事業報告(2021年4月1日から2022年3月31日まで)
企業集団の現況に関する事項
事業の経過及びその成果
当連結会計年度の日本株式市場は、米国の雇用統計の改善とバイデン大統領による500億ドル規模の半導体生産支援策などによる米国市場の上昇を受け、小幅な上昇で始まった後、米国の長期金利や米国株市場の先行きに警戒感が高まり下落基調となりました。その後世界的な景気回復期待や国内企業の好調な決算、国内での新型コロナワクチン接種の進展期待に伴い上昇する場面もあったものの上値が限定的となっていましたが、9月に菅自民党総裁の次期自民党総裁選不出馬の表明を受け、閉塞感の強かった政局の変化が好感され9月中旬には日経平均株価は3万円台を回復いたしました。しかしながら、中国の大手不動産開発企業の信用不安から株式市場の警戒感が高まり下落し、その後は衆議院議員選挙で与党が大方の予想よりも議席を多く獲得したことなどで上昇しましたが、感染力の強い新型コロナウイルスの変異種(オミクロン株)が確認されたことで経済活動再開への期待が後退したことなどにより日経平均株価は急落するなど一進一退を繰り返しました。2022年に入りウクライナでの地政学リスクの高まりにより日本株式市場は下落し、ロシア軍によるウクライナの首都や原子力発電所への攻撃を受けて市場の警戒感の高まりや、日銀が金融緩和政策を維持するなか円安が進行したことなどにより、日経平均株価は前期末に比べ4.7%下落し27,821.43円で取引を終えました。
このような市場環境のもと、当社グループの当連結会計年度末運用資産残高は、1兆5,557億円(注1)と前期末に比して1.3%増加しました。
事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す指標である基礎収益(注2)は、残高報酬の増加等により、前期比38.5%増の61億57百万円(前期は44億44百万円)となっており、実質的な収益体質は着実に強化されております。
日本株式を投資対象とする運用戦略は、当連結会計年度後半で日本株式市場が不安定となりその影響を受け前連結会計年度末に比べ日本株式の運用資産残高は減少しました。しかし、日本株式ロング・ショート投資戦略や日本株式サステナブル投資戦略は資金流入を伴い運用資産残高を増加させております。サステナブル投資戦略についてスパークスが創業以来ESGの基本的な考え方を意識して運用してきた結果であり、世界の投資家から関心をもっていただいております。私どもの投資哲学や運用スタイルへの関心も引き続き高いことから、「日本株ならスパークス」とのSPARXブランドを幅広く認知いただくよう努めております。
アジア株式を投資対象とするOneAsia運用戦略は、東京・香港・韓国のファンドマネジャーがアジア企業への調査などを共同で行っており、投資アイディアを共有することを続けた結果、パフォーマンスも上がり運用資産残高の増加につながってきております。韓国子会社では運用資産残高が増加したことで、単独で黒字化を達成いたしました。スパークスはアジアに運用調査のチームを持つ、非常にユニークな投資会社であると考えております。アジア企業の調査を通じ、今まで日本株式運用で培った運用手法を伝承することで「アジア株もスパークス」とのSPARXブランドを構築してまいります。
再生可能エネルギー発電事業のインフラ資産や不動産を投資対象とする実物資産の運用戦略は、全国の発電施設への投資を32件実行しており、再生可能エネルギー投資戦略の運用資産残高は2,438億円の規模となっております。太陽光のみでなく、風力・バイオマス発電所も安定稼動させており、これら発電所への投資による長期的に安定したキャッシュ・フローを源泉としたファンドも運用しております。近年では、これまで大企業が主に自社のバランスシートで行ってきた再生可能エネルギー発電所への投資を見直し、再生可能エネルギー発電所を売却し流動化する動きが続いております。当社グループの運用するファンドではこの機をとらえ、外部からの発電設備の取得も行うことができることから投資家として適正な価格・リターンを評価しながら積極的に投資してまいります。今後も引き続き再生可能エネルギーファンドのパイオニアとして皆様のご期待にお応えするべく、魅力的な投資商品の提供を行ってまいります。
プライベートエクイティ投資戦略は、次世代の企業の成長に資する投資を長期的な視点から実践し、投資会社として未来を創造する新たな領域を開拓するため設立した未来創生ファンドが、1号ファンドに続き2号ファンドも順調に投資が進み、当連結会計年度に3号ファンドを設立いたしました。規模・質ともに日本で最大級のベンチャー投資の運用機関なることができたと考えております。IPO等のイグジット案件も出ており、これまでの投資の成果が、具体的に投資家の皆様へのリターンとして実現してきております。これらのファンドについても質の高い投資を着実に実行し、投資実績を積み上げ、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成することで未来社会に貢献することを目指してまいります。
上記の結果、当連結会計年度における残高報酬(注3)は前期比15.2%増の125億77百万円となりました。さらに、成功報酬(注4)は、前期比61.8%減の12億8百万円となり、営業収益は前期比1.8%減の140億43百万円となりました。
営業費用及び一般管理費は、前期比4.6%減の75億78百万円となりました。これは主にオフィス関連費用及びESOP関連費用が減少したこと等により費用が減少したものです。
この結果、営業利益は前期比1.8%増の64億64百万円、経常利益は前期比0.8%増の62億41百万円となりました。また、当社が保有する投資有価証券の一部売却による投資有価証券売却益6億63百万円を特別利益に、投資有価証券評価損5億60百万円を特別損失に計上し、税金等を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比17.4%増の40億70百万円となりました。
(注1)当連結会計年度末(2022年3月末)運用資産残高は速報値であります。
(注2)基礎収益とは、経常的に発生する残高報酬(手数料控除後)の金額から経常的経費を差し引いた金額であり、当社グループの最も重要な経営指標のひとつであります。
(注3)残高報酬には、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所等の管理報酬を含んでおります。
(注4)成功報酬には、株式運用実績から発生する報酬の他に、不動産購入・売却に対して当社グループがファンドから受ける一時的な報酬や、日本再生可能エネルギー投資戦略に関連する発電所スキームの組成の対価等として受ける一時的な報酬(アクイジションフィー)及び再生可能エネルギーファンドが、投資対象である発電所を売却して譲渡益が発生する場合に受領する報酬を含んでおります。
対処すべき課題
有史に残るであろうパンデミックや地政学リスクが顕在化する中においても、引き続き安定した運用成績を維持した結果、当年度のグループ運用資産残高(AUM)は前年度末比1.3%増加し、1兆5,557億円(注1)となりました。
成功報酬が前期比61.8%減の12億8百万円と大幅に減少したことにより、営業収益は前期比1.8%減の140億43百万円にとどまりましたが、残高報酬は前期比15.2%増の125億77百万円となり、さらに費用面も引き続き適切にコントロールしたことで、事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す指標である基礎収益(注2)は、前年度比38.5%増の61億57百万円(前年度は44億44百万円)と、2007年3月期を超えて過去最高となりました。
来年度についても当社グループの厚い人財力、投資力によって運用パフォーマンスの質を維持し、増収増益を目指すとともに、当社グループのミッションである「世界を豊かに、健康に、そして幸せにする」を実現するため、ESG(注3)への取り組みを通じて継続的な企業価値向上を実現すべく、主として以下の課題に取り組んでまいります。
課題の第一として、2026年3月期までに運用資産残高(AUM)3兆円を達成するため、市場に影響されない安定的な投資戦略と収益性の高い投資戦略によるハイブリッドのビジネスモデルを、引き続き強化・拡大してまいります。
成長実現のための4本柱(「日本株式」「ワンアジア株式」「実物資産」「プライベートエクイティ」)という、従来からの高収益な上場株式の投資戦略と安定性の高い実物資産/プライベートエクイティ投資戦略のAUMを、2026年3月末までに3兆円に増加させることを当面の目標としてそれぞれ引き続き強化することに加え、今後も当社グループならではの革新的な投資戦略を継続的に構築し、ビジネスモデルをさらに多様化・安定化することで、持続的な企業価値向上を実現してまいります。
また、日本株式サステナブル投資戦略や再生可能エネルギー投資戦略など、直接的にESGを投資対象とすることが明確な個別の投資戦略以外の投資戦略も含めたビジネスモデル全体と、当社グループのミッション、ビジョン、パーパスなどと合わせて、当社グループのマテリアリティ(重要課題)などサステナビリティについての取組みを明確にし、投資対象の多角化によるシナジー効果など、当社グループの強みについて株式市場と適切に対話することで、株式市場から適切にご評価いただけるようIR活動にも取り組んでまいります。
4本柱についての、当面の主な課題は以下の通りです。
日本株式投資戦略については、例えばこの4月にも、代表的な外部評価機関であるR&I社から、国内株式コア部門において、2年連続で10年のトラックレコードで最優秀賞をいただくなど、長期にわたる安定して高いパフォーマンスを背景に、当年度1,000億円のAUMを回復したロング・ショート戦略や、エンゲージメント戦略など収益性の高いオルタナティブ商品への取組みをさらに強化してまいります。
また、欧州などを中心にESG投資への需要がさらに加速する中、サステナブル投資戦略について、特に海外機関投資家から引き続き強いご関心を寄せて頂いております。ESG投資の基本的な考え方については、創業以来運用調査活動において意識してきたことであり、具体的なESG投資に関する調査・分析も非常に早い時期から積み重ねてまいりました。今後もただ闇雲に規模を追うのではなく、質の高い運用を継続しつつAUMを拡大させてまいります。
ワンアジア株式投資戦略については、日本・韓国・香港の3拠点が一丸となった運用力強化が成果に結びつつあり、韓国子会社は6年ぶりに黒字化しました。中長期的には、今後のアジアの成長を取り込む本投資戦略を日本株式投資戦略と同規模以上に成長させるべく、時間を掛けて重層的で高品質な運用体制を構築してまいります。
実物資産投資戦略については、太陽光から、バイオマスや地熱など引き続き高い投資リターンが見込まれる発電所へと、開発の重点を移すとともに、グリーン水素(注4)やコーポレートPPA(注5)など、固定価格買取制度後を見据えた投資戦略の開発を、引き続き積極的に進めてまいります。
プライベートエクイティ投資戦略については、「カーボン・ニュートラル」に資する会社も新たに投資対象に含めた未来創生3号ファンドの募集を開始し、2022年3月末AUMは515億円になりました。今後、未来創生1号、2号ファンドが投資した企業が、株式市場に上場する等エグジットすることに伴う売却益の一部が、当社グループの成功報酬として計上されてまいりますので、この成功報酬を最大化するためにも引き続き売却活動に注力してまいります。その他、宇宙フロンティアファンドや日本モノづくり未来ファンドについても、投資を着実に実行し、質の高い投資を通じて、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする企業を発掘・育成し、未来社会に貢献することを目指してまいります。日本で最大級のベンチャー投資会社として、今後も当社グループらしい新しい投資機会を発掘することで、引き続き本投資戦略の拡大を進めてまいります。
さらに上記の4本柱に加えて、AIの利用が前提となった新しい時代の成長領域であるエネルギー、医療・介護、金融などと、量子コンピュータなどの新しい道具が結びつく領域へ、保守的な財務運営方針のもと、一定の自己資金やグループ内リソースを割り当て、これまで築いてきた投資力をベースに新しいビジネスを作りこむことで事業ポートフォリオを拡大し、ROEの向上に貢献する当社グループらしい投資をさらに進めてまいります。またこのような成長領域への投資を通じて、新しいビジネスをゼロから生み出す企業文化と起業家精神を活性化し、これまでのファンドビジネスをさらに強化するとともに、企業文化や変わらない投資哲学を次世代に継承しながら、新しい取り組みを自律的に続けることのできる強い組織を創造してまいります。
課題の第二として、今後の成長に向けて、ポスト・コロナ時代に適応した新しいビジネスの進め方、働き方を構築するため、改めて大切にすべき価値観を再定義し浸透を図ってまいります。
一昨年春の新型コロナウイルス感染症拡大以降、概ね全ての業務を、職員の自宅などからリモートで対応出来るよう社内DX化を加速させるとともに、当年度はそれらのセキュリティ面での強化も行いました。これらハード面での対応に加え、今後はソフト面への対応として、当社グループに合った時短勤務制度、在宅勤務制度を拡充するなど、育児・介護、共働き、ハンディキャップなど職員が置かれた様々な状況下でも、当社グループに貢献し続ける意思と能力を持った優秀な職員が働き続けることができる就労環境を、より充実させてまいります。
一方で、職員が様々な状況下で物理的・時間的に離れて働く場合、これを自然に放置しておくと遠心力が働きやすくなることが予想されます。これまで当社グループが大切にしてきた“現地現物”やコミュニケーションの重要性といった価値観の共有、経営者との直接対話などボトムアップ・アプローチによる調査活動、投資哲学など当社グループの特徴を丁寧に直接ご説明することを重視した営業活動など、これら当社グループを特徴づけるビジネスの根幹をなす様々な活動において、これまで以上に求心力を働かせる工夫が必要となります。そこでまず当年度は、海外子会社を含む全職員を10名程度の小グループに分け、創業者・グループCEOである阿部が、全グループとリモートで直接対話するセッションを設けました。その中で、阿部自身の言葉で全職員に話しかけることで、当社グループの歴史や価値、ユニークさについての議論を促し、理解を深め、改めてグループ全体でベクトル合わせを行いました。
今後は、これら一連のセッションを集約し、言葉にした当社グループの「憲法」とも呼ぶべきパーパス、ビジョン、ミッション、バリューを、株主や投資家などステークホルダーの皆様にも共有させて頂くと共に、グループ内で浸透させる取り組みを具体的に進めてまいります。
当社グループのビジネスは「人が全て」と言っても過言ではありません。全職員と共に再確認した当社グループの「憲法」のもと、ジェンダー、国籍、新卒者と中途採用者、シニア・ベテランと若手など、様々な多様性を互いに尊重し、優秀な人財同士が引き続き互いに切磋琢磨し、成長の機会が与えられて自らの成長を実感できる場を提供することで、従業員エンゲージメントを高めてまいります。
課題の第三として、次世代のマネジメントを育成、登用し、合わせてガバナンス体制を高度化してまいります。
当社グループにとって次世代のCEO選任は、引き続き非常に大きな経営課題であることから、取締役会は、客観性・適時性・透明性ある手続きを確立し、十分な時間と資源をかけて、CEOの後継者計画の策定・運用を具体化し、後継者候補を育成してまいります。
次世代を担うマネジメントの必要条件としては、当社グループにおいては1989年の創業来、投資先候補企業を一社一社徹底的に調べ、現場に赴いて実際に目で見て判断する“現地現物”による調査活動、いわゆるボトムアップ・アプローチを徹底しておりますが、こうした日々の地道な活動の積み重ねなど、当社グループ役職員が自然と共有している価値観をしっかりと共有・実践できていることの他、単に高い専門性や経験を備えるだけではなく、人格的にも優れていることが極めて重要です。このような要件を充たした人材に対して、より高い課題を与えて自覚を促していく他、異業種を含め、社外から採用した優秀な人材をある程度の時間を掛けて育成し、これらを競わせ、衆目が認める結果を残した人材を、次世代のCEOとして登用してまいります。
当社は、第31回定時株主総会において、監査等委員会設置会社へガバナンス体制を移行することで、経営の監督と執行の分離を明確にして取締役会の監督機能を強化するとともに、取締役会から業務執行権限を大幅に委譲することによって業務執行の迅速化を実践する過程で、優れたマネジメント人材を育成することを目指しております。また、課題の第一でも触れた「新しい時代の成長領域への投資」など、CEO自らがリードするプロジェクトに参加すること等によって、ビジネスの創り方について直接CEOから学ぶ機会を作ってまいります。さらに、これまで社内勉強会「バフェット・クラブ」やOJTなどを通じて、投資の型・技を伝承し、投資家を育成してきたプロセスを、起業家の育成プロセスにも応用することで、次世代のCEO育成にも役立ててまいります。その他、課題の第二でも触れた、当社グループの新しい「憲法」とも呼ぶべき企業理念等を浸透させていくことで、創業時から大切にしている創業者の想いを、次世代のCEOが中心となって運営する組織にもしっかりと引き継いでまいります。
当社は本年4月4日より、東京証券取引所の新市場区分「プライム市場」に移行しております。プライム市場の上場企業には、より高いガバナンス水準を備え、グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据え、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットすることが求められております。当社グループには、日本初の独立系上場投資会社として、スチュワードシップ・コードとコーポレート・ガバナンス・コードの両方を高いレベルで実践する責務があります。この責務を全うするためにも、当社グループらしい、時代の要請に沿ったガバナンス体制の高度化を常に模索、実践してまいります。
(注1)当年度末(2022年3月末)運用資産残高は速報値です。
(注2)「基礎収益」とは事業の持続的かつ安定的な基盤となる収益力を示す経営指標であり、その算定方法は以下のとおりです。
基礎収益=残高報酬(手数料控除後)-経常的経費
(注3)ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったものであり、企業が中長期的な成長を目指すために、これら3つの視点が重要であるとされています。
(注4)グリーン水素とは、水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産される水素のことです。この水素を利用し、酸素を大気中に放出することで、環境へ悪影響を与えずに水素を利用することができます。電気分解するためには電気が必要ですが、グリーン水素を作るためのプロセスは、再生可能エネルギーを利用することで二酸化炭素を排出させることなく、水素を製造することができます。
(注5)コーポレートPPA(Corporate Power Purchase Agreement)とは、企業や自治体などの法人(電力需要家)が発電事業者から再生可能エネルギーの電力を、直接、長期(通常10~25年)間、購入する契約のことを指します。一般的には、固定価格買取制度(FIT)やフィード・イン・プレミアム(FIP)のような国による再エネ買取制度との対比で用いられ、公的な再生可能エネルギー支援制度を使わず、民間企業と独自に再生可能エネルギー電力の長期買取契約を結ぶスキームを意味します。