事業報告(2019年4月1日から2020年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
1.事業の経過及びその成果
当連結会計年度の日本株式市場は、米中貿易交渉の進展期待から上昇して始まりました。その後、米国が中国からの輸入品に対する関税の引き上げを発表したことや、中国の大手通信機器メーカーの製品購入と当該メーカーへの出荷を全面的に禁止する措置を表明したことなどから世界的な景気低迷への懸念が強くなり日本株式市場は大きく下落する場面もありました。米中貿易交渉は長期化しておりましたが、香港情勢や英国のEU離脱問題に対する懸念が和らいだことや円安の進行により回復基調となりました。10月以降、世界的な株高となるなか日本株式市場も堅調に推移したものの、年を明けてから新型コロナウイルスの影響により3月末にかけて大幅に下落した結果、日経平均株価は前期末に比べ10.8%下落し18,917.01円で取引を終えました。
このような市場環境のもと、当社グループの当連結会計年度末運用資産残高は、1兆1,241億円(注1)と前期末に比して5.2%減少しました。
事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す指標である基礎収益(注2)は、新規ビジネスにかかる費用の増加等により、前期比1.9%減の35億91百万円(前期は36億60百万円)となったものの、実質的な収益体質は着実に強化されております。
日本株式を投資対象とする運用戦略は、子会社であるスパークス・アセット・マネジメント株式会社が運用するファンドは、運用評価機関から継続して高い評価を受けております。また、私どもの投資哲学や運用スタイルへの関心も引き続き高いことから、日本の個人投資家の皆様に「日本株ならスパークス」とのSPARXブランドをさらに幅広く認知いただくよう努めております。
アジア株式を投資対象とする運用戦略は、東京・香港・韓国のファンドマネジャーがアジア企業への調査などを共同で行っており、投資アイディアを共有することで韓国株式の公募投資信託を新商品として設定するなど地力がついてきております。アジア企業の調査を通じ、今まで日本株式運用で培った運用手法を伝承することで「アジア株もスパークス」とのSPARXブランドを構築してまいります。
再生可能エネルギー発電事業のインフラ資産や不動産を投資対象とする実物資産の運用戦略は、全国の発電施設への投資を27件実行しており、再生可能エネルギー投資戦略の運用資産残高は1,903億円の規模となっております。太陽光のみでなく、バイオマス発電所も安定稼動させており、今後数年のうちに運転開始予定の風力発電所を含め投資対象は広がっております。また、発電事業等の開発段階から運転開始までのフェーズにおける投資(グリーン・フィールド投資)に加えて、運転開始後のフェーズにおける投資(ブラウン・フィールド投資)にフォーカスした、長期的に安定したキャッシュ・フローを源泉としたファンドも運用しております。ブラウン・フィールドのファンドでは、自ら開発した発電設備のみならず外部からの発電設備の取得も行うことができます。今後も引き続き再生可能エネルギーファンドのパイオニアとして皆様のご期待にお応えすべく、魅力的な投資商品の提供を行ってまいります。
次世代の成長に資する投資を長期的な視点から実践し、投資会社として未来を創造する新たな領域を開拓するため設立した未来創生ファンドは、投資が完了した1号ファンドからはIPOなど複数のイグジット案件も出てきており、これまでの投資の成果が、具体的に投資家の皆様へのリターンとして実現してきております。国内外のベンチャー企業等への投資を着実に実行し、投資実績を積み上げ、質の高い投資を通じて、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成することで未来社会に貢献することを目指してまいります。
運用資産残高は前連結会計年度末に比して減少したものの、日本の公募投信や未来創生ファンドなどの当社グループの平均残高報酬料率よりも高いファンドの残高報酬が、前連結会計年度に比べ増加したことにより、当連結会計年度における残高報酬(注3)は前期比5.0%増の107億10百万円となりました。さらに、成功報酬(注4)は、前期比79.0%増の16億52百万円となり、営業収益は前期比11.0%増の124億76百万円となりました。
営業費用及び一般管理費は、前期比9.0%増の79億96百万円となりました。これは主に委託者報酬(残高報酬)の増加に伴う支払手数料が増加したこと及び業容拡大に伴う人件費、事務委託費等が増加したことによるものです。
これらの結果、営業利益は前期比14.8%増の44億79百万円、為替差損等を計上した結果、経常利益は前期比9.2%増の44億23百万円となりました。また、当社が保有する投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却損及び投資有価証券評価損、及び減損損失を特別損失に計上し、税金等を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比29.1%減の23億1百万円となりました。
(注1)当連結会計年度末(2020年3月末)運用資産残高は速報値であります。
(注2)基礎収益とは、経常的に発生する残高報酬(手数料控除後)の金額から経常的経費を差し引いた金額であり、当社グループの最も重要な経営指標のひとつであります。
(注3)残高報酬には、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所等の管理報酬を含んでおります。
(注4)成功報酬には、株式運用ファンドにおける成功報酬の他に、不動産購入・売却に対して当社グループがファンドから受ける一時的な報酬や、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所スキームの組成の対価等として受ける一時的な報酬(アクイジションフィー)を含んでおります。
2.対処すべき課題
当年度のグループ運用資産残高(AUM)は平均で前期比2.3%増、また平均の運用報酬料率は同2bps(ベーシスポイント)増となり、残高報酬は同5.0%増加しましたが、新規ビジネスへの先行投資など経常的経費(※1)も同10.1%増加したことから、基礎収益力(※2)は同1.9%の微減となりました。一方成功報酬は、再生可能エネルギー発電所への投資が進んだこと等により同79.0%増となったことから、営業利益は44億79百万円との同14.8%増となりました。
この数年間は、新しいビジネスへの布石と打つと同時に、「安定的に稼ぐ力」を着実に強化してまいりましたが、来年度は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界経済への悪影響により、非常に厳しい経営環境が予想されます。このような厳しい状況下でも、引き続き安定して高い運用実績を維持するとともに、費用面についてはこれまで以上に厳しく精査し、当社グループのミッションである「世界を豊かに、健康に、そして幸せにする」を実現するため、ESG(※3)への取り組みを通じて継続的な企業価値向上を実現すべく、主として来年度は、以下の課題に取り組んでまいります。
課題の第一として、市場に影響されない安定的な投資戦略と収益性の高い投資戦略によるハイブリッドのビジネスモデルを、引き続き強化・拡大してまいります。
成長実現のための4本柱(「日本株式」「ワンアジア株式」「実物資産」「未来創生」)という、従来からの高収益な上場株式の投資戦略と、安定性の高い実物資産/未来創生の投資戦略を、それぞれ引き続き強化することに加え、今後とも当社グループならではの革新的な投資戦略を継続的に構築し、ビジネスモデルをさらに多様化・安定化してまいります。またその過程で、「日本/アジアへの投資ならスパークス」という圧倒的なご支持をいただけるブランドを構築してまいります。
日本株式投資戦略については、当年度も引き続き複数の評価機関から、高いご評価を頂きました。この優れた運用実績を背景として、ロングショート投資戦略では、野村証券様での国内公募投信の取り扱いが本年2月に始まっている他、サステナブル投資戦略では、欧州などを中心としていわゆるESG投資への需要が高まる中、欧州の公的機関投資家から本年3月に新たに約190億円の資金をお預かりしました。来年度は、当年度の実績をさらに具体的なAUMの拡大につなげていくと同時に、ポスト・コロナの時代に日本の相対的な競争優位性が際立つ、という投資仮説を軸に、本年5月からエンゲージメント投資戦略の新しいファンドを再度ローンチし、株主として他のステークホルダーとともに投資先企業の価値向上プロセスに参加する投資を、社長の阿部が自ら実践してまいります。
ワンアジア株式投資戦略については、昨年10月より大和証券様で国内公募投信の取り扱いが始まっている他、昨年12月には、欧州の公的機関投資家より、韓国中小型株式に投資する資金として新たに約330億円をお預かりしました。来年度は、これらファンドを中心にさらなるAUMの拡大につなげていくとともに、中長期的には、本投資戦略を日本株式投資戦略と同規模以上に成長させるべく、引き続き日本・韓国・香港の3拠点が一丸となって運用力を強化し、時間を掛けて重層的で高品質な運用体制を構築してまいります。
実物資産投資戦略や未来創生投資戦略は、この5年ほどの間にゼロから立ち上げた投資戦略ですが、合計するとAUMベースでは既にグループ全体の約3割を占め、収益力を支える柱へと成長しました。来年度は、厳しい経済環境の下で、これまでは自社のバランスシートで投資し保有してきた再生可能エネルギー発電所を、売却し流動化する動きが出てくると仮説のもと、当社グループは、その中から質の良い発電所を見極めた上で、ファンドを通じて積極的に投資していくことで、この投資戦略をさらに拡大・強化してまいります。
さらに上記の4本柱に加えて、エネルギー、量子コンピュータ、医療・介護といった複数の成長領域への投資についても、株式会社シグマアイへの出資、医療法人社団五葉会の社員持分の取得など、具体的なケースで取り組みを開始しております。来年度は、当年度よりもさらに保守的な財務運営方針のもと、一定の自己資金やグループ内リソースの範囲で、当社らしいアプローチをさらに進めてまいります。またこのような成長領域への投資を通じて、新しいビジネスをゼロから生み出す企業文化と起業家精神を活性化し、これまでのファンドビジネスをさらに強化するとともに、企業文化や変わらない投資哲学を次世代に継承しながら、新しい取り組みを自律的に続けることのできる強い組織を創造してまいります。
課題の第二として、次世代のマネジメントを育成、登用し、合わせてガバナンス体制を最適化してまいります。
当社にとって次世代のCEO選任は、引き続き非常に大きな経営課題であることから、取締役会は、客観性・適時性・透明性ある手続きを確立し、十分な時間と資源をかけて、CEOの後継者計画の策定・運用を具体化し、後継者候補を育成してまいります。
次世代を担うマネジメントの必要条件としては、当社グループにおいては1989年の創業来、投資先候補企業を一社一社徹底的に調べ、現場に赴いて実際に目で見て判断する“現地現物”による調査活動、いわゆるボトムアップ・アプローチを徹底しておりますが、こうした日々の地道な活動の積み重ねによって、グループ役職員が自然と共有している価値観の他、高い知見・見識を備え、人格的にも優れていることです。このような要件を充たした人材に対して、より高い課題を与えて自覚を促していく他、社外から採用した優秀な人材をある程度の時間を掛けて育成し、これらを競わせ、衆目が認める結果を残した人材を、次世代のCEOとして登用してまいります。
当社は、本年6月の第31回定時株主総会におけるご決議を前提として、監査等委員会設置会社へガバナンス体制を移行する予定です。経営の監督と執行の分離を明確にして取締役会の監督機能を強化するとともに、取締役会から業務執行権限を大幅に委譲することによって業務執行の迅速化を実践する過程で、優れた人材を育成してまいります。
課題の第三として、ポスト・コロナの時代に適応した新しいビジネスの進め方、働き方を構築してまいります。
本年4月の日本政府による新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を受け、当社グループの中心である東京オフィスは、原則在宅勤務での業務継続体制に移行しました(海外拠点も概ね同様)。主要な業務は安定的に継続できていますが、一部の業務にはまだ紙ベースのものが残っている他、本来業務を行う場所として最適化されていない家庭での業務は、職員の負担増と一定程度の効率低下を招いています。来年度は、現状の課題を確認した上で、子供が小さい家庭、共働きの世帯など、職員の置かれた様々な状況も加味し、リモートワークのさらなる効率化に取り組んでまいります。
来年度以降は、5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)などの技術を活用して、教育、医療、自動運転など世界はあらゆる分野で非接触型に移行していくものと思われます。この非接触型社会への移行の中で、当社グループが大切にしてきた“現地現物”やコミュニケーションの重要性といった価値観を、どのようにして維持・強化していくのか。また、経営者との直接対話など、ボトムアップ・アプローチによる調査活動、投資哲学など当社グループの特徴を丁寧にご説明することを重視した営業活動など、ビジネスの根幹をなす様々な活動において、これまで同様、あるいはこれまで以上に、説得力のある新しいご説明の仕方、コミュニケーション方法などに創意工夫を凝らしてまいります。
さらに、当社グループの最も重要な経営資源である人材への影響についても分析し、対応してまいります。
当社グループのビジネスは「人が全て」と言っても過言でないことから、その採用については、人事部門、採用希望部門、関係部門やマネジメントが、多角的な視点から丁寧に何度も面談していますが、現在のテレビ会議システムを通した面談には限界があります。また人事評価は、短期的な成果のみを重視するのではなく、中長期的な視点からその過程をより大切にしておりますが、リモートワークの下では、ややもすると目に見える成果のみで評価される傾向が強まります。来年度は、これらの問題意識を踏まえ、引き続き当社グループが、優秀な人材が互いに切磋琢磨し、成長の機会が与えられて自らの成長を実感できる場であり続けられるよう、試行錯誤しながら、最適解を見つけ出してまいります。