事業報告(2023年4月1日から2024年3月31日まで)
当社グループの事業活動の状況
当社グループ(注)は、グループの企業価値の向上を目指し、証券業を中核とした事業活動を行っております。当社グループの当期(2023年度)の事業の概況は以下のとおりであります。
- (注)
- 本事業報告において、「当社グループ」とは、当社及びその関係会社から成る企業集団を指します。
連結業績の概況
(1)当社グループの損益の状況


(2)当社グループの資産・負債・純資産の状況

当社グループの事業活動の成果(各セグメントの実績)
リテール部門
【主な商品・サービス】
株式、債券、投資信託、ラップ口座サービス、保険、預金、ローン、相続関連サービスなど



大和証券株式会社では、「クライアントファーストとクオリティNo.1の実現」に向け、「資産管理型ビジネスモデルの確立」、「多様なお客様のニーズに応える商品・サービスの提供」、「総資産アプローチによるソリューションビジネスの拡大」、「外部チャネルとの業務提携を活用したニュービジネスの展開」により、お客様の最善の利益を追求しています。
当期は、資産管理型ビジネスモデルの確立に向け、引き続きお客様への資産状況やニーズなどのヒアリングを踏まえ、最適なポートフォリオの提案を行いました。その結果、ラップ口座サービスの契約数が増加し、契約資産残高は過去最高となるなど、マーケット環境に左右されにくい収益基盤の構築に寄与しました。
また、多様なお客様のニーズに応える商品・サービスの提供をするため、2023年4月に「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」、2024年3月に「ブラックストーン・プライベート・エクイティ・ストラテジーズ投信」の販売を開始し、幅広いお客様に対するオルタナティブ資産(注1)への投資機会の拡充に取り組みました。2023年12月には、オンライントレードにおいて米国株の取扱いを開始し、お客様の利便性向上などに取り組みました。
お客様の声を起点とする商品・サービスの向上を目的とする「お客様満足度協議会」での検討を踏まえ、各種事務手続きの簡素化や保有商品に関するアフターケアを目的としたウェビナー開催などを行いました。それらの取組みに注力した結果、外部のNPS調査(注2)において、対面証券部門で第1位を獲得しました。
さらに、国内に強固なお客様基盤を有する株式会社ゆうちょ銀行において「ゆうちょファンドラップ」を提供しており、お客様基盤の拡大や資産形成分野におけるサービス拡充に努めました。上記に加え、株式会社四国銀行との包括的業務提携に基づき、当社グループの幅広い商品・サービスラインナップと、総合的なコンサルティングを提供するため、2023年4月より提携業務を開始しました。
- (注1)
- オルタナティブ資産:伝統的な投資対象である上場株式や債券に代わる新たな投資資産。
- (注2)
- NPS調査:NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が2023年11月に利用者を対象に実施した業界別のNPS(お客様のロイヤルティを数値化する指標)ベンチマーク調査結果。
ホールセール部門
【主な商品・サービス】
グローバル・マーケッツ:株式、債券・為替、デリバティブ
グローバル・インベストメント・バンキング:株式の引受け、債券の引受け、M&Aアドバイザリー、上場コンサルティングなど



ホールセール部門は、グローバル・マーケッツとグローバル・インベストメント・バンキングで構成されています。
グローバル・マーケッツでは、主に機関投資家や事業法人を対象とした株式、債券・為替及びそれらの金融派生商品のセールス及びトレーディング、並びにリテール向けの商品供給及び販売サポートを行っています。
当期は、2023年4月にグローバル・マーケッツ戦略企画部を新設し、営業本部との連携を通じたお客様本位のマーケティング強化や海外ビジネスの再構築に取り組みました。
また、「クオリティNo.1」の実現に努めた結果、日経ヴェリタスにおける会社別アナリストランキングでは、株式編で6年連続第1位、債券・為替編で2年連続第1位を獲得しました。
グローバル・インベストメント・バンキングでは、有価証券の引受業務及びM&Aアドバイザリー業務などを行っています。
引受業務では、楽天グループ株式会社の公募増資及び株式会社トライアルホールディングスの新規上場において、グローバル・コーディネーター(注1)を務めたほか、日本国によるGX経済移行債(注2)の発行においてアドバイザーを務め、国内の様々なSDGs債の発行において事務主幹事及びStructuring Agent(注3)を務めました。
M&Aアドバイザリー業務では、大正製薬ホールディングス株式会社の非上場化や北欧最大のプライベート・エクイティファンドであるEQTをスポンサーとした株式会社ベネッセホールディングスの非上場化、ニデック株式会社による株式会社TAKISAWAへの公開買付けなどの国内案件に加えて、様々な国・地域で多様な業種の案件に関与しました。
- (注1)
- グローバル・コーディネーター:株式の公募・売出しを国内外に対して実施するときに、全体の業務を統括する主幹事証券会社。
- (注2)
- GX経済移行債:脱炭素成長型経済構造移行債。2050年の温暖化ガスの排出実質ゼロを実現するために発行する国債。
- (注3)
- Structuring Agent:SDGs債などの発行にあたって、フレームワークの策定やセカンドオピニオン取得に関する助言などを通じて、SDGs債などの発行支援を行う者。
アセット・マネジメント部門
【主な商品・サービス】
各種投資信託商品(組成・運用)、投資顧問、お客様・販売会社支援、不動産投資信託(組成・運用)など



大和アセットマネジメント株式会社は、運用力の向上や付加価値の高い新商品の開発、新NISA開始に合わせたプロモーションにより運用資産残高の拡大に取り組みました。2023年5月に設定した「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」の販売が好調で、当期末時点で771億円の資金増加となりました。また、iFreeシリーズをはじめとする新NISA向け商品やファンドラップへの資金流入を主因として、公募株式投資信託全体で当期の資金増加額は8,507億円、同社の当期末の運用資産残高(注1)は32.3兆円となりました。
Global X Japan 株式会社は、成長テーマ型ETF(注2)やインカム型ETF(注3)などの12銘柄を上場させ、同社の当期末の運用資産残高は3,397億円となりました。
大和リアル・エステート・アセット・マネジメント株式会社は、同社が運用する大和証券リビング投資法人において、2023年10月に公募増資を行い、19物件で総額453億円の大規模物件取得を行うなど、新規物件の取得や資産の入替による不動産ポートフォリオの質の向上、既存物件の価値向上に努め、当期末の運用資産残高は1兆2,950億円となりました。
- (注1)
- 投資信託及び投資一任・助言契約残高の合計(同社の一部の海外子会社の運用残高を含む概算値。当該海外子会社の運用残高を除く確定値は31.9兆円)
- (注2)
- 成長テーマ型ETF:先進的かつ成長性が見込めるテーマに着目し、構造的な変化から恩恵を受けることを目指すETF。
- (注3)
- インカム型ETF:配当利回りや配当の継続性などに着目し、高い分配金利回りを獲得することを目指すETF。
投資部門
【主な商品・サービス】
ベンチャー投資、プライベート・エクイティ投資、金銭債権投資、エネルギー・インフラストラクチャー投資など



大和企業投資株式会社は、国内外の様々なステージのベンチャー企業への投資を実行するとともに、既存投資案件の回収を進めました。
大和PIパートナーズ株式会社は、国内外で金銭債権投資、不動産ローン、企業向け投融資を実行するとともに、既存案件の回収を進めました。また、2023年9月には、同社の100%子会社である大和PIキャピタル株式会社において、プライベート・エクイティファンドである大和PIC事業支援1号投資事業有限責任組合を設立しました。
大和エナジー・インフラ株式会社は、国内において中小型の太陽光発電所や蓄電池事業への投融資を実行し、海外においては外部企業とのパートナーシップに基づき、フィンランドの配電会社、米国・豪州の太陽光発電所、アイルランドの有料高速道路運営会社などへの投融資を実行しました。また、既存案件の回収を進めました。
その他
【主な商品・サービス】
経済・社会に関する調査研究・提言、コンサルティング、システムコンサルティング、システムインテグレーション、AI・データサイエンス、銀行業務など
株式会社大和総研は、シンクタンクとして少子化対策や社会保障など経済・社会の時流を踏まえた情報発信を行いました。また、当社グループ向けをはじめとするシステム開発では、新NISA開始に伴うシステム対応を着実に遂行しました。ヘルステック推進室の新設や株式会社バリューHRとの資本業務提携などを通じてヘルステック事業を推進したほか、生成AIなど先端技術の活用にも取り組みました。
株式会社大和ネクスト銀行は、更なるサービスの向上を目的として、2023年4月に「外貨積立」の取扱いを開始しました。
大和コネクト証券株式会社は、株式会社みんなの銀行と多面的なサービス連携を行うため、2023年6月に締結した基本合意書に基づき相互送客を開始しました。また、2024年1月の新NISA開始に合わせ、クレジットカードでの積立投資額の上限を10万円に引き上げ、利便性向上に取り組みました。
大和証券リアルティ株式会社は、ウェアハウジング機能(注)の提供により大和リアル・エステート・アセット・マネジメント株式会社が運用する投資法人の運用資産残高拡大に貢献しました。
- (注)
- ウェアハウジング機能:物件の取得時期調整などのため、投資法人が取得する前に一時的に物件を取得する機能。
当社グループの設備投資の状況
当社グループでは、お客様のニーズを捉えた商品・サービスの提供、業務プロセスのデジタル化及びデータの分析・研究・活用を通じたデジタル・トランスフォーメーション(注1)の実現、事業の効率性・安全性を確保するためのインフラ整備、法令・制度への対応、リスク管理の高度化などを目的とする設備投資を行っています。
当期は、ダイワのオンライントレードにおいて、米国の取引所の立会時間中にリアルタイムで米国株式の委託取引が可能となる仕組みを構築し、米国株式のリアルタイムの時価情報を提供する「米国株リアル時価情報サービス」や株価・約定結果をタイムリーに通知する機能などを導入しました。また、先端技術への投資として将来的なセキュリティ・トークン市場の拡大に備え、拡張性の高いセキュリティ・トークンウォレット(注2)の開発を行いました。さらに、2024年1月に開始された新NISAや証券コード英文字組入れといった制度改正に伴うシステム開発を実施しました。また、前年度に構築したゼロトラスト(注3)型セキュリティ基盤について、協業・提携先から当社システムを安全かつスピーディに利用可能とするための技術検証を進めました。これらの取組みなどにより、総額約354億円のIT投資を行いました。
また、大和証券株式会社は、倉敷営業所、つくば営業所、成田営業所を新たに開設しました。
- (注1)
- デジタル・トランスフォーメーション(DX):企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、お客様や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
- (注2)
- セキュリティ・トークンウォレット:ブロックチェーン技術を用いて権利の移転・記録が行われるデジタル化された有価証券であるセキュリティ・トークンの秘密鍵を管理し、ブロックチェーンに権利を移転処理するためのシステム。
- (注3)
- ゼロトラスト:社内外を問わず、守るべきデータ・システムへのあらゆるアクセスを信用せずに安全性の検証を行うセキュリティの考え方。
当社グループの資金調達の状況
当社は、以下のとおり総額で1,970億円の社債を発行しました。

過去5年間の連結業績及び連結財産の状況の推移

- (注)
- 「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第85期の期首から適用しており、第85期以降に係る各数値については、当該会計基準等を適用した後の数値となっております。




当社グループの対処すべき課題
2023年度は日本経済にとって大きな転換点を迎えた一年となりました。30年にわたるデフレからの完全脱却が視野に入る中、インバウンド需要を中心に経済の回復が鮮明になるなど、ポストコロナ時代における経済活動が本格的に正常化の過程に入りました。株式市場では、堅調な企業業績、東京証券取引所による資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応の要請、海外投資家による日本株買いなどを背景に、日経平均株価は史上最高値38,915円を34年ぶりに上回りました。金融政策では、8年ぶりにマイナス金利が解除され、正常化への一歩が踏み出されたと考えています。当社グループにおいては、「資産管理型ビジネスモデルへの移行」と「ハイブリッドビジネスの拡大」が着実に進展し業績回復へと繋がりました。
こうした外部環境を背景に、貯蓄から資産形成への大きなうねりが生じようとする中、当社グループは2024年度から2026年度までの3年間を対象期間とした新グループ中期経営計画~“Passion for the Best”2026~を策定しました。本中期経営計画は、2030年度に当社グループが目指す姿、すなわち外部環境に左右されにくい強固な収益基盤の確立に向け、バックキャスティングで優先的に実施する戦略と施策を取りまとめたものとなります。グループ経営基本方針として「お客様の資産価値最大化」を掲げ、全てのグループビジネスにおいて、的確な市場環境分析と深度あるお客様理解に基づいた質の高いコンサルティングやソリューションを提供することで、中長期的なお客様の資産価値向上に取り組みます。
本中期経営計画の初年度となる2024年度は、次に掲げるアクションプランを推進し、政府が掲げる資産運用立国の実現、ひいては金融・資本市場を通じた豊かな未来の創造に貢献してまいります。
各事業部門のアクションプラン
ウェルスマネジメント部門
- 1
- お客様に対する深い理解に基づいた最適なコンサルティングの提供によるウェルスマネジメントビジネスの進化
- 2
- 富裕層や法人のお客様の高度なニーズに応えるオーダーメイドで付加価値の高い商品、サービス及びソリューションの拡充
- 3
- デジタルマーケティングによるお客様に合わせたタイムリーかつ適切なサービス提供体制の確立
- 4
- 外部連携、ワークプレイス(職域)ビジネスによるお客様基盤の拡大
- 5
- 銀行ビジネスにおける富裕層のお客様向けソリューションの拡充
アセットマネジメント部門
- 1
- 運用の高度化・商品開発力の向上を通じた高付加価値な資産運用サービスの提供
- 2
- オルタナティブ商品の拡充や投資顧問領域への本格参入による新たなビジネス基盤の確立
- 3
- 不動産アセットマネジメント事業における資産運用力・物件ソーシング力の強化及びグループ内連携の推進
- 4
- オルタナティブ投資の知見・実績を活かした良質な投資機会の提供及びパフォーマンスの追求
グローバル・マーケッツ&インベストメント・バンキング部門
- 1
- 幅広いお客様ニーズを捉えた多様なプロダクト・高度なソリューションの提供
- 2
- ウェルスマネジメント部門との更なる連携強化によるビジネス基盤の拡大
- 3
- 未上場企業への更なるソリューションの提供及び国内外M&Aの強化
- 4
- 経営資源のリアロケーションを通じた収益性の向上
その他(大和総研グループ)
- 1
- リサーチクオリティの更なる向上を通じて、より良質な情報をタイムリーに発信
- 2
- ITサービスのプラットフォーム化、AI・データサイエンスの活用によるお客様サービスの拡充
- 3
- 社会保険事業で蓄積してきたデータを活用したソリューションの提供により健康寿命の延伸に貢献