事業報告(2020年4月1日から2021年3月31日まで)

企業集団の現況に関する事項

事業の経過およびその成果

当連結会計年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により前半は大きく落ち込んだものの、中国では早期に経済活動が再開するなどエリアによる違いはありますが、足元では徐々に回復傾向がみられるようになりました。日本経済においては、活動制限により観光・旅行・飲食業界などは大きな打撃となりましたが、巣ごもり需要などによる消費構造の変化への適応が進んだ企業の業績が上向くなど一部の業界は好調に推移しました。

当社グループがビジネスを展開する地域においては、グレーターチャイナでは新型コロナウイルス感染症拡大前の水準まで回復しております。また、米州やアセアンは段階的な経済活動の再開や景気刺激策により回復の加速が期待されるものの、日本においては繰り返し発出される緊急事態宣言により経済活動の再開は限定的なものとなっております。各国での経済回復状況はワクチン普及への対応など感染拡大防止への取り組みにより濃淡がみられますが、地域によっては感染拡大のペースが再加速するなど、依然として先行きは不透明な状況です。

当社グループの業績への影響については、第1四半期連結会計期間においては自動車関連ビジネスを中心に相当程度の影響を受けましたが、第2四半期連結会計期間以降はテレワーク需要等を背景としたエレクトロニクス関連ビジネス・樹脂ビジネスの回復があったこと等から、全体として影響は限定的なものとなりました。

このような状況の下、当連結会計年度の業績は、国内販売は3,631億6千万円(前連結会計年度比9.8%減)、海外販売は4,670億7千万円(同17.6%増)となった結果、売上高は8,302億4千万円(同3.8%増)となりました。

利益面につきまして、Prinovaグループの高い収益性が寄与し、売上総利益は1,146億円(同9.2%増)となりました。営業利益は、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進等の持続的な成長のための費用の増加があったものの、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた活動自粛による費用減少等があったことから219億1千万円(同14.3%増)となり、経常利益は228億5千万円(同19.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は188億2千万円(同24.3%増)となりました。

セグメント別の概況

機能素材

売上高 1,551 億円
前期比 8.4 %減
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機能素材につきましては、足元は回復基調にあるものの、特に上期において新型コロナウイルス感染症の拡大により、グレーターチャイナを除くすべての地域において自動車生産台数が減少した影響等を受けたことから、国内・海外ともに売上は減少しました。

機能化学品事業は、自動車生産台数の減少により、塗料原料およびウレタン原料の売上が減少したことから、事業全体として売上は減少しました。

スペシャリティケミカル事業は、半導体関連等の電子業界向けを中心としたエレクトロニクスケミカルの売上は堅調に推移したものの、自動車業界の低調の影響を大きく受けて加工油剤原料や樹脂原料の売上が減少したことから、事業全体としては売上は減少しました。

この結果、売上高は1,551億6千万円と前連結会計年度に比べ、141億5千万円(8.4%減)の減収となりました。営業利益は48億8千万円と前連結会計年度に比べ、4億7千万円(8.9%減)の減益となりました。

加工材料

売上高 2,691 億円
前期比 0.8 %増
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加工材料につきましては、国内における売上は減少したものの、海外における売上は増加したことから、全体として売上は微増となりました。

カラー&プロセシング事業は、国内、米州および欧州において情報印刷関連材料の売上が大幅に減少し、また顔料・添加剤、工業用・包装材料用の合成樹脂および導電材料の売上が減少したことから、事業全体として売上は減少しました。

OA・ゲーム機器業界への合成樹脂の販売を中心とするポリマーグローバルアカウント事業は、国内における売上は減少したものの、樹脂ビジネスを中心に需要の回復と市況価格の上昇により海外における売上は増加したことから、事業全体として売上は増加しました。

この結果、売上高は2,691億5千万円と前連結会計年度に比べ、20億7千万円(0.8%増)の増収となりました。一方、営業利益は主に情報印刷関連材料ビジネスの市況下落による収益性悪化の影響を受け、73億1千万円と前連結会計年度に比べ、12億1千万円(14.2%減)の減益となりました。

電子

売上高 1,195 億円
前期比 3.9 %増
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電子につきましては、ディスプレイ材料関連、装置関連の売上が減少したものの、半導体中間工程用の精密加工関連、変性エポキシ樹脂関連の売上が増加したことにより、事業全体として売上は増加となりました。

この結果、売上高は1,195億9千万円と前連結会計年度に比べ、44億6千万円(3.9%増)の増収となりました。営業利益は増収に加えて一部の製造子会社の収益性の改善等により、87億4千万円と前連結会計年度に比べ、33億5千万円(62.1%増)の増益となりました。

(注)電子セグメントは、2021年4月1日より電子・エネルギーセグメントに名称変更しております。

モビリティ・エネルギー

売上高 1,115 億円
前期比 11.5 %減
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モビリティソリューションズ事業は、新型コロナウイルス感染症の影響により、グレーターチャイナを除くすべての地域において自動車生産台数が減少し、国内におけるカーエレクトロニクス関連部材、グレーターチャイナを除くすべての地域における樹脂ビジネスの売上が減少したことから、国内・海外ともに売上は減少しました。

この結果、売上高は1,115億3千万円と前連結会計年度に比べ144億6千万円(11.5%減)の減収となりました。営業利益は15億4千万円と前連結会計年度に比べ、3億4千万円(18.4%減)の減益となりました。

(注)モビリティ・エネルギーセグメントは、2021年4月1日よりモビリティセグメントに名称変更しております。

生活関連

売上高 1,744 億円
前期比 43.5 %増
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生活関連につきましては、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた需要の減少等により国内での売上は減少したものの、前第2四半期連結会計期間に買収したPrinovaグループの売上が当連結会計年度においては通期で寄与したことから、海外での売上は増加し、全体として売上は大幅に増加しました。

新設したフード イングリディエンツ事業は、食品素材分野においてトレハ®等の国内での売上が減少しましたが、Prinovaグループの売上が増加したことから、事業全体として売上は大幅に増加しました。

ライフ&ヘルスケア製品事業は、医療・医薬分野における医薬品原料・中間体、医用材料の売上、化粧品・トイレタリー分野における衛生商品関連原料の売上は増加しました。一方、スキンケア分野におけるAA2G®の国内・海外での売上の減少や、製造子会社を売却したことによる医療・医薬分野における製剤事業の売上の減少により、事業全体として、売上は減少しました。

この結果、売上高は1,744億5千万円と前連結会計年度に比べ、529億円(43.5%増)の増収となりました。営業利益は65億1千万円と前連結会計年度に比べ、25億3千万円(63.9%増)の増益となりました。

その他

特記すべき事項はありません。

対処すべき課題

(1) 前中期経営計画「ACE-2020」の総括

当社グループ(以下、NAGASE)は、2016年度から2032年度(創業200年)までの17年間を3つのStageに分け、2016年度から2020年度までの5ヶ年をStage1:「変革期」と位置付け、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」の2つの変革を軸とした中期経営計画「ACE-2020」を推進してまいりました。

「収益構造の変革」においては、グローバル展開の加速および製造業の収益力の向上を図ってきたものの、「ギャップを埋める対策」からのインオーガニック成長による利益貢献が遅れ、収益基盤の拡大・強化については課題が残る結果となりました。一方、各事業を「注力」「育成」「基盤」「改善」の4領域に分けた上で各領域に沿った戦略を実行し、注力領域であるエレクトロニクス・ライフ&ヘルスケアを中心とした成長投資ならびに注力地域である米州への資本投下に加え、効率性およびベストオーナーの観点からの一部事業撤退などにより、事業・地域軸ともにポートフォリオの最適化は進みました。また、政策保有株式の売却239億円を実施し、効率性の高い資産への入替を行いました。

(ポートフォリオの最適化)
(セグメント別営業利益構成比)
(地域別売上高構成比)

「企業風土の変革」においては、トップメッセージの共有などにより、「ACE-2020」の全社浸透および主体性と責任感の醸成は進んだものの、モニタリングとPDCAの徹底については引き続き課題と認識しております。また、効率性の追求に関するKPIとして設定していた売上高販管費比率は、将来の持続的な成長に向けたデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進などに関する投資(費用)の増加などもあり未達となりました。一方、コーポレート機能の全体最適化および効率性を追求すべく、国内グループ会社の間接部門機能をシェアードサービスとして提供する長瀬ビジネスエキスパート㈱を発足させるなど、コーポレート機能の全体最適化は前進しました。

定量目標に対する結果は下記のとおりです。

ACE-2020」の定量目標は未達となり、継続して取り組むべき課題は残りましたが、「ACE-2020」において実行してきた取組みは、NAGASEの企業価値を支える良質かつ競争力のある資産と捉えており、新中期経営計画の期間中に収益・効率性を向上させる土台になるものと考えております。

(2) 経営環境および理念体系の見直し

経営環境

NAGASEを取り巻く環境は大きく変化しており、直近では新型コロナウイルス感染症の拡大により大きな影響を受けております。今後、新型コロナウイルス感染症に加え、あらゆる外部環境の変化によりもたらされる顧客・市場・社会の変化に対応し、新たな提供価値を創出していく必要があると考えております。

NAGASEは、「広域なネットワーク」、「技術知見」、「課題解決力・人財」を強みとし、社会・顧客のニーズに対応してきました。NAGASEとして新たな提供価値を創出していくにあたり、これらの強みを更に強化・拡充していく必要性を認識しております。

NAGASEにとって技術革新、気候変動・資源不足、人口動態の変化、業界再編などの外部環境変化は従来の提供価値を大きく変化させるものであるとともに、NAGASEが持つ強みの希薄化を招くリスクであると認識しております。これらの環境変化に対する対応を誤ると将来の脅威になり得ますが、変化へ適応することにより大きな機会にもなり得るものと捉えております。

上記外部環境の大きな変化を踏まえ、当社は2032年(創業200年)に向けNAGASEにとって重要なステークホルダーと各ステークホルダーに提供したい価値、それらを実現するためのマテリアリティ(重要課題)を特定しました。また、これらの価値提供が実現できている姿を「ありたい姿」“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”と新たに定めました。

NAGASEのビジョンの一節にある「見つけ、育み、拡げる」活動を通じて、社会・取引先の課題解決を実現し、サステナブルな社会の発展に貢献してまいります。

理念体系の見直し

以上を踏まえ、NAGASEは理念体系を見直しました。「ありたい姿」を下記のとおり位置づけ、さらに理念体系すべてに共通する考え方として、「サステナビリティ基本方針」を策定いたしました。

(3) 新中期経営計画 ACE 2.0

NAGASEは、2032年(創業200年)の「ありたい姿」の実現に向けたマテリアリティ(重要課題)および「ありたい姿」を実現するために2032年からバックキャスティングし策定した新たな中期経営計画ACE 2.0に掲げる事項を対処すべき課題と捉えております。

ACE-2020」で取り組んできた施策により、多くの変革が進みましたが、これらの変革を確かなものにするための更なる取組みが必要と認識しております。また、環境が急激に変化し続けていることによるパラダイムシフトの必要性も高まっていることから、新中期経営計画は「ACE-2020」の基本コンセプトは踏襲しながらも更なるバージョンアップを図るという意味を込めてACE 2.0としました。なお、こうした外部環境の変化を受け、ACE 2.0の位置づけを、従来の「成長期」から「質の追求」へと変更しております。

※“ACE”は、Accountability(主体性)、Commitment(必達)、Efficiency(効率性)を表します。

ACE 2.0基本方針

ACE 2.0では、NAGASEの持続的な成長を可能にするため、すべてのステークホルダーが期待する“想い”を具体的な“形”(事業・仕組み・風土)として創出し、“温もりある未来を創造するビジネスデザイナー”を目指し、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」の2つの変革と、両変革を支える機能として、DXの更なる加速、サステナビリティの推進およびコーポレート機能の強化を図ります。

変革を支える機能

両変革を実現するために、DX、サステナビリティおよびコーポレート機能はグループ横断的に必要な機能であり、これらの機能を拡充します。

DXを手段として活用することで、NAGASEの強みである「広域なネットワーク」、「技術知見」および「課題解決力・人財」を更なる強みとし、顧客や社会の課題を解決できるビジネスモデルの深化・探索、イノベーションの創出および生産性の向上などを図ります。

またサステナビリティ基本方針を根幹に置き、「ありたい姿」の実現に向け、経済価値と社会価値の追求を実現すべく、グループ全体に機能を提供していきます。

収益構造の変革‐“ありたい姿”に向けた収益基盤の構築
  • ① 収益性・効率性の追求

    ・全社規模の事業入替と資源再配分の実施

    経営資源の最大効率化を図るために、経営資源の確保と再投下を実行いたします。効率性および成長性の観点から、事業を「注力」、「育成」、「基盤」、「改善」の4つの領域に分類し、各領域に応じて戦略を実行し、さらにリソースシフトを加速させるべく、全社投下資本の10%を確保した上で注力/育成領域に再投下していきます。

  • ② 既存事業の強化

    ・グローバリゼーションによる事業機会の拡大

    地域ニーズ・業界動向に基づき、戦略機能を海外におくべき事業候補の創出ならびに各地域主体の事業創出に向けた権限移譲の促進や現地経営人財の育成強化などにより、グローバリゼーションを加速させ、事業機会の拡大を図ります。

    ・製造業の生産性向上と技術革新による付加価値の拡大

    環境負荷低減およびDXを活用した生産革新の推進による基盤強化や、要素技術・製品開発機能の強化・拡充、マテリアルズ・インフォマティクス(TABRASA)を活用した新たな素材開発およびデジタルマーケティングによる新規市場開拓などにより、製造業の生産性向上および付加価値の拡大を図ります。

  • ③ “持続可能な事業”(N-Sustainable事業)の創出

    顧客、社会が未だ認識していない課題を見つけ、「利益を生み出す解決策」を提供することで、社会・環境価値の向上に向けた“持続可能な事業”(=N-Sustainable事業)を創出いたします。

    主な領域を環境・エネルギー、次世代通信関連およびライフ&ヘルスケア領域と定め、社会・環境価値の向上かつ課題を解決する新たな価値を提供できる既存ビジネスモデルの“深化”、新規ビジネスモデルの“探索”およびイノベーションの創出を行います。

企業風土の変革‐“ありたい姿”に向けたマインドセット
  • ① 経済価値と社会価値の追求

    • ・サステナビリティマインドの醸成と財務/非財務情報のモニタリング徹底

      「質の追求」を実現するためには、経済価値と社会価値を両輪で追求していくことが必要と考え、財務情報に加え非財務情報のKPIを設定し、両KPI達成に向け徹底したモニタリングを行います。
      非財務情報のKPIについては、「ありたい姿」の実現に向け設定したマテリアリティ(重要課題)に対する取組みを定量的に評価するため、下記記載の「提供価値のキーワード」に基づき設定いたします。

      なお、本KPIにつきましては、2021年度中に公表予定です。

  • ② 効率性の追求

    • ・資本効率性への意識の深化

      ACE 2.0においては、事業戦略によるROICの向上、財務戦略によるWACCの低減を行い、ROICスプレッドの改善を図ります。ROICがWACCを上回る状態を常態化させ、企業価値の向上を目指します。

      「質の追求」を推進するにあたり、一定の投資は必要であり、積極投資の姿勢は変わらないものの、事業戦略として注力/育成領域へのリソースシフトや全社的な効率化を推進いたします。また、財務戦略においては、Net DEレシオ0.5倍未満を上限とした有利子負債の活用や増配等を通じWACCの低減を図ります。

      (資金の源泉と使途)

      ACE 2.0期間中、成長投資(運転資金含む)について、1,500億円を目途に実施いたします。持続的な成長およびポートフォリオの改善などからキャッシュ・フローを創出し、財務健全性を確保した上で、成長に向けた新たな事業投資・研究開発投資等への効率的な資金配分を行います。

      (株主還元)

      ACE 2.0期間中の株主還元方針として、配当については、従来の安定配当の方針を改め、継続増配に方針を変更いたしました。
       自己株式の取得については、当社株式の資本市場での評価、財務健全性(Net DEレシオ0.5倍未満)および成長に向けた投資余力などを総合的に勘案し、機動的に実行いたします。

    • ・コア業務の生産性の向上

      シェアードサービスとして国内関係会社に対して効率的に間接業務を提供する長瀬ビジネスエキスパート㈱の業務範囲の拡大により、業務の生産性および質の向上を図り、またITを活用し間接業務ならびに営業・販売活動の効率化などを行い、連結売上総利益一般管理費比率※1の5ポイント改善※2を図ります。

      • ※1:研究開発費、のれん等の買収関連無形資産の償却、数理計算上の差異の償却による損益を除く
      • ※2:過去5年間(2016年度〜2020年度)の平均数値との比較
  • ③ 変革を推進する人財の強化

    “人財(変革をリードするイノベーティブでグローバルな人財)”を確保し、“環境(快適・安全で創造性の上がるワークプレイスや働き方)”を実現し、“文化(挑戦および多様な個性を受容する文化と風土)”を醸成することで、社員と会社のエンゲージメントを向上させ、双方の持続的な成長と発展を実現します。

ACE 2.0の定量目標

“質の追求”の目標指標(KGI:Key Goal Indicator)

“質の追求”を達成するための重要業績指標(KPI:Key Performance Indicator)

なお、ACE 2.0において非財務情報のKPIの設定を予定しています。本KPIにつきましては、2021年度中に公表予定です。

連結計算書類