事業報告(2022年1月1日から2022年12月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過およびその成果
事業の全般的状況
当社第122期(2022年1月1日から2022年12月31日まで)の世界経済は、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻に端を発したモノや労働力の不足、そしてエネルギー価格の上昇によるインフレが進行しました。歴史的な高インフレを抑え込もうと、世界各地で金融引き締めが急ピッチで進められていることもあり、経済成長は広範にわたり鈍化の傾向がみられました。
為替相場は、3月以降急激な円安が進み、10月には32年ぶりとなる1ドル151円台をつけた後はやや円高に転じたものの、前期と比べて米国ドル、ユーロともに大幅な円安となりました。
そのような不安定な経済環境にあっても、当社製品の需要については総じて堅調に推移しました。課題であった製品供給については、半導体などの部品不足に対して設計変更や代替品調達などの対策を着実に進め、物流の逼迫に対しても輸送スペースの早期確保や代替輸送ルートの活用を行いました。その結果、四半期毎に製品供給量を増やすことができ、各事業で販売数量が伸長しました。インフレや部品・物流逼迫への対応でコストは大きく増加しましたが、適切に販売価格に反映させることでその一部を吸収しました。
為替の円安による効果も加わり、当期の連結売上高は前期比14.7%増の4兆314億円、連結税引前当期純利益は前期比16.4%増の3,524億円、当社株主に帰属する連結当期純利益は前期比13.6%増の2,440億円と、2期連続の増収増益となりました。
前回、連結売上高4兆円以上を達成した2017年と比較すると、現行事業の売上高は減少したものの、メディカル、ネットワークカメラなどの新規事業は大きく成長して売上高が1兆円を超え、全社売上高に占める構成比が22%から27%に上昇しており、事業ポートフォリオの転換は着実に進んでおります。
今後の成長が期待される4つの分野
【商業印刷】

画質や生産性が市場で評価される連帳プリンター
【ネットワークカメラ】

人々の安心・安全への強いニーズに応えるネットワークカメラ
【メディカル】

医療従事者や患者の検査負荷低減を実現したMRI装置
【産業機器】

生産時の消費電力を抑制するナノインプリントリソグラフィ
決算のポイント
- 当期の世界経済は年後半から減速の兆候も見られましたが、そのような中でも当社関連製品の需要は総じて堅調であり、全社を挙げて部品や物流の逼迫への対応を進めて販売数量を伸ばした結果、連結売上高は前期比14.7%の増収となりました。
- 販売数量の増加に加えて為替の円安も後押しとなり、当社株主に帰属する連結当期純利益は、前期比13.6%の増益となりました。
売上高・損益の推移



地域別売上高の構成

部門別売上高の構成

事業の部門別状況

オフィス向け複合機の市場は、オフィスへの出社人数の回復に伴い、コロナ禍で停滞していた機器の置き換えが進むとともに、印刷需要も緩やかな回復基調を辿りました。当社は製品供給量を回復させ、プリントボリュームの多い中高速機を中心に販売台数を伸ばし、サービスと消耗品の売上についても前期を上回りました。
レーザープリンターとインクジェットプリンターは、コロナウイルス感染拡大による2021年の工場停止の影響で不足していた製品供給量を回復させたことにより、販売台数、売上ともに大きく伸長しました。
商業・産業印刷のプロダクションプリンターは、コストや省力性に優れたデジタル印刷へのシフトが加速する中、連帳プリンター、高速カットシート機、大判プリンター、それぞれが前期から販売台数を伸ばし、大幅な増収となりました。
これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比16.7%増の2兆2,619億円となりました。


レンズ交換式デジタルカメラの市場は、カメラメーカー各社の魅力的な商品の投入により、堅調に推移しました。当社は、2020年に発売したフルサイズミラーレスカメラ「EOS R5」「EOS R6」の販売が依然として好調を維持したことに加え、EOS Rシステム初となるAPS-Cサイズのセンサーを搭載した新製品「EOS R7」「EOS R10」もラインアップに加わったことで、レンズ交換式デジタルカメラの販売台数は前年を上回りました。また、交換レンズについても、EOS Rシステム用の新製品6機種を投入して多様なユーザーニーズへの対応を図り、販売本数を伸ばしました。
ネットワークカメラは、人々の安心・安全へのニーズは強く、コロナウイルス感染拡大による経済活動の制限が緩和されたことで市場は本来の成長軌道へ回帰しており、カメラ本体に加えてソフトウェアも販売を増やしたことにより、大幅な増収となりました。
これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比22.9%増の8,035億円となりました。


医療機器の市場は、欧米を中心に、コロナ禍で控えられていたCT装置やMRI装置などの大型の画像診断装置への投資が回復しました。当社につきましても、イメージンググループなどの技術を活用して医療従事者や患者の検査負荷低減を実現した新製品、CT装置「Aquilion Serve」やMRI装置「Vantage Fortian」などが市場で好評を博し、受注は好調に推移しました。過去最高水準となった受注に対し、逼迫する部品への対応を進めて着実に販売へと繋げました。その結果、販売力の強化を図った米国をはじめとする海外の売上が大きく伸び、当ビジネスユニットの連結売上高は初めて5,000億円を超え、前期比6.9%増の5,133億円となりました。


AIやIoT、5Gなどの技術革新により社会のスマート化が進み、幅広い分野で半導体やディスプレイへの需要が高まっています。当社の半導体露光装置に対する引き合いも非常に強く、販売台数は前期を大きく上回りました。今後も拡大が見込まれる半導体露光装置の需要に応えるため、宇都宮事業所内に新工場を建設し、生産能力を引き上げていくことを決定しました。
一方、FPD露光装置は、コロナ禍で遅れていた設置の挽回があった前期と比べて販売台数が減少し、有機ELディスプレイ製造装置は、顧客の設備投資の調整局面が続いたことにより、前期を下回る売上となりました。
これらの結果、当ビジネスユニットの連結売上高は前期比2.5%減の3,292億円となりました。

対処すべき課題
2016年から2020年の当社5カ年計画「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅤ」では、キヤノンの成長を牽引していく4つの新規事業、商業印刷、ネットワークカメラ、メディカル、産業機器が出揃い、事業ポートフォリオ転換を進めるための土台が完成しました。そして翌2021年、「グローバル優良企業グループ構想 フェーズⅥ」の初年度として、事業ポートフォリオの転換をさらに進めるため、製品事業部を産業別グループに括り直し、事業競争力の強化と新たな成長ドライバーを創出する体制を整えました。
2021年と2022年は新型コロナウイルスの感染拡大、部品や物流の逼迫によるサプライチェーンの分断、ロシア・ウクライナ問題、上海ロックダウン、さらに世界的なインフレの加速など、厳しい経営環境が続きましたが、当社は調達部門、物流部門をはじめ、全社一丸となって対応し、各事業の高い製品力を背景に2年連続で増収増益を達成することができました。
今年も不安定な経済環境の下での経営が続くと想定されますが、開発、調達、生産、販売の総合力を発揮しながら業績を拡大し、「フェーズⅥ」の基本方針「生産性向上と新事業創出によるポートフォリオの転換を促進する」の下で、以下の施策に重点的に取り組んでまいります。
1. 産業別グループの事業競争力の徹底強化
事業ポートフォリオの転換を促進するために、4つの産業別グループの強化拡大を図っていきます。
①プリンティンググループ
新型コロナウイルスの感染拡大により働く場所が分散し、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進展したことでペーパーレス化が進みましたが、仕事に関する思考や情報共有において依然として紙は有用な手段であり、プリント機器に対する底堅い需要が見込まれます。
オフィスワークとテレワークを組み合わせたハイブリッドな働き方を支えるために、クラウドを活用し働く場所の制約を受けないプリント環境の提供が求められており、当社グループは電子写真技術とインクジェット技術の2つのデジタルプリント技術を有する強みを生かし、オフィスとホームプリンティングの双方においてDX時代の新たなソリューションを提供していきます。
また、カタログやポスターなどのデジタル商業印刷はアナログからのシフトにより成長が見込まれる分野であり、顧客である印刷会社の声を取り入れて高めてきた印刷機の画質や生産性が市場で評価されて売上を伸ばしております。さらにラベルやパッケージなどの産業印刷の分野については、昨年買収した英国イーデール社が持つ豊富な技術や知見、顧客との関係を活用しながら新製品を開発し、本格的な参入を図っていきます。
②イメージンググループ
スマートフォンの普及によりデジタルカメラ全体の市場が大きく縮小し、現在のレンズ交換式カメラのユーザーは高画質な映像を求めるプロやハイアマチュアが中心となっており、需要は底堅く推移することが見込まれます。当社はこうしたユーザーのニーズに応えるためエントリー機からプロ向けまで性能を高めたカメラと交換レンズを継続的に市場に投入し、カメラのリーディングカンパニーとして市場の活性化を図っていきます。現在、ミラーレスカメラのラインアップ拡充を進めており、この分野においてもNo.1の地位を確立していきます。
ネットワークカメラは、安心・安全へのニーズの高まりから監視用途が引き続き成長を牽引すると見ていますが、店舗でのマーケティングや製造現場での工程管理、人が集まる所での密集・接触回避など、監視以外の用途の拡大と併せて、高い成長が見込まれています。当社は、カメラ本体とソリューションの豊富なラインアップを、アクシス社、マイルストーンシステムズ社、ブリーフカム社、アーキュリーズ社の各グループ会社と連携し、映像の入力から管理、解析までをトータルで提供することにより、市場成長率を上回る成長を実現していきます。
さらに当社がこれまで培ってきたレンズやセンサー、映像処理などの光学関連技術を応用し、新たなビジネスの創出に取り組んでいきます。
③メディカルグループ
世界の医療に貢献するため、当社は画像診断装置を中心に、ヘルスケアITや体外診断にも事業領域の拡大を目指しています。
当社は日本において画像診断装置のトップメーカーであり、今後の成長のためには海外でも同様の地位を築くことが必要であると考えています。まずCT装置で世界No.1となるために、次世代のCTであるフォトンカウンティングCTの早期実用化を目指しています。一昨年買収したカナダのレドレン・テクノロジーズ社の技術を使ったフォトンカウンティング検出器搭載のX線CTを開発、国立がん研究センターに設置し研究を加速しています。さらに世界の市場に大きな影響力を持つ米国でのマーケットシェア10%以上を目指し、今年1月、クリーブランド近郊にマーケティングを軸に活動する新会社を設立しました。米国の医療機関との共同研究やキーオピニオンリーダーである医師との関係強化を進めながらキヤノンのプレゼンスを向上させ、その効果を米国のみならず世界の市場に波及させることで、高い成長を実現していきます。
ヘルスケアITの分野では臨床によって集められたデータを統合、加工、解析し、質の高い診断や効率的な医療の提供をサポートします。また、体外診断の分野では検査試薬をはじめ、検査装置周辺へと事業領域の拡大を図ります。
④インダストリアルグループ
半導体やディスプレイは、AI、IoT、5Gなどの技術革新により今後も用途が拡大し、市場成長が続くと予測されており、それに伴い製造装置の需要も高まっていくと見ています。半導体露光装置は、拡大する需要に応えるべく、製品競争力をさらに高めるとともに生産能力の増強を図り、シェアの向上を目指します。さらに当社が開発を進めているナノインプリントは半導体回路を光で焼き付ける従来の方式と違い、パターンを刻み込んだマスクと呼ばれる型を、ハンコのように押し付けて形成するシンプルな製造装置です。微細な回路パターンを描くための複雑な工程が不要であり、半導体メーカーのコストを大幅に削減できることに加え、強力なレーザーや大掛かりな真空装置・冷却装置が必要ないため消費電力を大幅に抑えることができ、地球環境への負荷低減にも貢献します。
また、パネル市場はPCやタブレットに搭載されるITパネルが今後成長を牽引すると見込まれており、この分野においても当社は顧客であるパネルメーカーの生産性向上に貢献するFPD露光装置や有機ELディスプレイ製造装置を提供していきます。
さらには、グループの超精密位置合わせ、超高精度加工、真空システムといったコア技術を融合して新たな装置を開発し、インダストリアルの事業領域拡大を目指します。
2. グローバル生産体制の再構築
当社は、1970年代以降、アジア各地へ生産拠点を拡大していきましたが、サプライチェーンの分断や地政学的リスクを背景に、生産拠点の見直し・再編成を進めています。これまで進めてきた国内回帰についても、自動化や内製化を両輪として、設計、生産技術、製造現場が一体となって徹底的な原価低減を行い、海外に負けないコスト競争力を獲得した上でさらに推し進めていきます。
3. 独自技術を核とした製品開発の強化
近年においては、新規事業の展開をM&Aを活用し行ってきましたが、今後は独自技術を核とした製品開発を改めて強化し、新規事業の創出を図っていきます。産業別に大きく括り直したグループの下で、それぞれの技術を組み合わせて化学反応を起こし、新しい製品やソリューションの開発に取り組んでいます。また、フロンティア事業推進本部は全社横断的にキヤノンが有する技術を結集して、ライフサイエンス、マテリアル、ソリューションの分野で新しいビジネスの創出を目指しています。
これらの目標を実現するためには製品開発を担う技術人材の育成が重要であり、先端技術の開発を牽引する世界的な技術者を「トップ・サイエンティスト」として認定する制度や、社員のリスキリングによりソフトウェア技術者を育成する仕組みにより、推し進めていきます。
以上の施策により、「フェーズⅥ」の最終年度である2025年には、売上4兆5,000億円以上、営業利益率12%以上、純利益率8%以上、株主資本比率は順調に上昇していることを踏まえ65%以上を目指します。