事業報告(2023年1月1日から2023年12月31日まで)
事業の経過及びその成果
当連結会計年度の主要な取組み
連結会計年度である2023年は、前年までの世界的なコロナ禍がほぼ終焉しつつあり、正常な経済活動への本格的な回帰が見え始めたところで幕を開けました。アシックスにとっては、コロナ禍で世界的に見られた人々の健康意識の高まりに加え、年初からスポーツイベントの本格的な開催再開が見込まれる中で、中期経営計画2023(以下、「中計2023」)の最終年度を迎えました。
業績面を総括すると、中計2023で掲げた定量的な経営指標を大幅に超えて達成、さらには売上高及び全ての段階利益で過去最高を記録しました。アシックスは完全に成長軌道に乗り、また企業としてのステージが一つ上がったと自負しております。こうした点は、資本市場からも評価を頂いていると考えており、8月には株価が上場来高値を更新するとともに、時価総額も節目となる1兆円を初めて突破しました。定性面においても、アシックスはサステナビリティ、デジタル、IRといった重要な分野で複数の著名な賞を受賞。中計2023を締め括るに相応しい年であったと考えております。

もう少し長い目で振り返りたいと思います。2019年に、アシックスはそれまでの生産部門と販売部門が独立していた経営管理体制を改め、5つのカテゴリーのトップが製品の企画から生産、販売まで全ての責任を担うカテゴリー経営体制に移行しました。各カテゴリーのトップが収益や在庫の責任を持ち、本社と販売会社の役割を明確にすることで両者の距離が一気に縮まり、またカテゴリーごとに「垂直統合」されたバリューチェーン全体での収益性重視へとマインドセットが大きく変わりました。その他にも主に単年度の計画策定と進捗確認のためのグローバル共通の経営管理サイクル(アシックス社内で「マニフェストⅠ・Ⅱ」と呼んでいます」)、販管費コントロールのために費目ごとにグローバル共通で単独の執行役員を責任者として指名するコストオーナー制なども導入するとともに、それら経営管理の仕組を支えるITシステムの整備を進めました。2023年は、こうした2019年から着手した一連の経営改革が浸透・進捗し、定量面・定性面での大きな成果に繋がった節目の年であったとも捉えております。
アシックスは、日本発のコンシューマー関連のブランドとして類を見ない世界水準の企業体です。特にパフォーマンスランニングと呼んでいるランニングシューズでは、特に欧州やオセアニアで大きなプレゼンスを獲得してきました。中華圏においても「走る・運動するならアシックス」とのブランドイメージの浸透が進んでいます。他方で、北米や日本では相対的に欧州などにおけるほどのブランドポジションを確立できていないと見ております。2023年は、これを克服していくための打ち手を講じた年でもありました。例えば、北米においては多数の直営店の閉店を完了するとともに、低価格帯商品の大幅な削減に踏み切りました。同時に、比較的高価格帯の商品販売チャネルとなるランニング専門店への取組みを強化しており、当該チャネルでのシェアもしっかりと伸びてきております。日本においては、アシックスが長年取り組んできたものの低収益であったスクールビジネスからの撤退を決めました。一方で、直近の年末年始の著名な駅伝大会などでは、機能面で進化したMETASPEEDシリーズの躍進が見られました。日本におけるアシックスブランド復活へ着実に前進しているものと考えております。


また、2023年はパフォーマンスランニングのみならず、アシックスブランドのコアパフォーマンススポーツ(テニスやバスケットボールなどランニング以外の競技用シューズ)やスポーツスタイル(日常使い用のカジュアルシューズ)への波及効果が如実に表れた年でもありました。いずれのカテゴリーも前年比で大きく成長したことに加え、何といっても数年前まで赤字であったカテゴリー利益がそれぞれ初めて100億円を突破したことは一つの大きなマイルストーンを達成したものと捉えています。アシックスブランドを核として、パフォーマンスランニングのみならずコアパフォーマンススポーツ、スポーツスタイルも一体となって成長していく構図は今後より一層明確になっていくものと考えております。
地域軸で見た際の今後の成長ドライバーである東南・南アジアや南米といった市場でもアシックスブランドがしっかりと浸透し始めております。全体の売上高に占める割合はまだまだ小さいですが、成長速度は目を見張るものがあります。今後が非常に楽しみな地域です。


オニツカタイガーも、稀有な日本発のラグジュアリーライフスタイルブランドとして躍進しております。既にブランドが確立している中華圏、東南・南アジアで着実に成長したうえ、2023年はコロナ禍直前の2019年以来となるインバウンド需要が完全回復を見たこともあり、日本では前年からは倍増となる成長となりました。オニツカタイガーも初めてカテゴリー利益が100億円を超過しました。
アシックスはランナーに向けてシューズ販売のみならず様々な関連サービスをシームレスに提供できるランニングエコシステムの構築を通じて、ランナーのためのプラットフォーマーになることを見据えています。2022年までに日本、北米、欧州、オセアニアにおいてそれぞれレース登録プラットフォーム運営会社を買収し、2023年には年間で延べ1,000万人以上のランナーとのタッチポイントを獲得できるようになりました。また、アシックス独自の会員サービスであるOneASICSのメンバーをグローバルで945万人(2023年末時点)有しておりますが、今後レース登録サービスとOneASICSを有機的に繋いでいくことでランニングエコシステムの基盤を更に拡大できると考えています。なお、アシックスは2023年12月に初となる個人投資家向け社債である「OneASICS債」を150億円で起債しましたが、今後も事業活動のあらゆる側面でメンバーシップを拡大していきます。

本文の締め括りとして明るい話題を2つお伝えさせてください。1月に開催された大阪国際女子マラソンで、アシックスとアドバイザリースタッフ契約を締結している前田穂南選手がMETASPEEDシリーズを着用し19年ぶりに日本記録を更新しました。更に、同じく1月にチェコで開催された世界室内陸上ツアー2024ゴールド大会で、アシックスがアドバイザリースタッフ契約を締結している桐生祥秀選手がMETASPEEDシリーズを着用、男子60メートル走で日本新記録を樹立しました。前田選手、桐生選手、おめでとうございます!
商品の研究開発段階でトップアスリートから頂けるフィードバックはアシックス独自の無形資産でもあります。脚をとめることなく不断の努力を通じてアシックスファミリーであるアスリートの方々を支えていきたいと思います。
今後の更なるアシックスの飛躍に是非ご期待ください。

連結決算ハイライト




① 売上高
為替影響に加え、全てのカテゴリーで好調に推移したこともあり、570,463百万円と前期比17.7%の増収となりました。
② 売上総利益
上記増収の影響により、296,896百万円と前期比23.3%の増益となりました。
③ 営業利益
上記増収の影響により、54,215百万円と前期比59.4%の増益となりました。
④ 経常利益
上記増収増益の影響により、50,670百万円と前期比63.9%の増益となりました。
⑤ 親会社株主に帰属する当期純利益
上記増収増益の影響に加え、連結子会社であったホグロフスAB株式の売却に伴う関係会社株式売却益の計上などにより、35,272百万円と前期比77.4%の増益となりました。
カテゴリー別の概況
パフォーマンスランニング
P.RUN



コアパフォーマンススポーツ
CPS



スポーツスタイル
SPS



アパレル・エクィップメント
APEQ



オニツカタイガー
OT



カテゴリー別の業績は、上記のとおりであります。
報告セグメント別の概況
対処すべき課題
中期経営計画2023の振り返り
当社は、誰もが一生涯、運動・スポーツに関わり、心と身体が健康で居続けられる世界の実現へ向けて、長期ビジョン「VISION 2030」を策定しております。「VISION 2030」実現のための重要な最初の3ヶ年計画であった中期経営計画2023は、売上高、営業利益、営業利益率のいずれも当初計画を大幅に上回り、売上高5,704億円、営業利益542億円、営業利益率9.5%となり、当社は成長軌道への転換を遂げました。
特に、カテゴリー経営体制のもと、パフォーマンスランニング(P.RUN)、コアパフォーマンススポーツ(CPS)、スポーツスタイル(SPS)、オニツカタイガー(OT)がそれぞれ目標を大幅達成しました。地域別に見ますと、欧州と中華圏が利益面で全社を牽引する一方、日本では収益性の改善が実現し、高成長地域において売上高・利益ともに大きく成長しました。また、レース登録会社の買収を通じた顧客接点の拡大やOneASICS会員及びEC売上高の伸長も堅調に推移しております。




中期経営計画2026
当社は2023年11月、次の3ヶ年計画である中期経営計画2026を策定しました。中期経営計画2026の方針は、「Global Integrated Enterpriseへの変革」です。Global Integrated Enterprise(以下、「GIE」)への変革とは、商品販売に最適化されていた従来の地域販売会社を、商品販売及び担当地域以外の収益拡大にも責任を負う地域事業会社へと変更すること、そして「グローバル×デジタル」の更なる推進により、本社と地域事業会社が人財、ITプラットフォーム、データなどの観点で一体となり、より有機的なカテゴリー経営体制を構築することを意味します。
GIEへの変革のための重点戦略として、グローバル成長、ブランド体験価値向上、オペレーショナルエクセレンスの追求を実行し、当社の成長を更に加速させます。
全体像

重点戦略 グローバル成長
中期経営計画2026では、カテゴリー成長戦略として、収益基盤であるパフォーマンスランニング(P.RUN)の更なる成長に加え、次なる収益の柱として、オニツカタイガー(OT)やスポーツスタイル(SPS)、コアパフォーマンススポーツ(CPS)の成長を加速させます。また、地域成長戦略としては、中国や欧州などの既存の収益基盤である地域において、営業利益の持続的な成長を目指すとともに、インドや東南アジアの各国を含む高成長地域において、売上成長と営業利益率の向上の双方を目指します。


重点戦略 ブランド体験価値向上
誰もが一生涯、運動・スポーツに関わり、心と身体が健康で居続けられる世界の実現へ向けて、中期経営計画2026では、OneASICSを全ての起点に、ブランド体験価値を高めていきます。
まず、店舗やECのみならず、施設やその他サービスも含めたお客様とのタッチポイント創出とエコシステム展開地域の拡大を通じて、OneASICS会員を拡大します。また、会員を階層分けした独自のロイヤリティプログラムの構築やリワードプログラムなどの差別化されたサービスの提供を通じて、OneASICS会員プログラム全体の価値を向上させます。蓄積したデータを活用することで、パーソナライズされたマーケティングコミュニケーションの実現や、製品・サービスの更なる向上にも取り組みます。
「OneASICS経営」の推進により、2026年にOneASICS会員数3,000万人、LTV(顧客生涯価値)向上、高粗利益率×DTC 売上構成比率40%以上を実現していきます。

重点戦略 オペレーショナルエクセレンスの追求
中期経営計画2026の期間では、オペレーションの改善も加速させます。例えば、データ活用による需要計画精度の向上や商品・生産・販売・在庫計画の連携強化と精度向上、及びグローバルシステム等を通じたサプライチェーン全体のオペレーションの高度化・効率化を図ります。当該戦略の実行を通して、全体最適を図り、在庫回転期間を2023年の162日から2026年には140日未満にしていきます。

経営基盤強化(財務戦略・キャピタルアロケーション)
GIEへの変革のためには、経営基盤強化は不可欠です。デジタル (億円)の推進、サステナビリティの取組み推進、人的資本投資の強化、適切なキャピタルアロケーションに配慮した財務戦略の実行、ガバナンス体制の強化を進めていきます。
特に財務戦略については、成長と資本効率を追求した経営を更に推進することで、営業キャッシュ・フローを最大化させます。連結総還元性向50%の設定及び累進配当の実施に加え、それらの株主還元を実現したあとでも中期経営計画2026で掲げる成長戦略を遂行するための投資原資を確保します。具体的には、ランニングエコシステムへの更なる投資や、成長市場、経営基盤への投資を実行していきます。
今後も、アシックスのビジネス形態や目指す姿等を踏まえて、資本水準の最適化を継続的に検討していきます。

●「中期経営計画2026の詳細はこちら」
https://assets.asics.com/system/media_libraries/6280/file.pdf