体の需要は今後も拡大すると見込まれます。また、ネット配信を利用した視聴や学習の個別化、画像の更なる高精細化により、液晶パネルや有機ELパネルの需要も堅調に推移すると見込まれます。当社グループの半導体製造装置、FPD露光装置、有機ELディスプレイ製造装置は、ほぼフル生産の状態が続いており、需要増への臨機応変な対応が課題となっているため、グループの総力を挙げて生産体制を拡充するとともに、顧客サポート体制を強化します。加えて、顧客生産性に貢献する性能向上や機能追加により製品力を高め、シェアの拡大を図ります。
他方、ナノインプリント・リソグラフィ技術の適用拡大を視野に技術開発を推進して早期商品化を図るとともに、有機ELディスプレイの次世代製造技術の確立にも注力します。更に、超精密位置合わせ、超高精度加工、真空システムといったグループ内のコア技術を融合して新たな製品・サービスを創造し、新たな価値を顧客に提供することにより事業領域の拡大を目指します。

2. 本社機能の徹底強化によるグループ生産性の向上

グループ全体でキャッシュフロー経営を改めて徹底し、財務基盤の再強化を図るとともに、国内においては、事業ポートフォリオの転換に対応した成長領域への人的リソースの再配置やDXによる業務の高能率化などを推し進め、ホワイトカラーの生産性の向上を図ります。また、グループ横断的に強靭な生産体制を再構築すべく、生産技術の横展開により全事業において更なる自動化と内製化を図るとともに、引き続き徹底した原価低減に努めます。

以上の施策により、「フェーズⅥ」の最終年度である2025年には、売上4兆5,000億円以上、営業利益率12%以上、純利益率8%以上、株主資本比率60%以上を目指します。

連結計算書類